BeautyTech.jp著者&編集部による2021年に注目したい分野、コト、モノ
◆ New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページ|メルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o
あけましておめでとうございます。BeautyTech.jpは2021年も、美容、ヘルスケア、ファッション分野における様々なイノベーションにスポットをあて、発信していきます。まずは著者の方々と編集部メンバーの7名で、今年の美容業界のトレンドを予測しました。
■デジタル技術の加速で評価されるパーソナルタッチ
Image: UlyssePixel via Shutterstock
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2度のロックダウンを経験したフランスでは、美容部員が遠隔で1対1のビデオカウンセリングを提供するなど、デジタルが、ブランドと消費者が親密な関係を築くための媒体としても発展している。一方で、コミュニケーションにおけるデジタル化が進めば進むほど、人と人とのつながり(=パーソナルタッチ)による深化や差別化の重要性が増すという側面もある。その意味で、今後、大手企業やスタートアップがそれぞれの製品やサービスに合わせて、テクノロジーをどのように活用して、消費者に寄り添い、期待に応えていくのか、各社の動きに注目したい。
また、美容業界では持続可能な循環型経済を実現させようとする意識が、消費者、企業ともに年々高まっている。2021年は各企業の環境や社会課題への取り組み姿勢はもちろん、その徹底性や質がさらに問われていくと予想される。
■オンラインカウンセリングが新たなステージへ成長
秋山ゆかり氏/事業開発コンサルタント・株式会社Leonessa代表取締役
Image: Ume illustration via Shutterstock
コロナ禍で小売店舗が閉鎖を余儀なくされ、世界中でオンラインシフトが起きた2020年。高価格帯化粧品の売上が軒並み落ちるなか、各ブランドはオンラインコンサルティングを立ち上げ、高額商品を販売する仕組みを作り始めた。オンラインのカウンセリングは、肌に触れない、画面越しで色が分かりにくいなどのデメリットはあるが、店頭ではなかなか難しい顧客のリアルな悩みが聞けたり、顧客が日常使っている他のブランド化粧品について詳しく知る機会にもなっている。
米国の高級百貨店ニーマン・ マーカス(2020年5月に日本の民事再生法にあたるチャプター11の適用を申請)が数年前から導入していたAIを活用した接客では、AI(チャットボット)と人間双方の良い面を使い分けながらパーソナライズされた接客を行ってきたが、美容業界でもこの動きは進む。AIによる顧客診断や顧客の行動特性などの情報提供を受けながら、顧客のリアルに寄り添ったオンライン/リアルともに垣根のないコンサルティングが進んでいくだろう。顧客もリアルとオンラインのいいところを使い分けながら、自分の望む肌やメイクを作れるように2021年は進化していく。2021年はこの辺りのノウハウを詳しく紹介していきたい。
■自動化技術の新たな転換&韓国のビューティテックに注目
Image: Negro Elkha via Shutterstock
これまで、食品・医薬品・化粧品のいわゆる「三品市場」においては、その作業の細かさや煩雑性から、業務効率化を促す産業用ロボットなど自動化技術の導入が自動車業界などと比べて難しいとされてきた。しかしこの10年くらいかけて生産・物流など人間の作業を代替するロボティクス技術(産業用サービスロボットや協業ロボット)が発達してきており、コロナ禍を機に一気に導入が進み始めている。
あわせて、オン/オフライン店舗における接客やデータ収集にも、ロボティクス&AI技術の導入が進む。ポストコロナを迎えるであろう2021年以降、企画から生産・流通・販売まで、自動化技術で数珠つなぎとなる「ビューティ業界のサプライチェーンDX」がどこまで進んでいくか、注意深く見守る必要があるだろう。
韓国ビューティ業界については、バイヤスドルフが韓国国内でアクセラレータプログラムを大規模に展開している事例などを筆頭に、韓国を新トレンドやトライアル市場と位置付ける外資大手と国内新興ブランドの関係性がさらに深化するだろう。加えて、肌診断からパーソナライズを実現しようとするIoTデバイスメーカーや、情報系プラットフォームとしてデータを集めPB市場に参入するベンチャー企業、また集客力を武器にする大型MCN(マルチチャンネルネットワーク)企業も躍進するとみている。こういったスタートアップが、新たな角度からの美容業界変革の担い手であるとの認識のもと注視していきたい。
■中国で進むライブコマースの標準化と5Gの本格的普及。IT企業への規制にも注目
Image: Mavas_Bd via Shutterstock
中国で近年、取引額が拡大しているライブコマースは、もはや特別なツールではなく、ブランドのEC店舗が自ら実装するほど標準的なツールになりつつある。しかし、KOLに依存したビジネスモデルには限界がある。
2021年は、5Gが本格的に普及することによって、ライブコマースにARやVRなどの技術を掛け合わせた新たなサービスが登場するだろう。新型コロナウイルス感染症の危機からいち早く抜け出した中国市場は、グローバルブランドにとっての生命線となっている。中国は、グローバルプレイヤーが新たなUXを提供するための実験場になっていくのではないか。アリババなど、IT大手に対する中国政府の監視強化が懸念材料であり、株価にも影響しているが、EC分野への過度な規制はないとみる。
■常在菌を最適化して美肌にアプローチするパーソナライゼーション
Image: Ikrill via Shutterstock
皮膚常在菌にアプローチするコスメが、近年盛り上がりをみせており、美肌と皮膚常在菌、あるいは腸内環境との関係が少しずつ解明されてきている。あわせて、口腔環境と腸内環境の関連性も最新の研究により明らかになってきているほか、子宮、膣など、体のさまざまな部位のフローラ(細菌叢)環境の研究が進み、それらを手軽に調べることができる検査キットも続々と登場している。
2021年は、これまで部位ごとにそれぞれが点であった常在菌研究が、少しずつ重なりをみせてくるだろう。皮膚や腸内、口内、膣内などあらゆる部位の常在菌の変化を随時把握できるようになれば、全身の菌の状況に合わせて健康や美肌へ導く最適なソリューションが提案されるといった、新たなパーソナライゼーションの道筋が鮮明になるかもしれない。
■ESG推進加速で、企業のサステナブルな取り組みは具体的な実行段階へ前進
Image: Romolo Tavani via Shutterstock
国連で採択されたSDGsの目標に向けて、美容業界ではグローバル化粧品大手を牽引役に、持続可能な社会を実現するための方法がここ数年、さまざまなレベルで模索されてきた。使用済みプラスチックの回収や再利用、森林および海洋保護、二酸化炭素の排出削減、廃棄物ゼロを目指した資源リサイクルの徹底化などである。2021年はいよいよ、具体的な実行策が本格的に導入される年になるのではないか。リフィルステーションの設置や生分解性パッケージへの転換といった、萌芽はすでに始まっている。
ESG(環境・社会・コーポレートガバナンス)は、それを達成しているか否かが、将来の財務実績の判断材料になることが一般にも浸透してきている今、事業規模の大小を問わず、企業の社会的責任として真剣に取り組む姿勢が求められている。
■「人」の影響力がますます大きくなる2021年の化粧品業界
Image: Dose Media via Unsplash
テクノロジーを使うこともエシカルであることも、そのこと自体が目的ではなく、未来にわたって価値あるものをつくり、伝え、ユーザーもブランドで働く人も幸せになるためのひとつの要素である。そのことが改めて見直される年になるだろう。
新型コロナウイルス感染症で多くの人が立ち止まって自分自身を振り返った2020年から、その余波・影響がまだまだ残る2021年は、だからこそ、どういう人が率いているブランド(企業)なのか、どういった思いや技術でつくられた製品やサービスなのか、自分と伴走してくれるのか、それを誰が支援したり好きだと言っているのかといった「買う理由」をユーザーは強く探し求めていくはずだ。
その意味で、ブランド(企業)理念にもとづいたカスタマーサービス、BAによるコンサルティング、ファンコミュニティ、マイクロインフルエンサー起用といった「人」を通じてのコミュニケーションがさらに重要となるであろう。テクノロジーをうまく使ってそれらを効率化したり、満足度をあげることはできるが、本質がどこにあるかをユーザーはしっかり見抜いている。
また、そういったブランドとユーザーが出会うオンライン上の仕掛けをどこにもってくるのかも注意深く見ていきたい。その試行錯誤が、2022年に向けての基盤となるだろう。
Coordinatiton: 大塚愛(Megumi Otsuka)
Top image: simbos via Shutterstock