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【CES2025②】ロレアルとコーセー、イノベーションアワード受賞のビューティテック
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CES2025では、バーチャルトライオンや肌分析ツールなど、大手美容企業が開発するビューティテックの数々がイノベーションアワード(革新賞)を受賞した。現地レポート第2回は、アクセシビリティ&エイジテック部門を含む4つのアワードを受賞したロレアルの取り組みと、高速プロジェクションマッピング技術によるメイクシミュレーションシステムで同じくアワードを獲得したコーセーの製品を紹介する。
4アワード受賞ビューティテックを牽引するロレアル
2024年は美容企業として初めてCESでの基調講演を行ったロレアル、展示スペースは設けなかったものの、CES2025では4つのイノベーションアワードを獲得し、ビューティテックを牽引する企業としての存在感を示した。
⚫︎感情を読み取るARトライオン「Mood Mirror」
AI及びXRテクノロジー&アクセサリー部門で受賞した「Mood Mirror」は、ユーザーが自身の感情を通じてメイクアップを発見するAR体験を提供する。これは、ロレアルのバーチャルトライオン技術とEmotion AIアルゴリズムを活用することで、異なる色味やスタイルのメイクをARで施したときのユーザーの顔の動きから表情を分析して、そのメイクをどう感じているのか「本物の」感情的反応を検出し、喜びを引き出すカラーやスタイルへと導いていくというものだ。ロレアルはこれを「自分の感情を基準にメイクを楽しむという新しいアプローチ」としている。
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出典:CES公式サイト
⚫︎アクセシビリティとインクルージョンの追求「L'Oréal SYNC」と「My Aura」
テクノロジーの力で身体が不自由な人をサポートするサービスが増えているなか、以前から誰も取り残さないインクルージョンに取り組んできたロレアルは、アクセシビリティ&エイジテック部門で2商品が受賞を果たしている。
1つは、上肢に障害がある人や動作に制限のある人をサポートする「L'Oréal SYNC」だ。このシステムは、たとえば、コンパクトの開け閉めや口紅のねじ込み、キャップの取り外しなどビューティ製品の使用に困難がある人のメイク時の課題を代行し、メイクを簡単に楽しく行えるプロセスを提供するものだ。
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出典:CES公式サイト
もう1つは、手でボタンを押さずとも香水をスプレーできるフレグランスホルダー「My Aura」だ。センサーの近くに手や手首など体の一部をかざすだけで、香りが噴出される。上肢や視覚に障害のある人でも、気軽に香りを楽しむことができるというもので、ロレアルグループ以外のブランドの香水にも適用できる。
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出典:CES公式サイト
⚫︎進化した節水シャワーヘッド「Water Saver 2」
さらに、ビューティ&ヘルスケア部門では、2024年の基調講演でも紹介された節水シャワーヘッド「ロレアル ウォーターセーバー」の進化版「Water Saver 2」が受賞した。新型は、さらに進歩した人間工学にもとづいたデザインと贅沢な使い心地をうたい、爽快なジェット噴射で、かつ水はねしない設計とした。水の使用量とコストの削減状況をトラッキングできるなどのデジタルサービスにも新機能が追加され、サステナビリティに配慮しながら顧客体験のさらなる向上を図ったとする。
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出典:CES公式サイト
⚫︎将来の老化を予測し事前にケアする肌分析デバイス「L'Oréal Cell BioPrint」
また、ロレアルは今回、表皮のタンパク質バイオマーカーをわずか5分で測定することで、個別の肌分析が行える卓上型デバイス「L'Oréal Cell BioPrint」を発表。このデバイスには、ロレアルの「Longevity Integrative Science」という、人体内のメカニズムが肌の見た目にどのように影響を与えるかを明らかにする長年の研究成果に加え、独占パートナー契約を結んだ韓国のスタートアップNanoEntekが100以上の特許を持つ「マイクロ流体ラボ・オン・チップ技術(microfluidic lab-on-a-chip technology)」を搭載している。
両頬をそれぞれ専用シールでペタペタと15回ほどタップして、緩衝溶液に浸し、カートリッジに入れてデバイスに差し込むと分析がスタート。解析している間に、「Skin Connect」デバイスが顔の画像をいくつか撮影し、肌の悩みや老化についての簡単なアンケートも行う。肌分析では、肌の生物学的年齢、成分への反応性、毛穴の開きやすいタイプかなどをもとに、シミやシワなど、今後、肌上に現れる可能性のある潜在的な課題を予測し、無駄なく将来の肌の美しさを守るための個別アドバイスを提供する。Cell BioPrintは2025年後半にアジア諸国のビューティカウンターでパイロット導入される予定だ。
⚫︎NYXとスナップチャットが共同開発のバーチャルトライオン「BeautyBestie」
製品やサービス以外でも、ロレアルの最新テクノロジーを積極的に取り入れていく姿勢は明らかだ。「Shopping in the Immersive/Metaverse: Are We There Yet?(没入型/メタバースにおけるショッピング: 私たちはまだそこにいるのか?)」セミナーでは、NYX Professional Makeupがスナップチャットと共同開発した「Beauty Bestie」がZ世代をターゲットにした効果的な販売チャネル開拓事例として取り上げられた。
Beauty Bestieは、ARと生成AIを活用したバーチャルメイクアップ体験で、ユーザーは簡単なクイズに答え、スナップチャットのメイクアップフィルターレンズを使用することで、AIが顔分析をはじめ、ユーザーのノリや気分や、最新のメイクトレンドも踏まえて、プロのメイクアップアーティストがNYXの商品を使ってデザインしたメイクをバーチャルに試し、友人らとの画像の共有や商品の購入ができるというものだ。Beauty Bestieは使えば使うほど、AIがユーザーの好みを学習し、よりパーソナライズされた体験を提供するという。また、プロによるメイクのヒントもARで自分の顔に再現することができる。
セミナーでBeauty Bestie事例を紹介したスナップチャットのArcadia AR Innovation Studioのグローバルディレクターであるレッシュ・シドゥ(Resh Sidhu)氏は、「ARがノベルティからユーティリティ(必要不可欠なライフライン)にシフトした。ARが必須の”ツール(設備)”となった初のケース」と語り、ローンチ後4カ月でZ世代を中心に9,160万ユーザーを獲得し、多くの商品を売上げたとした。
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出典:Snapchat公式サイト
XRテクノロジーで新しいメイク選びの方法を提案するコーセー
⚫︎高速プロジェクションマッピングでメイクを投影「Mixed Reality Makeup」
コーセーは2023年にCESに初出展し「Mixed Reality Makeup」のプロトタイプを展示したが、今回はデバイスを共同開発した東京エレクトロン デバイスとともに、世界の人々の反応や要望、課題、製品の今後の展開のあり方を探るためCES2025に戻ってきた。
Mixed Reality Makeupは、高速プロジェクションマッピング技術により、ユーザーが装置内に座ってパネルを操作するだけで、一瞬で自身の顔にメイクを投影できるメイクシミュレーションシステムで、今回、XRテクノロジー&アクセサリー部門でイノベーションアワードを受賞した。
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出典:CES公式サイト
コーセーの展示ブース内に設けられたアイメイク、チーク、リップの色や塗り方を選んで投影できるリアルに近いメイクのトライアルと、歌舞伎、ロック、クレオパトラといったインパクトのある顔全体のメイクを投影できる2つの体験コーナーには、実際に試してみたい多くのビジターで賑わっていた。
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展示ブースでのプレスコンファレンスに登壇した経営企画部 事業開発課 課長の築山文彦氏は、近年、スマホやWeb上でのバーチャルトライオンが一般化しているなかで、Mixed Reality Makeupはあえて「(投影により)実際に肌の上にのせること」により、画面の枠という制限があるARトライオンの不自然さや色のずれを取り除き、より現実感があり満足度の高い、新しいメイクの選び方になるとの見解を示した。
また、Mixed Reality Makeupは、コーセーの商品だけではなく、他ブランドの商品にも対応する予定で、百貨店やコスメショップの店頭、さらにコスメイベント会場などでも、よりリアルなメイクのトライアウトを提供し「メイク市場全体を盛り上げていきたい」と築山氏は述べた。ビジネスモデルとしては、化粧品小売店などに向け、各社が希望するメイクを投影するソフトウェアと装置(ハード)をパッケージにしての月ごとのリースを想定しており、2025年後半から2026年初頭にかけて展開していくとする。
次回は資生堂やアモーレパシフィックなどのビューティテックを紹介する。
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(1)生成AI普及から、今後の進化はエージェントAIとフィジカルAI
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Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image & photo: 著者撮影