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【CES2025④】ボックス型クリニックや針のない血液検査、ハイテク義足など、広がるデジタルヘルス領域

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「ロンジェビティ(長寿)」がビューティ・ウエルネス領域の大きなトレンドとされるなか、CES2025でも、エイジングケア、より健康的な生活、そして、アクセシビリティをサポートする技術に注目が集まった。現地レポート第4回は、デジタルヘルス分野のイノベーションを紹介する。


遠隔医療をスムーズにしたり自身の健康状態を把握できるセルフデバイス

パンデミック以降、人々がウエルネスを重視するようになっており、CES2025では、自分の健康状態をより正確かつ詳細に把握したいというニーズに応え、生体データをトラッキングするデバイスや、医師と共有するための体への負担の少ない検査機器が目立っていた。

オンライン診療を身近にするボックス型クリニック

米ヘルスケアテック企業のOnMedが提案するのは、薬局やスーパー、地域の公民館などの一角に設置可能な常設のボックス型クリニック「OnMed CareStation」だ。医師がリモートで診察を行う。

プライベートな個室型のクリニック内で、患者は画面に映し出された等身大のスタッフや医師とのビデオ通話を通じた指示に従い、自分で血圧、体温、酸素レベルを測ったり、目、鼻、喉のスキャンをしながら約20分の問診を受け、処方箋や専門医の紹介状が受け取れる。患者が退出したあとは、空気洗浄システムとUV-Cライト消毒などを用いて自動清掃が行われる。

パワーセッションを開催したOnMedのCEO カシク・ガネッシュ(Karthik Ganesh)氏は「ヘルスケアという非常にパーソナルな分野においてはテクノロジーに人間味を与えることが不可欠」であり、医師とのリアルなコミュニケーションを重視したサービスであると強調。地方行政や大企業、大学などに対して設備を提供するビジネスモデルで、近隣に医療機関がない地域の人々の選択肢を増やす意図もあるという。現在、米国の4州で導入されており、今後は全米へと拡大予定だ。

肌にあてるだけの血液検査機器「Elixir」

米スタートアップBiopopの「Elixir」は近赤外分光法(NIRS : Near Infrared Spectroscopy)を採用し、肌にあてるだけですぐに血液検査ができ、その結果をアプリで見ることができるガジェットだ。予約をして病院を訪れ、注射器で血液を採取して検査結果を待つという従来のステップが不要になるとする。

Elixirのデモンストレーション

不調な子どもの所見を行う健康チェックデバイス

モバイルデバイス、アクセサリーズ&アプリ部門でイノベーションアワード(以下、アワード)を受賞した韓国のスタートアップOtiton Medicalの「Smart thermometer(スマート体温計)」は、体温計と小型カメラの2つの突起がついている。子どもが体調不良のときに健康状態をチェックするための機器で、たとえば、カメラで耳の奥を撮影することで中耳炎などの判定や、喉の撮影をもとに扁桃炎かどうかなどの判断を、韓国の病院と提携し収集したデータをAIが活用しアプリを通して教えてくれる。あわせて、体温や耳や喉などの身体状態の記録とともに、病院での受診もしくは家で薬を飲むようにといったアドバイスも提供する。今後は同技術をペットの健康チェックにも活かしていく予定とする。

Smart thermometerを紹介するスタッフ

体の表面や内部を映す小型ガジェット

同じく韓国のスタートアップDr. Cloboは家庭用の拡大カメラ「Dr. Clobo Camera」を展示。電動歯ブラシのような見ためとサイズ感で、ブラシの代わりにカメラと8つのLEDリングライトが先端に取り付けられており、肉眼では見えにくい奥歯や歯の裏など口内の状態確認のみならず、鼻・耳の内部など、さまざまな部位の状態を連動したアプリで鮮明に見ることができる。顔にあてて、シワの状態や毛穴の汚れなどを知るといった、ビューティ分野での利用も可能だ。このカメラで撮影して、画像やビデオで保存することもできる。

Dr. Clobo Cameraのデモンストレーション

グルコース値をトラッキングするウェアラブル

一方、AbbottグループのLingoは、血糖値と相関関係にあるグルコース値をトラッキングするウェアラブルデバイスだ。コインのような丸いバイオセンサーを上腕の後ろ側に貼り付けることでグルコースを測定し、数値をアプリで見ることができる。グルコース値は食事やエクササイズなどによって変化し、なかでも食事は大きな要素だが、食べ合わせによってもその変化は違ってくる。トラッキングにより、何が自分の血糖値を正常に保つことに役立っているかというインサイトが得られるとする。現状は食べたものを入力し記録する必要があるが、将来的にはカメラで撮影して認識できるようにする見込みだ。

Lingoを紹介するスタッフ

身体が不自由な人のアクセシビリティとインクルージョンを高めるテクノロジー

デジタルによって、身体的状況や年齢に関わらず、誰もが必要なサービスにアクセスでき健康で快適な暮らしを享受できるインクルージョンを目指す方向性は、CES2025においても変わりはない。なかでも、アクセシビリティを高めるデジタルウエルネスの分野は活況を呈していた。

盲導犬のような役割を果たす移動補助ロボット「Glide」

Tech Trend to Watch(注目のテックトレンド)」セミナーのベターリビングの事例として挙げられていたのが、米スタートアップGlidanceの「Glide」だ。これは世界初をうたう自律型・自己誘導型の移動補助デバイスで、20代で視覚を失った創業CEOのアモス・ミラー(Amos Miller)氏が、視覚障害者がひとりで歩くための白杖や盲導犬に加わる、新たなオプションとして開発した。

AIを搭載した2つの車輪をもつGlideはセンサーとカメラを使って障害物を避けるのはもちろん、ユーザーの音声指示に従ってドアや階段、受付などを見つけてその前で止まったり、音声で自分の位置や周りの状況を伝えたり、どちらの道へ進むかなどの選択肢を提示する。あらかじめ歩行ルートを記憶させたり、Googleマップなどのアプリと連動して目的地まで案内してもらうこともできる。2025年の秋頃から米国、カナダ、英国、EUにて販売開始予定だ。

進化する視覚サポートメガネ、バラエティも豊富に

目が不自由な人々のためのイノベーティブなサポートガジェットも多く出展されていた。たとえば、加齢黄斑変性(AMD)による視覚障害をサポートするガジェットには、サムスンが支援するCELLiCoの「EyeCane」や米スタートアップSoliddd Corpの「SolidddVision」といったスマートグラスがある。AMDは、視界の中心部が著しくぼやけることで、顔の認識や読書、日常の基本的な作業が困難になる病気で、視力喪失の大きな原因のひとつだが、現在のところ完治させる方法はない。

サングラスのような見た目のEyeCaneは4Kカメラとモバイルアプリを活用して視界の中央の不鮮明な領域映像を撮影・処理し、ユーザーがはっきりと見ることができる周辺視野をリアルタイムで映し出すことで、視覚を補助する。XRテクノロジー&アクセサリー部門でアワードを受賞している。

EyeCane
出典:CES2025公式サイト

一方、AR/VRグラスのSolidddVisionは、視界の周辺部から網膜の端に向けて平行光線を投影し、両眼による立体視(stereo vision from each eye)という新たな方法で視覚野(ビジュアルコルテックス)を活性化するというものだ。これは、視線を追跡するための高精度な網膜のマッピングを実現したことを意味し、ほかの目の疾患の診断にも応用できるという。

また、大阪大学発のスタートアップ、エルシオは、自動でピントが合うメガネ「オートフォーカスグラス」を発表。電圧変化によりピントを変えられる液晶レンズとフレネルレンズを組み合わせた独自の「フレネル液晶レンズ」を採用したこのスマートグラスを使えば、老眼や白内障でもメガネをかけ替えたり、遠近両用メガネを使用したりする必要がなくなるという。また、小児弱視の治療の際も子どもの成長に合わせてその都度レンズを変える必要がない。

出典:株式会社エルシオ公式Facebookアカウント

メディアデイに開催された日本のスタートアップ限定のピッチイベント「Launch.IT」でエルシオの創業者兼CEOの李 蕣里氏がオートフォーカスグラスを紹介すると、会場の審査員から「自宅で使いたい。欲しい!」との声が相次いだ。

デザイン性も高いヒアリングエイド付きメガネ

また、聴覚をサポートする度付きメガネとしてデジタルヘルス部門のアワードを受賞したのはNuance Audioの「OTC Hearing Aid Glasses」だ。

Nuance Audioの親会社は、Ray-Banなどのブランドポートフォリオをもち、シャネル、プラダをはじめとするライセンスブランドも手がけるエシロールルックスオティカで、見ためのデザイン性や使い心地に優れているのに加え、ツルの部分にスピーカーを搭載し補聴器の機能も持つ。たとえば、ボリュームの調整のほか、混み合ったレストランやイベント会場などで周囲のノイズを減らして目の前の相手の声のみを聞くといった調整は、専用のリモコンもしくはツルの部分に軽くタッチするだけで行える。

OTC Hearing Aid Glasses
出典:CES2025公式サイト

舌の動きに反応するマウス「MouthPad^」

アクセシビリティ&エイジテック部門でアワードを受賞した米スタートアップAugmentalの「MouthPad^」は、上の歯に装着し、舌の動きを使ってコンピュータ、タブレット、スマートフォンなどのデジタルデバイスにBluetooth接続して、ハンズフリーで操作できるようにする新しいワイヤレス“マウス”だ。

快適な装着感を実現するために、歯科用グレードの素材を用い3Dプリンターを使ってカスタムメイドで各自にフィットするように作られる。操作経験のある展示ブースのスタッフは、歯科矯正用のマウスピースと比べて目立たず、慣れれば違和感を感じないと話し、脊髄損傷などにより手足が不自由な多くの人々の助けになることが期待されるとする。

MouthPad^の展示

ヒューマノイド・ロボット技術を応用したバイオレッグ

CES2025のアクセシビリティ&エイジテック部門で、最高賞のベスト・オブ・イノベーションを受賞したのは、日本のスタートアップBionicMによる、膝部分に電動アシスト機能が搭載された義足「Bio Leg」だ。歩行によるエネルギー消費を抑えることで、足や腰にかかる負担を減らし、慢性的な痛みのリスクも減らすという。9歳で右足を切断したという創業者兼CEOの孫小軍(Xiaojun Sun)氏は、前述のメディアイベントLaunch.ITのステージにBio Legで登壇。「段差があってもスムーズに歩け、姿勢を変えても安定した動きができる」とユーザーとしての実体験をもって、生活の質が大幅に改善する製品だと述べた。

ライフスタイルの質を高める健康増進器具

マッサージチェアやフィットネスのサポートなど、日常生活で使用してウエルネスを高める製品にも注目が集まった。

エクササイズを導く機能をもつマッサージチェア

デジタルヘルス部門でアワードを受賞した韓国のBodyfriendの新発想のマッサージチェア「Standing Rovo (SR) 733」モデルは、両腕と両足の動作をそれぞれ独立して制御でき、ユーザーはマッサージチェアの動きにリードされる形でピラティスやストレッチのようなエクササイズやリハビリが行える。スタンディングポジションを設けているため、チェアに座るという動作が難しいシニアなどでも、立った姿勢でモビルスーツを身につけるようなイメージで装着可能だ。さらにワイヤレス心電図モニターから収集するバイオメトリックデータを活用したAIヘルスケアサービス機能が搭載されており、病気の予測や健康評価、また、健康状態に応じたレコメンドも提供する。

Standing Rovo (SR)733
出典:Bodyfriend公式サイト

美容分野でも利用可能な微弱電気刺激システム「WE-STIM.MED」

Barunbioは、独自のエネルギー収集技術である「WE-STIM.MED(Wearable Electric Stimulation – Micro Electricity through Diversification)」のアプリケーションで、2年連続アワードを獲得している韓国のスタートアップだ。WE-STIM.MEDは、バッテリーや外部デバイスを使用せずに、人間の動作や周辺の電子機器から生じるエネルギーを収集し、ターゲット部位に細胞を活性化させる効果を持つ微弱電気刺激を継続的に与えることができる。しかもWE-STIM.MEDは、繊維、ゲル、パッチなど、さまざまな形状での実装が可能だ。

今回は、この技術によって疲労からの早いリカバリーを促す膝サポーターがフィットネス部門でアワードを受賞したが、応用範囲は広く、美容分野でもしわの軽減やスキンケア商品の肌への浸透を促すフェイス用の「アンチエイジングパッチ」などを開発している。

膝サポーター(左)とアンチエイジングパッチ

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Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image & photo: 著者撮影