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【CES2025①】生成AI普及から、今後の進化はエージェントAIとフィジカルAI
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2024年は、ChatGPT、Copilot、Geminiなど対話型生成AIの普及により「生成AI元年」と呼ばれるほど大きな転換期だった。これを受け、2025年年明け早々に開催されたCES2025は、AIがすでに日常に浸透していることを前提に、ビジネスや生活のシーンでいかにシームレスに活用していくかという視点からイノベーションが語られた。CES2025の現地視察レポートをシリーズで掲載する第1回は、基調講演を軸に、AIによる変革の最中にある今、今後のビジネスの在り方やユーザー体験がどのように変わっていくのかを中心に取り上げる。
AIは、CESの全カテゴリーとテックトレンドのすべてに関わる技術
2025年1月5日〜10日(5日、6日はメディア向けイベントのみ)、米ラスベガスにて恒例の最新技術の見本市「CES2025」が開催された。今回は150カ国以上から1,400社のスタートアップを含む4,500以上の出展企業と6,000人以上のメディア関係者が集ったほか、2024年を上回る延べ14万1,000人超が来場した。
近年、大きな存在感を示してきた中国や韓国勢はもとより、今回は、パナソニック、ソニー、クボタ、コマツ、トヨタ、ホンダ、日産、キリン、日立などの大手企業やジャパンパビリオンを中心に複数のスタートアップ企業が出展。会場で日本語を耳にすることも多く、日本企業の積極性が感じられた。
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また、トランプ米大統領の就任直前の時期でもあり、政権によって、米国ひいては世界の経済・ビジネス環境がどう変わるのか、どんな影響があるのかは、本来、テック業界の大きな関心事であるはずだ。実際、欧州で開催されたインターナショナルなテック関連イベントでは活発な議論が交わされていたが、CES2025では講演やセミナーにおいて触れられることはほぼなく、みな様子をうかがっている感じもした。
例年通り会場には、モビリティ、スマートホーム、デジタルヘルス、ライフスタイルなど多彩な分野の最新イノベーションの展示ブースが並んだが、最も印象的だったのは、全てのエリアでAIがバズワードという段階を超え、あるのが当然の技術として扱われていたことだ。
CESを主催するCTAがその年の傾向を提示する講演「Tech Trend to Watch(注目のテックトレンド)」の主要テーマの1つとして挙げた「デジタルとの共存(Digital Coexistence)」のなかでも、イノベーション&トレンド部門シニアディレクターで未来学の専門家(フューチャリスト)のブライアン・コミスキー(Brian Comiskey)氏は、スマートフォンやクラウドによるDXはもはやコモディティ化し、AIが不可欠な技術としてイノベーションを牽引していることを明示した。とくにChatGPTやマイクロソフトのCopilot(2023年12月リリース)、GoogleのGemini(2024年2月リリース)など対話型生成AIの普及は急速に進み、すでに米国の成人の93%が生成AIになじんでおり、61%がビジネスの現場でAIツールを利用していることに触れた。
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また、2024年12月に行われた調査では、米国人消費者の64%がオンラインショッピングでチャットボットやバーチャルトライオンをはじめとするAIツールを活用。AIによるパーソナライゼーションにより購入の可能性が40%向上するなど、AIの消費者生活への浸透ぶりが数値でも示された。
世界的にもAIへの関心は高く、Boschのグローバル調査「Tech Compass2025」によると、アンケートに回答した参加者全体の82%、インドでは98%、中国では95%がAIについて学びたいと答え、全体の62%がAIを独立した科目として学校で教えるべきだと回答したという。
また、コンサルティング企業デロイトが主催した「Tech Trends 2025: Explore What’s New & Next in Emerging Technology (テックトレンド2025:最新テクノロジーの今と次を探る)」も、2025年のレポートのテーマとして「AI Everywhere(どこにでもあるAI)」を掲げ、ビル・ブリッグス(Bill Briggs)CTOは、AIがCESの全カテゴリーとテックトレンドのすべてに関わる技術であり、「AIは私たちの生活のなかに編み込まれている」と位置づけた。
エヌビディアのファンCEOが語るこれからのAIの進化
こうした「AIはすでに日常に入り込んでおり、最も注目すべき技術である」という共通認識のもと、2024年に急速に普及した画像生成やテキストベースの対話型生成AIに次ぐ、これからのAIの方向性についても多くの講演で取り上げられた。
特設会場でのロックコンサートのような熱気に満ちたエヌビディア(NVIDIA)の基調講演で創業者兼CEOのジェンスン・ファン(Jen-Hsun "Jensen" Huang)氏は、AIの進化は「生成AI」から「エージェント型AI(Agentic AI)」、そして「フィジカルAI(Physical AI)」へ進んでいくとの展望を示した。
エージェント型AIとは、指示待ち型ではなく、複数のマルチモーダルソースからの情報をもとに自ら状況を判断し、積極的に意思決定を支援するAI技術を指す。また、フィジカルAIとは、ロボットや自動運転車のような「物理的な空間を理解して動くAI」のことだ。
ファンCEOは、「将来的には企業のIT部門は、社員とともに働くAIエージェントを管理する人事部のようになる」とする。また、フィジカルAIを「AIの次のフロンティア」と位置づけ、フィジカルAI実現のネックとなっていた3Dシミュレーションを可能にするオープン・ワールドファンデーションモデルプラットフォーム「NVIDIA Cosmos(NVIDIA Cosmos: A World Foundation Model Platform for Physical AI)」や、それらを活用した、大規模な工場や倉庫をデジタルツイン化し、大量のロボットを設計・テストするといった未来設計図(ブループリント)を発表。さらにステージ上にずらりと並んだヒューマノイドを“友人”と紹介し、人型ロボットがさまざまな場所で活躍する時代もすぐそこにあるという見解を示した。
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一方、デロイトのブリッグスCTOは、フィジカルAIとの関連も深い空間コンピューティング(Spatial Computing)や空間型AI(Spatial AI)をはじめ、電磁波を見る、分子の匂いを判別するなど、人間が知覚・認識できない情報を活用する生成AIが登場し現実空間で活動していくことを予測している。また、近年、クラウドやデータモデルといったソフトウェアに押されて、コモディティのように扱われがちだったハードウェアが再び注目されるようになるとする。
また、CTAのコミスキー氏は、AI技術の進化とともにクオンタム(量子)テクノロジーへの期待が高まっているとして、「2020年代が(アーティフィシャル)インテリジェンス(AI)の時代だというなら、2030年代は「量子の10年(quantum decade)」になるとの予測をもってTech Trend to Watch講演を締めくくっている。その反面、デロイトのブリッグス氏は、2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性が取り沙汰された2000年問題(Y2K)ならぬY2Q(量子コンピュータによって現代の暗号システムが破られる可能性)問題の浮上に警鐘をならした。
ユニリーバ、韓国LGなどが強調する「Human Centric(人間主体主義)」
このように、AIがさらに存在感を増していくことが前提として述べられたと同時に、その際に、どの団体・企業も強調するのが、AIが人間に取って代わるのではなく、従業員や顧客である人間があくまで最終的な決断を下し、メリットを受ける主役であるということだ。たとえば、CTAのコミスキー氏もデータを使ったAIによるパーソナライズ化の傾向を例に挙げ、テックトレンドはかつてないほど「人間主体(Human Centric)である」と話した。
具体例としては、「How Will Technology Redefine the Future of Luxury? (テクノロジーはラグジュアリーの未来をどう再定義するか)」セミナーに登壇したユニリーバのハイエンド・スキンケアブランド「ダーマロジカ(Dermalogica)」のグローバルCEO アウレリアン・リス(Aurelian Lis)氏は、すべての従業員にAIの「デジタルアシスタント」をつけたことで既存業務が効率化しているのはもちろん、南アフリカのチームがズールー語での初の研修セッションを行なった事例を紹介。地元言語での地域サロンの教育といった、よりパーソナルな新規プロジェクトの実現も可能になっていると述べた。
また、100周年を迎えた米デルタ航空が「デルタ・コンシェルジュ」という顧客一人ひとりにパーソナライズしたサービスを提供するAIパーソナルアシスタント機能の導入を発表したほか、韓国LGもAIを「ユーザーを本当に気遣うAffectionate (愛情深い) Intelligence=AI」と再定義し、エージェントAI「LG FURON」が、家庭、移動中、オフィスといった物理的空間において総合的に個々の生活をサポートする未来を提示するなど、各社の基調講演でもパーソナライズした顧客体験のためにAIを導入していることが繰り返し示された。
さらにAIを使うことで、社会的に恵まれた層だけではなく、多くの人が恩恵を得られる「テクノロジーの民主化」の推進にも企業は取り組んでいる。
たとえば「Putting AI to Work at Retail(リテールにおけるAIの活用)」セミナーでは、アリババの北米ビジネス開発ディレクターのマティア・ミグリオ(Mattia Miglio)氏が「AI技術をみんなに届け民主化する」というビジョンのもと、2024年、Alibaba.com上で同社のBtoB ECプラットフォームを利用する6万社の中小企業に対し、AIスマートアシスタントツールを無償で提供したことを共有。Alibaba.comでは130カ国以上からの商品を購入できるが、売り手企業(バイヤー)の半数以上が発展途上国にあるという。AIツールにより、遠隔地の小国の中小企業でも最新のデータインサイトやトレンド情報にアクセスでき、世界市場での競争力を高めたとする。また、AIツールによって、バイヤーは自分の母国語でパーソナライズされた検索や交渉、価格の比較などを行うことが可能となり、コンバージョンレートは26%上昇したという。
さらには、ビジネスだけではなく生活面でもAIを活用し、アクセシビリティやインクルージョンのサポートが進んでいる。一例では、Boschは事故で下半身付随となったプロ・レースカードライバーのロバート・ウィケンス氏が、より正確性と安全性の高いブレーキ制御でレースに再び参加することを実現したハンドブレーキシステムを開発。また、ロレアルは以前から、手が不自由な人のメイクをサポートするHAPTAシリーズなど、アクセシビリティを高めるガジェットの開発に取り組んできた。今回は、手でボタンを押さなくとも香水をスプレーできるデバイス「My Aura」などがノベーションアワードを受賞している。なお、CES2025に出品された体が不自由な人をサポートするAI搭載ロボットやガジェットについては、今後のレポートで具体的に紹介する。
Z世代の行動パターンと生活や購買におけるAI浸透度
急速にAIが進化するなか、今後のビジネスの在り方を考えるにあたり、消費者の新たな嗜好や行動パターンを理解することも重要課題の1つである。CTAの調査によると、生まれたときからスマートフォンがあり、一緒に成長してきたデジタルネイティブのZ世代(1997-2012年生まれ)は現在、世界人口の32%を占める。平均13台のデバイスを扱うという米国のZ世代は、86%がテックが生活必需品だと考えており、74%が自己表現などアイデンティティの核として利用している。
また、Z世代は、サステナビリティに関心が高いが、同時にファストファッションも好むといったバリューとアクションのギャップがある。そんななかで、リサイクル材料プラス省エネなど、1つではなく複数の環境に良い影響を与える利点があることを示した商品は、そうではない商品に対し2.5倍の購入意向を得たというインサイトも示された。また、Z世代の商品検索におけるクエリ(ユーザーが検索エンジンで入力した語句や文章)の変化にも注目が集まっている。
Googleは2024年、ユーザーの検索に対して、Geminiが検索結果を要約することでより効果的に回答する「AIオーバービュー(AIによる概要)」とカメラを使って、音声や調べたいことをサークルで囲むことで検索できる「レンズ(Lens)」を北米で導入した。「Putting AI to Work at Retail」セミナーに登壇したGoogleのマネージングディレクターのイーガン・ブリンクマン(Egan Brinkman)氏は、とくにZ世代がレンズを積極的に活用しているとする。
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また、「How Will Technology Redefine the Future of Luxury?」セミナーに登壇したファッションECプラットフォーム「Revolve」のチーフ・マーチャンダイス・オフィサー&ファッションディレクターのディヴィヤ・マサー(Divya Mathur)氏は、これまでユーザーは服を検索する際には「赤いドレス ミニ」などのキーワードを入力したが、現在は「ラスベガスのコンファレンスで着る服のアイディア」「トゥルーズの友人の結婚パーティで着る服」など、「場所(ロケーション)+〇〇のシチュエーションで何を着るべきか」というクエリで検索を行う若年層が増えているとする。
そして、多くのブランドやリテールは、まだまだそれにふさわしい検索結果を揃えていないことを指摘。同社では生成AIを導入することで、たとえば「ラスベガス用ドレス」といった各自の状況にあわせてパーソナライズしたキュレーションの提供ができるようになり、業績を伸ばしていると話し、消費者の期待値や行動が大きく変化していることを示した。
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次回は、CES2025で注目を集めたビューティテックを中心にレポートする。
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Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image & photo: 著者撮影