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【CES2025⑤】ホルモンモニタリングや更年期対策ウェアラブル、バイオデータ活用AIセクシャルウエルネスまでフェムテックの最前線
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CES2025現地レポートの最終回は、2027年までに推定600億ドル(約9兆1,566億円)規模の産業に成長を遂げると予測されるフェムテック市場における注目のイノベーションを紹介する。
女性のライフステージに寄り添い進化するフェムテック
CES2025におけるフェムテック領域では、ホルモンモニタリングや妊活、授乳から更年期対策、あるいはセクシャルウエルネスまで、女性のライフステージのさまざまな段階で、女性が自身の体を知り主体性を持って管理していくことをサポートするテクノロジーが提案されている。
自宅で手軽にホルモン状態のモニタリング
デジタルヘルスケア部門でベスト・オブ・イノベーションを受賞したのは、女性のデータサイエンティストが共同創業者であるカナダのスタートアップEli Healthの「Hormometer」だ。これは、ホルモンモニターで、病院で採血や検査をしなくてもテストチップを30秒間口に入れて唾液サンプルを採取し、20分後にスマートフォンの専用アプリでスキャンすれば、すぐに分析結果とそれが何を意味するかというインサイトを教えてくれる。テストキットおよびアプリのサブスクリプションでのビジネスモデルを想定している。
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現在、測定可能なホルモンはコルチゾールとプロゲステロンで、コルチゾールはトラッキングすることで、ストレスレベル、睡眠、精神状態、エネルギー量がわかり、長期的な健康の向上に役立てることができるとする。また、“妊娠準備ホルモン”とも呼ばれるプロゲステロンを分析することで、排卵日や妊娠のしやすさ、閉経までの症状の変化、不眠や不安、感情の浮き沈みなどの症状をユーザーが把握し、おすすめの対処法も確認できる。今後はさらに多くのホルモンの測定が可能になる見込みだ。
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出典:CES2025公式サイト
また、デジタルヘルスケア部門ではもう1社、同じく唾液でコルチゾールを測るホルモンモニター「CortiSense」がイノベーションアワード(以下、アワード)を受賞している。開発したのは、スイスのスタートアップNutrixだ。CortiSenseは、米国ではストレスによる従業員の欠勤が年間3,000億ドル(約45兆7,830億円)の損失をもたらしているとして、過度のストレスや燃え尽き症候群に効果的に対処・予防することにフォーカスして同製品を開発したとする。
コルチゾール測定の方法は、血糖値計のように繰り返し使える専用センサーに唾液をつけ、10分間待つと、Nutrix社がユーザー向けに提供するヘルスケアシステム「gSense」アプリ内で分析結果が表示されるというものだ。gSenseアプリでは、ユーザー向けインターフェースとは別に、医療チーム用ダッシュボードを通して医療従事者とAIが連携され、ユーザーに個別対応した総合的な予防・ヘルスケアプログラムが提供される。その裏ではさまざまなスマートヘルストラッカーやラボでの検査結果データを統合する仕組みも構築されており、CortiSenseもその一部としてシームレスに統合される見込みという。
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出典:CES2025公式サイト
初期の更年期症状を知るためのウェアラブル
アイルランドのスタートアップidentifyHerが開発した「Peri」は、同じくデジタルヘルスケア部門でアワードを受賞した女性のためのトラッキングデバイスだ。胸の下のあたりに貼り付けて装着する小さく薄型のウェアラブルで、皮膚を通してこれまで曖昧で分かりにくかった更年期の症状を正確に追跡し、客観的なデータと実用的なインサイトをアプリを通して提供するとうたう。科学的データにもとづいて体の内部で起きていることを可視化して、ユーザー女性が自分に合った症状管理や治療方法を主体的に選択できるようになることを目指している。
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出典:Peri公式サイト
このデバイスは、500人以上の女性への調査・ヒアリングをもとに設計され、科学者から起業家へと転身した2人の女性によって開発された。ブーススタッフによると、一旦デバイスを付けたら、その存在を忘れてしまうくらい気にせずにいたいと多くの女性が考えていることを受け、Periはバッテリーを2セット用意。バッテリーを交換することで1〜2週間デバイスをつけたまま、シャワーを浴びたりエクササイズができる。
Periは、ホットフラッシュ(ほてり)、寝汗、不眠、不安感などの更年期の症状をトラッキングするとともに、より効果的な症状管理を導くために、ユーザーの暮らしのなかでの活動や生活習慣、さらに月経周期、食習慣、薬の服用なども追跡し、収集したすべてのデータを合成して実用的な洞察とパーソナライズされたガイダンスを提供する。これらのデータは記録・共有することができるため、医療機関ではっきりと自分の症状を示し、より的確な治療を得やすくなるとしている。ローンチは2025年春の予定だ。
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加熱機能付きウェアラブル母乳ポンプ
中国のAnker Innovations Ltdのスマートホームブランドeufyが開発した「Wearable Breast Pump S1 Pro」もデジタルヘルスケア部門でアワードを受賞した授乳期間中の女性のためのウェアラブルデバイスだ。
ブラに挟むことでハンズフリーで使えるこの電動搾乳機は、加熱エレメントと高精度温度センサーを活用した「HeatFlow」テクノロジーを搭載したことで搾乳中に肌に触れているシリコンが均一に温まる。95°F~105°F(約35°C~40.5°C)の7段階で温度を調整することで、乳流を促進し、詰まりを防ぐ効果があるという。また、ベビーモニターなどeufy社のベビー関連製品と連動できるeufy Babyアプリを通して、自動でユーザーの体のリズムに合わせたスマート吸引リズムが設定される。またアプリ上ではリアルタイムで搾乳状態を把握したり温度調整ができる。さらに付属のポータブル充電ケースは、最大5日分の電力を備えていて、出張や小旅行などにも持っていきやすい。すでに米国にて349.99ドル(約5万3,400円)で販売中だ。
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出典:CES2025公式サイト
バイオデータを活用するスマートセクシャルウエルネスデバイス
AI部門でアワードを受賞した「Sensera」はセンサーやAIを搭載したセクシャルウエルネスデバイスで、膣内に挿入して使用中のユーザーの摩擦や潤滑性、心拍数、骨盤底筋の収縮といったバイオフィードバックを測定し活用する。底部の着脱式の「カプセル」から必要に応じて潤滑剤を放出する「Smart Release System(SRS)」技術により、膣内の自然な潤いを補いながら、利用体験をパーソナライズしていく。さらに、対応アプリを通じてユーザーが使用感の良し悪しや要望をフィードバックすることで、将来の体験を向上させることが可能だ。
潤滑剤カプセルは、骨盤底筋を鍛えるなどの目的の「ウエルネス」とセルフプレジャーを追求するための「プレジャー」の2種類がある。Senseraは快楽とウエルネスのギャップを埋めることを目指して開発され、公式サイトによると、実際に性的機能と骨盤底の健康の改善に加え、うつの改善などにも効果が出ているという。
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出典:Sensera公式サイト
精子観察分析デバイスと排卵テスター
韓国のデジタルヘルス企業のINTINが開発した精子観察分析デバイス「OVIEW Sperm Tester Pro 2」は、精液中の精子濃度を測定して活動度(運動性)の特性を表示する精液分析デバイスで、自宅でのセルフチェックを可能にする。
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採取した精液をデバイス内にセットしスマートフォンで専用アプリから読み取ることで、精子の動きをリアルタイムで観察でき、かつ精液密度など精子の状態の分析結果が得られる仕組みだ。ユーザーはこの検査結果および画像を医療スタッフに提供することで専門的な診察や治療、アドバイスが受けられる。
The award-winning Sperm Test Pro 2 was developed to allow those concerned with their sperm health or virility to test...
Posted by Interesting Engineering on Thursday, January 9, 2025
同社はまた女性向けに排卵テスターも提供している。排卵時にホルモンのエストロゲンが変化すると唾液の結晶構造も変化する性質を利用し、排卵日かどうかを確認できるデバイスだ。チップで舌の付け根をなぞり採取した唾液をステックに塗布しデバイス本体に差し込む。アプリを起動しスマートフォンのカメラ部分にデバイスを装着することで、唾液の結晶の状態を画面上で見ることができる。生理周期のトラッキングなどで割り出した排卵日をより正確に特定するなどの利用法を想定している。
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Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image & photo: 著者撮影