第1回Japan BeautyTech Awards大賞発表、人を幸せにするイノベーションとは
◆ English version: Startup Perfect Corp outshines Kao to clinch first prize at the Inaugural Japan BeautyTech Awards
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株式会社アイスタイルは2019年12月11日、第1回となるJapan BeautyTech Awards 2019 の大賞・準大賞および特別賞を発表し授賞式を開催した。さらに式後には、授賞した4社に加え、ファイナリストに選ばれた10社のうちから3社が参加して、BeautyTechの現在とこの先を考える2つのパネルディスカッションが開かれた。
Japan BeautyTech Awardsは、その年のビューティテックを最もリードしたと総合的に判断されるもの(サービス/技術/プロジェクト)を表彰する目的で創設された。授賞式の冒頭で挨拶に立ったアイスタイルの吉松徹郎代表取締役社長兼CEOは、ビューティテックの可能性に光を当て、その存在を広く世の中に知らせてゆきたいとアワードの意図するところを語る。
株式会社アイスタイル
代表取締役社長兼CEO 吉松徹郎氏
このアワードは、「人を幸せにするイノベーション」という大テーマを掲げており、ビューティテックはもとより、ファッションテック、ヘルステックなど、美容業界に広く応用ができそうなテクノロジーを開発する大手からスタートアップまで54件にのぼる応募があった。
審査委員もさまざまな分野で活躍するプロフェッショナル5名が就任、「革新性」「事業性」「技術性」「話題性」の4つの評価基準にもとづき審査が行われた。書類審査を通過した10件のファイナリストをプレゼンテーションも参考にしつつ選考が進められたが、いずれも負けず劣らずのクオリティと内容で、予定していた1回の審査会では決まらず、急遽、2回目の審査会を開いたと審査委員長の梅澤高明氏は経緯を明かし、特別賞の増設も決定された。
大賞と準大賞、特別賞を受賞した企業は以下の通りである。
受賞者と審査員
前列左から、Lily MedTech 東志保氏、
花王 細川均氏、
パーフェクト 礒崎順信氏、
ファーメンステーション 酒井里奈氏
【大賞】パーフェクト株式会社:ユーザー向けARメイクアプリ「YouCamメイク」や法人向けARメイクアップ等のビューティソリューションの展開
新しい顧客体験を提供すると同時に、美容業界における販売プロセスの変革や効率化を実現していること、全世界で200ブランド以上に提供されるなど、大手企業を含む多数の企業がすでに採用している実績が高く評価されたのがパーフェクトだ。次世代のパーソナライゼーションに挑むなど、業界のトップランナーとして常に走り続ける姿勢が大賞にふさわしいとのコメントが審査委員から寄せられた。
審査委員の1人が「小学生の娘もYouCamアプリを使っている」と話すほど、人口に膾炙するパーフェクトのARアプリだが、UX(ユーザーエクスペリエンス)至上主義を念頭に、タップを1つ増やすだけで利用率が下がるなど、ユーザーの正直なレスポンスに即応しながらアプリを磨き上げていることを、授賞式に臨んだ代表取締役社長 GM & Presidentの礒崎順信氏は話す。
同時に、AR+AI+オムニチャネル化により、より豊かな消費者体験を叶える次のステップ「Beauty 360°」を進めている同社は、あくまでもクライアントであるブランドがそれぞれの特徴や個性を発揮する多彩な顧客体験の提供を目指すものであり、そのための施策を今後も拡充していくと強調する。
パーフェクト
AIスマートシェードファインダー
イメージ図
台湾に本社を置き、バーチャルトライオンの分野でグローバルなリーディングカンパニーに成長したパーフェクトだが、その根幹にはスタートアップとしての矜持が息づいているようだ。大賞のトロフィーを手に礒崎氏は、美容業界発展への貢献を目的としたAR/AIソリューションサービスが評価されて大賞を受賞できたことを光栄に思うと語り、今後も開発を重ね、消費者に喜ばれるサービスの展開に務めるとともに「弊社のようなスタートアップがこのような賞をいただけたことで、この業界にいる数々のスタートアップ企業への注目が高まり、業界全体の活性化にもつながることを祈る」と受賞の喜びの言葉を締めくくった。
【準大賞】花王株式会社:ファインファイバー技術
化粧品製造技術とファイバー製造技術・原材料技術の巧みな組み合わせにより実現したこの技術は、スキンケアの市場を塗り替える可能性を秘めた大型の基礎技術であり、類似技術と比較しての優位性があると審査委員は授与の理由を語るとともに、化粧品領域だけでなく、多様な製品に展開できる無限の可能性にも言及した。
ファインファイバー技術を応用した商品は、ディフューザーによりつくられる極薄膜と、専用美容液を組み合わせた新しいナイトケアとして、花王の「est」とカネボウ化粧品の「SENSAI」ブランドから12月4日より販売されている。
受賞後のパネルディスカッションの際には、聴衆が実際にディフューザー機器を使用して極細繊維が直接皮膚に噴射され極薄膜が形作られる体験を試みた。みるみるうちに皮膚と見まがう膜がクリエイトされる様子は衝撃的なまでのインパクトで、また、つけていることを感じさせない自然な感触、そして、するりときれいにはがれることにも感嘆の声があがった。
花王の執行役員でありスキンケア研究所長の細川均氏は、受賞にあたり、長い時間をかけようやく事業化にこぎつけたと決して平坦ではなかった道のりを振り返り、受賞が開発者にとって励みになると述べるとともに、ヒトの暮らしを変えてこそ「革新」と呼べるのであり、ファインファイバーはようやくその戸口に立ったところだと、今後の一層の精進を誓った。
【特別賞】株式会社ファーメンステーション:未使用資源×発酵でつくるサステナブル化粧品原料
化粧品の主要原料であるエタノールをオーガニック素材で実現した時代性と、持続可能性や環境配慮も含んだユニークなプロジェクトとして、審査委員一同が今後の活躍が期待できると評したファーメンステーション。
米の消費低迷が生んだ休耕田を活用して栽培したオーガニック米を原料とする、付加価値のあるプレミアムエタノール販売をしている同社は、エタノールを絞ったあとの米もろみ粕にもヒアルロン酸保持効果など、化粧品向きの保湿成分があることを突き止め、原料販売やOEM企画に加え、自社化粧品ブランドも立ち上げている。また、この米もろみ粕を養鶏場や畜産業者に飼料として提供することで、地域循環型産業の仕組みをつくりあげた。
ファーメンステーションが岩手県奥州で
取り組む地元密着型循環プロジェクト
提供:株式会社ファーメンステーション
同社代表取締役の酒井里奈氏は、当初は大量に投棄される生ゴミからバイオ燃料をつくることをもくろんだが採算が合わず、周囲の理解も乏しかったことから、化粧品への転用に目を向けて事業化の活路を拓いた。日本企業においてもSGD’s(持続可能な開発目標)への取り組みが注目される状況が生まれ、ようやく時代がファーメンステーション酒井氏の発想に追いついたのかもしれない。
【特別賞】株式会社Lily MedTech:痛みや被ばくのない乳房用超音波画像診断装置
技術的水準が非常に高く、想定の価格帯・品質での製品化に成功すれば、乳がん診断のグローバル・スタンダードを一新させるであろうと審査委員から高い注目と評価を受けた、Lily MedTech の乳房用超音波画像診断装置「リングエコー」。世界をみても競合がほとんど存在しない独自性に優れた技術であるのも特徴だ。
開発装置イメージ(左)と使用イメージ
提供:Lily MedTech
乳房を圧迫し強い痛みを伴うマンモグラフィや、検診の精度にばらつきが起こりがちな従来の超音波検査の課題を克服し、ベッドに10分ほどうつ伏せで横たわるだけで乳房の3Dスキャンが完了し、苦痛もなく検査が終了するという、ユーザー(患者)のQOLを大きく向上させるフェムテックである。世界中の女性を救う日本の技術誕生のためにも早期実現化が切望される。
代表取締役の東志保氏によると、2年以内の上市を目標に、医療機器として承認申請の準備を進めている段階だが、発展途上国では低価格で提供できるシステムづくりなど、誰もが簡単に乳がん検診を受けられる社会を目指して普及を推進する構想を抱いている。
ファッションAIが果たす役割
授賞式後に開かれたトークセッションには、惜しくも受賞を逃したファイナリストの3社もあわせて登壇し、「パーソナライゼーションはどこへ向かうのか」をテーマに、各社の試みについて語った。
パネル1の登壇風景
2014年から運営するスナップメディアの「#CBK」で蓄積したデータをもとに画像認識やコーディネート提案のAIを開発。このAIをリコメンドエンジンとしてアパレルECを中心に提供する株式会社ニューロープ。CEOの酒井聡氏は、流行の移り変わりが激しく、人気のスタイルがどんどん流れていくファッションの分野においては「新しいデータを取り込み続ける必要がある」として、AIの教師データを作成するために画像のタグ付けを人力でするオペレーションは続けていると明かす。
また、同社が目下力を入れているのが、Japan BeautyTech Awardsに応募したプロジェクトでもある、トレンド分析や需要予測といったMD支援の領域だ。
SKUが多く、シーズン性が高く、発注から店頭に並ぶまでのリードタイムが長いことなどから「アパレル廃棄」は業界にとって大きな課題であり続けてきた。環境と企業双方への負荷となり、この負債は消費者にものしかかっている側面がある。解決に向けて、ニューロープではSNS上のスナップを画像解析にかけて定量化したり、企業の過去の売上情報を統計的に分析することにより、適正な発注数やプライシングをするという取り組みを進めている。
出典:ニューロープ公式サイト
顧客と創っていくパーソナライズのあり方
ユニリーバの社内ベンチャーとして誕生したパーソナライズ・シャンプー「Laborica 」について語るのは、ラボリカ研究所の研究員でマーケティングと販売の責任者を務める内野慧太氏だ。研究所で日々シャンプーのテストサンプルを作っているなかで、ある特定のサンプルがぴったり合う人が世の中にいるのではないかと思いついたのが、研究所から直送するパーソナライズ製品をつくるきっかけだった。
Laboricaは約30の質問からなる髪診断をもとに、一人ひとりに最適な処方を割り出すが、1回目は「思ったほどぴったりではなかった」という声も少なからずあるという。これは、ユーザーが“自分で認識している髪質”と、乾燥やダメージレベルなどの“実際の髪の状態”にギャップがあるためではないかと内野氏は考える。そこで、それを逆手にとり、2回目、3回目とフィードバックに合わせて少しずつ調整を加えていくことで、だんだん好みの製品に近づいてくる体験を提供すると、発想を切り替えた。「ユーザーに自分だけのものを育てている楽しさを味わってもらうことで、LTVをあげていける」と内野氏。真のパーソナライズとは何かを考えるうえで、示唆に富む事例である。
ユーザー主導のコミュニティの形成
「私の“可愛い”とあなたの“可愛い”は違う」。だから、データを集めることで、そのひとが本当に求めているものを見つけだしてリコメンドすることを目指すのが、アプリを使って簡単に自分だけのデザインができる、オリジナルネイルシールのオーダーメイドサービス「YourNail 」を手がける株式会社uni’que だ。
同社は、12万件以上の投稿があるユーザー主導の強固なコミュニティを築いているのも大きな特徴だ。登壇した広報の谷畑朋美氏によれば「質問やコメントにも運営の代わりにユーザー同士が応えてくれる」といい、毎日10点ものデザインをアップするような人気ユーザーなどを中心に、コミュニティが一緒にサービスをつくる仕組みが、YourNailを成功に導いた。
そのほか、BANDAI SPIRITSと提携しキャラクターネイルを注文できるサービスを開始するなど、他企業とのコラボレーション企画も積極的に展開しており、ビジネスに一層の広がりをみせている。
Japan BeautyTech Awardsを主催するアイスタイルの吉松氏は、@cosmeのサービス開始20周年の節目の年にビューティテックを顕彰するアワードを創設できた意義を語り、今後も多くの応募をしてもらえる賞に育てていきたいとしている。来たる2020年、美容業界をあっと驚かせるどんなサービスや技術が登場するのか。5Gの時代に突入し、進化し加速するビューティテックがヒトの暮らしを次なる次元へと牽引することだけは間違いない。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
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