新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として 厚生労働省 首相官邸 のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

Enjoyが目指すエモーショナルな購買体験、ECの便利さと実店舗のサービスを合体【NRF 2020】

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

アップルのジーニアスバーを主導したロン・ジョンソン氏が率いるEnjoyは、パーソナライゼーションを極めた購買体験を提供。インド発のStylumiaは、データサイエンス企業としてアパレルの「売れ筋」を分析する。NRFに登場した、これからの消費者ニーズを確実にとらえる両社はいずれも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下でもサービスを柔軟に対応中だ。

<そのほかのNRF 2020レポートはこちら>
(1)顔認証も音声認識も。リテールにおけるパーソナライゼーションの深化を牽引
(2)米国のD2C「リアル店舗」戦略を支えるRaaS、アフターコロナのその価値は
(3)米NTWRKなど「今しか買えない」ライブコマースが非接触リテールとして躍進の予兆

その道のエキスパートが自宅に出張サービス

「電子機器をオンラインで購入したが、セットアップがうまくできない」「店舗ではどうも気後れしてしまい、店員に聞きたいことも聞けない」「店員はどんな質問にも丁寧に答えてくれるが、混んだ店だと遠慮してしまう」。最先端のデジタルガジェット、化粧品、アパレルなど商品は人によって違っても、こんな“ちょっと困った経験”をした人は少なくないだろう。「親切で知識豊富な店員を自宅に連れ帰って、いろいろ教えてもらいたい」と思ったことがある人もいるかもしれない。

2015年5月に開始されたEnjoy Technology(以下Enjoy)のサービスは、スマートフォン、ラップトップ、タブレットなど主に最新のデジタルガジェットをオンラインで購入した人を対象に、こうした“心の声”に答えるものだ。

提携するブランドのWebサイトで商品を購入すると、Enjoyが「エキスパート(Expert)」と呼ぶ特別な訓練を受けた同社社員が、消費者の自宅、オフィス、カフェなど、消費者が指定する場所に、指定する時間に商品を届け、商品の初期設定を行い、以前使っていた機器から新しい機器へのアプリ、写真、楽曲といったデータの移行などのサービスを提供する。

自宅で商品を入手するオンラインショッピングの便利さと、実店舗ならではの店員の専門知識や助言といったサービスを一体化した“モバイルストア”が、消費者のところまで「来てくれる」というわけだ。

画像2

「エキスパート」と呼ばれる
技術の専門家が購入者の自宅等に
商品を届け、初期設定を行う
とともに疑問や質問に答える
(写真提供:Enjoy)

出張サービスは1回あたり約30分。商品を購入した人はこの間、専門家の時間を独り占めすることができる。

Enjoyは米国、カナダ、英国でサービスを提供しており、同社によると米国での主な顧客(ブランドパートナー)はAT&Tという。消費者はAT&TのWebサイトで商品を購入し、チェックアウト時に「AT&T Ready to Goオプション」を選択、商品配達時間と場所を指定すれば、Enjoyの社員が商品を持参し届ける。早ければオンライン購入から30分以内に商品を受け取ることも可能という。

ブランドパートナーは、Enjoyのサービスを消費者への付加価値サービスと位置づけている。商品によって例外はあるものの、エキスパートによる商品配達とサービスは無料で提供され追加料金は発生しない。Enjoyは2020年4月5日時点で、米国人口の半数以上をカバーする全米51市でサービスを提供している。Enjoyはビジネスモデルの詳細を公表していないが、ブランドパートナーからの手数料収入が主な収入源と推察される。

パーソナライズサービスで顧客ロイヤルティを向上

Enjoyの共同創業者兼CEOのロン・ジョンソン(Ron Johnson)氏は、アップルで直営店のアップルストア展開を主導し、その後はリテール大手のJCPenneyで2013年4月までCEOを務めたリテール業界のベテランとして知られる。アップルストアで顧客に各種サポートを提供するジーニアスバー(Genius Bar)の生みの親でもあるジョンソン氏が、自らの経験から力を入れるのが、顧客ごとにパーソナライズしたサービスの提供だ。

画像3

NRFで登壇したEnjoyの
共同創業者兼CEO、ジョンソン氏
(著者撮影)

「エキスパートが消費者の自宅で最初にやることが、消費者と“コネクトし”、消費者を知ることだ。そして、購入した商品で何をやりたいと考えているかを正確に理解し、それを実現する手助けをする。つまり、すべてはパーソナライゼーションだ」という。

顧客はガジェットに詳しいミレニアル世代の若者かもしれないし、スマートフォンに初めて挑戦するという高齢者かもしれない。育児中で、自分のために使える時間がほとんどないという母親かもしれない。それぞれ人生の価値観も違えば、エキスパートに求めることも異なる。エキスパートはそれらを理解したうえで、個々の消費者に合ったサービスや助言を提供する。

ジョンソン氏によると、エキスパートは1人で1日に約7件の出張訪問サービスを担当する。地域責任者がエキスパートの居場所を常に把握しており、エキスパートの訪問と訪問の間の移動時間に会話して訪問内容をおさらいし、顧客対応について必要あれば助言する。こうした日々の経験と改善の積み重ねが、エキスパートによるサービスの質の向上につながっている。

訪問先では何らかの追加販売が50%

エキスパートは消費者宅で出張サービスを提供する際に、消費者が購入した商品のアクセサリーや関連商品も一緒に持参する。ジョンソン氏によると、昨年の年末商戦では、エキスパートによる訪問の50%で何らかの追加販売が行われた。追加販売はブランドと消費者の間の長期的関係を築く一助となるもので、エキスパートは商品の使い方や可能性を消費者に説明することで、これに貢献している。

画像4

昨年の年末商戦では、訪問の50%で
何らかの追加販売が行われた
(写真提供:Enjoy)

ジョンソン氏は、店舗での対面販売によって提供されるブランドと消費者との「エモーショナルなコネクションの価値を軽視してはならない」と主張。「消費者からのフィードバックで最も多いのは、『もっといろいろ教えて欲しい』というものだ。年齢や技術に詳しいかどうかに関係なく、消費者は(専門家との)コネクション、そしてナレッジとヘルプを求めている」と述べ、専門家による対面販売の重要さを強調する。

ガジェット以外に専門家の助言や知識が生きる分野として、ハイエンドファッションや美容など他分野への進出も検討していると明かした。オンラインで注文した化粧品を自宅で「美容のエキスパート」から受け取り、美容専門家からメイクの指導を受けたり、使用中のスキンケア商品への助言をもらったりすることも、将来は可能になるかもしれない。

なお、COVID-19の拡大を受け、Enjoyは4月4日時点でエキスパートによる出張サービスを一時停止している。その代わりにバーチャルセットアップサービスを始め、商品はこれまで通り指定の場所に配達するが、商品の初期設定、パーソナライズされたソリューションの提供などは、エキスパートが電話または動画チャットで対応している。

AIで市場トレンドを予測、在庫を削減

ブランドやリテール企業によるサステナビリティへの取り組みも、NRFで議論された重要なトピックの一つだった。技術系新興企業の出展が大幅に増えた今年のNRFだが、新興企業のStylumiaは、AI技術を駆使してファッション業界のトレンドを予測する独自のソリューションを披露。商品企画や生産に関するブランドの意思決定を支援し、売れ残り商品の廃棄量削減と地球環境の保護に貢献するという。

2015年にインドで創業し、ニューヨーク、ロンドン、ミラノなどに拠点を持つStylumiaは、データサイエンティストとリテール専門家の集団で構成される。AIと機械学習、コンピュータビジョンを使い、電子商取引サイト、企業のWebサイト、ソーシャルメディアの画像やデータを分析し、アパレル分野のトレンドについて、ブランドやリテール企業に洞察を提供する。創業者兼CEOのガネッシュ・スブラマニアン(Ganesh Subramanian)氏によると、同社サービスは中小企業から大手企業まで幅広く利用されており、顧客には日本の大手アパレルブランドも含まれる。

同社の顧客ブランドは、素材、色、デザインごとの売れ筋や、ファッションショー、競合ブランドで人気あるいはニッチなトレンドを理解したうえで、商品企画や生産計画を立てることが可能になる。売れない商品を大量に生産し、在庫を廃棄または大幅に値下げして処分する代わりに、売れそうな商品を売れそうな量だけ生産し、適正価格で販売することができるという。

画像6

画像7

人気のある色やデザインを
分析して報告する
(画像提供:Stylumia)

消費者は洋服の色に合わせて化粧品の色を選ぶ傾向がある。そのためスブラマニアン氏は、同社のソリューションは化粧品ブランドにとっても有用と考えている。口紅の色のトレンド分析について、化粧品ブランドから問い合わせを受けているとも明かす。

商品の生産量や廃棄量を減らすことは、環境負荷を減らすことに直結する。同社のこの試みが評価され、2019年にはインドのアパレル業界でサステナビリティに取り組む企業を表彰する、国連も関連する賞を受賞した。

Stylumiaを紹介する国連によるツイート

顧客ニーズ理解でアフターコロナへの準備も

COVID-19の世界的流行を受け、Stylumiaではファッション業界において情報にもとづく意思決定がこれまで以上に重要になるとみて、COVID-19対応サービスの提供を開始した。顧客ブランドとリテール企業がそれぞれの「ロイヤルカスタマー」のニーズを理解し、それに応え続けることで、終息後もファンを維持できると考えるからだ。

ファッション業界では、感染が終息したのちも、しばらくは消費が冷え込むと予想される。この難局を乗り切るためにブランドは、自社ブランドの熱心なファンでもなく競合ブランドのファンでもない、ブランドとブランドの間を自由に行き来する「スイッチャー」と呼ばれる消費者層に新たにアピールする戦略が必要だと、スブラマニアン氏は話す。そのための準備について、現在、顧客企業に助言しているところだという。

COVID-19によってリテール業界は甚大な打撃を受けている。その影響の全容はまだ見えないが、NRFで議論されたヒューマンコネクション、技術とデータを駆使した顧客体験やサービスの向上、消費者との新たな接点の確立、そして非接触リテールの可能性が、力強い回復の支えとなるにちがいない。

Text & photo: 鶏内智子(Tomoko Kaichi)
Top image: Enjoy 提供

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
15
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp

この記事が入っているマガジン

BeautyTech.jp記事
BeautyTech.jp記事
  • 477本

BeautyTech.jpのすべての日本語コンテンツはこちらからご覧いただけます