
英国発パーソナライズサプリメント・グミ「ナリッシュ3D」、サントリーと提携で日本上陸
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2023年8月に、サントリーと提携し日本での販売がスタートした「ナリッシュ3D」は、革新的な3Dプリンティング技術と、特許技術であるヴィーガンカプセル化製法を用いて、最大7つの異なる有効成分を層状に固めたサプリメント・グミのD2Cブランドだ。美容分野ではジョンソン・エンド・ジョンソンが擁するニュートロジーナとも協業している運営企業のRem3dy Health 創業者兼CEO メリッサ・スノーヴァー(Melissa Snover)氏に、開発の背景や日本市場進出の狙い、今後の展開について聞いた。
※2023年9月8日:グミ製造過程について追記しました。
年々拡大する世界のパーソナライズド・ニュートリション市場
ナリッシュ3Dが画期的なのは、これからの成長が期待されるパーソナライズサプリメントであるだけでなく、それがヴィーガンであり、3Dプリンティング技術でつくられている点だ。実際、世界のパーソナライズド・ニュートリション市場は伸び続けており、2021年に約146億ドル(約2兆1,345億円)、2022〜2029年の7年間で11.48%以上の成長率で成長すると予測されている。日本国内でも、ビタミンやミネラルなどの基礎栄養素や野菜摂取の促進を主な目的として、基礎栄養の充足度を検査するサービスや基礎栄養摂取のためのパーソナルサプリメントが充実してきており、検査キットや、検査とパーソナルサプリメントを組み合わせたサービスが登場している。
そんななか、サントリーホールディングスから出資を受け、日本上陸を果たしたのがパーソナライズ・サプリメント・ヴィーガングミ「ナリッシュ3D」を展開する英国発スタートアップRem3dy Health(以下、レメディ・ヘルス)である。自社開発の独自の3Dプリンティング技術を武器に、2020年から英米で販売を開始。オーラルケアのコルゲート社やスキンケアブランドのニュートロジーナとも共同で製品を開発するなど、パーソナライズド・ニュートリション市場での存在感をグローバルでも高めている。
FDAとFSAに準拠する3Dフードプリンターを開発
レメディ・ヘルス創業者兼CEOのスノーヴァー氏は、レメディ・ヘルス社を立ち上げる前の2010年、最初のFMCG(Fast Moving Consumer Goods)ビジネスとして、世界でも初めてと称するヴィーガン・アレルゲンフリーのフルーツガム「Goody Good Stuff(グッディ・グッドスタッフ)」を立ち上げた。2013年にスウェーデンの菓子メーカーCloetta(クロエッタ)に事業を売却。創業から40カ月で世界33カ国以上で3万の販売拠点を持つ販売ネットワークを構築し、グッディ・グッドスタッフはヨーロッパで急成長している菓子ブランドのひとつとなった。そのときの経験が、ナリッシュ3D開発のきっかけだとスノーヴァー氏は明かす。「当時、多くの製造工場と取引するなかで、大量生産でなければ発注できないMOQ(最低発注ロット)や、改善・改良をスピーディに行えないといった課題に直面。その結果、消費者のニーズに素早く対応できない現状を解決したいと、再び起業を決意した」(スノーヴァー氏)

プロフィール/2010年、世界初のビーガン、ナチュラル、アレルゲンフリーのフルーツガム「グッディ・グッドスタッフ」を開発。2013年にクロエッタ(Cloetta)PLCに売却後、2019年にRem3dy Health社を設立。2020年1月に英国でナリッシュ3Dの販売を開始した。Rem3dy Health社は2023年、英国で傑出した業績の企業に対して贈られるThe King's Award For Enterpriseを受賞
スノーヴァー氏は、自社製造に際しては3Dプリンターを使うのが有効ではないかとの発想から、既存の3Dプリンターを購入して自ら分解し、G-code(3Dプリンティングのプログラミング言語)と材料科学を学びながら、約6カ月で最初のプロトタイプを完成。そして、世界初とされるFDAとFSAに準拠する3Dフードプリンターの開発に至った。スノーヴァー氏は、この技術を用いて当初はヴィーガンキャンディの製造を行っていたが、「キャンディだけではなく、パーソナライゼーションが最も必要とされる健康とウエルネス分野に応用できないかと考え、サプリメント・グミの製造を思いついた」と、ナリッシュ3D誕生のきっかけを話す。
同社は、ハードウェアのプロセスや素材に関する19の特許を取得しており、これらの特許を組み合わせることで、多様な種類の食品や栄養補助食品にパーソナライズされたソリューションを提供することができるとする。ヴィーガンカプセル化製法も同社がもつ特許技術のひとつだ。グミをつくる際に、ゼラチンの代わりに特許取得済みのヴィーガン対応ハイドロコロイド・ゲル化剤を使用。通常のグミ製造では、材料を混ぜて300℃以上で長時間加熱する必要があるが、同社の製造工程の場合、50℃前後で1時間未満という低温かつ短時間の加熱で済む。そのため、プロバイオティクスやビタミンB12、ビタミンCなど、熱に弱いとされる有効成分が損なわれないという。また、速乾性があるのが特徴で、3Dプリンターで成形する際に層が混ざりあうことなく、7つの層状に重ねて固めることができる。
注文を受けてからのオンデマンド生産が可能で、1箱28日分(月額税込8,000円、送料500円)のサプリメント・グミを約3分で製造することができる。現在は、英国にある3つの工場で200人以上の従業員を抱え、世界各国からのオーダーに対応している。
各国の法的基準と臨床的に検証された最適な用量を配合
約10億以上の組み合わせのなかから、各自にパーソナライズされたグミが製造される流れは以下のとおりだ。
ユーザーはまず、Webサイトでオンラインカウンセリングを受ける。現在の健康状態、ライフスタイル、ウエルネス目標に関するアンケートへの回答をもとに、管理栄養士の資格をもつスノーヴァー氏がリーダーとなって独自に開発したアルゴリズムと、約1万人の臨床データをクロスリファレンスし、AIを活用しながら32種類のビタミン・ミネラル、スーパーフード、活性物質のなかから最適な7種類の栄養素と用量の配合が提案される。栄養素はすべてヴィーガン対応で、砂糖、人工添加物、GMO、アレルゲンがすべてフリーであり、フレーバーも日本人の好みに合わせたゆず、グリーンアップル、ブラッドオレンジ、パイナップルの4つから選ぶことができる。


パッケージには、ユーザーの名前も印字されている(著者撮影)
「2020年から英米で発売を開始し、8,000件以上の5つ星レビューや、(顧客ロイヤリティを測る指標)NPS(ネットプロモータースコア)92%を獲得し、顧客維持率は2年連続で80%を超えている。多額の資金調達を行わずに、ファンによるクチコミを中心に成長してきた」(スノーヴァー氏)
レメディ・ヘルスは企業間コラボにも積極的で、美容企業では米国のスキンケアブランド「ニュートロジーナ」と共同で開発した「Skin360 SkinStacks」をCES2023で発表して注目を集めた。ニュートロジーナのデジタル皮膚評価ツールである「SkinScanner」を利用してセルフスキャンした結果から独自のアルゴリズムで肌状態を評価し、肌目標を達成するために必要な栄養素を導き出して、それをもとに製造されたナリッシュ3Dのパーソナライズ・グミを注文できるサービスだ。Skin360 SkinStacksはメディアからの反響が大きく、報道は300件近くにも及んだという。
日本ではさまざまな企業とのコラボレーションを通じて市場開拓へ
日本は世界第3位の栄養補助食品市場であり、その規模は94億ドル(1兆3,742億円)といわれている。高齢化社会の進行と日本の消費者の健康志向の高まりで、市場は拡大傾向にある。
レメディ・ヘルスに出資したサントリーホールディングス 未来事業開発部 部長 青木幹夫氏は、「SKS Japan2023」のトークセッションで、「パーソナライゼーションの波を感じているが、栄養という観点から、真の意味において一人ひとりにあったテイラーメードをやっているところはほとんどなかった。そして、3Dプリンターという革新的な技術と、グミタイプという形状で必要な7つの栄養素を一気にとることができる手軽さを新しいと感じた。栄養素の新しい摂り方として、日本はもちろん、世界で受け入れられていくのではないかと感じた」と語っている。
日本進出にあたり、ローカライズしたポイントについて、スノーヴァー氏は次のように語る。
「レメディ・ヘルスが日本人1,000人に実施した調査結果によると、欧米に比べて、メンタルヘルスやストレス、認知機能、睡眠に課題を感じている人や、アンチエイジングに興味を持っている割合が多いことがわかった。その結果をうけ、日本の法規制やニーズにあわせて取り扱う栄養素やその容量、フレーバーの種類などを調整し、約8カ月かけて販売準備を進めてきた。当面のマーケティング戦略としては、メディア・PR、インフルエンサーマーケティング、デジタルマーケティングの3本柱で進めていく予定で、来年にはポップアップショップの出店も検討中だ」(スノーヴァー氏)
同社は、以前からアジアを重要なターゲット市場とみており、サントリーホールディングスの出資と協力を受けながら、日本での市場開拓を前進させ、アジア展開へとつなげていきたい考えだ。
最後に、パーソナライズされたフードサービスが市場に浸透するための重要な成功要因について、スノーヴァー氏はこう語っている。
「商品そのものがパーソナライズされているだけではなく、オンラインから注文、そして店舗に至るまでの顧客体験全体が、とても楽しく、シームレスで、パーソナルなものでなければならない。日本のさまざまな企業ともコラボレーションしながら、どのようにすれば日本市場で受け入れられるのかを探求していきたい」(スノーヴァー氏)
Text:小野梨奈(Lina Ono)
Top image & photo: Rem3dy Health