
エスティ ローダーNIVが中国新興ブランド「CODEMINT」に出資、ブランド育成の成功セオリー
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世界各地で新興ブランドへの投資に積極的なエスティ ローダーが傘下のファンドNIVを通じて、中国国内の有名インフルエンサーが興したクリーンビューティブランド「CODEMINT(コードミント、紈素之肤)」への出資を決めた。NIVの新興ブランドへの投資方針と、初の中国ブランドへの投資先となったコードミントについて紹介する。
エスティ ローダーのM&A部門から生まれたNIV
2023年9月、エスティ ローダーが傘下のファンド「New Incubation Ventures(ニュー・インキュベーション・ベンチャーズ、以下NIV)」を通じて、中国のクリーンビューティブランド「CODEMINT(コードミント、紈素之肤)」に出資したことが明らかになった。エスティ ローダーが中国ブランドに投資するのはこれが初めてだ。
NIVは、エスティ ローダーがアーリーステージの有望な美容ブランドを発掘し投資することを目的に、2021年に設立したインキュベーションも行うファンドだ。NIVでは、それまでエスティ ローダーのM&A部門を6年間率いていたシャナ・ランダヴァ(Shana Randhava)氏がその知見と経験を生かしてシニア・バイス・プレジデントに就任している。
ランダヴァ氏は、当時まだインディーズブランドだった「The Ordinary(ジ オーディナリー)」で知られるカナダ企業DECIEM(デシエム)への投資を2015年に、また、韓国「Dr. Jart+(ドクタージャルト)」の運営企業Have & Beに対しての投資を2017年に行っている。マイノリティ出資からスタートし、成長を見極めながら最終的に過半数のポジションに移行して傘下におさめる投資手法だ。この戦略は資本効率が高いだけでなく、買収に伴うリスクを軽減し、ブランドの持続的かつ長期的な成長を可能にしてきた。ちなみに、DECIEMでは2021年に出資比率を約29%から約76%に引き上げ、3年後に残りの株式をすべて購入することで同意している。
NIVの最大の目的は、新興の美容ブランドの創業者とアーリーステージでパートナーシップを築くことである。アーリーステージとは、創業者の最初のアイディア段階から売上高2,000万ドル(約30億円)規模を指す。ブランドのライフサイクルの早い段階からサポートに入ることで、美容業界のほかのベンチャーキャピタルやファンドとの差別化も図っている。
NIVの実績としては、2019年にローンチした「男性性を再構築する」メンズメイクとグルーミングブランド「Faculty(ファカルティ、現在Webサイトは停止中)」に300万ドル(約4億5,000万円)を出資、英国発のナチュラルスキンケア・フレグランスブランド「Haeckels(ヘッケルズ)」にも出資している。Haeckelsは2012年に英国のケント州の海辺の街マーゲイトで設立。全ての製品のベースにはマーゲイトの海岸で手摘みされた海藻を使用し、あわせて天然資源の廃棄物活用や、リサイクル可能または堆肥化可能な包装ソリューションを採用することで廃棄問題に取り組む、サステナブルなコンセプトの企業だ。
2023年3月には、NIVは英国発のフレグランスブランド「VYRAO(バイラオ)」の少数株式を取得した。2021年創設の同ブランドは、心と体のウェルビーイングをコンセプトに、ネガティブなエネルギーを浄化することをうたうフレグランスを提供する。ランダヴァ氏は「消費者と美とのつながりにおいて、健康と幸福がどのようなものであるかを定義する(バイラオの)旅に一緒に参加できることをうれしく思う」と述べている。
NIVが行っているのはブランドへの出資だけではない。2022年からは、インド有数の美容・ライフスタイル製品のECプラットフォーム「Nykaa(ナイカ)」との提携により、インドの次世代の美容起業家とクリエイターを支援することを目的としたプログラム「BEAUTY&YOU」を開催している。
2023年11月には「BEAUTY&YOUインキュベーター賞」の受賞者が発表された。持続可能なパーム油代替品のためのパームレスプラットフォームのメーカーで、気候変動、食料安全保障、天然資源抽出の影響などの課題に対処する成分を開発するバイオマニュファクチャリングが専門のC16 Bioscienceをはじめ、口紅やボディバターなどの製品に配合のマフアシード(mahua seeds)を採取する少数部族コミュニティを支援するエシカルビューティブランドSohai Beauty、伝統的なインドの健康・美容法に根ざした香水を提案する Call of the Valleyなどが選出された。
インドで開催された「BEAUTY&YOU 2023」の様子
NIVに先駆け、2021年に韓国COSMAXがシードラウンドでコードミントに出資
このようにNIVは世界中の新興美容ブランドとのパートナーシップを模索しているが、エスティ ローダーにとってとくに重要な市場のひとつは中国だ。中国メディアによると、同社の売上高の36%を中国市場が占めているとの分析もある。中国市場向け投資にも意欲的で、2022年12月には、イノベーション研究開発センターを上海に設立した。
だが一方で、エスティ ローダーの2023年7〜9月期決算は、純利益が前年同期比94%減の3,100万ドル(約46億8,800万円)と低調であり、中国市場の需要低迷が大きく影響しているとされる。
今回、中国ブランドのコードミントへの投資を進めた背景には、中国市場重視の姿勢を変更しないという、エスティ ローダーの意思の表れともみられる。報道によると今回の出資にあたって、前出のランダヴァ氏は「新たなブランドへの投資を通じてエスティ ローダーのポートフォリオを改善し、新たなカテゴリー、地域、消費者セグメント、チャネル、ビジネスモデルを開拓したい」と述べている。同社はこれまでラ・メールやエスティ ローダーなど高価格帯製品をメインに中国で展開してきたが、価格帯を広げようという狙いがあるようだ。中国では、とくに中価格帯においては中国発ブランドが台頭し、外資ブランドをおさえて支持を得ている。
上海にて行われたNIVとCODEMINTのパーティーイベントの様子
韓国の化粧品OEM・ODM大手であるCOSMAX(コスマックス)は、エスティ ローダーに先駆けて、2021年1月に中国法人の科絲美詩(中国)化粧品を通じてコードミントに出資しており、コードミントを運営する2020年設立の杭州减法美学科技の株式の6.5%を保有しているとされる。同社が中国のコスメブランドに出資するのは初めてで、製品の研究開発や生産をサポートするため、杭州减法美学科技に20名ほどのチームを派遣しているという。
中国における新興クリーンビューティブランドとして注目のコードミント
コードミントは、中国のトップインフルエンサーのひとりであるグレース・チョウ(周揚青)氏が、2021年にローンチしたクリーンビューティブランドだ。「クリーンな原料を使用し、ヴィーガン、クルエルティフリーで環境負荷の少ない、女性主導のブランド」を称しており、とくに海洋環境を保護し、生態系の共生を維持することを目指して2023年にマカオに隣接する広東省香洲区の高級リゾート、セントレジス珠海とともに「南シナ海珊瑚保護計画」を策定したという。また、使用するオイルに関しても、持続可能な方法で少量採掘されるものを採用しているとする。
チョウ氏のWeibo(微博)アカウントのフォロワー数は1,100万以上、Instagramのフォロワー数は220万を超える。その影響力を高く評価し、エスティ ローダーが出資を決めたとの見方もある。チョウ氏は、2014年にアパレルブランドも立ち上げており、自らデザインに関わるだけでなくモデルも務め、自身のブランドへのコミットメントを強調している。アリババグループ(阿里巴巴集団)のECプラットフォーム「タオバオ(淘宝)」の「GRACE CHOW周揚青旗艦店」のフォロワー数は400万を超える。
コードミント運営企業の杭州减法美学科技には、米国のハーバード大学やカリフォルニア大学バークレー校などの名門校を卒業した人材が集まっているという。

出典:グレース・チョウ氏の公式Weiboアカウント
コードミントの製品はメイクからスキンケア、メイク道具まで幅広いラインナップを揃える。価格帯は69元(約1,400円)から289元(約6,000円)の中価格帯で、オンラインでの販売がメインだ。

出典:コードミント公式Weiboアカウント
ヒット商品である「アイスアメリカン」シリーズは機能性成分としてカフェインを使用し、経皮吸収と真皮層への影響を促進する。なかでも、同シリーズのアイマスクは、アリババグループのECプラットフォーム「Tmall(天猫)」の「codemint紈素之肤旗艦店」で累計9万個以上が販売されている。
ユーザーからは「保湿効果がとてもよく、目の周りがすべすべになった」「以前は徹夜するのが嫌だったけど、これのおかげで、徹夜してもクマができなくなった」などのコメントが書き込まれている。
中国では女優のファン・ビンビン(范冰冰)氏がスキンケアブランド「FAN BEAUTY」をローンチするなど、芸能人やインフルエンサーが自身のブランドを立ち上げる例は多いが、競争の激しい中国化粧品市場では、知名度があれば成功するわけではない。そうしたなかで、コードミントは、クリーンビューティ分野としてのポジショニングを狙ったことで、感度の高いユーザーを惹きつけている。同ブランドの主な支持者は、街の規模が大きい1線都市や2線都市に暮らす都会的で洗練された子育て中の女性やホワイトカラー、一部のZ世代だという。
NIVは、コードミントに対してはセオリー通りのマイノリティ出資だ。ランダヴァ氏はそのことについて、中国メディアに「ブランドのライフサイクルに早期に参加することで、エンドツーエンドの買収戦略を策定するための基礎を築くことができる」と話している。今後、エスティローダーは重要市場と位置付ける中国市場でポートフォリオを広げるために、コードミント以外にも新興ブランドへの投資を加速させることも予想される。
Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: CODEMINT公式Weiboアカウント