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エスティ ローダーが買収のDECIEM、カルト的人気の「The Ordinary」を徹底解剖

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エスティ ローダーによる買収が発表されたDECIEMは、徹底した“成分主義”でカルトな人気を誇るスキンケアブランド「The Ordinary」を擁する。日本でも話題のピーリングや美容液など、10製品を試した商品レビューとともに、DECIEMを傘下に収めるエスティ ローダーの意図について、弓気田みずほ氏が考察する。

“アブノーマル ビューティ カンパニー”をうたうDECIEM

2021年2月、エスティ ローダー カンパニーズは2017年から保有しているDECIEMの株式を29%から76%に引き上げ、3年後には全株式を取得して完全子会社化することを発表した。評価額は約22億ドル(約2,420億円)で、世界第3位のビューティ企業であるエスティ ローダーにとって、史上最高といわれる買収額だ。

“アブノーマル ビューティ カンパニー”と自ら掲げるDECIEMは2013年にブランドン・トゥルアクス(Brandon Truaxe)氏によって設立されたカナダの企業で、6つの化粧品ブランドを展開し、EC、リアル店舗ともにグローバルな展開を行っている。なかでもスキンケアブランドThe Ordinary は、グリコール酸やナイアシンアミドなど有効成分を高濃度に含む処方や、無駄をそぎ落としたクリーンなデザイン、50以上あるアイテムの多くが10ドル(約1,100円)以下という思いきった低価格を実現した先鋭的なブランドとして、欧米の美容好きの間でカルトな人気を博し、国内でもSNSを通じて、海外コスメの情報通からの支持を受けている。

DECIEMはマーケティングではなくサイエンスに根差した製品づくりを掲げており、なかでもThe Ordinaryはハイブランドへのアンチテーゼとして位置づけられている。独自の成分や技術を価格に反映させるのではなく、処方製剤のように普遍的な成分を低価格で提供することがThe Ordinaryのモットーといえる。

日本国内からはいくつかのサイトで個人輸入ができる。今回はThe Ordinaryの主要10製品を実際に使用してレビューし、ブランドの商品設計の特長をみていくほか、DECIEMを傘下に収めたエスティ ローダーの狙いについて考察する。

「血みどろ」ピーリングから美容液、マスクまで10製品をトライアル

◾AHA30%+BHA2% Peeling Solution

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グリコール酸、乳酸、酒石酸などのAHAとサリチル酸を含むピーリング美容液。成分に由来する赤ワインのような色から「血みどろピーリング」との異名をとる、ブランドを代表する人気製品。美容系インフルエンサー、芸能人のSNSから日本国内でも知られるようになった。

日本では化粧品へのグリコール酸(AHAの一種)配合濃度は3.6%以下と定められていることからも、非常に強いフォーミュラであることがわかる。これほど高濃度のものを自宅で使用するのにはある程度のリスクが伴う。洗顔後の肌にのばして10分後に洗い流すのが標準的な使用法だが、かなりピリピリした刺激を伴うため、慣れないうちは10分置くことも難しく感じられる。使用後は古い角質が取り除かれ、まさに一皮むけたようにつるつるの肌になるが、しっかりと保湿を行い、肌を保護する必要がある。また日中の紫外線対策も必須。自身の肌状態の正確な見極めが前提となるアイテムではあるが、毛穴がつまりやすい人、メイクののりが悪く感じる人には、手ごたえが得られるのではないか。

◾EUK 134 0.1%

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紫外線や大気汚染物質による肌細胞へのDNAレベルのダメージを防ぐ、パワフルな抗酸化剤のEUK-134を主剤にした美容液。酸化ダメージによって効果を失うことなく、抗酸化効果を持続的に発揮するとされる。オイルベースであるため、化粧水や美容液の後に使用する。成分由来のカラメルのような褐色であるため、衣類への色移りの可能性がある。そのため首元などへの使用には注意が必要。

◾ “Buffet”Multi-Technology Peptide Serum

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ブランドを代表するエイジングケア美容液。マトリキシル3000など複数のペプチドと11種のアミノ酸が配合され、肌のハリを総合的に高めるとする。数日使用する間にもキメが整い小じわや頬の毛穴流れが目立たなくなるのを感じられた。透明でとろみのあるテクスチャーはクセがなく、スキンケアのルーティンに組み入れやすい。

◾ Salicylic Acid 2% Masque

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不要な角質をやわらげる成分としてポピュラーなサリチル酸を2%含んだ、洗い流すタイプのマスク。毛穴の汚れや余分な皮脂を吸着するクレイや木炭も配合。洗顔後の乾いた肌にのばし、10分以内に洗い流す。配合された炭のためか真っ黒なテクスチャーで、数分置く間にややピリピリしてきて、サリチル酸が比較的高濃度であることを実感する。洗い流したあとはツルっとしてくすみが抜け、翌朝のメイクのりも向上した。

◾Natural Moisturizing Factors+HA

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ベーシックな保湿クリーム。ヒアルロン酸やグリセリン、必須アミノ酸、脂肪酸、リン脂質などを配合し、肌がもつ天然保湿因子(NMF)や不足しがちな皮脂分をバランスよく補う。ベタつかず適度なうるおいが持続するので、朝のメイク前にも適している。The Ordinaryは製品の組み合わせに制限があるものも多いが、同ブランドのさまざまな美容液とも組み合わせられるよう、あえて「保湿」に特化させたようだ。

◾Matrixyl 10%+HA

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コラーゲンやグリコサミノグリカンなど、肌のハリに寄与する分子の合成を促すペプチドの一種であるマトリキシル3000、コラーゲンのほか、ヒートショックプロテイン、ヒアルロン酸生成を促進する次世代のマトリキシルといわれるマトリキシルシンセ6を配合することで、Buffetよりもさらにシワ・ハリ対策を強化した美容液。コクのある感触で、肌の密度が上がるような感覚が得られる。

◾Caffeine Solution 5%+EGCG

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目もとのクマやむくみ対策の美容液。カフェイン5%と、茶葉由来の抗酸化成分EGCG(没食子酸エピガロカテキン)を含み、目もとの血液の循環を高めてすっきりとさせる。みずみずしいテクスチャーで使い心地がよく、疲れてみえがちなクマを防ぐのに効果的で、夜に使用すると翌朝は明るい印象に整う。PC作業など画面を見続けることが増えている現代生活にぴったりのアイテム。乾燥・小ジワが気になる場合は、別途アイクリームを重ねるとより効果的だ。

◾100% Niacinamide Powder

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水溶性ビタミンB3(ナイアシンアミド)100%のパウダー。化粧水や美容液など手持ちのアイテムに混ぜて使用する。皮脂のバランスを整え、毛穴の開きを目立たなくする。ナイアシンアミドには肌のターンオーバーを整える働きもあるため、近年国内ではブライトニング有効成分、抗シワ有効成分としても注目されている。ビタミンC配合製品やピーリング剤との混合は不可。ごく微細なパウダーであるため、付属のスプーンですくう際にはやや注意が必要。

◾Vitamin C Suspension 30% in Silicone

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純粋ビタミンC(L-アスコルビン酸)を30%と高濃度で配合したクリーム。ビタミンCは安定的、かつ高濃度に化粧品に配合することが非常に難しい成分だが、あえて水を含まないシリコンベースにL-アスコルビン酸の微粒子を配合することで、高濃度のビタミンCを損なうことなく肌に届けることを可能にした。夜のスキンケアの最後に使用するが、ややざらつきのあるベースでシリコン特有の膜感が残る。シリコン自体は肌に浸透するものではないため、ビタミンCを肌に届ける役目を果たした後は翌朝の洗顔で洗い落とせる。くすみ、毛穴の開きの改善、ハリ感など、ビタミンCのもつさまざまな効果をダイレクトに感じられるユニークな製品。

◾Squalane Cleanser

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植物性スクワランと安全性の高い界面活性剤をメインとしたクレンジング。メイクや肌の汚れとなじませるうちに固めのクリームがオイル状に反転し、水を加えて肌の上で乳化させることで汚れを浮き上がらせる。通常のファンデーションも問題なく落とすことができ、ダブル洗顔は必要ない。つっぱり感がなくなめらかな洗い上がりで、洗うことにこだわりのある日本市場向けの製品にも引けを取らない印象だ。

成分が高濃度であるがゆえに個人輸入では注意が必要

The Ordinaryの製品は高濃度の有効成分を含むものが多いため、使用するタイミングが定められていたり、併用できない組み合わせがある。当然のことながら公式サイトはすべて英語のため、現状では商品説明や組み合わせのルール等を読み解くにはある程度の英語力と化粧品知識がないと難しい。

ケミカルピーリングは欧米ではポピュラーな施術であり、日本市場でも「ピーリング」「角質ケア」をうたう製品が幅広く流通している。しかし日本人の肌は比較的角質層が薄いため、欧米市場向けのピーリング製品を誤って使うと肌の乾燥や肌荒れなどを招く恐れがあり、紫外線ダメージを受けやすくなる。

日本の個人輸入サイトは日本の薬事法の規制を受けないため、商品説明が誇張されている部分もみられる。SNS等のユーザーレビューでは、夜用の製品を誤って昼間に使用しているなどのケースが散見され、価格の安さやSNSでの評判だけで安易に購入すると肌トラブルを招くリスクが高く、十分な注意が必要だ。

DECIEMを傘下に入れポートフォリオを充実させるエスティ ローダー

エスティ ローダー カンパニーズは1946年、創業者エスティ・ローダー氏の名前を冠したブランドの4つの製品から始まった。メンズビューティブランドの草分け「アラミス」や、皮膚科医監修の無香料・アレルギーテスト済みを初めてうたった「クリニーク」、いち早くエッセンシャルオイルを配合したスキンケアやライフスタイルグッズを扱った「オリジンズ」、肌トーンに合わせたファンデーションを調合するなどパーソナライズの先駆的存在だった「プリスクリプティブ(現在はブランド休止)」など、幅広いアプローチのブランドを生み出し、百貨店の化粧品フロアに欠かせない存在となった。

上場企業となった90年代以降は「M・A・C」「ボビイ ブラウン」「ドゥ・ラ・メール」などユニークなストーリーをもつブランドを次々と傘下に収め、企業規模を拡大し続けている。

2000年代以降は「アヴェダ」「バンブル&バンブル」などのヘアサロンブランドを買収し、百貨店以外のチャネルにも進出。2010年代に入って「Smashbox」「Too Faced」といった若年層向けのメイクアップブランドでデジタルシフトに着手。さらに韓国のドクターズコスメ「Dr.Jart+」を擁してアジア市場にも投資を広げている。

エスティ ローダーの歴史は、そのままビューティ市場の販売形態・カテゴリーの広がりをなぞるものでもある。プレステージ性の高い百貨店チャネルから始まり、ドクターズコスメやライフスタイルなど自社ブランドで可能性を探りながら、小規模でも成長の見込めるブランドを傘下に収めることで新たな市場を開拓するという戦略のもと、今回のDECIEMの買収も行われたと考えられる。

米化粧品小売りのウルタと提携しメイクアップラインを拡充

The Ordinaryに関する新たなニュースとしては、米化粧品小売チェーン、ウルタと提携してカラーメイクアップラインを発売することが発表された。3月にウルタのECサイトで先行して発売され、5月には実店舗でも展開される予定だ。あわせて既存のスキンケア製品の取扱点数、販売店舗も急速に拡大しており、ウルタでの存在感を増している。

DECIEMは2020年だけで売上を4億6,000万ドル(約507億円)とほぼ倍増させている。この背景には、ウルタ、セフォラなどのリアル/オンラインともに強固な販売網をもつビューティリテールとのパートナーシップを進めたいというDECIEM、ひいてはエスティ ローダーの意図が感じられる。グローバルなビューティ企業は急速なデジタルシフトを進めているが、なかでもプレステージ性の高いブランドを多数もつエスティ ローダーにとって、それぞれのブランドにふさわしいデジタルコミュニケーションのあり方を探し続けることが必要だろう。DECIEMが今後、グループ内でどのような役割を果たしていくのかが注目される。

Text: 弓気田みずほ(Mizuho Yugeta)
Top image & photo: DECIEM公式サイト

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