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【Cosmetic 360 2024①】企業のロンジェビティと持続可能性から美容業界の未来を考える

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2024年10月に開催された第10回「Cosmetic 360」では、ビューティ業界における人と製品、そして企業の長寿(ロンジェビティ)とビジネスの持続可能性を大テーマに、原料から処方、パッケージなどさまざまな技術やソリューションの発表をはじめ、多くの登壇セッション、アワードやオープンイノベーションイベントなどが行われた。現地を取材し、その多彩な内容を2回にわたりレポートする。


世界の化粧品業界の発展とシナジーを図るCosmetic 360

2024年10月16日・17日にフランス・パリで化粧品関連の国際展示会「Cosmetic 360」が開催され350企業が参加、70カ国から5,000人以上が来場した。この展示会は、化粧品領域のグローバルネットワークを持つコスメティックバレーが主催し、原料、パッケージ、製品、テスト分析、製造、テクノロジーなどさまざまな分野の企業、スタートアップ、研究者が一同に集まることが特長で、最先端の技術や業界が抱える課題を解決しうるソリューションが紹介される。

第10回を迎えた本年は、化粧品における「長寿と持続可能性(ロンジェビティ - サステナビリティ:Longevity - Sustainability)」をメインテーマに、革新的な製品やサービスの発表や多彩な講演、アワードが行われたほか、10周年を記念して世界の化粧品産地の卓越性やエコシステムを紹介するイベントが催された。

オープニングセレモニーでテープカットを行ったフランス産業担当相のマルク・フェラッチ(Marc Ferraci)氏(中央左)とコスメティックバレー会長のマルク・アントワーヌ・ジャメ(Marc-Antoine Jamet)氏(中央右)
Cosmetic360 2024 ©︎Sylvain Bachelot, Olivier Bonnet

1994年に発足したコスメティックバレーはフランスの化粧品企業(85%は中小企業や中堅企業)、研究機関、大学など6,300団体が加盟する組織で、フランスのみならず海外ネットワークを構築して化粧品産業の経済的な発展を促進している。たとえば、Cosmetic 360では、2015年の第1回から製品開発や研究開発におけるオープンイノベーションイベントを設けて、世界中の中小企業や新興企業が、ロレアル、LVMHといった大手企業にアプローチする機会を創出している。

10回目を迎える2024年はシャネル、LVMH Recherche(LVMHのR&D部門)のほか、化粧品の処方開発から充填まで行うOEM/ODM仏企業Fareva、化粧品&製薬産業のサブコントラクターPharma & Beautyグループ、そして、中国企業PROYAの5企業が、業界が直面する課題の解決策を5つのテーマで募集し、イノベーション・チャレンジを開催した。応募企業名などは非公開だが、このチャレンジで選出された企業は、大手企業にピッチの機会が与えられる。

ロレアルはこのチャレンジには参加しなかったものの、オープンイノベーションを設けつつ、2024年5月に開催されたVivaTechで初公開した3Dバイオプリントによる人工皮膚の研究や最先端のビューティデバイスを展示して、同社の先進性を印象づけた。

資生堂が示す持続可能な原料調達「垂直農法」

また会場では「長寿と持続可能性」をテーマに、原材料、パッケージなどさまざまな分野に関する講演が行われた。

化粧品産業において、持続可能な原料調達は大きな課題のひとつであり、資生堂EMEAが2022年に欧州でローンチしたブランド「Ulé」が、室内で最適な栽培環境を整えられる垂直農法を採用したことは業界で大きな話題を呼んだ。気候に左右されず、無農薬で、生物多様性を守りながら、安定して高品質な原材料を確保できるうえ、エネルギーや水資源を削減しながらトレーサビリティを実現し、これまで遠方にある国が原産の植物や希少な花などを製品製造現場の近くで育てることで、競合との優位性を築くことができるからだ。資生堂は、サステナブルなアプローチとして、スペースと耕地を節約できる垂直農法の可能性を長期的な視点で追求し、積極投資している。

資生堂は講演「持続可能な生産による野生植物の可能性の提示(Unveiling wildlife potential through sustainable production)」のなかで、2019年に創業した仏Futura Gaïaと1年前に提携し、未来に向けた共同プロジェクトを進めていること、また、両企業が進行する2種類の植物のストレステストの結果の一部を明かした。水耕栽培よりも高品質な作物を育てられる土壌ベースの屋内垂直農法を提案するFutura Gaïaは、有機的農薬あるいは無農薬で栽培した植物を用いて、化粧品、医薬品、栄養補助食品、また、製薬などの産業分野での原料ニーズに応えている。2023年1月に1,100万ユーロ(約18億円)の資金調達を行った。

左から、共同プロジェクトについて語るFutura Gaïa のアメリー・トマ(Amelie Thomas)氏と資生堂ヨーロッパイノベーションセンターのアリーヌ・ロベール・アゾット(Aline Robert-Hazotte)氏
(著者撮影)

量子ドット技術から生まれたUVフィルターパッケージ

また、パッケージ領域においては、量子ドット技術をベースに素材開発を行う仏Nexdotが「フレグランスや化粧品などを保護する究極のUVフィルター(The ultimate UV filter to protect perfumes, cosmetics and more)」と題して、化粧品パッケージにおける同社の特許技術とその効果について発表した。世界的なクリーンビューティの潮流から、防腐剤などを含まない化粧品が増えている昨今、紫外線による処方の劣化を防ぐことは必須の課題といえ、多くの来場者の関心を集めた。

同社によると、フレグランスや化粧品には光で劣化する天然分子が含まれ、処方の色、香り、安定性を保護するためには紫外線から守る効率的なUVフィルターが必要となるが、これまでのUVフィルターは有機分子で構成されていることから、容器が無色の場合はすべての紫外線スペクトルを遮断することはできなかったという。

Nexdotは2023年ノーベル化学賞を受賞した量子ドット(ナノ-クリスタル・ミネラル)技術を紫外線吸収剤として使用することで、無色で、かつ極めて効率的なUVフィルター「Uvltimate」を開発した。フレグランスだけではなく、化粧品、メイクアップ製品のガラスやプラスチック容器にも対応可能で、容器の外側にニスとして塗布して内部処方を保護し、製品寿命(消費期限)を延ばす。無色透明であることからボトルの色やデザインを変更する必要もなく、リサイクルにも問題ないという。すでに大手企業と契約済みで、実装に向けたプロジェクトが進行中だ。

「Uvltimate」
出典:Nexdot公式サイト

長寿ブランドが考えるべきトレンドの変化

また、急速に消費者ニーズが変化し、多様化する化粧品市場において、ブランドが長期にわたり消費者に支持されるにはどうすればよいかという命題についてのラウンドテーブルセッション「すでに長寿(ロングセラー)のモデルとなっているアイコニックな化粧品の将来は?(What is the Future for Iconic Cosmetics, the Ones that are Models of Longevity Already?」では、ロレアルのサステナブル・ディベロップメント部門ディレクターのエロディ・ベルナディ(Elodie Bernadi)氏や、PROYAグループのシニア・サイエンス・アドバイザーのリーヴ・ドゥクレルク(Lieve Declercq)氏らが登壇し、過去の経験や今後の展望を共有した。

化粧品最大手ロレアルは、多くのアイコニックなブランドを持つ企業だ。ベルナディ氏は「弊社では常にアイコニックな製品を作ることを目指しているが、それが必ず成功するとは限らず、逆にハプニングのように大ヒットすることもある」とその難しさを語りつつ、50年以上続く長寿ブランドのロレアル パリでは「マイノリティーを含むさまざまで多様なアンバサダーを起用し、常に世の中とつながり、消費者に近い存在となるようにコミュニケーション戦略に力を入れている。また、未来における美について日々考え、たとえすでにアイコニックな製品となっていても、時代とともに変化する消費者の期待に合わせて処方やパッケージを改良し続けている」とたゆまぬ努力が必要であるとする。

左から、PROYAグループのリーヴ・ドゥクレルク氏とロレアルのエロディ・ベルナディ氏(著者撮影)

一方、中国で急成長するPROYAグループのドゥクレルク氏は、アイコニックな化粧品は大手企業が保有する傾向にあり、若い企業が作り出すことはなかなか難しいと述べたうえで、「PROYAは21年前に創業したが、当時の中国市場では品質や安全性が保証されていない製品であふれていた。そこで、消費者の信頼を高めるべくR&Dに投資し、品質とパフォーマンスを高めることで、2020年にヒーロープロダクトを生み出した」エピソードを共有。また、「長く愛されるアイコニックな製品を作るには、ブランドと消費者との感情的なつながりが重要で、たとえばパッケージデザインや製品に触れた時の感触など、“使いたい”とユーザーに思わせる力、そして、ブランドのビジョン、強いアイデンティティを通して、消費者とのつながりを創出する力が必要だ」と話した。

ロレアルのベルナディ氏はまた、「パッケージについては、なかでもフレグランスは長く部屋に置いておきたいと思うような美しいデザイン、使いやすさも重要だ」と補足し、「近年は市場や消費者ニーズが複雑なため、昔よりもアイコニックな製品を作りづらいように感じるが、今後は消費者、企業、地球にプラスとなる” Co-Bénéfits (コベネフィット)”な製品、また、美容習慣やライフスタイルを変える製品もアイコニックになりうるだろう」と述べた。

ソニーが発表した香りのテスト用の嗅覚デバイス

毎年恒例の、業界における革新的な機械や機器を発表するファクトリーコーナーでは、日本企業ソニーが香りのテストに使用できる嗅覚デバイスを発表。40種類の香りのカートリッジを設置でき、専用アプリケーションでデバイスから複数の香りを噴出できる。医療分野での使用を目的に開発されたが、フレグランスの消費者テスト、香料サンプルの確認、社内研修など化粧品業界での活用も見込む。

ソニーの嗅覚デバイス(著者撮影)

また、ディープテックコーナーでは、生成AIでパッケージデザインのブレインストーミングができるアプリケーションや、QRコードを印刷してトレーサビリティを強化するなど、AI、データサイエンス、ブロックチェーン、機械学習(ML)といった、化粧品業界のさまざまなバリューチェーンで多くの企業が実装しうる技術が紹介された。

世界各地の化粧品産地の取組み、エコシステムを紹介するイベントも

さらに、今回のCosmetic 360では、化粧品領域のグローバルネットワークのエコシステムを紹介する国際大会が開催された。5大陸から14カ国がパビリオンを出展し、各地域における「研修」「公的研究」「取り組み」「ノウハウと文化」の4分野におけるエコシステムや卓越性をアピールし、分野ごとに表彰された。日本からは、佐賀県を拠点に世界7カ国と協力連携協定を締結するジャパン・コスメティックセンターが参加。同センターは単独でブースも開設し、鹿児島県奄美市でシルクを用いた医療材料や化粧品の研究開発を行うアダングループや、特殊な人工皮膜で自然な二重を実現する製品を開発するアチーブが出展して関心を集めた。

また、Cosmetic 360の開催にあたって、コスメティックバレーは企業の社会的責任(CSR)の観点から、紙やダンボールなどリサイクル可能な素材でブースを制作し、プラスチックの使用を制限するなど環境に配慮した会場作りに早期から取り組んできた。ラグジュアリー感に欠けるとの声もあったが、環境配慮は化粧品産業が一丸となってコミットすべきこととして率先して行ってきた。2024年はその長年の実践が評価され、持続可能な取り組みを行う展覧会やイベントを表彰するLEADの銅メダルを獲得。LEADの認証は、Cosmetic 360の廃棄物ゼロや低炭素、ポジティブな社会的インパクトの3分野での取り組みの確かさを証明するもので、化粧品業界の展示会では初めての受賞となった。

Text and photo: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: Cosmetic360 2024 ©︎Sylvain Bachelot, Olivier Bonnet