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資生堂EMEAがスタートアップ的手法で創出したコンシャスビューティブランド「Ulé」
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資生堂EMEAがスタートアップ的手法で創出したコンシャスビューティブランド「Ulé」

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仏メディアから「アバンギャルドな栽培方法」を評価される新スキンケアブランド「Ulé(ウレ)」は、資生堂EMEA(欧州、中東、アフリカを統括する地域本社)により、高度な開発力と、スタートアップ的なアプローチで誕生した。原料生産から製品化までサステナブルにこだわり、マーケティングも資生堂グループ社員が自らブランドの“創案者(クリエーター)”として発信する。このブランド創案者である同社ニューブランドデベロップメント バイス・プレジデント リンジー・アズピタルテ(Lindsay Azpitarte)氏に、単独インタビューを行った。

資生堂EMEAとスタートアップ、外部専門家とのオープンイノベーション

資生堂は2022年5月2日、フランスで「コンシャスビューティ」をコンセプトとした新しいスキンケアブランド「Ulé(ウレ)」を発売した。ヨーロッパ、中東、アフリカ地域を管轄する同社の欧州地域本社である資生堂EMEAが主導で開発し、フランスにある資生堂工場で製造している。先端技術を活用したサステナブルな原料栽培を導入し、トレーサビリティ、環境負荷の低減を徹底した「社会的価値」を第一に考えるブランドだ。Ulé公式オンラインショップとパリの直営店で販売し、フランス以外の欧州ではECサイトを通じて順次展開していく計画とする。(※2022年5月時点で日本では未発売)

この新ブランドローンチを率いたのが、資生堂EMEAニューブランドデベロップメント バイス・プレジデントで、Uléのブランドの創案者(クリエイター)でもあるリンジー・アズピタルテ(Lindsay Azpitarte)氏だ。

資生堂EMEAが提唱するコンシャスビューティとは、化粧品を購入する際に、「自分の肌」だけではなく、「地球環境」にとっても良いかを判断基準とする考え方だ。現在、世界の多くの消費者が、商品の有効性・安全性はもちろんのこと、原料や包装パッケージの調達先や調達方法、地球環境への負荷などの情報をもとに、自分のライフスタイルや考え方に合った商品を選択している。

Uléは、資生堂の強みであるスキンケア製品における技術力をベースに、スタートアップ企業や栄養士、植物学者などの外部の専門家とのオープンイノベーションによって開発され、肌への効果が実感できることに加えて、消費者が製品を購入する際に重要視する「責任ある調達」「商品の有効性・安全性」「環境負荷の軽減」「透明性」といった点にこだわって設計された。

資生堂EMEAでUléブランドを立ち上げたリンジー・アズピタルテ氏(著者撮影)

アズピタルテ氏は、コロンビア大学卒業後、仏クリスチャン・デイオール・パルファンで10年の経験を積んだのち、資生堂EMEAに入社。グローバルブランドSHISEIDOやクレ・ド・ポー ボーテ、2019年に資生堂が買収したドランク エレファントのバイス・プレジデントを務めた。欧州における消費者の環境や安全性に対する意識の高まりと、それに伴う購買行動の変化を間近にみたアズピタルテ氏が、エコ・コンシャスで、透明性の高い、高品質のボタニカルコスメをつくることを2019年に資生堂本社の経営陣に提案し、今回、欧州地域本社が主導して開発する初めてのブランドとしてUléが誕生した。

パリ マレ地区にあるUléのポップアップ店舗(2022年7月末までの予定)

安全性、透明性、そしてターゲット層を限定しないポリシー

Uléというブランド名は、古代ギリシャ語であらゆるものの根本的な素材を意味する「Hulé, Hylé」に由来し、「自然と私たち自身が、全体(地球)を形成している(私たちは全体の一部であり、私たちは自然である)」との考え方にもとづく。

製品は、マイクロバイオーム配合アイテム、美容液(セラム)、サプリメントの3つのカテゴリーからなり、ミスト、CBD配合の保湿クリーム、4種類のセラム、肌に塗っても飲んでも良いオイル、免疫力を高める粉末状サプリメントの8アイテムを展開。体の内側と外側から健やかな美しさを目指すとする。価格はミニサイズを含め30〜119ユーロ(約4,000〜1万6,000円)、使用成分は、欧州で化粧品に配合が認められている成分のなかから、独自基準で1,400種を不使用と定め、同ブランドが厳選した自然由来成分を96%以上配合する。また、平均で84%の成分をフランス国内で調達している。

4種類のセラムはミニサイズ(36ユーロ〜)もある

トレーサビリティも徹底しており、製品パッケージに記載されたQRコードから、すべての原料やパッケージ情報を公式サイトで確認できる。また、容器は耐衝撃性を担保しつつガラスを薄く伸ばして軽量化することで、輸送による環境インパクトを軽減。さらにキャップ部分にバイオ素材(木の削りくずや植物由来の結合剤)を使用してプラスチックの使用量を削減している。

あわせてUléでは、年齢、性別など特定のターゲットを設定していない。アズピタルテ氏は「欧州ではクリームの需要が高いが、Uléは効果の高いセラムを4種類ラインナップし、セラムの日常使いを推奨している。セラムは機能やイメージから欧州では30代以上向けと考えられがちだが、ポップアップストアでは、20代の女性がミニサイズのセラムや飲んでも肌につけても良いオイルを購入したり、30代以上の女性がセラムに加えて複数アイテムを購入するほか、男性も多く来店しミストやオイルを好んで買っている」と話し、幅広い層からポジティブな反応が得られていることを明かした。

サステナブルな都市型農業で原料となる植物を栽培

そして、来店者から驚きを持って迎えられ、Uléへの共感を集めているのは、原料となる植物の環境に配慮した栽培方法だ。

Uléの最大の特徴は、フランス国外でしか調達できなかった植物原料のうち主要な3品を、アグリテックスタートアップの技術を生かし、垂直農法により栽培していることにある。垂直農法とは、階層構造や傾斜面の高さを利用して、垂直的に農作物を生産する方法だ。

Uléの原料を栽培する工場では、円筒型の装置を使用した水耕栽培とし、内部から養分入りの水を供給し、装置を回転させて植物にまんべんなく光を照射する。畑や温室とは異なり、広い土地や土壌を必要とせず、1平方メートルあたり約150株の植物を育てることができるため、都会の高層ビルや倉庫など屋内での栽培も可能となる。

パリ郊外にある垂直農法の工場内

水、気温、湿度、空調、光(LED)など、栽培に関係する19の要素をコントロールできるため、気候に影響されず、無農薬でクリーンな原料を安定的に確保できるのも利点だ。LEDライトは太陽光に近いスペクトルで日中と夜で照射を調節し、植物の成長に最適な状態が保てる。また、水は再利用して使用量を95%削減できるという。デジタルで管理し、すベての栽培過程が追跡可能だ。

このイノベーションは、スタートアップTower Farmとの協働により実現した。Uléは世界でも先駆けて垂直農法を使用した化粧品ブランドで、インド、マダガスカルなど、本来は欧州以外で育つトゥルシー、ツボクサ、コリウスの3種の植物をフランスで栽培している。また、一般的に化粧品は植物の一部からエキスを抽出する場合が多いのに対し、Uléは葉や茎、根など植物全体を使用する。

加えて、垂直農法はトレーサビリティや原料の自国調達率を高められるだけではない。「通常、化粧品に使用する植物は乾燥した状態で製造工場に輸送される。垂直農法による(製造工場に近い場所での)ローカル栽培は、原料輸送によるCO2を削減できるだけでなく、植物がフレッシュな状態でエキスを抽出できるので効果も高くなる」と、化粧品の品質向上にも貢献することをアズピタルテ氏は強調する。収穫したての植物原料はパリ郊外の栽培工場から340kmの距離にある資生堂のバル・ド・ロワール製造工場に運ばれ、メイド・イン・フランスの化粧品として販売される。

ポップアップで展示されている垂直農法の見本(著者撮影)

「Uléの開発チームとTower Farmは、プロジェクトの初期から密に協働している。目的は互いの力を活かして新しい価値を創出し、垂直農法に対する人々の考え方を変えることだ。そして、将来的には他企業も垂直農法を利用することで、より良い世界をともにつくっていくことを願う」とアズピタルテ氏は語る。同ブランドの公式Instagramでは、垂直農法の栽培工程を積極的に公開しており、その価値を正しく伝えるために、カーボンフットプリントの算出にも取り組んでいるという。

人間として飾らない姿、他者を尊重する姿勢も共有

マーケティングコミュニケーションにおいては、“人間(ヒューマン)”を積極的に前面に出している。Uléは資生堂グループのブランドのひとつだが、公式サイトや公式Instagramでは、アズピタルテ氏は創案者として紹介され、まるでスタートアップかインディブランドの創業者であるかのような印象を受ける。

このような露出の理由は「消費者はオーセンティシティ(真正性)を求めており、開発ストーリーやどんな人物が関わっているのかを知りたがっている。こうした背景から、私自身だけでなく、協力者である専門家やチームメンバーなど、ブランドの背後にいる人間も表に出している」とアズピタルテ氏は説明。ブランドを生み出し支えている人間についても透明性を示すことで、消費者の理解を深め、エンゲージメントを高める意向だ。

また、公式Instagramでは、「ホームメイド」なコンテンツを頻繁に投稿している。ポップアップストアでは、リアルのイベントを数多く実施し、その様子をストーリーやウォールでシェアしている。たとえば、ヨガのレッスンや、Uléのサプリメント製品を使ったスムージーのワークショップを開催したり、環境に配慮したランジェリーブランドYséの創業者クララ・ブロクマン(Clara Blocman)氏や、フェイシャリストのデルフィーヌ・ラングロワ(Delphine Langlois)氏とコラボレートしたトークセッションなどをライブ配信した。

「ライブイベントはブランドのパーソナリティや価値、世界観を消費者にダイレクトに伝えられるうえ、イベント登壇者も自社のSNSでイベントをシェアするため、双方のコミュニティにリーチできる。ローンチして間もないUléは、テスト&ラーニングの段階であり、消費者の反応を即座に把握できるInstagramは相性の良いプラットフォームといえる」(アズピタルテ氏)

ポップアップでは、ランジェリーブランドYséなど、複数のブランドとのコラボグッズも販売(著者撮影)

ライブイベントのほかに、公式Instagramでは、Uléの使い心地を楽しむ喜びや製品の持つ効果を強調しつつ、飾らない“人間らしさ”を伝える表現をしている。「誰ひとり完璧な人間はいない。ヨガを毎日続けられないし、(ダイエットに良くないとわかっていても)ピザだって食べたい。ビューティにおいても、自分自身に対しても、完璧を求める必要はない」とアズピタルテ氏が語るように、ベッドでゴロゴロしたり、バスタイムにワインを飲んだりなど、日々の暮らしを楽しむ女性の姿がUléのイメージとして投稿されている。

出典:UléのInstagram公式アカウント

「化粧品に求められるのは、もはやパフォーマンスや使用感だけではない。肌、自然、環境、そして、人々を尊重する姿勢が伴わなければならないのは明らかだ」(アズピタルテ氏)

資生堂は企業ミッションとして掲げる「Beauty Innovations For a Better World」のもと、Uléを通じて、スキンビューティブランドのポートフォリオを強化し、本業を通じて社会課題の解決や新しい価値創造の推進を行い、サステナブルでよりよい世界の実現を目指すとする。Uléは2023年にはサプリメント製品を追加予定で、「今後のチャレンジは認知拡大と2023年の欧州市場への進出だ」と、アズピタルテ氏は意欲をみせる。

パンデミックの期間をまたぐ約3年の歳月をかけて開発されたUléは、資生堂のイメージを良い意味でくつがえすブランドだ。資生堂グループとしての高度なスキンケア開発力を背景に、アグリテックのスタートアップと連携して環境負荷を減らすクリーンな手法で原料植物を栽培し、新興ブランドのようなマーケティングアプローチをとっている。大手企業によるスタートアップ的手法の先駆けともいえるだろう。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image & photo: 資生堂EMEA

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