PROYA共同創設者、方玉友氏が語る中国のトップからグローバル美容企業への道
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2003年創業の中国化粧品メーカーPROYAは、2023年の売上高が89億500万元(約1,884億円)に達し、中国の国産美容企業のトップに立った。主力ブランドである「PROYA」は「科学的なスキンケア」をうたい、グローバルな原料メーカーらと独自成分を共同開発するなどR&Dに注力し、消費者ニーズを把握しスピーディに応える内製のマーケティングチームで大きな成長を遂げている。PROYAの現在地を明らかにするとともに、経営戦略の裏側と今後の展望について、共同創設者の方玉友氏にインタビューを行った。
R&Dに注力し機能性が実証された成分開発が成長の原動力
2003年、中国・杭州で設立されたPROYA COSMETICSは、上海証券取引所で上場した2017年以降、フェイスマスク「ブラックシーソルト ディープ ピューリファイング バブルSPAマスク」などのヒット商品の発売や、ライブコマースなどマーケティングの強化により急成長。2020年からは、さらにR&Dに注力してドイツに本拠地を置く世界最大の総合化学メーカーBASFをはじめとする多くのグローバル企業やラボ、原料メーカーと共同開発を行うことで、皮膚科学、生物化学、材料科学からインダストリアルデザインや心理学まで幅広いフィールドの最先端技術を取り入れた、PROYAだけのスペックを持つ製品開発に力を注いでいる。
同社の売上の約8割を占める「PROYA」ブランドのスキンケアシリーズは、こうしたR&Dに支えられた、PROYAの目指す「科学的で安全、かつ効果的なスキンケアソリューション」を体現するものだ。なかでも、主にレチノールとポリペプチドを配合したブランドを代表する美容液「ルビーエッセンス」と、抗酸化・抗糖化のダブル効果をうたう「ダブルレジスタンスセラム」は、それぞれ累計1,000万本以上を出荷しており、PROYAが、前年比39.45%増にあたる2023年売上高89億500万元(約1,884億円)を達成し、中国発の化粧品企業としては初めての80億元企業となり、中国の国産美容業界のトップに立つことに貢献した。
マーケティングにおいては、オンラインを中心にDouyin(抖音)、Weibo(微博)、RED(小紅書)、および複数の海外SNSプラットフォームを活用し、各チャネルの特性に応じた配信戦略をとるほか、科学的なスキンケアの概念や知識を伝えるポップアップなどのオフラインイベントも開催している。PROYAはまた、現代の若い世代のライフスタイルや心情に共感し、ジェンダー平等、メンタルヘルス、青春と成長などのテーマにもとづいたコンテンツを制作し消費者との共鳴を図っている。
R&D、マーケティング、CSR、海外進出、共同創設者が明かすPROYAの経営戦略
――なぜ、化粧品業界で事業を興したのか。また、PROYAの企業としての成長のトリガーはどこにあったと思うか。
PROYAの創業当時、中国の化粧品市場は外資企業に席巻されていた。多くのローカルブランドが買収されたり、消滅したり、衰退するなかで、我々の起業の原点には、外資の大手ブランドに伍していける中国発の美容ブランドを創りたいとの強い思いがあった。ローンチ後は、中国の三線、四線都市などの地方都市で手頃な価格で良質な商品を展開し認知度を浸透させていった。
2017年に上場して投資により多額の資金を得たことで、ビジネスをそれまでのオフラインからオンラインにシフトした。以前は中国の地元ショッピングセンター内にたくさんの売り場を持つというやり方だったが、ちょうどアリババのTmallやバイトダンスのDouyinが急成長した時期でもあり、その流れにのって販売の主戦場を一気にオンラインに転換した。今では売上のほぼ90%がオンラインからだ。
これにより商品設計のあり方も変化した。実店舗の店頭ではまず人目を引くことが重要で、目立つパッケージやギフトなどのプロモーションに力を入れていたが、R&Dをより強化し、製品そのものの良さで勝負する方向に舵を切った。
――ブランドとして一番大事にしていることは何か。
中国の消費者が抱える肌の問題に関して、多面的な要因を考慮した科学的でエビデンスのあるスキンケアソリューションを提供することが我々の使命だ。そのためには製品開発が要となる。中国の化粧品市場はブランド間の競争が激化している。消費者ニーズの深い理解にもとづき、業界をリードする技術や処方、そして革新的な原料を持つ者が、市場の機先を制することができる。つまり、研究開発力こそ企業の成長の原動力といえる。
我々はグローバルの大手原料メーカーなどと共同研究・開発をすることで、PROYA独自の技術を知的財産権も含めて取得し、自社製品に取り入れて他社に最大限の差をつけてきた。R&D部門に従事する研究員は全社員の約11%に当たる322名で、2023年の研究費への投資は1億7,400万元(約36億8,000万円)にのぼる。これまでの特許の数は238(2024年9月現在)となっている。また、製造はすべて、中国国内にあるAIやロボットを駆使した自社工場が担っている(ヘアケア製品とクレンジング製品を除く)。
――どのようなマーケティングの方針を立て、どんな消費者接点や体験をクリエイトしているのか。
PROYAではオンラインを中心に、製品の良さをしっかり消費者に届けることに重点を置いた全方位のマーケティングを展開している。中国では、90后(1990年以降に生まれた年齢層)や95后が一番強い消費力を持っているとされる。彼らが何を求めているのかをしっかり分析して、マーケティングに反映させることが必要だ。それを担当するのが同年代の若手の社員だ。
たとえば、Tmallなどの中国のECプラットフォームはきわめて複雑なルールがあるため、ギフトはどうする、クーポンはどうする、キャンペーンはどうするなど、仕組みを熟知した社内の専任スタッフが自ら広告配信を行う。あるいは、中国のInstagramと呼ばれるRED(小紅書)にあげるショート動画などは、自社チームがテストや修正を含め数日間で作成し投稿している。外資系企業はマーケティングを外注しているときくが、その体制では我々と同様の動画作成に1カ月はかかるのではないか。我々のこうしたスピード感とクオリティの高さは、他社にはなかなか真似できないものだと思う。
こうしたことから人材育成はPROYAにとって大切なテーマだ。優秀な人材を育て30歳前半で部長クラスに抜擢することも珍しくない。
――国際女性デーに際して毎年PROYAが発表するジェンダーギャップをテーマにした動画が大きな反響を呼んでいる。こうした社会的メッセージを掲げたキャンペーンを行う意図はどこにあるのか。
PROYAでは毎年、国際女性デー(3月8日)にちなみ「性別は境界線ではない。偏見こそが境界線だ(It’s gender, not border)」というテーマを継承し、社会に根強く残るバイアスを知りジェンダー平等を訴える動画を制作している。これはPROYAが戦略的提携を結んでいるUN Women(国連女性機関)への賛同と支援を示すものであると同時に、我々の顧客の大部分と社員の7割を占める女性全体を応援する気持ちが込められている。
2024年の作品「不同而已(We are just different)」では、日常生活のなかで多くの女性が直面する偏見を描き、彼女たちがその偏見に立ち向かう勇気に加えて、職業、趣味、年齢、ステータス、ライフスタイルの多様性を映し出した。こうしたコンテンツを通じて、若者たちが恐れずに挑戦し、矛盾や偏見を打破することを提起し、我々のブランドの人間本位の価値観や道徳観を表明していきたいと考えている。
PROYAは、そのほかにも災害被災地への物資の支援や財団法人の設立、教育プログラムへの寄付などのCSR施策や、CO₂の排出削減に向けた取り組みも行なっている。
――PROYAが今後も成長していくために必要なことは何か。
我々はロレアルをベンチマークとして念頭におき、世界クラスの化粧品企業になることを目標としている。その意味で商品のポジショニングが重要だ。これまでに築いた優位性を失わないためには、市場の変化にすみやかに対応しつつ、持続可能性の価値観を守り、初心を忘れずにイノベーションを追求していくことが求められる。
海外に進出して新しい市場を開拓する必要もある。東南アジア市場への初期展開はすでに始めており、PROYAブランドはマレーシアやシンガポールのECプラットフォームでの販売がスタートしている。
日本への進出に関しては、我々の製品自体の品質に自信はあるが、ライフスタイルや習慣が違うこともあり、スキンケアカテゴリーでは難しさを感じている。そこで、メイクアップアーティストのカラーコスメブランド「TIMAGE(彩棠)」を2022年より日本のオンラインサイトで販売を開始し、2024年8月には@cosme STOREやロフトなどの実店舗にも進出した。また、アジア人の頭皮の健康のためのスカルプケアブランド「Off&Relax」は、2020年より日本市場においてオンラインとオフラインの両方で展開し、現在、米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、マレーシアなど10カ国・地域で販売しており、順調に売上を伸ばしている。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image and photo: PROYA COSMETICS
取材協力: 株式会社ソフィアリンクス