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それは社会性のあるイノベーションなのか。「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2022」が光をあてた6社

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株式会社アイスタイルと『WWDJAPAN』を発行する株式会社INFASパブリケーションズが主催し、2022年のビューティとファッションの領域で最も「人を幸せにするイノベーション」を体現した企業およびプロジェクトを表彰する「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2022」の大賞、準大賞、特別賞の各受賞者が発表された。2022年12月13日に行われた授賞式および同時開催された主催者と受賞者によるトークセッションの模様をレポートする。


発酵技術で循環型経済を目指す「ファーメンステーション」と在庫分析によって大量廃棄問題の解決に取り組む「フルカイテン」が大賞を受賞

アイスタイルとWWDJAPANが初共催した「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2022」(以下、アワード)は、2021年3月に開催された第2回「Japan BeautyTech Awards」からつながるもので、今回から「Fashion Tech」分野の企業もエントリー対象に加わった。

同アワードには64件の応募があり、そのなかから13件が一次審査を通過し、二次審査においてBeauty TechとFashion Tech 2部門の大賞・準大賞と、特別賞の増設と受賞を決定した。審査は各方面で活躍する5人の審査員によって、「革新性」「事業性」「技術性」「社会性」を4つの柱とした審査評価基準に沿って行われた。「社会性」は今回のアワードから追加された新基準で、企業が自社の利益を追求するだけではなく、事業活動を通じて社会へ価値を提供するというCSV(共有価値創造)の考え方が重視される流れを反映させた結果だ。

受賞者は以下の通り。

後列左から、こたつ 共同CEO 坂田ミギー氏、フルカイテン取締役COO 宇津木貴晴氏、コーセー 研究所 研究戦略室 研究戦略グループ 課長 築山文彦氏
前列左から、nanoni 代表取締役 張聖氏、ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈氏、Retocos 代表取締役 三田かおり氏

Beauty Tech 大賞 
株式会社ファーメンステーション

「アップサイクル×発酵でつくる機能性サステナブル原料」

●審査委員の評価ポイント
独自の発酵技術により、休耕田を活用し栽培した有機米や、ジュースや食品の加工で生じる残さなどの未利用資源をアップサイクルしたプレミアムエタノールや発酵エキスを製造。化粧品などの生活用品への活用と同時に、その製造過程ででる残さを家畜の飼料とし、糞は肥料にするなど地域に根ざした循環型エコシステムを実現している。化粧品原料メーカー、OEM企業としてオーガニックコスメの発展に貢献するとともに、B Corpを取得してグローバルスタンダードを備え、世界市場を視野に入れた事業展開が評価された。

Fashion Tech 大賞 
フルカイテン株式会社

「在庫を利益に変えるクラウドシステム『FULL KAITEN』」

●審査委員の評価ポイント
過剰在庫という小売業界の大きな課題に真摯に向き合い、アナログ管理が多いアパレル業界の在庫管理・分析を自社開発の基幹SaaSによって最適化する仕組みを作り上げた。欠品による機会損失を減らすとともに、過剰な在庫と廃棄を抑制することで、結果的に在庫を売上と利益に変えていくソリューションを展開する、その努力とパフォーマンスの高さを評価。他業種による応用も可能で事業的なスケールアップも期待される。

Beauty Tech 準大賞 
株式会社コーセー

「『COLOR MACHINE』超高速プロジェクションマッピングで実現する複合現実メイク」

●審査委員の評価ポイント
顔へのプロジェクションマッピングそのものは決して新しい技術ではないが、表情の細やかな動きや顔の動きにメイク画像がぴったり追従して投影できる新技術を評価。顧客体験の満足度の向上のみならず、実店舗における美容部員とのコミュニケーションをサポートするツールとして、今後、企業・ブランドの垣根を超えた多店舗での活用が期待できるほか、ファッション業界やエンターテインメント業界業界など他業種への展開の可能性も大きい。

Fashion Tech 準大賞 
株式会社こたつ

「社会貢献型アパレルブランド『SHIFT 80』」

●審査委員の評価ポイント
新興国での女性支援、貧困解決、フェアトレードといった視点により、アフリカ・ケニアでアパレルブランドを設立。現地のスラム出身のデザイナーやモデルを起用し協働することで、誇りを持って働ける環境を作り出し、新しい才能の発掘に努めると同時に、株式会社として継続的に事業を行うために、分配可能な利益剰余金の80%を現地のステークホルダーに還元する、社会問題解決型の事業を目指している点が評価された。

特別賞 
株式会社Retocos

「佐賀県唐津市沖の8つの離島に特化した、同地で栽培した植物や未利用資源を化粧品原料化し活用する取り組み」

●審査委員の評価ポイント
過疎化に悩む離島で採れる良質な植物や農産物を活かした化粧品原料、香料原料の製造による地域経済の向上に加え、コスメづくり体験ができるワークショップの主催など体験ツーリズムを通じて、そのストーリーを拡散し、ビジネスを活性化させる試み。障がい者の方々の雇用による自立支援なども含め、地域に寄り添って濃い「関係人口」を増やし、化粧品ビジネスにつなげていく社会性の高い事業として、今後のポテンシャルが感じられる。

特別賞 
株式会社nanoni

「女性活躍推進クラウド『carefull』」

●審査委員の評価ポイント
フェムテック関連、女性支援関連の福利厚生を総合的にサポートするスタートアップは日本では未だ多くはない。従業員の支援に関して企業が抱える課題を掘り下げ、組織における意識改革や制度の導入だけではなく、女性特有の健康課題の解決や、ライフイベントに伴うキャリアの継続をサポートするプラットフォームを構築。企業・従業員双方からのアプローチで女性の抱える課題に総合的に取り組む姿勢を評価した。

受賞者が語る事業展開の裏側と目指すところとは

アワード授賞式のあとは、第2部として主催者と受賞企業による3つのスペシャルトークセッションが開催された。

感性を刺激するテクノロジーがリアルな価値を高める

最初のセッションは、審査委員長のA.T.カーニー日本法人会長、CIC Japan会長 梅澤高明氏がモデレーターを務め、アワードの共催者である、アイスタイル 代表取締役会長CEO 吉松徹郎氏と、WWDJAPAN編集長 村上要氏が登壇。「イノベーションで融合するBeautyとFashion」をテーマに語った。

左から審査委員長 梅澤高明氏、
アイスタイル 代表取締役会長CEO 吉松徹郎氏、WWDJAPAN編集長 村上要氏

ビューティもファッションも根底には人を美しくみせるという共通した目的があり、メイクとファッションを一対のものとして楽しむエンドユーザーにとっては、2つの領域の境目はもはやないと考えられる今、「テクノロジーを“エモく”使うビューティだが、ファッションでも“エモい”テクノロジーがある」ことを伝えたかったのが、今回のアワードを共催し、Fashion Tech部門を設けた理由だと村上氏は語る。梅澤氏も「他産業では、テクノロジーは機能価値の向上や効率化に活用されているケースがほとんどだが、今回の2分野では人の心をエモーショナルに動かし、感性価値を上げるためにもテクノロジーが用いられている」と示唆する。

吉松氏は「2つの産業とも人の肌に触れるプロダクツであり、リアルを介するもの」として、パンデミックを経て、実店舗など物理的なコミュニケーションや体験が見直されているなかで、リアルの価値を高めるためのテクノロジーという考えに立ち、テクノロジーに新しいアプローチによる掛け合わせが必要ではないかと話す。

また村上氏は、AIが膨大なデータから流行をピックアップして、効率的かつ瞬時にデザインに反映させるファストファッションブランドが台頭し、模倣を疑われる問題を抱えているのを例に、「AIがとって代われない部分、すなわちメッセージを発し、問い続けることをするのが人間で、その結果として新しい創造が出てくるのではないか」と話す。吉松氏もそれに賛同し、大量の商品が出回る市場で「製品の違いだけでは勝負できない。その裏にある思想やストーリーを語ることが求められている。テクノロジーで効率化することで生まれた時間が、“問いかけ”につながる」と産業におけるテクノロジーの真の意義を示した。

地域に仲間が生まれて回りだすエコサイクル

続いてのセッションでは、審査員のTakram コンテクストデザイナー/慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉康太郎氏をモデレーターに、ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈氏、こたつ 共同CEO 坂田ミギー氏、そして、Retocos 代表取締役 三田かおり氏が、「ソーシャルビジネスで実現する『六方よし』の世界」をテーマに、ソーシャルインパクトと事業性を兼ね備えるビジネスのあり方と各自の思いを語った。

ここでいう「六方よし」とは、近江商人の経営哲学とされる「売り手」「買い手」「世間(社会)」の三者が満足できる「三方よし」に、「作り手」「地球」「未来」の3つの“よし”を加えたものだ。登壇した受賞企業はそれぞれ、発酵技術によるアップサイクル原料の製造工場がある岩手県奥州市、アパレルブランド「SHIFT 80」の企画・製造を行うケニアの首都ナイロビのスラム、化粧品原料、香料原料となる植物の栽培を担う佐賀県唐津市沖の離島と、特定の地域との強い結びつきを持ち、コミュニティの課題とQOLの向上に取り組みながら、地域エコノミーと自社事業双方の持続可能(サステナブル)なあり方を模索している。

左から審査員 渡邉康太郎氏、ファーメンステーション 酒井氏、こたつ 坂田氏、Retocos 三田氏

酒井氏は「最初は生ゴミからエタノールを作ろうと考えていたが、休耕田の存在を岩手に行って知り、原料の生産に活用できると気づいた。ビジネスをしながら地域の課題に触れていくなかで、周りの人がこんなやり方もあると教えてくれ、自ら動いてくれたことで、インパクトが与えられ、かつビジネスとして成り立つ方法が徐々に形になっていった」と明かす。

坂田氏も、現地コミュニティの内側で生活するうちに、1パック50円ほどの生理用品が買えないため、生理の間は学校を休む少女が多くいることに気がついたという。「それで授業についていけなくなり、きちんと収入が得られる仕事に就けない悪循環が起きていた」(坂田氏)。この状況を何とかする方法はないかと考え、企画から生産まで現地で行うファッションブランドの立ち上げを思いついた。

だが、坂田氏は「かわいそうな人たちを助けているわけではない」と言い切る。「経済的には貧しいスラムの人々だが、手に入れたわずかなものを独り占めするのではなく、地域のみんなで分け合って互いに助け合うという素晴らしい暮らしのスタイルを持っている。この尊敬する仲間と一緒に、関わる人が能力を発揮するチャンスを得られ、自信を持って働けるような事業に育てていきたい。こうして作られた服は、それを購入し着る人にもアフリカの新しい魅力を伝えてくれるだろう。事業サイクルという意味でも、マネタイズは重要なポイントだと考えている」(坂田氏)

一方、佐賀県の植物や農産物の活用を化粧品メーカーに提案するコーディネーターを務めていた前職の経験から、唐津の離島に自生するヤブツバキに化粧品原料としてのポテンシャルがあることを知っており、かつ、人口減をはじめ、離島がさまざまな課題を抱えている状況を目の当たりにした三田氏。最初は地域支援をするNPOを立ち上げた。だが、地域のためになりたいという思いから発したものの、営利ではなく、支援そのものを目的とするNPOでは本当に自分がやりたい活動ができないと感じ、Retocosを設立した。

「(島民のなかには)支援はいらない、自分たちには必要ないという方もいる。その気持ちは理解できるし、押しつけることはしたくない。だから、地場の産物を活かして島で新たに化粧品産業を興し、島の経済を活性化するという私のコンセプトや方法に共感してくれる人々と一緒にやっていくことで、結果的に良い効果を生み出せると考えている」(三田氏)。「私」という一人称の信念を軸に周囲を巻き込んでいくことで、地域の現状に根ざしたビジネスの確立を三田氏は目指している。

業界の垣根を超えて採用できるテクノロジー&サービスの提案

最後のセッションでは、過去2回のJapan BeautyTech Awardsで大賞、特別賞を連続受賞し、「殿堂入り」を果たしたパーフェクト 代表取締役社長 磯崎順信氏がモデレーターに登場。フルカイテン 取締役COO 宇津木貴晴氏、コーセー 研究所 研究戦略室 研究戦略グループ課長 築山文彦氏、nanoni 代表取締役 張聖氏が登壇して、「喫緊の企業課題を解決するアイディアとテクノロジー」をテーマにトークを行なった。

左からパーフェクト 代表取締役社長 磯崎順信氏、フルカイテン 宇津木氏、コーセー 築山氏、nanoni 張氏

在庫管理・分析クラウドシステムFULL KAITENは、「もともとは、自社の経営困難という課題解決を目指して開発し、自社で実証していくことで磨き上げたプラットフォーム」と宇津木氏は説明する。小売業の在庫問題に対して、在庫を効率的に利益に変えるという“王道の手法”でアプローチし、大手から中小まで導入企業も増加している。「在庫分析というとマーケティングオートメーションなどに比べて地味なイメージを持たれるが、小売企業にとって在庫や商品は心臓部分だ。その意味で在庫に関する課題は経営マターであり、経営者と一緒に取り組み、システム+コンサルとして使っていただいている」(宇津木氏)

フルカイテンによれば、アパレルブランドのほとんどで、全SKUのわずか20%から粗利の8割が生まれているという。値引き基準も曖昧で粗利に貢献できていない残り80%の在庫の質をタイムリーに分析することで、不要な値引きを抑制しながら在庫消化を進めるのが、フルカイテンの提案であり、それは、売れるはずのない量の大量生産を減らし環境負荷の削減にもつながる。「私たちは、世界の大量廃棄問題を解決に導くという壮大なミッションを掲げている。FULL KAITENという言葉が、世界中で通じるようなサービスにしていきたい」(宇津木氏)

コーセーの築山氏は「通常、動かないものに投影するプロジェクションマッピングを、動く顔の上に、そして、白紙ではない色トーンのある肌の上にのせるにはどうすればいいか、というところから、2019年に東京工業大学渡辺研究室との技術検討がスタートした」と話し、現在、東京・銀座の体験型店舗で美容部員のカウンセリングツールとしても活用されているCOLOR MACHINE誕生の背景を明かす。

「リアルな場でメイクにトライできる。しかも、実物のメイク用品のように“塗って落とす”手間がなく、瞬時にいくつものメイクパターンが試せる」(築山氏)その仕組みは、審査員からは、リアルとバーチャルの融合の象徴であり、実店舗の店頭での体験を革命的に変えるものと高い評価を受けた。「今後は化粧品メーカー発の新技術として広く提供していく可能性も模索したい」と、築山氏は、今後は髪型やファッションなどへの応用も進め、異なる業種でも活用できるようにしていきたいとする。

また、企業による女性支援という課題に目を向けたのが、フェムテックに特化した福利厚生プラットフォームを提供するnanoniだ。日本では女性の活躍をサポートしようという機運が高まっているが、では具体的にどうすればいいのかに悩んでいる企業が少なくない。「carefullを導入するメリットとしてはまず、女性従業員のキャリア離脱を減らせることがあげられる」と張氏は話す。

妊娠、出産、更年期などのライフステージの変化に伴い、女性が仕事を続けることや昇進を諦めるケースは今なお多く、そうした労働損失の改善は2兆円規模の経済効果があるともいわれる。福利厚生として、定期的な健診や検査をはじめ、オンラインピルの処方や卵子凍結、不妊治療相談などの包括的なヘルスケアサービスを従業員が受けられるようにすることで、女性がビジネスの現場でより良いパフォーマンスを発揮でき、それは企業と従業員双方に益となると張氏は示す。

同時に、医師や専門家によるヘルスケア研修の実施も行っており、導入企業の社員全体の意識を高めていくことも可能だとする。また張氏は「各利用者のメリットは、匿名掲示板で悩み相談ができるほか、正しい健康知識を身につけられること」として、働く女性が自身の判断でキャリアプランを立てることをサポートし、女性のライフイベントと仕事の両立に寄与したいとする。

Text: そごうあやこ(Ayako Sogo)
Top image: Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2022
画像 : 加藤雄太(Yuta Kato)

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