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人材と働き方の変化 - 「ソーシャルセラー」という新しい仕事が生まれる

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店舗に紐づいている美容部員

前回ユーザーの行動変化とともに、どの業界・業態でも新しいルール・商習慣を再構築していく議論がされていると書きましたが、化粧品業界も同様に新しい変化が起きています。その中で、化粧品業界に特有の美容部員の方々の働き方について書いてみたいと思います。

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まず、今回のコロナで一番大きな影響を受けたのは、実は化粧品を最前線で販売している美容部員の方々ではないでしょうか。百貨店の各ブランドごとのカウンターで接客を担う人といえば、自分では化粧品を買わない男性でもイメージできると思います。美容部員の仕事は、化粧品を手に取り、直接お客様の肌に触れ、お顔をみながらする仕事です。このコロナ禍において、生活者の皆さんがマスクをする、ということで化粧品との関わり方が変わっただけでなく、化粧品の販売のやり方そのものも大きく変わらざるをえませんでした。

この美容部員の方々は、ざっくり分けて大きく2つのパターンがあります。1つはブランドの美容部員で、自社ブランド・商品に特化した知識を持ち、デパート等の直営店や商品を取り扱っている小売店に配置されている方々。もう1つは化粧品小売店に所属している美容部員で、多くのブランドについていろいろな商品説明をしたり、肌の悩みやメイクの仕方などの相談にのったりしている方々です。

化粧品は本当に多くのブランドがあります。@cosmeに登録されているだけで40,000ブランド以上、@cosme TOKYOのような大型店舗では店頭においてあるブランドだけで600ブランド近くになります。小売店の美容部員はそれだけ多くのブランドの商品特徴や使い方を知らないと仕事になりません。またメイクの仕方やスキンケアについても日々ものすごく勉強していますし、いろいろな情報に触れながらお客さまの相談にのれるようにする必要があることから、非常に教育・育成に時間とコストがかかっている職業でもあります。

その中でこれから先、とくに小売店舗に所属してる美容部員の方々をいかに質を高く育成していくか、というのが大きな課題になってくると思っています。ただでさえECという流通が大きくなっていくなかで、店頭での商品の販売が進まない限り、美容部員の方々の教育・維持コストを持つのは難しくなってきます。化粧品以外の多くの小売店舗においては、DXというと店舗における人材コストの圧縮 → 店舗の自動化・無人化という話になりがちですが、化粧品においてはそれでは成り立ちません。もちろんデジタル化できることはデジタル化しながら、そのデジタル化のコストと人材育成コストを持てるのかということとあわせて考えていかなければなりません。

ブランド側から見た美容部員

もちろん、現状はそれだけ多くのブランド・商品の情報を小売店舗の美容部員だけで賄うことはできないので、ブランド側からも自社商品を説明できる美容部員を小売店頭に派遣しています。家電の大型店舗に家電メーカーが商品説明スタッフを出しているのにも似ているかもしれません。

この仕組みは、市場が大きく成長していく中においては、両者が協力関係を保ちながら、店頭での販売・売上を大きくすることで機能していました。しかし、いま店頭での売上が減少してきている流れの中にいます。小売店舗側からすると、できるだけブランドから多くの美容部員の方を派遣してもらえた方が、人件費の負担が軽くなり売上も上がるので、そこはお願いしたいところだと思います。ですが、ブランド側も派遣できる美容部員の数には限界があるので、人を出したくても売上が小さい店舗にはどんどん出せなくなってきています。

しかもこれまで書いてきたように、いまブランドは新しく自社ECでの販売やSNSの運用・CRMなどでお客様と直接的につながれる新しいコミュニケーションのあり方に投資をしています。ブランド側にしてみれば、デパートの1階などの直営店の売上・利益が厳しい中で、小売店舗への派遣も含めた店頭の美容部員の増強というのはなかなか難しい判断になってきています。

もちろんどのブランドの方々も、美容部員の方々がそれぞれのブランドの世界観・信頼を伝えていくために重要だということはおっしゃっていますし、美容部員の育成を事業の中心に置いているブランドもあります。ポイントなのは、必要な美容部員の数をどうブランド側と小売店舗側で負担していくのか、というバランスの問題だと思います。

少なくとも共通しているのは、店頭でのコミュニケーションが大事・美容部員の方々の質の向上も大事・店舗のデジタル化も大事・でも店頭での売上は減少方向にある、この中で、どうブランドと小売店舗が人材の育成まで見据えた新しいビジネスモデルをつくっていくのか、ということだと思っています。

美容部員の働き方改革

一方で、美容部員の方々自身の働き方についても大きなへ変化が起きています。いままでは、お客様が多く来店する夕方から夜の時間帯や、土日を含んだフルタイムのシフト勤務が基本になっていました。つまり、美容部員は時間と場所を特定された店頭での接客が前提になっています。この働き方では、美容部員としてのキャリアがありながら、結婚、出産、介護などどうしても家庭の事情などで仕事との両立が難しく、退職を余儀なくされている方も少なくありませんでした。

しかしコロナ禍の中で、SNSなどを活用してリモートで接客するなど店頭だけではない接客のやり方が進んできています。その結果、たとえば週2日、3時間だけなど、時間や場所に縛られずに自分の都合に合わせて働くことができる可能性が生まれています。カウンセリングもオンラインかオフラインかの2者択一ではなく、初回はオンラインでヒアリングし、2回目をリアルで、といった組み合わせもあり得ます。いままでのような時間と場所に縛られないことによって、より柔軟な働き方の可能性が増えてきています。

また前回書いたように、ユーザーの購買行動も大きく変わってきています。いまでは非常に多くのブランドや商品があり、ユーザー自身も多くの情報を持つ時代になってきました。昭和の時代でいえば1つのブランドに特化して商品知識を高めていれば、美容部員としてお客様の悩みにお答えできていたのが、お客様の悩みにお答えし信頼を獲得するためにも、美容部員自身が多くのブランド・商品に触れてみながら美容を追求していくことが必要になってきています。

一部のYouTuberがたくさんの化粧品を自ら試しながらユーザーからの信頼を積み上げ、売上に影響を与える人が増えてきているのもこの流れだと思います。これからベースとなるのは、お客様からの信頼を獲得しながら安心してブランドをまたがった商品紹介できるということが美容部員の方にとって一番大事なこと、だと思います。

この流れの中でいま注目されてきているのが、「ソーシャルセラー」という働き方です。小売店にもブランドにも所属していない独立した新しい第3の働き方で、いわば専門性の高いフリーランス美容部員です。

家庭の事情などで美容部員を辞めざるをえなかった方々が、ソーシャルセラーとして活躍することで、ライフステージの変化で眠ってしまっている人材のポテンシャルを即戦力として活かすことにもつながります。

また、ソーシャルセラーはオンラインでもオフラインでも、自分で決めた時間に顧客の予約を受け接客する、というように独立したかたちで柔軟に働くことができます。と同時に、小売店にとってもブランドにとっても固定化する人材コストを流動化することにもつながります。 もちろんソーシャルセラーとなれば、商品の販売ができなければ収益が得られないという厳しさはありますが、なにより時間や場所などに捉われずお客様とダイレクトに向かい合い信頼を得ていく、という新しい楽しさや喜びが生まれてくるのではないでしょうか。 新しい働き方の選択肢が増えてきていることで化粧品の業界に関わる人が増えていくことが全体の活性化にもつながると思います。

私たちアイスタイルでは、@cosme TOKYOでの試験的導入を通して、ソーシャルセラーの方々にきちんと収益が上がるビジネスモデルを模索しています。いずれにしても美容部員の働き方についても、大きな変化がうまれ始めているのです。

次の回は、こういった働き方改革も含め、これまでの小売店とブランドの課題を解決するような「ミライの店舗」について解説していきたいと思います。

次回予告:いま、私たちが考える「ミライの店舗」


<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。