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いま、生活者に起きていること - 「失敗したくない」気持ちの高まり

どこで買っても構わないユーザー

前回までは、小売店側に起きている課題、そしてブランド側から見た課題について話してきました。今日は改めてユーザーの視点からお話できればと思っています。

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今回のコロナ禍において生活者の行動様式は大きく変わりました。化粧品のユーザーの購買行動も大きく変わってきてます。いままで化粧品を購入する時には、購入したいブランドがある店舗に行って、商品を試すなり相談するなりして購入していました。しかし、今回店舗に行けなくなって、ECで購入してみようと思った時に、初めて「ECで販売しているブランドとしてないブランドがあるのはなぜなんだろう?」と思ったユーザーも多いと思います。

実は化粧品はデパートで取り扱えるブランド・化粧品専門店で取り扱っているブランド・ドラッグストアで取り扱っているブランドなど、ブランド毎に取り扱っている流通(小売店)が違います

化粧品はブランドが多いので、普段ユーザーは「各店舗で扱えるブランドの数に限りがあるので品揃えが違うのだろう」ぐらいにしか思っていないのがほとんどだと思いますが、それはあくまで“売る側”、ブランド側と小売店側の都合から続いてきた事情でした。

しかしECというのは、ある意味インターネットというひとつの場です。化粧品業界において初めて、すべてのブランドが並列に並んでしまう可能性が出てきたのです。とくにD2Cのようにネットを前提としたブランドと既存のブランドとの販売形態の違いを、いまのユーザーに理解してもらうことは非常に難しいことだと思います。ただでさえ、化粧品以外のさまざまなカテゴリーでは、自分の便利な方法でモノを購入できるようになったことに慣れていて、購買の場所や方法を気にしないようになっています。ユーザーはシンプルに、自分が欲しいブランドを必要な時にネットとリアルで試すなり購入できたりできればいいのです。

「失敗したくない」気持ちの高まり

もうひとつ大きくなってきているのが、購買における「失敗したくない」という気持ちだと思います。

この「失敗したくない」というユーザーの気持ちは、実は@cosmeのクチコミがスタートした時から根底に流れていて変わっていないのですが、今はその気持ちがさらに強くなってきたと思います。

とくに若い世代は、自分に合うものを探すときに、気になった商品を全部買うほど金銭的に余裕があるわけでもありません。買ってから「環境に配慮していない商品だった」など、マイナス要素に気づくのも避けたいです。となると、前回お話したように、いろいろと調べて商品をよく知ってから買うようになります。SNSやYouTubeなどほかの人の意見や体験談も重要ですし、リアル店舗で店員さんに聞いたり実際に触ったり、サンプル代わりにメルカリで二次流通の化粧品を買って試してから正規品を買う、というユーザーも増えてきています。

この「失敗したくない」という気持ちはユーザーの商品選びにも出てきています。昨年からのベストコスメの傾向ですが、入賞した多くの化粧品に「既存ブランドのリニューアル商品」が入っていました。

2022年上半期ベストコスメアワード総合大賞を受賞した ファンケル マイルドクレンジング オイル

いままでは、新しい商品・新しいコンセプトというそれまでにないもの・新鮮さが売りになっていましたが、コロナで店頭にいけない、商品が確認できない、となった時に、新しいブランドはどう理解・信用したらいいのかわかりにくくなってしまったのかもしれません。

そんな中、昔から知っているブランドやロングセラー商品がリニューアルした、となると、もともとそのブランドに対するイメージもありますし、そのブランドや商品が改良されたということは、何かいままでよりよくなったのだろう、ということが伝わります。結果、新しいブランドよりも既存ブランドのリニューアルの方が、安心して手が伸ばしやすく評価につながるということが起きた、と私たちは考えています。

ユーザーは「信頼」を求めている

上記のように、ユーザーの「どこで買っても構わない」「失敗はしたくない」という気持ちが大きくなっていく中で、ユーザーはいままで以上に信頼できるもの・安心して購入できるものを求めているということです。

先ほどの「既存ブランドのリニューアル商品が注目される」というのも、「ブランド」が持つ価値がますます重要になってきている一つの事象かもしれません。

たとえば、ECひとつにしても、Amazonや楽天で購入するのは安心ですが、知らない初めてのECサイトで購入するのはちょっとためらう瞬間がある方もいるのではないでしょうか。安いとか便利だけではない「安心」というブランドが大事になってきているのです。

@cosmeも店舗があることで、信頼度が高まっている一面があると思っています。ECサイトで何か問題があっても、最悪店舗に行けばなんとかしてくれる・消えてなくならない安心感があります。

ひと口に信頼とか安心とか言っても、じゃあどうやって作っていくのか、獲得していくのか、というの答えがなくて難しい話です。ユーザーの情報を取得して、追いかけても、それはストーキングであって、信頼の獲得ではありません。

大事なのは、「ユーザー主語で考える」ということではないでしょうか。
そのためには、今までのようにブランドや小売・流通の事情ではなく、変化していく社会や環境に対してどこまでもユーザーと真摯に向きあい、ユーザーの行動変化にビジネスを変えていけるかどうかだと思います。

これは化粧品業界に限ったことではありません。いま社会・環境が大きく変化していく中で、どの業界・業態でも新しいルール・商習慣を再構築していく議論がされていることと同様のことなのだと思います。

次の回は、ユーザーと同様に働き方に大きな変化が起き始めている美容部員さんについて話をしていきたいと思います。

次回予告:人材と働き方の変化 - 「ソーシャルセラー」という新しい仕事が生まれる


<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。