韓国ファッションECムシンサが美容カテゴリー強化、オリーブヤングの牙城に挑む
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韓国の化粧品小売分野では、ヘルス&ビューティストア最大手のオリーブヤングが圧倒的な地位を築いているが、一方で近年は異業種プラットフォーマーがビューティカテゴリーへの進出を図るケースが増えている。そのなかでもファッションEC大手ムシンサのビューティ事業強化は注目度が高い。同社の直近の動向やビューティカテゴリー戦略についてレポートする。
パンデミックを経て順調に拡大のオリーブヤング
韓国国内市場で化粧品のオフライン販売チャネルとして主要な地位を占めるヘルス&ビューティストア(日本のドラッグストアに相当、以下、H&Bストア)は、パンデミックをきっかけに大幅な再編が起きた。当時、業界大手として知られていたGSリテールの「lalavla(ララブラ)」はH&B事業から撤退。ロッテショッピングが運営していた「LOHB’s(ロブス)」も、全店舗を閉店することを余儀なくされた。
一方で、パンデミックを経て大幅にシェアを拡大したのがオリーブヤングだ。
同社の市場シェアは2021年57.2%、2022年68.3%、2023年71.3%と拡大。パンデミック後、本格的に消費が盛り返した2024年上半期時点では80~90%に達するとの試算もあり、オフラインにおいては他を寄せつけない独占的なポジションを築いている。グローバル大手のセフォラもオリーブヤング一強を崩すことはかなわず、2024年3月に韓国市場からの撤退を選択した。
オンラインにおいてもオリーブヤングの存在感は大きい。韓国統計庁が発表している資料によれば、韓国国内の化粧品EC化率は34.3%だ。これはほかの商材を総合した平均値より8.8%高い数字となっているが、2023年時点での美容関連製品の市場シェアとしてはクーパン、ネイバーショッピング、オリーブヤングの順となっている。オリーブヤングは2021年までトップ3圏外だったが、オフライン店舗の拡大と軌を一にしてオンラインチャネルでもシェアを拡大している状況だ。
なおパンデミック以前、小売、ブランドやメーカーなどを含む化粧品業界全体の売上のなかでオリーブヤングが占めていたシェアは10%程度とされていた。それが2024年時点では約15%程度まで拡大しており、業界全体においてその存在感は日々増し続けている。
しかし、そのオリーブヤング一強を崩すのではないかといわれるリテーラーが台頭してきている。それがファッションEC大手MUSINSA (ムシンサ)である。同社はいわば、日本におけるZOZOのポジションにあたるIT企業だ。
ムシンサは2001年に設立された韓国のファッションプラットフォームで、当初はストリートファッションに特化したオンラインコミュニティだった。当時、韓国国内ではストリートファッションに関する情報が少なく、ムシンサはストリートスタイルを愛するユーザーが交流できる掲示板形式のWebサイトとして運営されて人気を集め、2009年にサービス内にECショップ「ムシンサストア」が開設された。
ムシンサは創業当時から韓国の中小規模のデザイナーズブランドを中心に取り扱い、消費者とデザイナーを直接つなぐ役割も果たしてきた。韓国でいうMZ(ミレニアム&Z)世代の消費者から強い支持を得ているのがムシンサの特徴で、「ムシンサスタンダード」など自社ブランドも積極的に展開している。
ムシンサは、オンラインファッションプラットフォーマーとしては韓国初のユニコーン企業でもある。2023年の年間取引額は4兆ウォン(約4,400億円)を超えており、2024年は5兆ウォン(約5,500億円)を超えることが見込まれている。
いわば韓国のZOZO、ムシンサの取扱い美容ブランドは約1,700
ムシンサは近年、ファッションのみならずビューティ領域に事業を拡大する戦略を打ち出し、パンデミック下の2021年には「ムシンサビューティ」という美容カテゴリーを新たにローンチした。当初、取り扱いブランドは約800だったが、2024年11月現在では約1,700ブランドの商品を展開。2,400ブランドを取り扱うオリーブヤングにはまだ及ばないものの、その拡大スピードの早さは業界の話題となった。
ムシンサは2024年9月に、ソウル・聖水地区で自社初となる大規模なオフラインビューティイベント「ムシンサビューティフェスタ」を開催するなど、オフラインでの影響力拡大にも注力している。
聖水地区にはもともとムシンサのファッション用品や雑貨を扱うキュレーションショップがあり、同社が消費者とコミュニケーションを図るための重要な拠点としているエリアだ。3日間にわたり開催されたムシンサビューティフェスタには、1万8,000人以上の来場者が訪れた。各ブランドの商品サンプルを体験できる展示や、専門家によるメイクアップやスキンケアのデモンストレーション、限定アイテムキャンペーンなどが行われ、10~20代を中心とした来場者の満足度も高かった。
今回のイベント開催にあたっては「ネクストビューティ」というテーマを掲げ、認知度こそまだ低いものの、潜在的な成長力があると判断したブランドを自社で発掘・育成していくという意図を込めた。実際にイベントに参加した41ブランドのうち、8割程度がまだ消費者には広く知られていない新興ブランドだった。
実はムシンサは、ファッション領域ですでに数多くの新興ブランドを発掘・育成してきた実績を持つ。2018年に設立した子会社のVCムシンサパートナーズを通じて75ブランドに投資を行っており、代表的なブランドとしてはCOVERNAT、thisisneverthat®、MARDI MERCREDI、Andersson Bellなどがある。ファッション領域で積み重ねた知見やノウハウを新興ビューティブランドの発掘・育成に生かし、自社プラットフォームの独自性や集客力を高めていくことが同社の狙いだ。
ムシンサはブランドの発掘・育成と並行して、今後もオフラインチャネルを強化していく方針だ。前述した聖水エリアのセレクトショップには化粧品常設コーナーがすでに設けられており、同エリアに新設される2,500坪規模の新たな大型セレクトショップにも化粧品専門コーナーを設ける計画が進められている。
ファッションブランドのコスメアイテム進出も支援
ムシンサがビューティカテゴリーを強化するにあたり、すでに取引のあるファッションブランドとのコラボレーションも強みのひとつになると予想される。たとえば2024年10月には、カジュアルファッションブランド「Rest&Recreation」が立ち上げたコスメブランド「Rest&Recreation Beauty」の運営で協業することを発表している。
Rest&RecreationはKポップアイドルやセレブが着用し、グローバル市場でも高い認知度を誇る。Rest&Recreation Beautyでは、ブランドアイデンティティとマッチしたメイクアップ商品や、ファッションアイテムのように使えるコンセプトの商品をローンチしていく予定だ。
今回の新ブランドローンチにあたり、Rest&Recreationは新ブランドのコンセプト企画、製品デザインなどクリエイティブに集中し、ムシンサは製品の製造と流通プロセスを担当する。ムシンサとしては、ファッションブランドのビューティ進出をサポートすることで、自社プラットフォームのエコシステムをさらに拡大・強化していく狙いがあるとみられる。
オリーブヤングも新興ブランドの発掘・育成には定評があるが、ファッション業界とのコネクションに関してはムシンサに一日の長がある。今後、ムシンサがブランド育成でいかに差別化された戦略を構築できるかが、シェア争いに大きく影響してきそうだ。
またムシンサは2023年4月に自社ビューティブランド「Oddtype(オッドタイプ)」をローンチ。2024年10月には、日本でもロフトや@cosme SHOPPINGなど約200店舗での販売が決定したと発表されている。
ムシンサ以外のプラットフォーマーとしては、食品専門EC企業カーリーのビューティカテゴリー強化が注目されている。同社も2024年10月に初となるオフラインビューティイベント「カーリービューティフェスタ」を開催。オフラインの販路拡大に努めている。
カーリーの場合、全体の売上のうちビューティカテゴリーが占める割合は10%程度で、取り扱いブランド数は約1,000とされている。今後はビューティカテゴリーと食品のシナジーをどう生み出していくかが注目される。また小容量・低価格コスメ事業を本格化している韓国ダイソーも、化粧品小売分野のダークホース的な存在として韓国国内での評価が徐々に高まっている状況だ。
異業種ITプラットフォーマーやリテーラーの進出により、2025年以降、韓国の化粧品小売分野にはまた新たな変化が見込まれそうだ。
Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: ムシンサ公式サイト