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韓国の化粧品ECサイト「ビューティカーリー」が好調。運営企業は上場も再度視野に

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食品専門ECサービス「マーケットカーリー」を運営するカーリー(Kurly Inc.)は、韓国を代表するリテールテック企業のひとつだ。創業初期から積極的な資金調達を行い、事業規模、企業グループとしての規模の拡大に注力してきた同社は、2022年から化粧品を専門に扱うEC「ビューティカーリー」をローンチ。同サービスは美容関連製品のショッピングプラットフォームとして、30~40代ユーザーを中心に人気と支持を集めている。カーリー設立時のエピソードや成長プロセスを紹介するとともに、現況と今後の展望についてレポートする。


韓国を代表するユニコーン企業のひとつ、Kurly(カーリー)

カーリーは、食品EC「マーケットカーリー(Market Kurly)」と化粧品EC「ビューティカーリー(Beauty Kurly)」を運営する韓国のECプラットフォーマーであり、サプライヤーにとっては物流サポートから在庫管理、需要予測などを提供するリテールテック企業の側面もある。

 最新の情報では企業価値は約6,000億ウォン(約660億円)から1兆ウォン(約1,100億円)前半と見積もられている。過去には一時4兆ウォン(約4,400億円)と評価されていた時期もあり、韓国では国内を代表するユニコーン企業のひとつとして知られている。

出典:マーケットカーリー

カーリーのファウンダーであり現CEOを務めるのは、女性起業家として有名なキム・スラ(Sophie Kim)氏だ。1983年生まれのキム氏は米ウェルズリー大学を卒業後、2007年から2010年までゴールドマン・サックスでアナリストとして従事。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーテマセク(シンガポール政府系の投資会社)、ベイン・アンド・カンパニーなど、金融および戦略コンサルティング業界でキャリアを築いた。

2014年に韓国に帰国したキム氏は前職で培った経験と人脈を活かし、食に関心が高いエンジェル投資家やその周辺のVCから約50億ウォン(約5億5,000万円)を調達する。そして2015年1月に設立したのが、カーリーの前身となるザ・ファーマーズ(The Farmers)だった。

カーリー(Kurly Inc.)ファウンダー兼CEO キム・スラ(Sophie Kim)氏
出典:namuwiki

ザ・ファーマーズは食品流通に特化した企業だ。その設立背景については、同社戦略チームの理事でキム氏とは前職で同僚だったパク・キルナム氏が、スタートアップのニュースを専門に伝える韓国メディアの取材に対し、食品流通関連の事業をキム氏が始めるという話は飲食店で一緒に焼肉をしながら聞いたと振り返り、その当時はまだ具体的なビジネスプランはなかったと話している。

そして、良い食材を探したり購入することが韓国では難しいというキム氏の個人的な悩みに始まり、韓国の食品流通市場と供給市場の非効率的な部分にまで話題が広がったこと、さらに「急速に変化する時代に、産業が対応できずに生じている非効率的な側面を変えたい」というキム氏の言葉を聞いて、自身もその事業に参画する決心をしたと述べている。

このように食品流通の課題を解決すべく設立されたザ・ファーマーズは、2015年5月にプレミアム食品ECアプリ「マーケットカーリー」をローンチ。キュレーションされた食材・食品を扱う同サービスは、ソウル・江南地区などの高級住宅街に住む主婦層を中心にクチコミで人気が広がり、創業から約2年で会員数16万人、購買件数月6万件、月間売上30億ウォン(約3億3,000万円)を突破するなど順調な成長を遂げていく。

マーケットカーリーが人気を集めた理由は、食材・食品の質およびラインナップが充実していたためだ。生鮮食品、加工食品、調味料、スイーツ、デリなど多様なカテゴリーに加え、高級百貨店にあるようなプレミアム食材や農場で直接購入しかできない有機食材を取り揃えることで、他社の食品系ECと一線を画すことに成功した。

また「早朝配送サービス」というユニークな配送システムも人気の理由のひとつだ。同サービスは、夜23時までに注文すれば翌朝7時前に商品を配送するもので、現在ではほかのEC事業者も同様のサービスをしているが、当時は珍しいシステムだったため認知度の急速な拡大に寄与した。また、少量注文にも対応、4万ウォン(約4,400円)以上の購入で配送無料などもマーケットカーリーの利用の増加を後押しした。

マーケットカーリーはモールではなく、生産者や事業者から直接商品を仕入れて販売するビジネスモデルを採用している。そのため利益を伸ばすには在庫管理が重要となる。そこで、バックエンド側では商品の発注をマーチャンダイザーではなく、ビッグデータアナリストが管理する体制を整えた。季節、天気、イベントなどに合わせた緻密な商品需要予測にもとづき在庫管理の効率化を図るその仕組みもまた、従来のEC事業者にはない特徴・強みとして注目されていく。

ザ・ファーマーズは2018年に社名をカーリーに変更し、その後も積極的な資金調達と事業拡大を繰り返す。そして2021年には、約4兆ウォン(約4,400億円)の企業価値を持つと評価されるにいたる。同時に、2010年代後半からは子会社設立や外部企業の買収を通じてグループを拡大していった。

2024年7月現在、物流子会社カーリーネクストマイル(Kurly Nextmile)、食品製造のネクストキッチン(Next Kitchen)、決済ソリューション・カーリーペイ(Kurly Pay)、輸出入販売KOTCなどがカーリー傘下の系列子会社となっている。

プレミアム化粧品を扱うEC「ビューティカーリー」をローンチ

食材・食品分野で成長を続けてきたカーリーは、2022年11月に化粧品専門EC「ビューティカーリー」を公式にローンチした。

出典:ビューティカーリー

カーリーが化粧品分野に進出した理由は明らかにされてないが、商材としての潜在需要や単価の高さ、食品に比べて消費期限が長く在庫負担も軽減できるというポジティブな要因に目をつけたと推測できる。一方で、食品分野における競合事業者の台頭もあるだろう。というのも、2020年に入ってからソフトバンクグループが後押しするクーパンの食品系ECや、オアシスマーケットなど、カーリーと類似した商品や配送システムを提供するサービスが増加・成長していた。なかでも、最も強力なライバルとされるクーパンとは、経営や将来の成長を比較されることも増えていた。

カーリーの場合、スタートアップとして創業当時から積極的に資金調達を行ってきたため、CEOのキム氏の保有する株式が少なく実質的に経営方針を決めることが難しいとされてきたためだ。また、資金調達が継続的に実現するという保証もなかった。クーパンはソフトバンクが資金的な後ろ盾になっていたうえ、創業者たちの経営権も確保されていた。こうした状況の中で、強みを生かした新市場のひとつが化粧品分野だったとみることもできる。

この判断は、カーリーにとっては大きな成長機会となった。ビューティカーリーはサービスローンチ1年目にして、年間取引額3,000億ウォン(約330億円)を突破。これは、韓国国内の有名百貨店10店舗以上の化粧品売り場の年間取引額を合算した数字に相当するとされる。

ローンチ当初、ビューティカーリーはマーケットカーリーの認知度を背景に集客に成功したが、現在では美容プラットフォームとして大きな影響力を持つにいたっている。2024年3月時点での累積注文数は約600万件、購買者数は400万人以上にのぼり、セールイベント「ビューティカーリーフェスタ」で関連商品を購入したユーザーも200万人を突破した。

ビューティカーリーの成長理由としては、食品同様にプレミアムなブランドの取扱いに注力する戦略が奏功したとされる。一般的に韓国の化粧品ECでは中低価格帯の商品が多く扱われているが、ビューティカーリーはラグジュアリー商品に力を入れており、現在入店している約1,000ブランドのうち、ラグジュアリーラインが全体の約3分の1を占めている。結果、ユーザー層は購買力の高い30~40代が圧倒的に多く、その割合は70%以上に達しているという。

販売する商品の差別化に加え、カーリーは化粧品業界の競合に対してマーケティング面での攻勢も仕掛けている。たとえば、2024年2月に国内小売最大手オリーブヤングをターゲットに行った値引きイベントがある。これは70ブランド、1,000商品を対象に、オリーブヤングより価格が高かった場合、差額を会員アカウントに積立金として返還するという企画だ。

ビューティカーリーが行った値引きイベント
出典:시사저널e

また同イベントでは、4万ウォン以下だった配送料無料の基準を2万ウォン(約2,200円)以下に引き下げるなど、競合を意識したさまざまな特典が用意された。

2024年10月には、大規模なオフラインイベントの開催も予定されている。大手EC事業者が開催するビューティ系オフラインイベントとしては、クーパンの「メガビューティショー」、オリーブヤングの「アワード&フェスタ」に並ぶものになると予想される。クーパンとオリーブヤングのオフラインイベントは、イベントコンセプトに合致するブランドを多数招致して、リアル会場に販売ブースを設け集客・販売する形式だ。カーリーのイベントの詳細はまだ明らかにされていないが、競合他社の動きを強く意識しているのは明らかで、オフライン市場における存在感向上や顧客の囲い込みを狙うイベントであるとみられている。

業績好調で再浮上するカーリー上場の話題

2024年のカーリーの業績は非常に好調だ。第1四半期には、売上5,381億ウォン(約591億円)、営業利益5億2,570万ウォン(約5,782万円)を記録。売上は前年比6%増となる史上最高額であり、営業利益に関しては創立以来初の黒字に転じている。

業績好調の理由としては物流改革の成功が挙げられている。2023年上半期に昌原(チャンウォン)市と平澤(ピョンテク)市に新たな物流センターをオープンする一方、採算の悪い物流センターを撤収し、配送コストや注文処理費用の大幅削減を実現した。カーリー側は昨今の経営好調を背景に「損益分岐点を維持しつつも、顧客の利便性強化、早朝配送エリアの拡大、新事業の開拓などに利益を投資していく」と公式コメントを出している。

平澤市に建設された物流センター
出典:Social Value

コスト削減に加え、化粧品事業などで売上が順調に拡大していることを受け、再浮上しているのが上場関連の話題だ。カーリーは2022年に上場準備に乗り出したが、IPO市場の停滞やサービスの成長鈍化により企業価値が1兆ウォン(約1,100億円)を下回る可能性があることを考慮し、計画の一時的な断念を宣言した過去がある。

しかし昨今では、ビューティスタートアップや化粧品業界中堅企業の大型上場が続いており、市況も追い風だ。具体的な公式発表はまだないものの、韓国メディアの報道を通じて、カーリー関係者からは「主幹事証券会社と相談して適切なタイミングを見定める」と前向きなコメントもみられる。

またカーリーは、2024年3月からアパレルやジュエリーを手掛けるファッションブランドの取扱いをハイペースで進めている。同3月から5月にかけて50ブランド以上の入店が発表されており、今後はビューティカーリーのように、単体のEC事業として独立させる可能性もありそうだ。

独自の物流サービスから決済まで持ち、総合ECとして、あるいは食品、化粧品やアパレルと各カテゴリーごとに強みを持つサービスとして特化していくのか、上場も含め今後の戦略転換や経営実績の推移にも注目したい韓国企業のひとつといえる。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image:ビューティカーリー