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仏ロレアルが協働する連帯デジタル広告、リモート植林などの各スタートアップ

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ロレアルは2020年6月に「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」という2030年に向けた新たなサステナビリティ・プログラムをローンチしたが、並行して、美容業界、地球、社会に良いインパクトを与えるデジタル・テック企業を対象としたコンテストと支援プログラム「Beauty Tech for Good Challenge」をスタートさせ、40ヵ国から115のスタートアップが応募。2020年10月13日に受賞企業3社を発表した。選出された3社の取組みを詳しく紹介する。

115社から選出のサステナビリティ・プログラム目標達成のために協働するスタートアップ

「Beauty Tech for Good Challenge」とは、社会的責任にもとづきビューティ、サステナブル、インクルーシブなサービスを提供する、革新的なデジタル・テック企業を対象にした国際コンクールだ。2020年3月に特設サイト上で募集を開始。毎年春にパリで開催される欧州最大級のテックイベントViva Technology(以下VivaTech)のロレアルブースで、ファイナリスト10社がピッチを行なって、3社が選出される予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響でVivaTechが中止となったため、受賞した3社は同社のプレスリリースにより発表された。

スタートアップはこのコンクールで受賞すると3つのメリットが得られる。1つ目は世界最大級のインキュベーション施設Station F内で行われるロレアルの6ヶ月の支援プログラムに参加し、美容業界のエキスパートからメンターシップを受けられること。2つ目はロレアル傘下のブランドのビジネスパートナーとなり、協働の機会が与えられること。3つ目は美容企業のエキスパート、メディア、投資家に紹介され、国際的にビジビリティを高められることだ。

図1

Station F内にあるロレアルの
スタートアップ支援プログラムのブース

ロレアルがこの支援プログラムの枠組みで募集した分野は、地球の環境保護、持続可能でエシカルなデジタル・エコシステム、すべての人のためのインクルーシブな製品やサービスの3つで、40カ国から115のスタートアップの応募があったという。最終的にロレアルのエグゼクティブ委員会によって選ばれた3社は、「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」で掲げられた目標のソリューションをもつスタートアップでもあり、同社が環境問題や社会課題に対して、積極的に外部企業とともに取り組んでいく姿勢がうかがわれる。

受賞した3つのスタートアップを紹介していく。

■仮想通貨で社会貢献を促すオンライン広告

1社目はデジタル広告でエシカルな寄付のシステムを提案するカナダのスタートアップWhatRocksだ。

世界中でDXが急速に進むなか、広告分野ではウェブ広告の重要性がますます増している。しかし、インターネットの閲覧時に、不必要な広告が表示されることもあり、広告表示をブロックするアドブロックツールが複数登場している。こういったツールは消費者にとっては有益となるが、広告投資するブランドにとっては本来見てもらえるはずの広告が非表示となる可能性もあり、大きな損失となりうる。

その一方で、もう1つWhatRocksが解決しようとしている課題が、環境問題や社会課題に取り組むNPOなどの非営利団体への寄付金額が、こうした団体の必要性が大きくなっているにもかかわらず、世界的に減少傾向にあることだ。

この状況から、WhatRocksはデジタル広告と寄付を組み合わせ、ブランドがビジネス価値だけではなく、社会的な価値を創造できる「Ads for good(世の中に良いインパクトを与える広告サービス)」の仕組みを作り上げた。ブロックチェーンによる仮想通貨トークンを用いて「寄付」をするシステムで、消費者に金銭的な権限を提供して、消費者とブランドが連携して社会貢献できる仕組みだ。

具体的には、デジタル広告に「WhatRocks」という独自のラベルを導入し、消費者がこのラベルが表示されたブランド広告を見たり、クリックすると、「Rocks」と名付けられた仮想通貨(デジタル通貨)がブランドのモバイルウォレットから、消費者のモバイルウォレットへと自動的に移され、消費者は自分が選んだ非営利団体(社会・環境団体)に寄付することができる。団体は寄付された「Rocks」をブランドに販売して現金化し、活動に使用できる。

WhatRocksが提案する仮想貨幣
「Rocks」を用いて社会的な価値を
生み出す広告モデル

モバイルアプリ上で行われた寄付活動(取引)は、ブロックチェーン技術により管理され、日ごとにどのブランドからどれだけの「Rocks」を取得し、どの団体に寄付をしたかなど、すべての履歴を確認することができる。

楽しみながら社会を変えるデジタルコミュニティ

また、消費者はデジタル通貨である「Rocks」でイベントやパーティーのチケットを購入したり、プロモーションコード(ディスカウントコード)を取得することもできる。その場合、イベント主催者やチケット販売のプラットフォームが、非営利団体を選んで寄付を行うことになる。つまり、消費者は仮想通貨で催しなどを楽しみながら、社会貢献に参加ができる。

なお、アカウント作成にあたり利用料金はかからず、クレジットカード情報の登録も必要ない。同社は「WhatRocksは社会を変えるために資金を提供するデジタルコミュニティ」と自らを位置づけ、友人を紹介したり、イベントの様子をSNSでシェアするなどコミュニティの成長や成功に貢献した際は、ボーナストークンがもらえる特典も用意している。

この仕組みを軌道に乗せるには、多くのブランドがオンラン広告で「WhatRocks」のラベルを表示させる必要がある。ロレアルのようなグローバル企業が先立って導入することは、スタートアップの信用力を飛躍的に高められると考えられ、国際的な普及の加速が期待される。社会貢献につながるデジタル広告は、新しいユーザー体験の創造でもあり、ブランドが消費者の共感を得て、より身近な存在となるきっかけにもなるだろう。

■リモート植林により温暖化緩和を目指すデジタルプラットフォーム

2社目は個人や企業が排出した二酸化炭素(CO2)を遠隔で植林することで、カーボンオフセットサービスを行うスペインのReforestumだ。

同社によると、1960年〜2017年の間に人類は3,350億トンのCO2を放出、800万平方キロメートルの熱帯雨林を伐採しており、温室効果ガスの放出や森林伐採が地球温暖化につながっているという。パリ協定の採択以来、世界各国の政府や企業が今まで以上に気候変動対策に取り組むことを求められており、炭素排出に価格をかすことでCO2排出削減を促すカーボンマーケット(炭素市場)やカーボンプライシング(炭素価格付け)を含め、脱炭素社会に向けた施策に注目が集まっている。

Reforestumはリモート植林によりカーボンニュートラル(排出するCO2と吸収されるCO2が同量)にすることで、地球温暖化のインパクトを減らすことを目的としたスタートアップだ。

同社のデジタルプラットフォーム上では、個人や企業が自分の「森」を創り、日常生活の中で放出したカーボンフットプリント(CO2量)に応じてカーボンクレジット(CO2吸収量クレジット)を購入し、その資金を植林に利用することで、カーボンオフセットができる。つまり、森の復元を助けることで、気候変動を食い止める試みだ。

プラットフォーム上で自分の「森」を創り、植林に参加するには、「使用したい予算」、「日常生活で排出するCO2量」、「森の表面積」の3つのオプションから選ぶことができる。現在、支援対象になっている森は、ペルー、インドネシア、スペインの3エリアだ。

日常生活におけるCO2排出量の目安を把握したい場合は、プラットフォーム上でシミュレーションができる。移動手段では飛行機、自動車、公共交通機関、バイクなどを選択、食べ物の場合は肉を食べる頻度などいくつかの条件を選択すると、すぐに数値(kg)が算出される。

図1

出典:Reforestumのウェブサイト

たとえば、飛行機のエコノミークラスで大陸をまたぐフライトを往復した場合、一人あたり2,860kgのCO2が排出される。このCO2量をオフセットするには、スペインの森であれば48.26ユーロ(約5,900円)で16.09平方メートル分、インドネシアとペルーの森では、ともに27.03ユーロ(約3,300円)で2.86VCUsのカーボンクレジットを購入する必要があると算出される。ユーザーはカーボンニュートラルに必要な金額を支払うことで、森の再生を助けることができる。

AI技術とリモートセンシングで、カーボンマーケットの透明性と信頼性を高める

同社では、吸収されたCO2量を定めて監視するために、衛星やレーダー画像といったリモートセンシングを分析できるディープラーニングモデルを使用した独自のツール(MRV)を用いて検証を行っている。同社は2020年4月からマイクロソフトのスタートアップ支援プログラムにも参加しており、「AI for Earth」の助成金を得て、この検証を加速させている。

Reforestumのサービスに参加する個人は、プラットフォーム上で、AI分析した衛星画像とともに、自分がどの森で、いつ、どれだけのCO2を相殺したかをトラッキングでき、植林によって復元された森の面積、現地で生み出された雇用など、自分が地域に与えたインパクトを確認できる。また、SNSやコミュニティ内で自分の環境保護活動を発信したり、実際に支援する森を訪れることも可能だという。

企業はReforestumとパートナーシップを結び、支援する森が回復していく進捗を顧客やメディアに公開して、SDGsの取り組みを印象づけることもできる。

また、同サービスは、Althelia Climate Fundからインパクト投資を受けて森林保護プロジェクトを推進する「Ecosphere+」とともに運営されている。ロレアルは2019年にEcosphere+とパートナーシップを結んでおり、2020年にはESG投資運用専業のMirovaを通して、インドネシアのプロジェクトに5,000万ユーロ(約62億円)を投入している。

ReforestumとEcosphere+は、すでに40社のコーポレートパートナーがいるが、2025年までに200社以上と契約を結ぶことを目標としている。また、Reforestumが「Beauty Tech for Good Challenge」に採択されたことで、ロレアル傘下のブランドの消費者の意識を高め、個人を巻き込む可能性にも期待する。

2020年1月末に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)のイニシアチブで、2030年までに世界で1兆本の樹木を保全、再生、育成するグローバルな取り組みを支援する1t.orgが発足した。同組織がデジタルプラットフォームUpLinkと9月に開催した「Trillion Trees Challenge(一兆本の植林チャレンジ)」では、ReforestumとEcosphere+の共同プロジェクトが、250の応募プロジェクトのなかから、受賞3社のうちの1社に選ばれ、国際的な存在感を高めている。

植林は気候変動対策の1つであるが、森を復元することは動物の生息地や生物多様性の保全にもつながる。Reforestumのデジタルプラットフォームは、個人や企業がカーボンニュートラルするだけでなく、日常生活のなかで「大気中に放出するCO2の量を削減する」という根本的な意識向上にも役立つだろう。

■化学的なリサイクルプラスチックで目指す、持続可能な循環型経済

3社目は、廃棄プラスチックを化学的にリサイクルするスイスのDePolyだ。同社はスイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFLからスピンオフしたアーリーステージのスタートアップで、低コスト&低エネルギーの独自メソッドで、石油への依存を減らし、持続可能な循環型経済の実現を目指す。

一般的なプラスチックは、石油を化学的に合成した合成樹脂だ。近年、廃棄プラスチックのリサイクルが進みつつあるものの、汚れの洗浄の必要性や、ほかのプラスチック(合成樹脂)や繊維などが混ざっているため選別が難しいなど、再利用するための作業が複雑で手間がかかる。そのためか、毎年5,600万トンのPETプラスチックが製造されているが、リサイクルされているのはたった9%とされ、大多数が埋め立てゴミ処理場か焼却場に運ばれている状況だという。

こうした事情により、今までは着色プラスチック、多層繊維、ポリエステル繊維はリサイクルされていなかったが、同社はそれらを含めたすべてのPETプラスチックを、常温常圧で、PET樹脂の主要原材料である2つの化学成分「テレフタル酸(TPA)」と「モノエチリングリコール(MEG)」に解重合(単量体に分解)して組成変換するとしている。

同社の生産プロセスで画期的なのは、廃棄プラスチックにポリプロピレン(PP)やポリ塩化ビニル(PVC)のようなほかの合成樹脂が混ざっていても、PET樹脂だけを取り出して処理することができる点だ。この技術は、現在、同社しか持っていないという。

このようにして作られた同社の原材料を活用することで、廃棄プラスチックからリサイクルPETプラスチックを生産し続けることができる。熱や圧力を加えず組成変換ができ、選別にもそれほど手がかからないため、リサイクルにかかるコストが抑えられ、かつCO2排出量、エネルギー消費量も削減できる。

前述した「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」では、「2030年までに、ロレアル製品のパッケージに使用されるプラスチックを、リサイクルもしくはバイオベースに100%切り替える」ことが目標の1つに掲げられている。DePolyのソリューションは、まさにこの目標達成に貢献しうるイノベーションといえる。

図1

プラスチック1トンを
同社がリサイクルすると、
ロンドン〜NY間を10名が飛行、
あるいは自動車で世界一周する
エネルギーを節約できる
出典:DePolyのウェブサイト

同社は、2020年9月に、最も有望なスイスのスタートアップ100に選出されたほか、10月には国際的なアクセラレーションプログラムMass Challenge Switzerland 2020で、ファイナリスト12企業に残ってプラチナ賞を受賞しており、今後のスケールアップが期待される。

SDGsへの強いコミットメントとESG経営の加速

第1回「Beauty Tech for Good Challenge」で選出された3社は、いずれも先見性のあるビジネスで、ロレアルが目指すビューティの未来構想に関与が期待できるとされる。

同社 CDO ルボミラ・ロシェ(Lubomira Rochet)氏は「連帯を促す広告、カーボンフットプリント、プラスチックのリサイクルの領域における革新的なプロジェクトをもつ3企業、WhatRocks、Reforestum、DePolyは、より持続可能で、責任のある、インクルーシブな未来のためのソリューションを提案する。私たちはこの3社をStation Fにおける支援プログラムに迎え、ロレアル傘下のブランドと、またロレアルのエコシステムのなかで共に働きながら、彼らのビジネスの成長を加速し、ビジビリティを高める手助けができることを嬉しく思う」と述べている。

これら3社のスタートアップは、2021年度のVivaTechへの参加が約束されており、その時点で、ロレアルあるいは傘下のブランドと進めるであろう協働プロジェクトについて、具体的な内容が発表される可能性も高い。

グローバル企業のトップ、投資家、テック関係者などが集まるVivaTechの場で、スタートアップとも持続可能な取り組みを進める姿勢を打ち出していくロレアルからは、美容業界におけるESG経営のリーディングカンパニーとして、徹底した透明性と「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」で掲げた目標達成への強いコミットメントが感じられる。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image : L'Oréal

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