見出し画像

IPSY、世界最大の美容サブスクとして独走の背景にあるファンとアルゴリズム

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

米ビューティ・サブスクリプションのIPSYが、充実したコミュニティプラットフォームと、独自のアルゴリズムによるパーソナライズした購買体験を提供することで、業績を大きく伸ばしている。さらには、初の自社ビューティブランドのローンチを発表し、ビジネスモデルの拡張にも抜かりはない。ひとり勝ちと称されるIPSYの新たな戦略と、その背景にある哲学を考察する。

IPSYは、カリスマメイクアップアーティスト、ミシェル・ファン(Michelle  Phan)氏が2011年に創業した、ビューティボックス・サブスクリプションとECサイトを運営する企業である。急速に成長を続け、現在は月間300万人を超えるアクティブ会員数を誇る世界最大の美容系サブスクリプションサービスとなった。その収益は5億ドル以上で、美容以外の業界を含めても、サブスクリプションとしてはアリババ、アマゾンに次ぐ世界で3番目に大きなサービスだ。

そんなIPSYの強さの基盤は、他社のサブスクリプションサービスとは一線を画す充実したコミュニティプラットフォームと、膨大な顧客データを駆使して会員それぞれにパーソナライズした購買体験を提供するところにある。 2019年9月26日には、その基盤を強化する革新的な戦略を発表。続く11月には自社オリジナルのビューティブランドComplex Cultureを立ち上げ、第1弾の商品ラインナップを明らかにした。IPSYが打ち出す新たな動きを順に追いながら、彼らが目指すものを探っていこう。

好調な新サービスで客単価がアップ

ビジネスの柱となるビューティボックス・サブスクリプション「グラムバッグ(The Glam Bag)」は、月額10ドル(現在は12ドル・約1,300円))で、約50ドル(約5,500円)相当のさまざまなコスメサンプルを詰め合わせたポーチが毎月送られてくるという仕組みでスタートした。

画像1

グラムバッグ 
撮影:東リカ

2018年8月には、サンプルではなくフルサイズを求める会員の声を反映して、月額25ドル(約2,700円)で約120ドル(約13,100円)相当の製品が5つ送られてくる新サブスクリプションサービス、「グラムバッグ・プラス(The Glam Bag Plus)」が誕生し、好評を得た。

今年2019年はさらに、愛を込めて“beauty-obsessed(美容オタク)”と呼ばれる会員に向けて、月額50ドル(約5,500円)で約250ドル(約27,300円)相当の製品が12個送られてくる「グラムバッグ・アルティメート(The Glam Bag Ultimate)」も登場した。

月10ドルというトライしやすい当初の価格に比べて付加価値をつけたコースは客単価も上がると思われ、ビジネスの好調ぶりがうかがわれる。これは、ブランドの製品キュレーションを信頼するファンベースが十分に強固なものになった証明ともいえるだろう。

インフルエンサーが牽引、自己肯定と連帯感を創出するイベント

IPSYがこのように会員の信頼を得ることができた勝因の1つは、動画を通して会員たちとパーソナルなレベルで繋がるクリエイター(契約インフルエンサー)を育ててきた点にある。個性的で、魅力的なクリエイターたちが、会員に商品の使い方を指南するのはもちろん、自分自身を受け入れることや自己表現の素晴らしさを啓蒙してきたことで、IPSYコミュニティは会員たちの「居場所」として受け入れられたのである。

また、IPSYは、オンライン・コミュニティを美容フェス・イベント「ipsy Gen Beauty」という形でリアルの場に出現させることで、ブランドと顧客のダイレクトな接点を提供するとともに、コミュニティとしての連帯を深めてきた。

ipsy Gen Beautyは2013年にスタートしたが、2019年10月12日・13日のニューヨークでの開催時には、新フォーマットのフラッグシップイベント「IPSY Live」へと生まれ変わり、注目を集めた

IPSY Liveは、これまでのイベント同様、参加者が最新美容ブランドや商品に触れたり、日頃動画で視聴しているお気に入りのクリエイターとナマで交流できる、美容の世界に没入する体験を提供。そして同時にIPSYの「Discover Yourself(自己発見)」キャンペーンを体現する場でもあった

会場では、長年にわたりごく一部の業界人たちによって定義されてきた「美の規定」の範囲を大きく押し拡げる、人種、性別、体型など、さまざまな面で非常に多様なIPSYブランド・アンバサダーたちが、自己肯定そして自己表現ができるように参加者を導くのだ。

IPSY Live NYCに参加した
ユーチューバーのレポート

ブランド・アンバサダーの顔ぶれには、たとえば、既存の音楽業界に挑戦する会社「ビューティー・マークス・エンターテイメント」を立ち上げ、最新アルバム「ビューティー・マークス」で、リスナーにも自身を愛するよう勇気づけるメッセージを送るグラミー受賞アーティスト、シアラ(Ciara)氏がいる。

そのほか、ファッション業界におけるプラスサイズ体型の立ち位置に革命を起こす活動家で、プラスサイズ・ファッションブランド 「Premme」の共同創業者、ガビ・フレッシュ(Gabi Fresh)氏。また、17歳でジェンダー・フルイッドなコスメブランド「Formula Z」の共同創業者兼CEOとして活躍するザック・ディッシンジャー(Zack Dishinger)氏など、従来のステレオタイプな美しさの感じ方や定義に挑戦するそうそうたるラインナップだ。

また、このニューヨークでのイベントは、超人気ユーチューバーでLGBTs活動家のジジ・ゴージャス(Gigi Gorgeous)氏とIPSYのコスメラインでのコラボが発表された直後に開催されたもので、参加者は、ジジ氏がクリエイトしたカラフルな限定コスメがマーケットに出回る前に、いち早く見ることもできた。

ジジ・ゴージャス

ジジ・ゴージャス氏
出典:IPSY公式サイト 

IPSYのチーフ・ブランドオフィサーのジェナ・ハバイブ(Jenna Habayeb)氏は、TV番組「グッド・モーニング・アメリカ」に「IPSYの核は、自己表現と自己発見に尽きる。だから、常にこのミッションを体現する人とのパートナーシップを大切にしている。ジジは、現在最も表現力のあるクリエイターの1人だと思う」と語った。IPSY Liveの参加者は、堂々と自分らしさを表現して成功をおさめているセレブたちを目の当たりにすることで、多大なる刺激を受けるに違いない。

パーソナライズするためのアルゴリズムの強化

IPSYが提唱する「伝統的な美しさの型に嵌まるのではなく、自分らしい美を追求するのが大切」という考え方は、会員それぞれの購買体験をパーソナライズすることにもつながっている。

このパーソナライズの精度をより高めるためにも、IPSYは次の一手を打っている。それは、更なるデータの供給源を開拓し、IPSYの基盤となる商品とユーザーのマッチング・システム「IPSY Match」の学習アルゴリズムを強化したことだ。

IPSY Matchがグラムバッグをパーソナライズする基本的な流れは、まず、新会員が申し込み時に必ず回答するビューティ・クイズのデータを既存データに照らし合わせて、各自のプロフィールに適した商品を詰め合わせることにはじまる。そして、会員は届いた商品のレビューを行うことで、次回以降の商品選出に使われるさらなるデータを提供。つまり、サブスクリプションボックスを受け取る回数を重ねるごとに、各自のグラムバッグのパーソナライズ化が深化する仕組みだ。

とはいえ、IPSY Matchは、各自のプロフィールに沿った商品だけを選ぶわけではない。なぜなら、それだけではサブスクリプションボックスの大きな魅力の1つである“驚きや発見”をユーザーに与えることができないからだ。その個人が受け入れられる範囲での意外性というバランスを提供するには、高度な解析テクノロジーはもちろん、セレンディピティでさえもパーソナライズするための膨大なデータが必要とされる。

その対応策の1つとして、今回、ビューティ・クイズが会員の要望に応える形で拡大された。たとえば、口紅、リキッドリップ、リップグロス、リッププラマー、リップライナーというかなり細かいカテゴリーごとの商品のどれに興味があるかや、リップでも赤、ベリー、ニュートラル、冒険という色ごとの商品を、「頻繁に・時々・たまに」など、どのくらいの頻度で欲しいかを問う質問が加わっている。

また、2019年10月のグラムバッグから、会員がポーチとともに各月に受け取る商品のうちの1つを、自らの好みで選べるようになった。加えて、サンプル(各3ドル)もしくはフルサイズの製品(各12ドル)を5つまで、送料無料で追加購入も可能にした。

これらの変更により、会員が希望するサービスを提供するとともに、IPSYはそれぞれの嗜好を知るための格好のデータが入手できるのである。

IPSYの共同創業者兼チェアのジェニファー・ゴールドファーブ(Jennifer Goldfarb)氏は、「私たちが考えるパーソナライゼーションとは、単にユーザーがすでに知っているお気に入りの商品を届けることではない。それぞれのニーズやまだ欲しいと気がついていないものを予想して届けることこそが、真のパーソナライゼーションだと考えている。IPSYでは、会員の購買体験を本当の意味でパーソナライズ化し、会員を感激させられるように、フィードバックの一つひとつ、入手できる全てのデータを活用している」と語っている。

「IPSY Match」は、より細かい個人の嗜好データと、すでに1億6,000万を超え、なお増え続ける商品レビューデータを使って学習を重ねることで、300万人超の会員一人ひとりを満足させる商品の傾向を導き出していくものなのだ。

会員の声をもとに開発した初の自社ブランドを発表

加えてIPSYはついに、新設したIPSY Labによる初めての自社開発のビューティブランドComplex Culture を発表し、最初の商品ラインナップとして、ヴィーガン&クルエルティフリーのメイクアップブラシ8本をリリースした。

画像3

Complex Culture
出典:IPSY公式サイト

世の中にはすでにたくさんのメイクアップブラシがあり、IPSYはそのなかから適切な商品を会員に送付すればよいところを、なぜあえて自社製品を創ったのか。こうした疑問に答えてIPSYは、ブラシに関して「どうやって使えばいいのか」「自分に合うものがわからない」という会員からの相談が数多く寄せられていることをあげ、「シンプルで使いやすいブラシを提案することで、会員の悩みを解消してより豊かな購買体験をつくる」として、あくまでも会員の実感が商品開発のもとになっていると強調する。

ここでも、顧客を理解し、その要望に応えるために、サブスクリプションビジネスの宝ともいえる商品レビューデータが活用されているわけだ。

IPSYは来年以降、Complex Cultureの商品レンジの拡充のほか、新たなブランドの立ち上げも考えているとする。

成長のヒントは全てサブスクライバーが教えてくれる

このように、IPSYでは、より多くの会員の声を聞くことで、一人ひとりに応えてパーソナライズされたサービスを提供できる。それにより会員のロイヤリティが向上し、客単価が上がると同時に、新たな会員も増えるという好循環を、テクノロジーを駆使することで実現している。

IPSYの共同創業者兼CEOのマルセロ・キャンベロス(Marcelo Camberos)氏が、2019年9月26日のプレスリリース(PR Newswire)で「IPSYをスタートしたとき、個人が自由にアイディアを交換し、交流できるようなプラットフォームを提供したいと思った。それは、言い換えれば、権威的な美容業界を民主化して、一部の人だけではなく、みんながパワー持つようにバランスを変更するということだ。IPSYは、コミュニティの声に耳を傾け、彼らから学び、彼らにインスピレーションを得た新しいIPSYならではのサービスを発表することを、とても誇りに思っている」と宣言している。新しく発表されたサービスも全て、コミュニティと真摯に向き合うことからアイディアを得ているというのだ。

月間2,500万人を超える参加がある熱いコミュニティや、これまで蓄積した1億6,000万件以上の製品レビューに加え、毎月5億以上のコンテンツビューといったデータが、そして、築き上げた運営側とユーザーの信頼関係が、IPSYの進む道を示してくれるのは間違いない。

Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image: 撮影 東リカ

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
13
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp