ロレアルなど「光老化」の理解を進めUVケアの日常使いを促進【海外トレンド 2024年3月-4月】
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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、太陽光線を浴びることで生じる光老化と、その予防策である光防御への理解を広める活動に伴い、化粧品業界全体で起きている日常的な日焼け止めの使用を訴える気運についてレポートする。
ロレアル リサーチ&イノベーションが提唱、プロテクションとしての日焼け止めの重要性
★注目ポイント
紫外線がもたらす肌への悪影響に対する認知が広がり、世界的にも日焼け止めをデイリーに使う人が増えている。だが、10代から高齢者までの幅広い層を対象にした統計からは、日焼け止めを使用しない人がいまだに相当数いることが浮かび上がる。太陽光による光老化やがんの誘発のメカニズムが科学的に解明されるなか、2023年皮膚がんの一種メラノーマの発症数が過去最高となった英国など、欧米を中心に光防御として毎日の日焼け止めの利用を勧めるメッセージが強まっている。
老化やがんの原因にもなりうる紫外線が肌に与える悪影響については、消費者にも広く知れわたり、毎日のケアの一環として日焼け止め(皮膚を紫外線から守る効果をうたう製品)を使用することは一般的になりつつあるようにみえる。皮膚科医や美容臨床医、ビューティブランドなどが日常的なUVケアの実践を強く勧めるメッセージを発信するなか、TikTokでは「#sunscreenisimportant」は累計で7億2,000万超のビュー(2024年4月20日現在)を集めている。
だが一方で、幅広い年代や性別を対象にした調査では、とくに北半球の緯度の高い国においては、太陽の出る時間が短く紫外線の少ない冬場や屋内ではUVケアは必要ないと考える人が一定数いるとされる。英国のチャリティ団体Melanoma(メラノーマ:がんの一種の悪性黒色腫)Focusによると、英国の成人の32%は年に1回も日焼け止めを使わないといい、常に使っている人は11%で、男性に限ると8%に低下する。
こうした現状を受け、太陽光線を長時間、無防備に浴びるとおきる肌の「光老化」への理解を進め、日焼け止めを適切に使用して「光防御(フォトプロテクション)」をする習慣を根付かせることを目的にした活動が活発化している。ロレアル リサーチ&イノベーション ジャパンが2024年4月17日、東京で開催した「ロレアル フォトプロテクション シンポジウム2024」もその1つだ。
同シンポジウムでは、光老化とは加齢による自然老化とは異なり、太陽光中の紫外線に当たることによって生じる肌の変化で、慢性の紫外線障害ともいわれ、肌は厚くなり、深く大きなシワや色が濃く大きなシミ、目の下やアゴの周りのたるみなどが現れてくる原因になっていると説明。また、ロレアルの研究では、肌に現れる加齢徴候のうちの約80%が光老化によるものと算出されている。
シンポジウムではまた、世界と同様に日本でも日焼け止めの重要性への認識はまだ改善の余地があることが、特定非営利活動法人 皮膚の健康研究機構が運営する光老化啓発プロジェクト委員会の調査をもとに示された。それによると、光老化や日焼け止めの性能を示す「SPF」や「PA」という言葉についての認知度は高くなく、全体としては、光老化という言葉を聞いたことがないという回答は約8割、SPFやPAについても半数以上が聞いたことがないと回答している。日焼け止めを日常的に使用する人は女性で25%弱、使用したことがない人は男性で70%、女性でも17%程度いる。
シンポジウムの登壇者の1人、ロレアル リサーチ&イノベーション フランス アドバンスドリサーチ フォトプロテクション グローバルリーダー フランソワーズ・ベルネール(Françoise Bernerd)氏は、光防御研究のパイオニアを自負するロレアルが培ってきた知見と最新の研究結果にもとづき、人体に与える太陽光の影響とその防御策について説明した。
ベルネール氏はまず、紫外線のうちUVCのほとんどがオゾン層で吸収されるのに対し、表皮層まで達するUVBは5%、真皮層まで届くUVA-1とUVA-2はあわせて95%が肌に浸透すると示す。
そして、このUVAが光老化という皮膚内部の変化を引き起こすことを、トラック運転手という職業柄、長年にわたり顔の左半分により多くの太陽光を浴び続けてきた結果、左側にのみ深いシワとたるみが生じた男性の例をもとに示した。さらにUVBとUVAによる日焼けに伴う色素沈着はケラチノサイトのDNAの損傷につながり、このDNAのダメージにより形成されたCPD(Cyclobutane Pyrimidine Dimer シクロブタンピリミジンダイマー)の蓄積ががんの発生に影響することが明らかになったとする。
ロレアルでは、こうした遺伝子レベルで人体に影響を及ぼす紫外線に対する防御策として、UVAによる色素沈着を防ぐ成分MEXORYL 400を開発し2023年には製品への応用を果たした。加えて、可視光線による色素沈着にも目を向け、実験の結果、ピグメントを配合したサンスクリーンが有効であるとしている。これらのことから、UVBへの防御機能を示すSPF表示の製品で日焼けを、UVAへの防御機能を示すPA表示の製品で光老化を、それぞれ防ぎつつ、可視光線にも配慮したマルチな光防御を日常的に行うことが必要とロレアルは結論づけている。
光防御に加えて、肌の改善や環境配慮を実現する日焼け止め製品
肌の光老化を防ぐ役割を持つ日焼け止めを毎日使用してもらうためには、光防御の能力はもとより、使い心地や、肌をより良くする効果などプラスアルファの機能性、サステナブルな取り組みといった、ユーザーが使いたいと思うような動機づけがある製品づくりが求められる。
科学的に証明されたクリニカルグレード(臨床レベル)品質をうたう米スキンケアブランドImage Skincareは、2003年の創業当時から毎日使用できるサンケア製品を提案してきた。同社はEPA(米国環境保護庁)やSkin Cancer Foundationの調査を引用し、目にみえる肌の老化の90%は太陽光に由来し、また毎日日焼け止めを使うのは米国人の11%でしかないとして、2024年4月、日々の光老化対策として新日焼け止めコレクション「DAILY PREVENTION」シリーズを、同社が進出している北米およびヨーロッパ市場で発売した。Image Skincare製品は自社ECサイトのほか、一部クリニックやメディカルスパで取り扱われている。
同コレクションは、幅広い肌トーンに対応するティントをラインナップし、サンスクリーンフィルターに加えて、それぞれの肌トーンに求められるアンチエイジング成分や水分補給成分、赤みを抑える成分を配合した5種類のモイスチャライザーと、保湿ミストの6製品で構成されている。
Image Skincareは、米国皮膚科学会の総会や美容医療の国際医学会の大会などにブースを出展するほか、俳優ミーガン・フォックス氏のメイクアップアーティスト、ジェナ・クリスティーナ(Jenna Kristina)氏とスポンサーシップを結ぶなどして、新製品のプロモーションを展開している。
また、100%UVケアに特化している最初で唯一のプレステージビューティブランドを称する米Supergoop!は、元教師の創業者が、生徒たちの健康を守るために米テキサス州の学校に無料の日焼け止めクリームポンプを設置するプロジェクトを始めたことから生まれた企業だ。全ての肌タイプと肌トーン、大人から子供まで異なる生活習慣に対応するため、アイシャドウやリップカラーを含む40以上のUVケア製品を揃えている。
シグネチャーの「Supergoop! Unseen Sunscreen」は、オイルフリーのまるで塗っていないかのような肌なじみのよい軽い処方が特徴で、紫外線吸収剤や防腐剤、香料を含まず、クルエルティフリーで100%ヴィーガンとしている。あわせて梱包箱と梱包材は100%リサイクル可能とするほか、日焼け止めに含まれる化学物質が水中に溶け出しサンゴに吸収されることで、その繁殖や成長サイクルが乱されるという環境課題に配慮し、サンゴ礁にとって安全な成分のみを使用するリーフセーフ(reef safe)処方であるとうたう。
パパイヤを主原料にヒマシ油、アロエベラ、オリーブオイルで構成された、唇、肌、髪に使用できるマルチタスクバームで知られる、英クリーンビューティブランドDr.PAWPAWから新登場したSPF50のデイクリームを含む全9種類の「YOUR gorgeous SKIN」シリーズもリーフセーフ認証を受けている。
同シリーズはヴィーガン、クルエルティフリーで、パラベン、グルテン、アレルゲン、フタル酸エステルを含まず、無香料の処方とし、容器は大豆インクで印字したリサイクルプラスチック42%のチューブとFSC承認の紙から作られた外箱で100%リサイクル可能とされる。シートマスクは100%生分解性で、持続可能で倫理的に調達された成分で作られている。
光老化やがんの誘発など紫外線の悪影響が科学的に明らかにされているなかで、日本では、日常的に日焼け止めを使用する啓発がかなり進んでいるが、これまで日焼けを気にしない、あるいはポジティブにとらえていた国や地域も含め、化粧品業界はシンプルで一貫したメッセージを発信しはじめている。すなわち「あとで後悔するよりも、“安全”を選んで予防のための日焼け止めを使おう。では、どんなときに使うのか?夏だけ?屋外?それをいちいち考えるより、日焼け止めを毎日の習慣にしてしまうほうが簡単だ」という呼びかけだ。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: ロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン