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その動画広告は作り手全員が楽しいのか? デジタル時代のUUUMの法則

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動画プラットフォームでオリジナル動画を配信し、視聴数を稼ぐクリエイター。自身の趣味や得意としていることなどの「日常」を配信するクリエイターが多いが、最近では彼らの活躍に注目した企業とのタイアップ企画も増えている。驚くのがこうしたいわゆる「広告動画」が、とくに拡散施策をせずとも日常動画の再生回数を上回るケースがあることだ。

前回は、動画広告に力をいれるクラシエの事例を紹介した。では、制作側として、こうした見られる動画広告を生み出す秘訣はあるのだろうか。人気クリエイターと企業とのタイアップ動画制作を数多く手がけるUUUM株式会社(本社:東京都港区)の、バディ・プランニングユニット 執行役員/バディ・プランニング担当、市川義典氏に話を聞いた。

HIKAKIN、はじめしゃちょーなど人気クリエイターが多数所属

HIKAKINさん、はじめしゃちょーさん、佐々木あさひさんといった人気クリエイターを始め、5,000以上のYouTubeチャンネルに対するマネジメントや動画制作サポート、またクリエイターの感性とクリエイティブを活かしたプロモーションプランの提供などを行うUUUM。

YouTube FanFestで発表された「国内年間トップトレンド動画(音楽動画を除く) 2017」TOP10のうち、2位~10位までをUUUM専属クリエイターの作品が占める(ちなみに1位は登美丘高校ダンス部のバブリーダンスPV)など、2013年の創業以来、数多くの人気動画を輩出してきた。

画像:2位〜10位がUUUM専属クリエイターによる動画

同ランキングには、1年で1,950万回再生を突破したソフトバンクが2位にランクイン。

ソフトバンクとのタイアップ動画

また、ランクインこそしていないが、下記のタカラトミーの動画広告は950万回を超える。

企業タイアップ動画が、万人受けしやすい日常動画を抑えて上位にランクインするというのは、以前の広告視点で考えるとにわかには信じ難いが、これはどういうことなのだろうか。

UUUMの執行役員・市川義典氏は数多くのセミナーに登壇するが、そのたびに必ずといっていいほど聞かれるのが「企業とのタイアップ動画は日常の動画に比べて見られないのではないか?」という質問だという。この質問に対する市川氏の答えは決まって「NO」だ。「ファンやクリエイターのカラーが分かっていれば、企業とご一緒させていただいたタイアップ動画の方が(再生回数が)伸びる」。ブーストなどの拡散施策なしで、だ。

従来の動画を使った広告といえば、タレントや企業が商品の特徴を説明するスタイルが定番だった。しかし、クリエイターが作るタイアップ動画はひと味違う。彼らは日頃から自身の強みを活かした動画を配信しファンの心を掴んでいるので、たとえそれが企業タイアップになったとしても、「どうしたらファンに喜んでもらえるか」ポイントを抑えた面白い動画を作れるのだ。そしてそれがヒットを生む。

市川氏は、「視聴者が増え、求められるコンテンツの幅も広がってきた。斬新さは残さなければいけないが、タイアップだからといって日頃クリエイターが配信している日常動画とあまりかけ離れたものでもいけない」と、クリエイターとのタイアップ動画に必要な要件を説明する。なぜならファンは、自分の好きなクリエイターが手がけた作品だからこそ、タイアップ動画も見たいと思うからだ。

クリエイターとの動画が「広告でも」見られる理由

こうしたクリエイターとファンとの関係こそが、ウェブを活用した動画広告の強みと言えるだろう。市川氏は、動画広告には3つの特徴があると指摘する。

1つめは、視聴態度だ。市川氏はテレビとウェブ動画は別物で、「比較対象ではない」とした上で、テレビは「受動型」だが、クリエイターの動画は視聴者が自分で見たい番組を探して見に行く「能動型」の媒体だと説明する。つまり、それぞれ受け取り方が全く違うということだ。クリエイターの動画は能動型ゆえに、潜在顧客層の態度変容(ex.買いたい)が起こりやすい媒体と言える。下記の2つの動画はフローフシのタイアップ動画事例だ。

画像:上記のタイアップ動画で商品を視聴後に購入した割合は6.3%

こちらの化粧品タイアップ例では商品を買った割合は13.1%

見せ方と視聴者との距離感も決め手

2つめは、動画ならではの見せ方。例えばカメラを宣伝したいとき、このカメラの機能は◯◯で……とテキストで表現するよりも、このように撮影したらこんな写真になると動画で紹介された方が、視聴者にとっては「自分ゴト化」しやすく、結果的に買いたい、欲しいとなる。しかもそれを、ファンが喜ぶコンテンツを日々研究し、ツボを抑えているクリエイターが訴求するのだから、なおさらだ。

3つめは、クリエイターと視聴者との距離感。従来から存在する「クチコミマーケティング」や「CGMマーケティング」などでも言われているとおり、一般的に、消費者は知人や友人から紹介された方が、購入意欲が高まる傾向にある。視聴者層のメインである10〜30代前半の彼らにとって、クリエイターは直接面識がないとはいえ、実際の友だちのように近い存在だ。身近な存在であるクリエイターが紹介した商品や場所だからこそ、視聴者はそれらに興味を持つ。動画を通じて、自分が疑似体験をしている感覚になるのだ。この距離感の近さが、動画広告最大の強みである。

最近では、広告用に制作した動画を1分に縮めて、店頭POPとして配信する取り組みも増えているという。日頃自分たちが好んで見ているクリエイターの動画が、たまたま入った店先で放映されていたら、思わず足を止めて見入ってしまう。こうした良い流れができているようだ。

UUUM社員が「編集者」で、クリエイターが「漫画家」のような関係

動画広告の場合、企画や脚本は誰が考えるのだろうか。市川氏によると、「クリエイターだけのときもあれば、広告会社やUUUMのクリエイティブディレクターが考えることもある」と、一概には決まっていないらしい。しかし最終的には、クリエイターの了承を取る必要がある。なぜならタイアップ動画の配信先は、彼らが所有するチャンネルだからだ。配信するかしないかの権限は彼らにあるので、彼らが納得しない限り企画は進まない。

興味深いことに、クリエイターの意向からはずれたり、強引に進めた企画は、ファンに受け入れられず再生回数が伸びないという。日頃熱心にクリエイターの動画を見ているファンは、すぐに「無理させられている」ことを見抜くからだ。一方、「作らされている」ことが明白でも、クリエイターのモチベーションが高く楽しんでいる状態であれば、それはそれで「やらされている感」を見抜きつつも、「こんな提供だったら毎回見たい」というポジティブなコメントがつくなど、喜んで受け入れてもらえる。

画像:クラシエホームプロダクツとのタイアップ動画。「フォント」一つにも徹底的にこだわる。下の画像のフォントはシリアスな場面で明朝体でもよいのではという社内の声があったが、クリエイターの動画に馴染みのある字体の方がいいのではという議論でこのフォントが採用された。


データだけでは実現しない「キャスティング力」

YouTubeの場合は視聴数がダイレクトに数字になって現れるため、その動画が受け入れられたのか、そうじゃないのかはひと目で分かる。数多くヒット動画を作ってきた市川氏に、「UUUM流のヒットの法則」はあるのか聞いてみた。

「企業秘密……と言いたいところだが、当社で一番の強みだと自負しているのは、『キャスティング力』だ」(市川氏)。

どういうことか。通常の広告制作の現場ではクリエイターと企業を結びつけるマッチングプラットフォームやキャスティング会社が多数存在するが、その多くは、「データ上で」やり取りをする。多くの場合、「この企業はこういうコンセプトで、こういうKPIで、こんなことを作りたいと思っている」という基本情報をもとに、それならこのクリエイターが適任、と過去のデータを参照しキャスティングを行う。

「これでは多分、キャスティング案がはじけない」(市川氏)。

なぜならクリエイターの興味の対象や、やりたいことは日々変わるからだ。そこに気づけないまま、過去のデータをもとにしたキャスティングで進めてしまうと、今現在のクリエイターの興味関心と合致しないことがある。そうなると、クリエイターのモチベーションを下げ、それがファンに見破られ、再生回数が伸びないという悪循環に陥る可能性が出てくるのだ。

実際数多く動画を手がけてきたなかで、「改善の余地があったものは?」と市川氏に質問すると、「クライアントに『こうしてくれなきゃ困る』と強引に要求されたもの」「公開後に、(クライアントからの要望により)再撮影したもの」という回答が返ってきた。これではクリエイター側のテンションが持たないのだという。当然それはファンも見抜く。

UUUMではそうしたミスマッチを防ぐため、各クリエイターに「担当バディ」をつけ、日頃から徹底的にコミュニケーションを図っている。一人ひとりの性格や経歴はもちろん、彼らがいま何をしたいと思っているのかなど細かな情報も把握することで、企業タイアップの依頼が来たときに適切なキャスティングができ、その結果が再生回数となって表れる。いわば、バディを担当するUUUMの社員が編集者で、クリエイターは漫画家といった密な関係を築くわけだ。

「再生回数を伸ばすには、動画の内容が楽しいことが大切。動画を作るクリエイター、他の動画を多く見てきたUUUMの社員、クライアント、この三者が楽しいと言った動画は再生回数が伸びる」と市川氏は言う。「楽しいポイントはそれぞれ若干違うけれど、三者全員が面白いといったら、それは一般的な“楽しい”になるからだ」。

尺の長さは事前には決めず、撮影と編集の結果で決める

適切な尺の長さについても質問してみた。UUUMでは事前に、何分や何秒という尺を決めないのだという。「編集した結果、この尺になった」というのがUUUMのやり方だ。「明らかに今までのメディアとは編集の仕方が違う」と市川氏は言う。

UUUM株式会社 バディ・プランニングユニット 執行役員/バディ・プランニング担当、市川義典氏

そうはいっても、クライアントからは、「5分以下にしてほしい。そうでないと見られない」といった要望もあるそうだ。しかし以前紹介した、UUUMが手がけたクラシエホームプロダクツの動画広告にしても、10分近くある動画が累計350万回再生を突破しており、5分以下でないと……という前提は必ずしも正解とは言えなさそうだ。

再生回数が伸びるタイアップ動画は、広告素材は加わっているものの、普段のクリエイターのテイストのままなので、多少長くても見てもらえるということだ。逆に強引にカットした方が、「ストーリー展開がおかしい」「ずいぶん割愛している」と、ファンにとってはフラストレーションになる可能性が高い、と市川氏は指摘する。

クリエイターの「素」を活かし、ファンの期待を裏切らないこと。動画広告を成功に導く秘訣は徹底してここにあるようだ。

動画広告はマーケティング上、欠かせない選択肢へ

今後消費の中心となってゆくミレニアル世代、Z世代がこういったクリエイターのファンになり、多大な影響を受けていることを考えると、人気クリエイターを起用した動画広告はマーケティングという観点からはすでにゆるがない選択肢のひとつになりつつあるように思える。

クリエイターは日々ファンとの交流を続けることで、どうしたらファンが喜んでくれるか、元気にできるかを毎日のように熱心に考え続けている。これほど、視聴者ファーストなクリエイターがかつていただろうか。

クリエイターたちは細部にまでこだわりぬき、そのクリエイターたちを生かすのは、敏腕編集者のようなバディたちだ。そしてタイアップ広告でありながら、クライアントは最低限の要望以外は口を出さず、あとはテレビのスポンサーの立ち位置に近いところで見守る。新しい広告の形は、既存メディアのいいところどりにも近いのかもしれない。

Text: 公文紫都(Shidu Kumon)Top image: Jared Sluyter via Unsplash

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