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いま、小売店舗に起きていること(1) - 2020年に旗艦店を開いた理由

リアル店舗こそが事業存続のキーファクターとなる

今回から、本編に入っていきたいと思います。

初回で、なぜ旗艦店「@cosme TOKYO」をオープンしたのかを端的に紹介しました。同店はJR原宿駅のメインの改札を出て、横断歩道を渡った真正面にあり、売場面積・イベントスペース含めて3フロア・600坪もある大型店舗です。運営コストは決して安くはありません。

それでも私たちに迷いがなかったのは、これからの時代、化粧品販売の事業にとって、リアル店舗こそが事業存続の大きなキーファクターになると確信していたからです。そして、これは化粧品販売だけでなく、さまざまなカテゴリーの小売業態にいえることではないかと考えています。それはオープンした直後にパンデミックになっても揺るぎませんでした。

まず、なぜ僕らがリアル店舗の運営に注力しているのか、その背景にある小売店舗が置かれている状況についてお伝えしていきます。

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クチコミで人気が出た商品が店頭に並ばない現実

私たちが最初にリアル店舗を始めたのは、15年前の2007年にさかのぼります。第1号店となる「@cosme STORE」を、ルミネエスト新宿に開店しました。

リアル店舗を持つ最初のきっかけになったのは、ブランドの方に「(オンラインのクチコミサイトである)@cosme上で人気が出ても、全然売れないね」といわれたことです。これには大きな衝撃を受けました。

僕自身が@cosmeというサービスを始めたとき、「ユーザーの声が可視化され蓄積するほど、よりユーザーが支持する商品が多くの店頭に並び、売れるようになる。ブランドがよりユーザーに向き合い、より良い世界になっていくはず」と思っていたからです。

クチコミプラットフォームの@cosmeを始めたのが、1999年。「全然売れないね」と言われたのが、たしか3、4年たった2003年ごろのことだったと思います。当時は、ECを使っている人はいまよりずっと少なかったので、「どうすればオンラインのクチコミの影響がリアル店舗の販売にまでおよぶのか」を考えながら、百貨店や商業施設、直営店などさまざまな店舗に実際に足を運ぶようになりました。

そこでいちばん強く感じたのは、「小売店は『ユーザーが求める人気の商品』だから仕入れているのではなく、『ブランドが売りたい商品』『小売店にとってメリットがある商品』を仕入れている」ということでした。

@cosme STORE ルミネエスト新宿店

リスクをとって@cosmeのリアル店舗を設けた理由

確かに考えてみると、ブランドにとっての最終的なお客様(Consumer)は一般の生活者ですが、実際に営業に行き商品を買ってもらってる(仕入れてもらっている)のは小売店なので、小売店がお客様(Customer)になります。そうすると、ブランドは小売店に対して「自社商品を置いてもらう」ためにさまざまな交渉をするわけですよね。一方で小売店の側は、たくさんのブランドからの提案の中で、自社にとってメリットがあるか、リスクが少ないかといった販売条件を吟味することになる。それらの条件が合って初めて、小売店はブランドの商品を仕入れるわけです。

当然ですが、ユーザーが評価するかどうかは商品が出てからわかるので、商品販売前はその軸では選べません。おのずと条件の良さか、あるいは在庫ロスなどのリスクが少ないかという観点で選ぶしかない。その結果、ブランド側もテレビCMや雑誌広告などの出稿計画をもって、一定量の仕入れを事前に小売店と相談するというプロセスを踏むようになっていました。すると、いつまでたってもユーザーの評価は店頭に反映されないのです。

どうすれば、ユーザーに評価された商品がより多く店頭に並ぶようになるのか。

僕はまず小売店に対し、「@cosmeのデータを使って仕入れをしてはどうか」と提案しました。クチコミの評価が高いものを優先して並べられるので、店の差別化になりますし、何よりユーザーに喜ばれ、信頼される店になると考えたんです。しかし、アイディア自体には興味を示してもらったものの、そのデータにお金を払うことはできない、と判断されてしまいました。

次に考えたのは、小売店の中に@cosmeのコーナーを設けて、そこで評価の高い商品を扱うことです。これも差別化につながり、集客エンジンになるだろうから一緒にやりませんか、と提案したのですが、やはり難しかった。ブランドの商品を仕入れて売る場で、僕らにいわば‟場所貸し”をすると、そこで商品が売れると誰の事業になるのだ、というややこしい問題が持ち上がってしまったのです。

本来なら、小売店には「ユーザーが求める商品が並んでいる」ことがもっとも大事であるはずです。にもかかわらず、その状態を目指すのが現状のビジネス構造だと極めて難しいとよくわかりました。そこで、最終的に自分たちでリスクをとって自社運営店舗「@cosme STORE」を立ち上げることにしたのです。

「店頭フリークエンシー」をいかにあげるのか

「@cosme STORE」は、クチコミで人気の商品をアイスタイル自身が仕入れ、販売している店舗です。現在は国内23店舗、海外にも3店舗を構えています。もちろん、オンラインで事業をしてきた、それも情報を扱っていた企業が初めて実際に「モノ」を販売するリアル店舗を設けるわけですから、スタート直後は本当に紆余曲折がありました。「ユーザーが求める商品を並べる」ことがいかに難しいか、肌身を持って知ってきた経緯があります。

当初は、仕入が難しいアイテムについては自分たちが購入して商品を並べ、そしてそれを販売している近くのお店を紹介したり、売場面積を減らしてでもタッチ&トライの場所を多くとったりということをしてきました。

普通に小売店の視点で考えれば、「近くの競合のお店を紹介している」「商品があるのに買えないのは品切れと一緒」「タッチ&トライの場所よりもひとつでも多くの商品を並べるべきでは」ということで反対の声もありましたが、大事に考えていたのは、「いかに店頭フリークエンシーを上げるか」ということです。

小売店がお客様を集めるためには、チラシを配るか人通りの多いところに出店するのが常ですが、お店自体に一般のお客様がたくさんきてもらえるコンテンツを作るということに注力していました。ここはWebのコミュニティづくりをしてきた思想が根っこにあると思います。

その中で少しずつさまざまなノウハウを蓄積しながら、ブランドの垣根を超えてユーザーが商品を比較できる店、デパートコスメから手ごろなセルフコスメまでを一堂に会した旗艦店を持ちたいと思い描くようになりました。その念願をようやく具現化できたのが、「@cosme TOKYO」だったんです。最初にリアル店舗を始めて、13年目でした。

@cosme TOKYOの店内

@cosme TOKYOは、僕らが理想とする化粧品店舗の原型です。運営しながら試したいこと、より良くしていくアイディアもたくさんありました。奇しくも開店直後からコロナ禍の影響を大きく受けてしまい、客足が遠のく事態に陥りましたが、逆にそれを機にこうしたリスクも含めて「これからのリアル店舗のビジネスがどうあるべきか」をさらに深く考えるようになりました。

集客が難しくなったからといって、多くの人から言われた「閉店したほうがいいのでは」ということは、一切考えませんでした。なぜなら、ECが広がったいまだからこそ、改めて小売ビジネスを再構築することに大きな可能性があると考えているからです。次回はその話をしたいと思います。

次回予告:いま、小売店に起きていること(2) ー「小売DX=EC化」という誤り

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<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。