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アモーレパシフィック「世界で最も革新的な企業」に4年連続ランクインの理由

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「革新的」といわれる理由は、何もテクノロジー活用に積極的なだけではない。大きな組織としてイノベーションをどう生んでいくのかを考え抜き、実践している美容企業のひとつがアモーレパシフィックといえよう。米Forbesの「世界で最も革新的な企業100社」に4年連続でランクイン(2018年は18位)するなど、イノベーティブと評価されるのはなぜか、その強さの秘密を探る。
(※この記事は編集部が連載する『国際商業』2019年9月掲載記事に加筆・編集したものです)

アモーレパシフィックが韓国で展開しているアリタウムというビューティセレクトショップは、同社傘下のブランドだけにこだわらず、他社のトレンドなブランドも扱う。店舗でアプリを通じて商品を探すためのチャットボットを活用するなどデジタライゼーションにも積極的だ。

しかし、同社が真に革新的なのは、一斉を風靡し世界中に広まったクッションファンデーションなどその時代ごとに画期的な商品づくりを行い、また、海外にも縦横無尽に進出するなど、全社でイノベーションを成し遂げられる組織づくりをしている点にある。まずはその歴史からみていこう。

積極的なR&D投資と幅広い製品ラインで韓国トップ企業に

韓国を代表する化粧品企業としては、韓国最大で売上高約4,900億円の同社を筆頭に、売上高3,600億円のLG生活健康などがある。

アモーレパシフィックは、1945年の創業当初は、米コティや資生堂との提携による技術移転で製品開発を行っていたが、1954年に韓国化粧品企業として初の自社研究所を設立し、積極的なR&D投資により、開発した技術を着実に製品化することで成長してきた。

1980年代半ばごろから、輸入の自由化に伴い、海外有名ブランド化粧品が韓国国内市場に流入してきたころ、化粧品市場の成長は鈍化し、韓国内での競争がより一層厳しくなったが、機能性化粧品やエイジング化粧品などの消費者ニーズに即した商品をリリースすることで、国内最大手化粧品メーカーとしてのポジションを確立した。

1990年前半には、ヘルス・ビューティ領域に特化する戦略にシフトし、金融、広告、ファッションなど24社あった系列会社を売却・清算。アジア通貨危機前に本業に特化したことで、厳しい経済状況のなかでも増収を実現した数少ない韓国企業である。1973年に株式公開、2006年に持ち株会社のアモーレパシフィック・グループと、化粧品製造販売を行うアモーレパシフィックに会社分割した。

ブランドポートフォリオは、1990年代に、マス向けのマモンド(MAMONDE)、20代をターゲットにしたラネージュ(LANEIGE)、高価格帯ブランドのヘラ(HERA)、医薬部外品のアイオペ(IOPE)、そして、韓方素材を原料に使用した高級アンチエイジング化粧品のソルファス(Sulwhasoo)など、セグメント別の商品を次々とローンチし、幅広い顧客層の獲得を実現したことで韓国ナンバーワンの化粧品メーカーとなった。

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出典:アモーレパシフィック 公式サイトより
価格帯については編集部調べ

アジア通貨危機以降、世界をターゲットにする韓国企業

韓国の企業は、基本的に韓国国内だけではなく、中国をはじめとする海外市場を最初から見据えて、オペレーションも戦略も作っている。それは、1997年7月に起きたアジア通貨危機の影響が大きい。アジア通貨危機では、財閥の破綻や株価暴落など経済状況が悪化し、同年11月には政府が国際通貨基金に救済を要請する事態となった。

2001年にIMF支援体制から脱却するまでに、産業政策の変更や数多くの規制緩和が行われた。この頃から、韓国企業は、国内市場だけでなく、海外市場での収益モデルを構築してきており、化粧品企業も例外ではない。国内市場を中心に考え、国内である程度成功してから海外展開をする日本企業とは大きく異なる点である。

韓流ブームとともに中国市場へ

韓国政府は、1997年のアジア通貨危機のあと、低迷した韓国経済を立て直すために、1998年の金大中大統領による文化大統領宣言を機に、文化コンテンツ輸出政策を開始した。イメージが悪化した韓国国家と韓国企業の両方の浮揚にもつながる施策である。また、コンテンツ産業はほかの産業への波及効果が高いことから、韓国の文化コンテンツ産業を国家の基幹産業の1つとして育成することで、韓国製品全般に対する認知度を国外で高め、輸出増大を促す支援戦略としての狙いもあった。

その結果、2002年には、韓国のテレビ番組の輸出額が輸入額を超えた。アモーレパシフィックは、この年、ラネージュが香港と上海に進出。ウォータースリーピングマスクなどがヒットした。そして、2004年に「猟奇的な彼女」で世界的に有名になった韓流スターのチョン・ジヒョンをイメージ・キャラクターに起用したことで、さらにブランドの知名度はアップし、売上拡大を実現した。また、同年、ソルファスが香港に進出し人気を博した。韓流ブームをうまく活用して中国市場への拡大を果たしたのである。

新商品カテゴリーを作り出すことでグローバル・プレイヤーへ成長

アモーレパシフィックの中国における成功は、1)新商品カテゴリーを創り出す、2)徹底したローカライゼーションをする、という2点において、その後の同社のグローバル戦略に影響を与えている。

1点目の新カテゴリーを作り出すことによる成長は、ソルファス ブランドの成功にみられる。ソルファスは35歳が女性の体に最も大きな変化が現れる時期として、その頃に起きるトラブルに着目し、肌の乾燥などに対して、朝鮮人参などの韓方素材を配合した処方での改善をアピール、韓方化粧品という新たなマーケットを確立した。

これにより、顧客のライフスタイルを理解し、満たされていないニーズを発見し、新しい顧客価値の提案をすることで市場を開拓する「イノベーター」としての成功パターンをみつけたのだ。

イノベーターであり続けるためには、組織文化の醸成も不可欠だ。2010年代に世界的ヒットとなるクッションコンパクト製品をアイオペから2008年に出すが、それを生み出せたのは、革新的なアイディアの創出と実行という2つのプロセスを実現させる組織文化が背景にある。

フラットな組織づくりで風通しをよくする

アモーレパシフィックは、儒教思想の根強い韓国において、上司や年長者に対してもフラットになんでも言い合える組織を意図的に作り出してきた。組織構成を一般的な韓国企業の6~10階層ではなく、4階層で構成している。そして、安心して思うところを話しやすい社内環境を生みだすために、役職ではなく名前で呼び合うようにした。

さらに、製品アイディアは、R&Dだけでなく、マーケティングやSCMなどのさまざまな部門で自由に共有しており、革新的なアイディアが出てきたときには、各部門のメンバーで構成されるコラボレーションチームを作る。複数部門の連携がスムーズに行われることで、顧客のニーズを理解し、顧客からのフィードバックを受けとめ、製品・技術開発に組み入れるのが可能になるからである。

組織文化醸成に加え、マネジメントのイノベーションに対する理解が大きいのもポイントだ。新カテゴリーの市場ローンチには時間と労力がかかることを前提にしつつ、いろいろなアイディアを試し、マーケットを作り出すことを奨励した。

たとえば、クッションコンパクトは2008年に開発されたが、2011年までは国内市場で成功していなかった。今までにないまったく新しい発想の商品は、顧客にその利点をわかってもらうにはある程度の期間が必要だからだ。経営陣は結果を焦らず、現場にさまざまなやり方で試行錯誤をさせた。インターネット、店頭販売、DMなど、多様な広告・販売を試した結果、韓国ではショップチャネルにおいて爆発的な成功をおさめた。そして、クッションコンパクトの地位を不動のものとしたのである。

しかし、海外マーケットでの成功のためには、韓国と同じやり方は通用しない。アモーレパシフィックもアイオペも知名度のない市場で、商品自体も馴染みがない斬新なものとあって、すぐに受け入れられるのは難しい。そこで商品の認知を広げる手段として使ったのが、YouTubeやInstagramなどを活用したデジタルマーケティングだった。使い方の説明やチュートリアルを共有し、インフルエンサーにも積極的にリーチした。

新しいカテゴリーを開拓するには、忍耐と持久力が必要であること、さらには、世界的なブランド認知度の低い企業にとって、新しいカテゴリーの開発は不可欠なことをアモーレパシフィックは理解し、イノベーターとして時間も労力も投資しながらマーケットを創出し、ゆっくりではあるが、売上を確実に拡大する戦略を取っているのである。

徹底したローカライゼーション

アモーレパシフィックが、もう1点力を入れているのが、徹底したローカライゼーションだ。韓流ブームにのって中国市場に参入した際、ソルファスのマーケティングでは、韓方は中国の漢方から派生したことを強く押しだし、消費者に韓国と中国の共通点や親和性をアピールしてブランドの定着を図った。一方、各国市場の顧客が求める製品にカスタマイズし、オペレーションもマーケットにあわせて柔軟に変更することで市場を獲得した。

一例では、東南アジアの多湿な地域では、よりマットな質感としっとりとした仕上がりのクッションコンパクトとし、中国の寒冷で乾燥している気候の地域では、保湿と輝きを重視した製品を販売する。このローカライゼーションを実現するために、各国での研究開発体制を強化している。

オペレーションの面では、ヨーロッパでは徹底した現地化を推進する。とくにフランスは、社員のほぼ全員が現地採用で、韓国というイメージやコンセプトをあえて前面に出さないマーケティングとしている。各国の文化を徹底的に分析し、韓国流のやり方にこだわらず、柔軟に展開できるのがアモーレパシフィックの強みだ。

2020年までにアジア・ナンバーワンの化粧品企業となる目標を掲げているアモーレパシフィックの成長の源泉は、創造的であるためのフラットで風通しのよい組織文化を保ち、デジタルメディアの積極的な取り込みをはじめ、新しいことにチャレンジし続けるところにあるのだ。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: thepeddd via shutterstock


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