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中国老舗企業Jahwa、敏感肌特化ブランド「Dr.Yu」の肌解析とパーソナライゼーションの成長戦略

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中国では、ECなどで各自の肌状態や肌タイプを測定する機能を取り入れて、パーソナルなレコメンドにより購入を促す美容ブランドが少なくない。こうしたなか、Jahwa(上海家化聯合)は、敏感肌に特化した肌解析システムを実装して話題となっている。その仕組みや同社の狙いについて紹介する。

生成AI活用で成長を促進、顔認証技術を持つ企業との提携も発表

中国の化粧品・トイレタリーの老舗メーカーJahwa(上海家化聯合)は、敏感肌向けのドクターズコスメ「Dr.Yu(玉澤)」や自然派化粧品の「HERBORIST(佰草集)」、コスメブランド「VIVE(雙妹)」などを展開する創業126年(2024年時点)の老舗企業だ。

Jahwaは、2024年3月18日、上海市内で年度発表会「致美,致時代(美へ、時代へ)」を開催した。登壇した同社董事長兼CEOの潘秋生(Alex Pan)氏は「イノベーションの推進」「ブランドの再構築」「チャネルの発展」「価値創造」「海外展開」の5つのテーマに注力し、「高品質で持続可能な発展をともに推進する」と述べた。

そのひとつであるイノベーションの推進については、生成AIの活用に注力している。シニア研究開発総監の賈海東氏が、「AI+成分」「AI+外観」「AI+デザイン」の3つの次元からブランドを支えていくことを表明してAIをさまざまなレベルで活かしていくことを強調した。

AIの活用はそれだけではない。同発表会でJahwaは顔認証システムを開発する中国企業 Megvii(曠視科技)「AI革新科学技術協力枠組協定」の調印をした。同社は、2022年頃からMegviiと提携してAIを利用した肌測定システムの開発を進めてきたが、それをさらに加速させる狙いだ。

発表会で顔認証システムのMegviiとの協業を発表
出典:Jahwa公式サイト

1,000万人の肌のビッグデータにもとづく肌解析モデル

以前から肌の解析システムの開発に力を入れてきたJahwaでは、現地メディアによると、1,000万人の肌のビッグデータにもとづいた解析モデルを確立しているという。

この分野において主導的立場に立つことを図り、2023年4月には上海日用化学品産業協会や各界の専門家らと共同でAI皮膚測定データ分析法に関する業界団体基準を発表。しわ、ニキビ、肌の色、毛穴、目袋、くま、肌質、敏感度の8つの指標からディープラーニングと視覚認識アルゴリズムによる肌年齢の検査基準を策定した。

こうした準備期間を経て、2023年12月にJahwaは肌解析のユーザーへの提供を開始。Dr.Yuがアリババグループ(阿里巴巴集団)のECプラットフォーム「Tmall(天猫)」の旗艦店で、敏感肌に特化したAI肌解析を実装したのだ。

中国の肌測定システムにはMeitu(美図)の「Eve(美図宜肤)」や、美容企業が開発するものでは、「WINONA(薇諾娜)」などを展開する雲南貝泰妮生物科技/Yunnan Botanee Bio-Technology Group(ユンナン ボタネ バイオテクノロジー グループ)の「逑美在線」などがある。前者は2023年、顔のテカリを検出する機能を実装するなど進化を続けているが、敏感肌に特化したシステムはJahwaが中国では初めてだという。

Dr.Yuの肌解析のUI
出典:TmallのDr.Yuアプリ

同肌解析は、スマホで顔を撮影するだけで敏感肌の特徴であるニキビ、油分、水分、赤みなどの指標を検出し、色や空間の変換アルゴリズムやビッグデータのアルゴリズムロジックを活用。「乾燥性と脂性」「敏感度」「ニキビ」「色素沈着」「老化」の5項目から画像付きの詳細な分析レポートを提供し、ユーザーにおすすめ商品を提案する。

Dr.Yuの肌解析のUI
出典:TmallのDr.Yuアプリ

敏感肌を同社では乾燥性と脂性に分類しているが、Dr.Yuではそれぞれに特化した商品も開発している。乾燥性敏感肌向けにはエッセンスローションとクリーム、脂性敏感肌向けにはクリームと化粧水があり、ユーザーは肌解析により自分の敏感肌タイプを認識したうえで適切な製品を選択できる。

Tmall旗艦店のコメント欄では、肌解析についての投稿は2024年4月時点でまだ確認できないが、製品については「油分を抑えられるようになった」「乾燥肌の救世主。保湿がとてもよく、敏感肌が改善された」など、高い評価が寄せられている。

Dr.Yuの敏感肌に特化した商品
出典:Dr.Yu公式Weiboアカウント

中国では、近年敏感肌向け商品へのニーズが高まっている。国家統計局の発表によると、2022年の中国の化粧品小売総額はコロナ禍の影響もあり、前年比2.3%減の3,935億6,000万元(約8兆3,867億円)だった。ところが、ブルーメイジ バイオテクノロジー(華熙生物)傘下の敏感肌用スキンケアブランド「MedRepair(米蓓尔)」 とTmallイノベーションセンター(天猫新品創新中心)、マーケティング企業カンターが共同で作成したレポートによると、敏感肌向けのスキンケアの市場規模は、前年比1.8%増の83億5,000万元(約1,779億5,000万円)と堅調だった。また同レポートでは、中国人女性の約36%が敏感肌に悩んでいるとしている。

価格帯別に見ると、海外ブランド「キールズ」などが属する581元(約1万2,400円)以上の高価格帯は敏感肌市場全体の6%程度に過ぎず、Dr.Yuが主戦場とする125〜353元(約2,700〜7,500円)の中価格帯が52%を占め、ボリュームゾーンとなっている。

市場シェアの上位も中価格帯のブランドが多く、美容メディア「FBeauty(未来迹)」によると、TmallとDouyinでの敏感肌向け製品の販売額(2023年1〜9月)はいずれも中国ブランドのWINONAが1位で、Tmallでは8.8%、Douyinでは8%のシェアを確保した。Dr.YuもTmallでのシェアが1.7%で、ランキング9位となっている。WINONAを運営するユンナン ボタネ バイオテクノロジー グループは業績も好調だ。

カプセル化技術で、化粧品パーソナライズ製品の提供を目指すJahwa

Jahwaは、2023年の年次報告書によると、業界におけるスーパーマーケットチャネルの店舗閉鎖や、デパートチャネルの在庫削減の動きの影響を受け、オフラインの営業収入が12.4%減の37億7,700万元(約804億8,800万円)だったが、オンラインは、0.9%増の28億1,000万元(約598億8,100 万円)と増収している。同社の2023年の業績は、営業収入が前年比7.2%減の65億9,800万元(約1,406億300万円)だが、純利益が5.9%増の5億元(約106億5,500万円)と減収増益だった。

トイレタリーが前年比4.9%減の25億4,100万元(約541億4,900万円)、ベビー用品が13.4%減の18億5,600万元(約395億5,100万円)と振るわなかった一方で、スキンケア製品群は1%増の19億9,400万元(約424億9,200万円)とプラスを維持している。

オンラインチャネルではとくに「インタレストコマース(興趣電商)」分野の成長が著しく、2倍近く伸びているという。インタレストコマースとは、ニーズが明確化していないユーザーが、タイムラインに流れてくる動画を視聴するなかで商品に興味を持ち購入に至ることを意味し、Douyinでの購入などがそれに該当する。

Jahwaは、パンデミックがまだ続くなかで、ロレアル出身のCEOのもと、DXに注力してV字回復した経緯から、今後もオンライン施策の重視を継続するだろう。スマホだけで完結し、その結果からECで購入できる敏感肌向けの肌解析による購入導線もそのひとつといえる。現地報道によると、Jahwaは2024年3月に同肌解析のソフトウェア著作権を登録。敏感肌対策分野でのプレゼンスを拡大させようとしている。

2023年7月開催の中国医師会全国皮膚病学会でDr.Yuはスキンケアブランドを代表し担当者が講義を行った
出典:Dr.Yu公式Weiboアカウント

同社は先述のMegviiとの「AI革新科学技術協力枠組協定」の調印に際し、将来的に「Capsule U」というサービスを打ち出す計画を掲げている。関係各位からの話を総合すると、肌に有効な成分をつめた微細なカプセルを成分ごとにつくり、それを肌解析などで一人ひとりの肌に最適なカプセルの組合せを導き出し、商品のパーソナライズを実現するものと思われる。カプセルの構造など詳細は明らかにされていないが、有効成分のカプセル化とパーソナライズという点では、韓国企業が栄養サプリメント分野でCES2024に出展してベストオブイノベーションを受賞していることからも今後注目されそうな分野だ。

Jahwaでは、将来的にこのカプセル化によるパーソナルサービスを提供することで、傘下の各ブランドの製品の機能ごとの進化、顧客体験の向上によるハイエンド化をさらに進め、消費者の質の高い生活への貢献を追求していくとしている。

Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: Jahwa公式サイト


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