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杉野服飾大の学生と考えるビューティテック。身近ながら未解決の課題がみえる

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2019年4月24日と5月8日の2回にわたり、BeautyTech.jp編集長の矢野貴久子と、副編集長の十河亜矢子が、杉野服飾大学ファッションビジネス・流通イノベーションコースの「ファッションテック論」講座で、ビューティテックをテーマに特別講義を行った。これは、同コースの主任である五月女由紀子准教授からの招きを受けて実現したものだ。

五月女准教授は、ファッション業界に興味を持って入学してきた学生に向けて、実際にファッションテックを活用したビジネスを展開する企業家の講義を聴く機会を設けており、ニューリテールプラットフォーム「FACY」を運営するスタイラーの小関翼代表取締役や、ファッションに特化した人工知能(AI)を開発するニューロープの酒井聡代表取締役などが、これまでに教壇に立っている。

BeautyTech.jpは、ファッションの領域にとどまらず、近接するビューティテックにも目を向けて学びを広げるという趣旨にもとづき、講師に招かれた。

ビューティテック概論からスタート

1回目は、肌診断アプリの裏側で、収集したビッグデータを解析し回答を導き出す人工知能(AI)や、学生にも馴染みのあるARによるバーチャルメイクなど、具体的な事例を豊富にあげながら「ビューティテックとは何か」を解説。意識していなくとも、日常生活のなかにビューティテックが存在している現状と、それが化粧品メーカーなど企業のビジネスにどのようなかかわりを持っているのか、さらには、向かっている先と目指すものについて語った。

あわせて、BeautyTech.jp編集部が独自の視点から、美容ユーザーのインサイトを測る目的で行っている「ビューティテック度調査 」について説明し、学生にも質問票に回答してもらった。

ビューティテック度調査とは、テクノロジーが生み出す新しい美容系商品やサービスの数々はどの程度、消費者に認知され、実際に使われているのかを知るとともに、ビューティテック度が高い人々の行動を探り、市場におけるビューティテックの浸透と拡大のためには何をなすべきかを考える指標とするものだ。

このような、いわば「ビューティテック概論」を経た2回目は「あると便利な商品やサービス」を自分たちで考えるワークショップスタイルでの講義とした。

感じたことを言語化して意見出し

事前に、バーチャルメイクや肌診断アプリなど、ビューティテックを実際に体験したり、ビューティテック関連の記事を読むよう、学生たちには課題を出した。そして、そこからわかったことや、感じたこと、使ってみた感想などを、各自がメモ帳サイズの付箋に1枚1テーマずつ書き込んでいくことから講義をスタートした。

学生たちに話したのは、難しく考えず、思いついたことを端からどんどん書いていくようにということだ。「こんな商品があると便利」とか「〇〇の理由で使いやすかった、あるいは使いにくかった」でもいい。とるに足らないような意見に感じられても、気にせずに言葉にして、約10分の間に最低でも3つは出すのを条件にした。

こうして、集まったさまざまな内容の「意見メモ」は全てホワイトボードに貼り出し、学生たち自身で大きなテーマごとに分類をしていった。たとえば、ECサイトでのショッピングやチャットでの相談に関する意見なら「オンライン」、デパートや化粧品ショップでのサービスなら「実店舗」、インフルエンサーの活用なら「マーケティング」という具合だ。

その過程で、いくつか面白い傾向が見えてきた。

AIとリアルな人間、どちらを好むか

一つは、AIによるレコメンドと人間のアドバイザー、どちらが好きかという好みの違いだ。AIによる診断やおすすめは本当に正しいのかと疑問が出され、たとえ、オンラインを通してであっても、リアルな美容の専門家やインフルエンサーとつながることを求める派と、店舗での対面だと買わなければいけないプレッシャーがあるとして、自分のペースでできるウェブ上で診断から購入まで完結するサービスを好む派に分かれた。

AI懐疑派のなかには、バーチャルメイクアプリなどを利用するものの、現在のAR技術に不満で、「本物には近づけていない」「実際につけたとき本当にこの色になるのか?」と感じている層もいる。

また、「雑誌の写真などの画像から、実際に使われている商品がわかるといい」「YouTuberによるライブコマース」「自分にあったサプリを定期的に送ってくれるサービス」「無料サンプルが自宅に送られてきて、そこから気に入ったものを買いたい」といった、海外を含め、すでに一部では始まっている、テクノロジーをベースとしたサービス形態を望む声が意外に多かった。彼らへのタッチポイントをうまく作れるならば、こうしたソリューションを提供する企業は飛躍的に伸びる可能性があるといえる。

高校生にメイクの授業を

次に、2人1組になりA〜Fチームに分かれて、分類されたメモを参考に興味のあるテーマを選んでディスカッションを行った。美容業界の企業に提言するつもりで、課題の解決策や要望を考えて発表してもらった。

日本の社会におけるメイクそのものに着目したのはチームAである。高校ではメイクは禁止だが、大学生や社会人になった途端、とくに女子は身だしなみの一つとしてメイクをするのを当然とする風潮があるとして、それなら高校のうちから正しいスキンケアやメイクを、授業の一環として全員が学ぶ機会を設けるべきではないかと意見を述べた。清潔感や整った身なりが求められるのは男子生徒も同じで、10代のうちから自分に合うケア方法や好感を持たれるメイクを知っておくのは有用で、消費者として化粧品を選ぶ眼も養われるとした。

デパートを超える化粧品ショップ

チームBは理想とする化粧品ショップについて語った。異なるブランドの200種類以上のネイルや400種類以上のリップがトライできるイセタンミラー ミッドタウン日比谷店を例にあげ、ハイエンドな百貨店ブランドの化粧品が、ブランドの垣根を超えて自由にお試しできるコーナーを持つ店舗が魅力的だという。その裏には、百貨店の化粧品売り場にいる美容部員はメイクのプロで、役に立つアドバイスやお試しメイクも丁寧にしてくれるが、ブランドごとに分かれているため、はしごがしにくく、メイクをしてもらったからには買わなければいけないプレッシャーを感じるという理由がある。その点、イセタンミラータイプの店なら、自分で好きなように試して、必要なときだけスタッフに質問したり手伝ってもらえばいいので気楽に訪れられるというわけだ。

出典:イセタンミラー公式サイト 

2001年に日本を撤退してしまったセフォラだが、現在の、とくに欧米で展開しているセフォラの店舗モデルで日本に再上陸すれば、Z世代を中心に大いに支持されるかもしれない。

体の動きに添う髪型シミュレーション

髪型シミュレーションアプリの精度アップを求めたのがチームC。顔を動かしても動作に合わせて対応し、自然な髪の揺れ具合などが確認できると良いとする。今は決まった髪型を切り抜いて顔にのせるだけなので不自然さが否めないともいう。そもそも、髪型シミュレーションを利用する理由には、芸能人やモデルには似合う髪型でも、本当に自分に合うかどうかを確認する目的がある。精度の高いアプリがあれば、自分向きの髪型が見つけやすく、美容室でも保存した自撮りを見せればいいので、リクエストの説明が楽で、しかも正確になる。

髪の一本一本が染まっているかのようにみえるARヘアカラーシミュレーターや、個々の髪型や体型を再現したアバターを作成しバーチャル試着ができるARフィッティングなどの技術が市場に登場していることを考えると、満足できるレベルの髪型シミュレーションアプリの完成も、そう遠い日ではなさそうだ。

ウェブ上で入力する質問はどの程度必要か

資生堂の肌測定アプリ「肌パシャ」を使ってみた率直な感想を語り、「パーソナライズのために入力すべき質問が多すぎる」と主張したのはチームDだ。彼らはまず、最初に肌を撮影するのが意外に難しかったと明かす。スマホカメラを顔の近いところから、だんだん遠くに動かして連続撮影するのだが、この動作が思うほど簡単ではなく、何度もやり直したという。ただし、正しく撮れると毛穴までくっきり見え、分析の精度への期待が高まるのは事実だ。だが、そのあとに肌悩みなど多くの質問に答えなければならず、まだ続くのかとイヤになり途中でやめてしまった。こんなにクリアな画像があるのだから、3つくらいの基本的な質問だけで十分に測定・診断できるのではないかというのが彼らの意見である。

出典:資生堂 肌パシャ公式サイト

ウェブでの質問に回答することで個人にカスタマイズした製品をつくったり、最適なレコメンドをするパーソナライゼーションは、美容業界の大きな潮流である。そこにおいて個人の特性を知るための質問は重要な意味を持つが、そのステップが少しでも少なく簡単であることを望むタイプと、むしろ質問が多い方がより自分を理解してくれると考える層に、二分される。

一説にミレニアル世代の集中力持続時間は12秒、Z世代は8秒というデータもあり、瞬間的にものの「好き・嫌い」を判断する傾向が強いZ世代をターゲットにするなら、確かに質問項目の数や手順の簡単さは第一に考慮すべきだろう。

動画でも自然なARメイク

チームCと同じく、AR技術のさらなる進歩が必要と考えたのがチームEであった。YouTubeなどの動画を“盛る”ためにメイクフィルターをかけると、動きからズレたり浮いてみえるのが不満だ。リップカラーなども質感が実際とは違うと感じ、本当はマットなのにテカテカしてみえることがあるという。シアン90%マゼンタ20%など、フォトショップのように自分で色を自由に調合できて、それをバーチャルメイクとして使える機能が欲しいとこだわりを示した。

親近感があるのはインフルエンサー

最後の発表となったチームFは、オンラインの化粧品広告には、Instagramのインフルエンサーなどの、身近な著名人を起用した方が、セレブより共感できるのではと提案した。ハリウッド女優が登場するラグジュアリーコスメブランドの雑誌広告は、かなりの加工修正を施しているというのが、一般消費者にとっても前提となっているのが今の世の中だ。同じ化粧品を使ったとしても、自分には再現できないと誰もがわかっている。それよりも、Instagramで普段の生活やすっぴんの顔を出して、リアルな化粧テクニックを公開しているインフルエンサーは、より一般人に近く現実的で親近感もわく。そういう人がメイクの仕方を指南するチュートリアル動画をセットにして、おすすめのコスメ商品を販売したら受けるのではないかとアイディアを披露した。

ファッションビジネスを専攻する学生たちは、近しい領域であるビューティにも興味が高く、ワークショップにも積極的に参加して、企業サイドにとってさまざまなヒントが詰まったユニークな意見を発していた。あわせて、Z世代のナマの声に触れられた経験は、BeautyTech.jp編集部にも新たな視点が得られる良い機会となった。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)

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