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パナソニックが仕掛けるスマートミラーは美容業界への激震となるか

◆ English version: Coming soon: A revolutionary smart mirror by Panasonic
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パナソニックが、いままでのメイクの概念を覆しかねないスマートミラーを開発中だ。忙しい女性たちの時短ニーズ、素肌をきれいに見せたいニーズ、トレンドメイクを一瞬のうちにまとえるニーズ……これからの美容ビジネスのあり方を一転しかねない激震が走る可能性もある。いわばMaaS(ミラー・アズ・ア・サービス)のはじまりだ。

スマートミラーの基本的なコンセプトは、鏡に映ったユーザーの姿からさまざまなデータをセンシングし、端末やクラウド側にある化粧品や天候、他ユーザーの傾向などさまざなデータとつき合わせ、各ユーザーに適したアイテムやソリューションをレコメンドするというものだ。一方で、ARや画像合成・処理技術を使って、試用や試着といった体験をバーチャル化することで、企業・ユーザー双方に時間的・空間的・コスト的なメリットを提供する。

こういったスマートミラーの開発・商用化の動きは加速している。2017年末には、化粧品ブランドM·A·Cが、カナダ・オンタリオ州に拠点を構えるAR企業・ModiFaceと提携。スマートミラーを一部店舗に導入した。ModiFaceは、開発されたスマートミラーが「フェイシャルトラッキングシステム」、「3Dビデオメイクレンダリング技術」などで構成されていると説明している。なおModiFace は、翌年2018年3月にロレアルによって買収されている。

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出典:ModiFace

その他にも、ハイアールをはじめとする世界各国の家電大手メーカーや、Hi Mirrorなどのスタートアップが大挙してスマートミラー開発・商用化に乗り出している。意外なところでは、米流通大手アマゾンもヴァーチャル試着のできる「Blended reality system」というスマートミラー関連の特許を取得した。その背景に、「ファッション産業への影響力拡大とデータ収集を狙っているのではないか」というメディア各社の分析がある。

パナソニックが開発する先鋭的なスマートミラーソリューション

世界に数あるスマートミラー関連製品のなかで、際立ったコンセプトで開発が進められている製品がある。パナソニックが開発する「スノービューティミラー&メイクアップシート」だ。各社のスマートミラーがヘルスケア領域に踏み込んでいるのと比較すると、メイクアップのソリューションに特化したものだ。製品化を牽引するイノベーション戦略室 戦略企画部 リーダーの川口さち子氏は、開発経緯について次のように話す。

「弊社のスノービューティーミラー関連のプロジェクトが発足したのは2013年。当時、テレビやモバイルなど既存の産業が縮小していくなかで、将来的にあるべき家電のカタチとは何か、新たなビジネスをどう展開していくべきかが社内で課題となっていた。議論を重ねた結果、お客様からのフィードバックを通してアジャイル的に製品を生む必要があるという結論にいたった。」

デジタル・ネット文化が浸透すればするほどユーザーのニーズは多様化していくが、メーカーとしてはそれを満たしていかなければ生き残れない。とはいえ、パナソニックが長所としてきた技術視点だけでは、今後さらに多様化していくニーズを満たすことはできない。そこで自省の意味も込めて、生活者視点、ニーズ視点を積極的に取り入れることになるのだが、その具体的な製品案のひとつが、スノービューティーミラー&メイクアップシートだったという。川口氏は続ける。

「実際に製品を使うお客様の立場に立ったとき、美容系のニーズとしては、多様化という方向はもちろんだが、心の充足という精神的側面の需要が高まると考えた。一方で2013年当時には、技術的に再生医療技術が美容分野に浸透するスピードが指数関数的に高まっていた。またどうあれば健康でいられるかという、ヘルスケア領域での人体メカニズムの解明がめまぐるしく進んでいた」

そこで、各ユーザーの現状を把握しつつ、美や健康のPDCAサイクルをうまくまわせる製品があればと、さまざまな製品アイディアが出されたという。それらをアジア6都市で受容性評価を行った結果、スノービューティーミラーやメイクアップシートに多くの票が集まり、本格的に研究・開発をスタートさせたのだという。

実際に、開発中のスノービューティーミラー&メイクアップシートは、ユーザーのニーズをとことん汲み取った各種機能が充実している。

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パナソニックのスノービューティミラー

まずスノービューティーミラーには、各ユーザーの顔の特徴に沿ったメイクシュミレーションを可能とするバーチャルメイク機能がある。端末には高度な画像合成・処理技術が搭載されており、ユーザーはタッチパネルを直感的に操作するだけで、さまざまなパターンのメイクを本物と区別つかないほどの質感表現とともに疑似体験できる。

また、このスノービューティーミラーは現在のところ企業や販売店などのB向けに開発が進められており、小売店など企業各社における使いやすさが考慮されているのも特徴だ。たとえばパナソニックが以前から開発を進めていたメイクアップデザインツールという専用ソフトウェアを使えば、新商品を使った際のメイクアップパターンやトレンドなどブランドからのおすすめのメイクや、著名メイクアップアーティストのメイクパターンなど、新たなコンテンツを簡単にこのミラーに追加できるようになっている。

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オリジナルのメイクパターンを作成・追加できるソフトフェア
「メイクアップデザインツール」

ユーザーは、スノービューティーミラーで、しみ、しわ、毛穴など、その日の肌のコンディションを確認することができる。ミラーに搭載されたカメラで顔の写真を撮影すると、内蔵されたソフトウェアが詳細なデータをミラーに投影する。撮影の際には通常の可視光が使用されるため、肌には安全で影響がないというのがパナソニック側の説明だ。

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肌に貼る超極薄フィルム

さらに圧巻なのは、超極薄フィルム素材でできたメイクアップシートである。ユーザーがスノービューティーミラーで撮影を行うと、そのデータをもとに端末が顔のしみのなかから目立つ箇所を自動抽出。ミラーは専用プリンタと連動しており、ワンタッチ操作するだけで、目立つ箇所をきれいに隠してくれるメイクアップシートが印刷される。

メイクアップシートは肌に直接貼れるようになっていて、自分で時間をかけてメイクをするよりも優れた精度で、しみを隠してくれる。メイクアップシートのコンセプトは、化粧を“塗る”から“貼る”に変えるというものだが、人工皮膚やセカンドスキンの概念に限りなく近い存在といえるだろう。

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超極薄フィルム使用前(左)と使用後(右)

「家事や仕事に追われている女性たちにとって、メイク時間の削減はとてもニーズが高い。メイクアップシートを貼れば化粧崩れに煩わされることもない。ゆくゆくは、顔のメイクすべてを貼るだけで済ませられるような水準にまで技術を高めていきたい」(川口氏)

スマートミラーが変える美容業界のビジネスとエコシステム

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Image: Brad Lloyd via Unsplash

パナソニックは、スノービューティーミラー&メイクアップシートの仕組みを上手く利用することで新たな商機をうかがう。これまで家電はユーザーに購入・消費されるものにすぎなかったが、このスマートミラーは、B向けに開発されており、メイクや肌のケアのコンサルティングを担うなどサービス面での付加価値がある。つまり、モノを売る側面に加え、コトを売るという新たなビジネス展開が可能になるのだ。さしずめ「MaaS=ミラー・アズ・ア・サービス」と言ったところだろう。

「スノービューティーミラーを通じて得られた各ユーザーのデータは、新たな美容品の開発やマーケティングにも大いに活用できる。弊社の他製品から得られたデータとうまく組み合わせていくことで、より顧客ニーズに寄り添ったサービスを提供でき、他社とのコラボレーションを通じて美容やヘルスケアなどの分野で新たなエコシステムを生み出せるはず。ECなどが発展してお客様が店舗に足を運ぶ機会も減っているが、スノービューティーミラーはその導線を変えていく可能性も秘めている」(川口氏)

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スノービューティミラー&メイクアップシート開発メンバー。写真左手前が川口さち子氏

美容業界全体で考えた際にも、スマートミラーには大きな潜在力がある。化粧品メーカーや小売店にとっては、試用・試供など無駄なコストをカットでき、スマートミラーを通じて仕上がり具合を手軽に疑似体験してもらえる。また、それら疑似体験とセットで商品のレコメンドが可能となるため、購買率上昇などマーケティング面でのメリットも期待できる。

さらに、メイクアップシートのような新たなイノベーションがユーザーに受け入れられれば、産業全体が拡張していくというシナリオも考えられる。フィルムメーカーやプリンターメーカーの参入など業種の壁が破壊され、美容やスキンケアといった領域に新たなつながりやチャンスが生まれるだろう。その中心であり入口になるのは、ユーザーデータを収集するハードウェア・スマートミラーである。

スマートフォンという端末が人々の行動様式やビジネスを大きく変えたように、スマートミラーは美容業界の常識を大きく変えていくはずだ。今後、その可能性とインパクトに備えることは、美容各社にとって抜き差しならないテーマになる。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top Image: Lia Koltyrina via shutterstock

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