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「二分化する中国戦略」「クリーンビューティの真実」がキーワード【海外トレンド 2022年8月-9月】

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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流を紐解く。今回は、P&G傘下のトゥラやロレアル傘下のメイベリン ニューヨークなど、C-Beautyの台頭をきっかけに変化する大手化粧品ブランドの中国戦略と、その信頼性に疑問の声があがり始めたクリーンビューティについて取り上げる。

中国市場に攻勢をかけるP&Gトゥラ、メイベリンは1万店舗への配荷を取りやめ

出典:TULA公式サイト

★注目ポイント
化粧品ブランドの中国戦略が、積極的な進出か、あるいは撤退・縮小かに二分化してきている。その背景には、とくに中価格帯のマス製品における中国国内ブランドの著しい成長と、ラグジュアリー分野に軸足を移す大手ブランドの思惑がある。

2022年7月末、ロレアル傘下のメイクアップブランド「メイベリン ニューヨーク(Maybelline New York)」は中国における販売方法を見直し、オフラインとオンラインのミックスから、オンラインのみに移行することを発表した。これに伴い、大手ドラッグストアチェーンのワトソンズや現地化粧品店などを含む、約1万の実店舗での販売を順次取りやめ、直営店については業績不振の店舗やリースが切れる店舗から閉鎖していくとする。同ブランドはすでにスーパーマーケットからは2018年に、百貨店からは2020年に撤退している。

1997年に中国に進出し、マスマーケットを対象にした手頃な値段で人気の高かったメイベリン ニューヨークだが、台頭する中国新興ブランドとの競争が激化し、中国のEコマースモデルに適応ができなかったのが、この戦略シフトの原因とされる。現地の市場調査会社の調べでは、同ブランドの市場シェアは、2018年の10.7%から2021年には4.9%に落ち込んだ。一方、同年、中国ブランドの「花西子(Florasis)」は6.8%、「完美日記(Perfect Diary)」は6.4%を占めている。

C-Beautyの隆盛と同時に、ロレアルがプレステージカテゴリーに軸足を移していることも影響している。ロレアルグループ内でメイベリン ニューヨークを擁するコンシューマープロダクツ事業本部の2021年度の売上高は、前年同期比4.5%増の122億3,000万ユーロ(約1兆6,700億円)だったのに対し、リュクス事業本部は同21.3%増の123億5,000万ユーロ(約1兆6,900億円)を記録し、同社最大のカテゴリーとなった。メイベリン ニューヨークを閉じる一方で、ラグジュアリースキンケアブランドの「カリタ(CARITA)」のショップが、2022年内に南京と北京にオープンする予定だ。

中国・上海のショッピングモール内にあるメイベリン ニューヨークの店舗
出典:SHINE

中国市場で苦戦を強いられている大手化粧品ブランドは少なくない。2022年7月、エスティ ローダー カンパニーズ(ELC)傘下の「トゥーフェイスド(Two Faced)」と「グラムグロウ(Glamglow)」は、アリババの天猫国際(Tmall Global)の越境ECから撤退した。資生堂も同年1月に中国地域本社が展開する中価格帯の化粧品ブランド「ジーエー(Za)」と「ピュアマイルド(PURE & MILD)」を化粧品会社URUOI(ウルオイ)に譲渡売却することを発表している。

こうしたなか、P&Gが2022年1月に買収した米国発プレステージスキンケアブランド「トゥラ(TULA)」は、同年8月、Tmall Globalに越境EC旗艦店をオープン。TikTokの中国本家版の抖音(Douyin)や小紅書(RED)、WeChatなどのプラットフォームにもアカウントを開設し、本格的な中国展開をスタートした。

トゥラは1年半前から、中国での市場調査や家庭での製品試用を行うなど、販売開始に向けて綿密な準備を重ねたという。また、マーケティング、広告、インフルエンサー(KOL)活用において、非公開の現地パートナーと連携している。

2014年に消化器専門医らによって設立されたトゥラは、スーパーフードやプロバイオティクスを配合したスキンケアラインが特徴で、いち早くビューティとウエルネスを掛け合わせたコンセプトでミレニアル世代の支持を得て急速に成長した。中国においても、医師が立ち上げたブランドであることや製品の臨床的有効性を、KOLによるライブストリーミングを通じて積極的に訴えていく予定だ。

一方、ブラジルのNatura &Co(ナチュラ&コー)は、傘下の「イソップ(Aesop)」と「ザボディショップ(The Body Shop)」の中国で初めての実店舗を、2022年下半期にオープンすると発表した。ナスダックのレポートによれば、同社は2023年中国でのプレゼンスを高めるための準備を進めており、この開店も成長戦略の一部という。これには、中国国内で動物実験をしていない製品のオフラインでの販売を認める規制緩和を受けて実現した側面もある。

また、コーセーは2022年度の基本戦略の進捗と今後の取り組みを説明するプレスミーティングのなかで、中国市場の攻略に触れ、「デコルテ(DECORTÉ)」の高価格帯ラインの認知向上を狙い、2022年10月、中国・海南島に新たな旗艦店をオープンすると明らかにした。それによると、新旗艦店は売り場面積が約110平方メートルで、同ブランドの免税店舗としては初のトリートメントルームを設置し、全ラインのデコルテ商品が体感できる設計としている。

あわせて、デコルテのECチャネルでの販売強化に向けて、Tmallに加え、京東(JD.com)でも一部商品の販売を同年7月に開始したほか、9月からは新商品「リポソーム アドバンスト リペアクリーム」を発売。中国では美容液についで市場が大きいクリームカテゴリーで、新商品をきっかけにデコルテの高価格帯ラインの売上を拡大させていく考えだ。

中国の現地企業との提携や投資をすることで、中国市場での足場を固めることを狙う企業もいる。

ドイツに本拠地を置く世界最大の総合化学メーカーBASFは、2022年9月、中国の新興企業Ingrediとの戦略的資本提携を含むイノベーション・パートナーシップを発表した。Ingrediは、中国のヒマラヤ地域に生息する天然植物から新しいパーソナルケア有効成分を特定する技術を提供するとともに、投資により生産設備の拡張を進める。他方、BASFは処方に関する専門知識とグローバルなマーケティングのノウハウを提供することで、相互利益を伴うビジネスをともに発展させていけるとしている。

2021年に中国の投資会社の博裕資本とともに新興企業に出資する投資ファンドを立ち上げている資生堂は、同ファンドの初案件として、遺伝子組換えコラーゲンを手掛ける中国企業トラウテックに約20億円を出資した。

トラウテックは美容医療や化粧品向けの遺伝子組換えコラーゲンに関する複数の特許を保有しており、自社で研究開発から、江蘇省にある工場での製造、そして、販売までを行っている。資生堂は中国での機能性スキンケア市場の開拓に力を入れ、トラウテックと研究開発や原料調達、販売チャネルの拡大などの事業面でも協業する計画だ。

ステラ マッカートニー、“クリーンビューティ”と呼ばないサステナブルスキンケアラインを発表

出典:STELLA公式サイト

★注目ポイント
安全性、純度、無毒性、あるいはエシカルを想起させるクリーンビューティは、美容業界の一大トレンドであり、Statista Researchによると、2024年までにグローバルな市場規模は220億ドルに達すると推定されている。だが、明確な定義が確立されていないクリーンビューティはマーケティングによって生み出されたイメージに過ぎないとして、科学的な根拠にもとづく反論の声があがり始めている。

ファッションデザイナーのステラ・マッカートニー氏がLVMHのビューティ部門と共同で開発した、洗顔料、美容液、保湿クリームの3アイテムで構成されたミニマリスト・スキンケアブランド「STELLA」が2022年9月にローンチした。

すべての製品はリフィルも同時発売され詰め替え可能で、リサイクルガラスを使用したボトルを採用し、環境負荷を最大で50%削減できるとされる。マッカートニー氏がLVMHの研究開発チームとともに2年をかけて作り上げた同製品は、各種国際認証も取得済みのヴィーガン&クルエルティフリーで、肌に有害な影響が懸念される原料約2,000種を使用不可とし、長期的に肌の活力を促進する効果が科学的に確認された天然由来成分99%の処方としている。さらに、同ブランドは自然保護NGOのWetlands Internationalへの支援を約束しており、純売上高の1%を同団体に寄付する予定だ。

母なる大地への影響を最小限にすることに関して妥協はしたくなかったとするマッカートニー氏だが、英国版「ELLE」のインタビューにおいて「Clean beauty is a load of b*llocks.(クリーンビューティなんてクッソくだらない)」と発言し、STELLAを“クリーンビューティ”にカテゴライズされることを拒否した。「(クリーンという)この言葉は、純粋さという素晴らしいイメージを連想させるから、人々が使う理由はわかる。けれど、私は決して使わない」とマッカートニー氏は話す。そして、長年動物愛護運動に関わってきた同氏は、ここ数年の美容業界のトレンドである“クリーンビューティ”は実は“グリーンウォッシング”に過ぎないとして、「私たちが何年も続けてきた仕事は本物なのに、こんなマーケティング用語のせいで、その仕事の意義が薄められる可能性が出てきた」と憂う。

あわせて、マッカートニー氏は、環境に配慮する努力をしながらも「不完全さを認めることが重要」であるとする。それは、現在のところ、化粧品製造に必要な原料の99.7%を天然由来素材でまかなうことは可能だが、残りの0.3%の素材は天然のものが見当たらず、合成素材に頼るほかないからだという。その意味で、マッカートニー氏はSTELLAを「clear conscience(明確な良心)」を備えたブランドと位置づけている。

このような発言の背景には、ここ数年、確たる定義がないままイメージだけの“クリーンビューティ”が先行し、天然素材をごくわずかしか配合していない製品やプラスチックを少量減らしただけのパッケージでも、「クリーン」をうたうケースが少なくないとの批判をはじめ、天然素材を使っていること=環境や人間に優しいとする風潮、化学物質をすべて悪とするなどは誤った認識だとの議論が、美容業界において根強いことがあげられる。

一例では、2021年6月、「The Ordinary」を擁するDECIEMが、ソーシャルメディアへの投稿で「Everything is chemicals, including ‘clean’ beauty’.(すべてが化学物質、“クリーン”ビューティも)」と題したアンチクリーンビューティキャンペーンを立ち上げている。DECIEMはこのキャンペーンをサイエンスファーストのビューティブランドであり続ける努力の一環であり、クリーンビューティが悪者扱いしている成分の真実を科学的に明らかにすることが目的だとしている。

2022年3月には、The Ordinaryがヘアケア製品の新コレクションを発表した際に、クリーンビューティ擁護派が美容製品への使用を非難する硫酸塩(サルフェート)を配合したヘア&ボディシャンプー「The Ordinary's Sulphate 4% Cleanser for Hair & Body」が含まれていたことで業界を騒がせた

同製品は、生分解性界面活性剤であるラウレス硫酸ナトリウム-2(SLES-2)を使用して、髪についた汚れやその他の不純物を分解して落とす。発売に先駆けて報道関係者に向けた声明のなかで、The Ordinaryは「皮脂を含む汚れのほとんどは水に溶けないため、水だけでは効果的に取り除くことはできない」と述べ、「SLES-2のようなマイルドな界面活性剤を含むシャンプーが効果的に洗浄するのに役立つ」と説明している。

最近では、あたかも、クリーンビューティ製品が化学製品に代わる“健康的”な製品であるかのように押し出すマーケティングのあり方を疑問視する声も高まっている

化粧品業界に従事する人の会員制団体Cosmetic Information Networkの創設者であるサム・ファーマー(Sam Farmer)氏は、このマーケティング手法は、消費者のためというより「売上と現金」のためであるとして、「クリーンビューティブランドは、化粧品科学における消費者の知識不足を利用し、不安を煽ることで販売している」と批判する。

ファッション&ビューティのショッピングサイトFarfetchの広報担当で、化学の博士号を持つミッシェル・ウォン(Michelle Wong)氏も同様に、「ブランドは、化粧品によく使われる成分の毒性に関する俗説に頼って製品を宣伝してきた。対象の成分が広範な安全性評価を受けているにもかかわらずだ」と話す。また、ブランドによって、“クリーン”な成分と“ダーティ”な成分のリストが異なっており、この一貫性のなさが、科学的な根拠にもとづいたものではないことの表れだとして、科学者がソーシャルメディア上でクリーンビューティが誤った情報である理由を説明することで、インフルエンサーや消費者が、恐怖を煽るような言説は正しくないと気付くのに役立つとする。

クリーンビューティの名のもとに何が行われているのか、消費者に真実を明かし、クリーンビューティとは何を指すのかを明確に定義することが美容業界に求められている。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Milad Fakurian via Unsplash

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