見出し画像

音声コンテンツは体験を拡張する「広義のAR」 stand.fm中川綾太郎氏の試み

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

SNSや動画プラットフォーム全盛のこの時代、スマートフォンにおける「画面の取り合い」はすでに飽和状態だ。そこで脚光を浴びているのが「音声」である。「stand.fm」 は音声のもつ可能性を追求し、新たなコミュニケーションと人々のつながりを構築することに挑戦している。運営元の株式会社stand.fmの 代表取締役共同代表を務める中川綾太郎氏は、それを「声でつながるやさしい世界」と表現する。デジタル時代の音声コミュニケーションの可能性を探る。

続々と登場する音声配信プラットフォーム

音声だけなら、歩きながらでも、何かをしながらでも、情報に接することができる。AmazonのAudibleで本を「聴く」人も増え、Z世代やその下の若い層はスマートスピーカーや音楽などから「音声」に慣れ親しんでいる。

米国では音声SNSのClubhouseというプラットフォームを運営するスタートアップが約100億円の企業価値と評価された。ネットフリックスも音声メディアに参入するという報道もあり、2021年は日本でも音声コンテンツのさらなる台頭が予感される。

美容業界ではASMR系のYouTuberをプロモーションに取り入れる企業もある。ラジオの復活という見解もあるなかで、デジタル時代の音声コミュニケーションがさらに活発になれば、当然プロモーションの一手段としての活用が予想される。

実際に「声」に着目したコンテンツ配信プラットフォームは国内でも続々と現れ始めている。Stand.fmのほかにも「Voicy」や「Spoon」などの知名度が高く、UUUMが立ち上げた「REC.」などもある。海外では欧米を中心にポッドキャスト(音声配信)がトレンドとなって久しく、AppleやSony Musicがともに米国の独立系ポッドキャストとして大手のWonderyの買収を画策している。日本でもラジオがインターネットで聞けるサービスradikoは、アプリ会員が1,000万人目前だという

この音声コンテンツトレンドを加速させているのが、家庭用AIスピーカーの普及や音声入力だ。情報のインプット・アウトプットを音声で実現することを可能にし、画面に向かってキーボードを叩く、あるいはスマホでの文字入力という検索や消費の習慣が、徐々に変化しようとしている。世界的には、若い世代はもとより、機械操作に疎い層をも巻き込みながら進む大きな行動変容だ。

stand.fmがめざす音声を通じて生まれるコミュニティ

数多くの音声配信サービスが立ち上がってきているが、stand.fmはユーザーが自由に音声コンテンツを配信できるプラットフォームという位置づけにとどまらず、さらに一歩進んで「声」を通じて生まれるコミュニケーション、人々の繋がり、そして新たなコミュニティの構築を重要視する、他サービスとは差別化したゴールを描いている。

stand.fmでは、まず配信のハードルを下げる意味でも、誰もが簡単に、そして高音質の配信ができる機能にこだわり、「収録放送機能」はもちろん、「LIVE機能」「招待機能」のほか、SNSでメッセージや質問を集められ、配信のテーマづくりにも役立つ「レター機能」「レター募集機能」といった多様な機能を実装。また、BGMを入れたり、音の切り取りや挿入なども手軽にできる機能も備えている。Twitter上ではstand.fmの愛称#スタエフとして、使いやすさに言及するツイートも多くみられる。

写真002

出典: stand.fm 公式サイト

「声」はテキストよりも含む情報量、あたたかさが多い

stand.fmが着目する「声」の魅力とは何か。中川氏は「まず何よりも、テキストや画像、動画よりも伝えられるニュアンスの幅が広く、“あたたかさ”が伝わりやすいという特徴がある」という。

「TwitterやInstagramをはじめ、視聴者のアテンションを集めることに適したサービスは、ユーザーがコンテンツ配信者のことを深く理解できないケースが少なくない。たとえば、本当は温和な人柄なのに、言い切った方がバズるため、テキストコンテンツをソリッドにした結果、投稿文面が怖いと感じられてしまう配信者がいる。声のコンテンツは画像やテキストと比べると、口調や抑揚など受け取る情報が相対的に多く、テンションや温度感も上手く伝えることができる」(中川氏)

画像3

株式会社stand.fm 
代表取締役共同代表 中川綾太郎氏

コンテンツを加工するなかで欠落してしまったニュアンスに富む情報を、声という媒体なら届けられるというわけだ。また「スクリーンレスも声の魅力だ」と中川氏は続ける。テキストにしろ、画像にしろ、動画にしろ、既存のコンテンツやSNSはいずれも、「ユーザーがPCやスマートフォンなどの画面を見る」という行為に支えられている。しかし、音は画面を見続ける必要がない。

「スクリーンを奪い合う種類のコンテンツ配信プラットフォームは過当競争気味で、コンテンツの潮流も、より尺の短いものがトレンドになりつつある。一方で、声は画面を見ずとも常時聞くことができる。メイクしながら、通勤しながら、もしくは就寝時、電気を消した後にでも利用が可能だ。こうしたスクリーンレスという側面が受け入れられてきているのか、stand.fmではユーザーあたりのデイリー滞在時間が80分を超えはじめている」(中川氏)

音声コンテンツは、配信する側にとってもある種の“ゆるさ”がある。動画用に機器や背景を用意せずとも、気軽に配信が始められる。実際、stand.fmには、家事や子どもの世話の合間に配信を行う主婦ユーザーもいるという。またブランドや小売店など目的が販売である場合、動画や画像では、必然的にヴィジュアルコミュニケーションありきの説明となりやすい。そのため、撮影に必要な準備やコストがかさみ、だんだんと配信できるコンテンツが絞られてしまう。

「美容業界も、ビジュアル的なクリエティブにはかなり力を入れているはずだ。しかしながら、その制作工数や費用はどうしても重くなる。また、機能美を説明する場合に、ビジュアル以上のものを伝えたいというブランドも少なくないだろう。過去にはエルメスが期間限定のインターネットラジオとして番組を制作した『ラジオエルメス』の試みもあったが、音声配信をうまく使うことで、新製品の案内だけでなく、ブランドストーリーに合わせて語られるコンテンツをゆっくり聴いてもらえる可能性が高いと考えている」(中川氏)

写真003

出典: stand.fm 公式サイト

サブスクリプションの仕組みや物販との連携

stand.fmでは今後、ユーザーが声を使ったコンテンツを手軽に生み出し収益化できる環境づくりと、配信者とリスナーが繋がる仕組み、また繋がったことで生まれたコミュニティをサポートできる機能を随時更新していきたいとする。

「構想している機能のひとつが、物販や小売との連携だ。たとえば、美術館の音声ガイドのように、店頭の商品にQRコードをつけてstand.fmのコンテンツに繋がるという仕組みは積極的に考えていきたい。体験を音声で拡張するという意味で、広義のAR(仮想現実)ともいえる。店舗でポップをつくるなどの作業は手間もかかり、置けるスペースも限定的になってしまうが、音声配信と組み合わせることでプロダクトを拡張できれば面白い」(中川氏)

2020年9月には、配信者の収益化を支援する「月額課金チャンネル機能」を開始し、各配信者に再生時間に応じて支払いをするパートナープログラムを実施したり、承認制で配信者がユーザーに月額課金が可能なサブスクリプション機能も備えた。

美容業界においては、まずは「音声配信プラットフォーム」を上手く利用することで、作り込んだビジュアルコンテンツや、ソリッドなテキストコンテンツとは異なるアプローチにより、顧客とより深く長いつながりを築ける可能性がある。またstand.fmでは、企業が社内向けに限定公開のアカウントを持ち、社内報やお知らせを共有するという用途でも利用しているケースがある。外部への情報の発信だけでなく、社内での情報共有にも有用になりうる。

中川氏は、海外も含め、いまのところ競合はないという。コンテンツを厳選して配信する音声「メディア」ではなく、音声コンテンツを誰でもが気軽に配信できる万人に開かれたプラットフォームとして、またコミュニケーショのツールとしてstand.fmを昇華させたいと考えている。「声でつながるやさしい世界」をつくるのが最終的な目標だ。いまは日本語のみの提供だが、音声コンテンツへの注目が高い米国など英語圏での提供も視野に入れている。

「メールオンリーの環境から、LINEやMessengerなどが次々登場してきたIT技術の発展のなかで、お互いが同時に接続して、いつでも話せるような環境が徐々に整ってきた。我々としてはその文化をさらに前に進めていきたい。常に繋がっていて、『何時から電話していいですか』など確認する必要もなく、話しかけるタイミングさえ分かるような仕組みだ。文化の側が変化していくのも重要だが、我々としては、そのような“会話がインターネットで常時接続された世界”を目指しサービスを洗練させていくつもりだ」(中川氏)

それが叶うとき、音声コンテンツは、いつもそばにいて呼び出せるような驚くほどの距離の近さを生み出すかもしれない。美容が極めてパーソナルな購買や体験であること、オンラインでの接客も身近になっていることを考えあわせると、「音声のみ」の新しい顧客とのコミュニケーションの可能性は大きい。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: stand.fm

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
22
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp

こちらでもピックアップされています

Virtual Life
Virtual Life
  • 17868本

バーチャルとリアルの行方