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2030年以降、美容業界のイノベーションに必要な未来人材の7つのコンピテンシーとは

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2030年以降の社会や美容業界の変化に対応するイノベーションにはどんな人材が必要なのか。どのようなスキルが求められ、多様な力をどう組み合わせていくべきなのか。2024年3月6日開催のウェビナー「〜イノベーションが連続して起こる先の未来〜 2030年以降の美容業界」で語られたテーマだ。登壇したD4DR株式会社  代表取締役社長 藤元健太郎氏による、当日には答えきれなかった質問へのフィードバックも含めてレポートする。


我々がめざすべき「未来人材」、その7つのコンピテンシー(行動特性)とは

不確実性がますます高まる時代において、ビジネス環境はもちろん、社会全体が大きく変化するなかで、将来への見通しを持ち、変化に適切に対応していく人材が今後のビジネスにおいて重要な鍵となる。BeautyTech.jpがアイスタイルのビジネスユーザー向けポータルサイト @cosme for BUSINESSと共催したウェビナー「〜イノベーションが連続して起こる先の未来〜 2030年以降の美容業界」の第二部で語られたのが、こうした「未来人材(未来を支える人材)」のあり方だ。

株式会社D4DR 代表取締役社長で未来戦略コンサルタントの藤元健太郎氏は、その具体像を、新しい市場や生活者ニーズをいち早く読み取り、事業を創出していける人、また、生成AIの普及に伴う新しいワークスタイルに対応して、新たな求心力を生み出し牽引していくリーダー的存在だと説明した。そして、このような「未来人材」に必要なコンピテンシー(行動特性)は、7つのタイプに分けられるという。

すなわち、「知の探究力」「未来洞察力」「事業構想力」「マーケティングセンス」「プロデュース能力」「マネジメント力」「デジタルセンス」だ。この7タイプは、経済産業省「未来人材ビジョン」の「これから求められる人材像」や、D4DRの数十件にわたる新規ビジネスのコンサルティング経験をもとに考案された。またこれらは、研修や実務を通して身につけられる部分もあるが、「スキル」というよりも、むしろ、その人自身が持つ行動特性であると藤元氏は説明。ある人が、この7つのうち、どこが得意なのか、あるいは好きだと思えるかを理解することで、たとえば新規事業における最適なチーム編成の助けになるとする。

D4DR株式会社 代表取締役社長 藤元健太郎氏
プロフィール/1993年からインターネットビジネスの研究を開始し、1994年に野村総合研究所で日本最初のインターネット上のオープンイノベーションプロジェクトであるサイバービジネスパークをトータルプロデューサーとして立ち上げる。2002年にD4DR株式会社を設立、多くの企業や自治体などのeビジネス参入支援、マーケティング戦略・新規事業立案など多数のコンサルティングを手がける。スタートアップビジネスにも関わり、PLANTIOをはじめ、複数社の取締役、社外取締役などを務める。また、次世代のリテールを研究するNext Retail LabやVRアカデミーなどの幹事や座長、理事などを多数務める。関東学院大学非常勤講師。日経MJに月次コラム「奔流eビジネス」を10年間連載中。主な書籍として『サイバー市場の可能性』(生産性出版)、『ニューノーマル時代のビジネス革命』(日経BP)がある

さらに、この7タイプは大きく2つのグループに分けることができるという。下の図であらわした下段の4つは、すでに以前から必要性が語られており、企業も実務や研修を通じて育成に力を入れてきた部分だ。顧客の体験を深く理解し、価値ある体験を設計できるかなどの「マーケティングセンス」、プロジェクトの成功に必要な人材、物資、資金を効率的に確保できることなども含んだ「プロデュース能力」、メンバーのモチベーションを引き出し、積極的な参加や成果を促進するモチベーターとしての力などを含む「マネジメント力」、デジタルテクノロジーを理解して使いこなそうとする意欲などの「デジタルセンス」など、中堅からベテランのスタッフにとっては、すでに身についており、その人の行動特性となっているケースも多いという。

「未来人材」に必要なコンピテンシー(行動特性)7タイプ

一方で、藤元氏は、これからの不確実で変化の激しい社会では上段の3つ、「知の探究力」「未来洞察力」「事業構想力」がますます重要になると指摘する。目の前で取り組むべきビジネス範囲とは視点が異なるコンピテンシーとして、詳しく説明した。

「知の探究力」: なぜ?を起点に情報を集め仮説をつくれる力

「知の探究力」(アンテナを立てる力、情報の選別力、問いを立てる力)は、さまざまな事象に対して好奇心を持ち、藤元氏いわく「全身ハリネズミのように」情報収集のアンテナを立てながらも、膨大な情報の海に溺れてしまうことなく、収集した情報を自身の持つ知識体系やこれまでの経験と照らし合わせて、必要なものとそうでないものに選別できる力だ。具体例をあげると、「なぜこれが流行っているのだろう?」と疑問を持ち、さまざまな情報を集めて理解し、その情報の重要度を見極めて仮説を作るところまでの能力を指す。

知の探究力がある人は、技術革新、社会情勢、生活者の価値観の変化に対応して、仮説をたて解決策を創出していくことができるといえる。新規事業を起こすうえでは、目まぐるしく変化する情報を幅広く認知しながらも、効率的で効果的な意思決定を行い、革新的なアイデアを生み出す必要がある。そこで、この「知の探求力」が大事になる。

「これからは当たり前のものとして、仕事において普及する生成AIを使いこなすのにも、問いを立てることが必要だ。問いを立てる力は『プロンプトエンジニアリング』ともいわれるが、プロンプトの入力は自分が何をしたいかがわかっていないとできない」(藤元氏)

「未来洞察力」: 未来におけるあるべき姿を妄想し、そこから逆算できる力

「未来洞察力」(妄想力、バックキャスティング力、シナリオ構築力)は、未来の可能性を想定して、それを実現するための具体的な道筋やプランを描ける力の総称だ。

「想像」が常識の範囲内での発想を意味するのに対し、既成概念にとらわれない自由な発想ができることを、藤元氏はあえて「妄想力」と表現して重要視する。たとえば、自動運転の車が社会に普及することを考えたとき、今はまだ完全に実用化はされていない自動運転車の車内で、人々が行うであろう美容行動がどんなものかを考えるのは妄想力といえる。

また10年後、20年後にこうなっていたいという未来を描き、その実現に向けて現在から逆算して今やるべきことを見出し、計画を立てるのがバックキャスティング力である。たとえば、自動運転におけるあるべき姿が「人は寝ていてもよい完全なる自動運転」だとすれば、それが将来的に社会にどんな順番で普及、浸透していくのかを細かく考え、そして、今の段階でそのあるべき姿に向かってすぐやれることが何かを考える力をシナリオ構築力といってもよい。

未来洞察力がある人は、変化が激しい現代社会においても、「あるべき姿」から逆算して革新的なアイデアや解決策を創出し、課題に柔軟に対応できると考えられる。

「事業構想力」: 変化に柔軟に対応しつつ、事業を伸ばしていく力

「事業構想力」(ビジネスモデル設計力、エコシステム発想力、成長シナリオメイキング力)は、日本の大企業において事業を推進する人が持つべきコンピテンシーとして、藤元氏がクライアントの新規事業を支援するなかでも、極めて重要だと感じているという。

事業構想力の構成要素としてまずいえるのは、ビジネスアイデアを生むだけではなく、自社でのマネタイズ、さらに市場として拡大していくまでを描くビジネルモデル設計力だ。そして、バリューチェーン全体を描いて、ビジネスとその関係者全体を俯瞰し、たとえば、ほかの企業との提携や買収を含めた選択肢を多く持ち、検討をすすめてプロジェクトを進めるなど、相互関連性を理解できるエコシステム発想力、市場でどんなポジションを取りに行くのかまでを描き、戦略と計画を作成することができる成長シナリオメイキング力が挙げられるとする。

事業構想力がある人は、変化の早い市場環境においても、長期的な成長を促進する戦略を立て、それを社内で説得力をもって推進していくことが可能だろう。「知の探求」や「未来洞察力」が0を1にする力だとすると、「事業構想力」は10を100にするための力ともいえるだろう。

人材や社内全体のスキルが可視化できる未来人材アセスメント

こうした7つのコンピテンシーは、前述したように、1人の人材がすべてを高いレベルで備えるわけではなく、各自の興味関心や得意不得意を可視化し、チームにバランスよく人材を配置することが組織にとって大切だと藤元氏は説く。

そしてそのために利用できるサービスとして、D4DRが開発した「未来人材アセスメント」を紹介した。同サービスは「7つの未来人材コンピテンシー」について、21の項目に対する各自の回答を集計することで、人材および社内全体のスキルが可視化されるものだ。アイスタイルとD4DRが共同開発する美容業界の人材育成に特化した「美容業界DX推進 研修プログラム」のオプションサービスとしても利用可能で、同プログラムでは美容業界に必要な項目も付加した内容で提供される。

21の項目に対する人材の回答を集計すると、人材および社内全体のコンピテンシーが下記のように可視化される
個人や組織の7カテゴリ26項目のコンピテンシーレベルをレーダーチャートで可視化する

7つのコンピテンシー以外にも、「スキル」「キャラクタータイプ」「インパクトファクター」の可視化でわかること

ウェビナーで触れられた「7つの未来人材コンピテンシー」以外にも、「イノベーション人材スキルマップ」「キャラクタータイプ診断」「インパクトファクター評価」を加えて合計4つのアセスメントが用意されている。

■「7つの未来人材コンピテンシー」
4つのアセスメントのうち、最も簡易なもので、人材の7カテゴリー26項目のコンピテンシーレベルをレーダーチャートで可視化する。

■「イノベーション人材スキルマップ」
イノベーションや新規事業で必要とされる、学習することで身につけられるスキルのその時点での到達度を可視化する。12カテゴリー97項目と詳細なスキルレベルがわかる。

■「キャラクタータイプ診断」
ひとりひとりがもつ性格傾向や価値観、行動を5段階で評価するもので、チーム編成の検討材料としても活用できる。

■「インパクトファクター評価」
個人がもつ興味関心のなかでも、とくに未来に関する事象を詳細に可視化するため、部署や世代間などのギャップを把握し、チーム編成のほか、コンセンサスの策定にも活用できる。

目的別に選べる4種類のアセスメント

ウェビナーの事前質問で寄せられた「未来」に対する深い関心

藤元氏はウェビナーに事前に寄せられた質問に次のように回答している。時間中に回答できなかった質問もあわせて紹介する。

Q. イノベーション人材を育成するために必要なこと、また業界経験の長い30年くらいの社員たちは、どのようなことを心がければよいか

A. 「業界経験がすでに30年くらいある方たちは、これから新しいスキルを身につけることにあまり気が進まないという人も多いかもしれない。しかし、我々が新規事業のコンサルを通じて感じるのは、業界知識に詳しく、経験豊富だからこその良いアイデアがそうした方々から出てくることだ。とくに、業界経験の長い方々には、今回紹介した7つのコンピテンシーのうち、後半の4つ(「マーケティングセンス」「プロデュース能力」「マネジメント力」「デジタルセンス」)をすでに持つ方がかなり多いので、前半の3つ(「知の探究力」「未来洞察力」「事業構想力」)を意識してもらえるとよいのではないか。スキルに関しては意欲がある人には学んでもらえばよいし、あるいは、スキルを持った若手を育成してチームを編成すればよい」

Q. 世界と比べたとき、日本の美容業界あるいは近しい領域で、イノベーションのチャンスはどのような部分にあるのか

A. 「美容業界にとってはいろいろな市場がチャンスなのではないか。まずウェルビーイングやウエルネスは近しい領域として強く意識すべき分野だ。たとえば、睡眠が注目されているが、もっと質の良い睡眠をとりたいという人たちに向けて何ができるのかを考えるなどできるだろう。またフーディング市場、フードテックの領域では日本には強みがあり、美容と組み合わせるとグローバルでも強みとなりそうだ。また、いわゆる“オタク”が多い日本は、言い換えるなら、自分が好きなものに夢中で邁進できるという自己表現でも強みを持つといえるだろう。自己表現は美容とも密接なものなので、こうした領域は当然狙っていくべきだ。それ以外では、グローバルレベルでの超富裕層も狙いめだろう。日本も今後二極化していくと思うが、それは決して悪い話ばかりではない。超富裕層向けの商品やサービスが増えるだけでなく、彼らに投資してもらうことでビジネスチャンスがどんどん広がる可能性もある」

Q. 2030年以降、我々はどういう世界に生きているのかというヒントや予想があるか

A. 「未来をずばり当てることは難しいが、いまある情報から推測していくことはできる。そうした情報を集めながら、むしろ我々自身がどういう世界にしたいかという意思とビジョンを持つことが大切だ。そのなかで、変化にも柔軟に対応できるチームをつくっていくことが大事なのではないか」

Q. 今後10~20年後のグローバルビューティ業界の変化と、そのなかで日本企業がどのように変革していくことが最適と考えるか

A. 「日本では人口が減少しているが、世界規模での美容対象人口は拡大するため、グローバルに通用するブランドやサービスへの変革が必要だ。『まず日本市場ありき』という発想をなくし、最初からグローバル展開が可能な商品やサービスづくりが可能なチームの編成に加え、ウエルネスの世界は従来のビューティを越えた価値提供が求められるため,異業種とのアライアンスやスタートアップとの連携などがとても重要になるだろう」

Q. いまはまだ存在しない、どのような新しいビジネスモデルが今後グローバルビューティ業界に生まれると思うか

A. 「テクノロジーとしては、Apple Vision ProやXREALなどが話題を集めているように、センサーやハードウェアのアプローチは増えるので,ハードウェアと組み合わせた美容ソリューションの販売、機器のレンタル,サブスクなどのビジネスモデルは増えると思われる。また、Web3のトークンを活用した新しい商品開発のビジネスモデルも登場するだろう」

Q. 美容業界におけるAI活用の未来図は

A. 「美容においても、社内事務,コールセンター,工場の生産ラインなどは、他業種と同じ速度でAI活用がどんどん進んでいくだろう。美容業界ならではという意味では、今後は商品開発や化粧品の原料開発などR&D領域で大幅な効率化が期待される」

Q. 生成AIによるハイパーパーソナライズドビューティの可能性は(現在はまだコストや利便性と見合わないがどう進むと思うか)

A. 「パーソナライズドビューティに行き着くためには、AIが美容品の製造装置やメイクや施術が可能なロボットとの連動が必要になるため,採算ラインにのるためには5年くらいは必要になると思われる」

Q. 日本の美容業界として、イノベーションのチャンスはどのような部分にあるか、あるいはどのようなカテゴリーか

A. 「とくにスキンケアについては、日本ブランドが持ち続けてきた“信頼”が実は強みになるのではないか。インフルエンサーのような力を持った個人が美容ブランドも持てる世の中で、日本ブランドへの信頼がすでに確固として存在するのは財産でもある。そこにいかに新しい付加価値を創出できるかで、チャンスは大きく広がるだろう。カテゴリーとしては、前述したようにウエルネス,ウェルビーイングの領域は大きなチャンスがある。スリープテック,メンタルウエルネス,身体拡張(人間の身体能力や知覚などをテクノロジーによって増強や拡張すること)などは、食品,製造業,サービス業など業種の垣根を越えて市場が広がるだろう」

Text: 矢野貴久子(Kikuko Yano)、BeautyTech.jp編集部
Top image and photo: D4DR株式会社

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