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co-store戦略とは(2) - ユーザーと小売店からの視点

前回は私たちアイスタイルが今後展開するco-store戦略について、ブランドの視点から書きました。今回はユーザーの視点・小売店側からの視点でお話したいと思います。

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購入できる

co-store戦略と書いていますが、その大前提として、そして本丸中の本丸は小売店舗としてお客様にとって素晴らしい購入体験を実現していくということにあります。

前回のようにブランドにとっての店舗のあり方、というテーマではブランド主導型のマーケティング型店舗をイメージされる方もいるのですが、小売店舗である以上、カスタマーセントリック・お客様中心が店舗設計思想の中心にあるのは変わりません。「何か欲しい」と思ってきている以上、「その場で購入できる」と「体験」が背骨としてきちんと通っていることが大事です。商品が見やすくなっている、在庫もある、テスターもあり、もちろん清潔であり、レジで待たない、スタッフの対応が満足できるレベルになっているなど。そのため、アイスタイルでも一番力を入れているのは、その環境をつくれる店舗スタッフの育成です。お客様に満足していただける店舗運営ができることがco-store戦略の中で一番大事なことなのです。

体験できる

その上で、ユーザーにとって「体験できる」場所として認識してもらうことが大事です。

たとえば、インスタやYouTubeで新しい商品を知ったとします。その商品を試してみたいと思った時に、試せる場所を調べて足を運ぶユーザーはどれくらいいるでしょうか。仮に10人に1人いたとしたら、その1人はかなり高い確率で商品を購入してもらえると思いますが、残りの9名の方は、そこまで能動的に動けないでしょう。私たちが目指しているのは、そのうち10人のうち3人くらいの方が「@cosme STOREに行けば試せるかも」と頭の中に想起してくれることです。これは多くのブランドが集積する小売店舗ならではです。

一時期「店舗はショーケース化する」という話がありましたが、これは「決済フローを通らなくなる」だけで、今までだって何か気になったものは実際に店舗に足を運んでいました。ということは、ユーザーにとって店舗が体験できる場であることが圧倒的なアドバンテージなのですから、ここを磨くことが重要になってきます。「店舗のミライ」というとデジタル化ということが期待されがちですが、実は店の中心に手を洗える水場を作る、可能な限り多くの鏡を置く、コットンや綿棒などテストしやすい環境を作っていく、デパコスからプチプラ・セルフまで一緒に試せる、などユーザーの体験を生み出す仕組みや仕掛けを店舗につくっていくことが重要です。

また来たいと思ってもらえるコンテンツ

「購入できる」「体験できる」ということで言えば、今まで店舗でやってきたことだから、co-store戦略って言っても何も変らないじゃん、と思うかもしれません。確かに一つひとつで見ればやっていることは変わらないのですが、「Co-」 とあるようにブランドやメーカーと店舗が協力・共創していくことが大きく違います。

たとえば、先ほどの体験ですが、前回書いたようにスーパーの実演販売のように捉えてもらうとわかりやすいかもしれません。店舗内に10箇所の実演販売の場所があったとします。仮に月に1回入れ替わるとすると、年に10×12=120のブランドが出演できます。どのブランドを揃えるとユーザーに来てもらえるコンテンツになるのか、プログラムを組むのが小売店舗側なのです。企画によって全然違うブランドの品揃えになるかもしれません。「販促の場所として、ブランドに販売する」のではなく、「店舗のコンテンツとして全体として盛り上げていく」のです。ブランドも単独店舗でするよりも集客という点で効果がありますし、ユーザーにとっても面白い企画があれば店舗に足を運んでくれます。

実はこれはすでに百貨店とかではやっていることなのです。たとえば、クリスマスの時に販売協力費として一定の協賛費とともに、その期間限定の商品を出してもらう。それをベースに、百貨店が編集・コンテンツ化して冊子にしたり、集客の広告を出したりしています。ただしこれは、コンテンツが紙だったり、企画が四半期に1回だったりするので、準備にかなりの時間とコストをかけています。これをコンテンツはデジタルとSNSでやり、企画は月次もしくは隔週でやっていく、参加するブランドは館全体ではなく、店舗に並んでいる商品からピックアップして実施していく。企画ごとに集客の規模が見えてくるので、参加するブランドや企画をどんどんPDCAを回すことによって、今までかかっていた時間とコストを圧縮するのと同時に、圧倒的な回数を増やすことで、ユーザーにとって常に新鮮な店舗を作っていくことができます。

・購入できる
・体験できる
・また来たいと思ってもらえるコンテンツ

co-store戦略といっても、ユーザーにとっては何か目新しいことなのでなく、「購入できる」ということに加えて「体験できる」ということの比重を大きくしていることがポイントです。でもこれこそが大事で、今までは小売店は「品揃え・MD」で小売店の特徴を出していましたが、このco-store戦略は、ブランドとともに「コンテンツ・企画」を作っていくのです。これは1ブランドではできませんし、小売店舗の企画力・ファシリテート力が大事になってきます。坪あたりの商品数や品揃えではなく、ユーザー1人あたりの来店数(フリークエンシー)や滞在時間(ブランド接触数)が大きなKPIになってくると考えています。百貨店のクリスマス企画を例に出しましたが、co-store戦略において大事なのは、店頭のハードのデジタル化ではなく、店頭のコンテンツ化・運用の回転を上げていく、そのためのデジタル化だと考えています。

次回からは、実際に@cosme TOKYOでトライしている事例について話していきたいと思います。

次回予告:@cosme TOKYOが目指すもの(1) -「探しやすい」場所から「出会いやすい」場所へ


<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。