見出し画像

日本人の6割が実はくせ毛、“活かす”プロダクトで新市場の創出に挑むCurly Me

◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

日本では、「くせやうねりを抑え、まっすぐにする」ヘアケア製品が多いなか、本来のくせ毛を活かすというユニークなアプローチで、くせ毛に悩む多くの女性たちをエンパワーメントし、支持を集めている「Curly Me」。ブランド立ち上げからの2年間と、今後の成長戦略について、株式会社Curly Me ブランドオーナーのカーリーガールリン氏に話を聞いた。


髪の「クセ活」で、悩む人に新たな選択肢

日本では、ストレートヘアが好まれる文化が強く、くせ毛は直すべきものという文脈で語られることが多い。くせの強い人は「地毛証明書」の提出を求められる学校もあり、子どものころから知らず知らずのうちに「ストーレートがよい」という価値観を刷り込まれている影響もあるのかもしれない。
 
日本のくせ毛向けのヘアケア製品の多くは、「くせやうねりを抑え、まっすぐにする」機能性を重視する傾向がある。しかし、日本人の6割が程度の差こそあれくせ毛であるとされ、全体の約半数が自分の髪をくせ毛だと認識しているというデータもある。

そんな日本人のくせ毛のスタイリングの概念を変える新しいアプローチが、SNSを起点に広まっている。くせ毛をそのまま活かす「クセ活」を提唱するのは、ビューティインフルエンサーのカーリーガールリン氏(以下、リン氏)だ。リン氏自身が強いくせ毛の持ち主で、長年髪の毛のことで悩んできたという。そして28歳のときに、米国発のくせ毛活かしメソッド「Curly Girl Method(CGM)」に出会い、くせ毛はスタイリングとヘアケア次第で活かせることを知り、人生が変わったという。

「海外では、生まれながらの自然な髪質を尊重する考え方が広く支持されており、くせやカールを活かすためのヘアケア製品が多数存在する。実際、小売店の店頭でもカーリーヘア専門の棚が必ずあり、そこにはくせ毛用のシャンプーやコンディショナー、ジェルなどがずらりと並んでいる」(リン氏)

株式会社Curly Me ブランドオーナー カーリーガールリン氏
プロフィール/毛髪診断士。くせ毛を活かすブランド「Curly Me」オーナー。天パ歴33年の『もう天パで悩まない! あなたのくせ毛を 魅力に変える方法 』著者。天パやくせ毛の悩みを抱える人へ「くせ毛を活かす方法」を届けたいと、2020年からSNSでの活動を始める。国内のみならず海外向けにも情報発信をしており、くせ毛を活かすヘアケアアイテムブランド「Curly Me」を立ち上げ、その運営も行う

欧米では、カーリー向けヘアケア製品は注目の成長市場として捉えられている。たとえば、英国発のカーリー向けブランド「Curlsmith(カールスミス)」は、2018年にケイト・ベルスキー(Kate Berski)氏とその夫が、姪たちが自身のカーリーヘアに合った適切な製品を見つけるのに苦労していたことをきっかけに設立したブランドで、2022年には、レブロンやブラウンなどを傘下にもつ Helen of Troy(ヘレン・オブ・トロイ)に1億5,000万ドル(約222億円)で買収された。

また、2017年に、米ロサンゼルスでインフルエンサーのジュリサ・パラド(Julissa Prado)氏が立ち上げた「Rizos Curls」は、ラテン系をはじめとした多様なバックグラウンドを持つ女性たちをターゲットにしたブランドで、カーリーヘアを持つ人々に自分の髪を愛し、ケアするための高品質な製品を提供。現在は、米アマゾン、アルタ・ビューティなどの大手小売店で購入可能になっている。

Ulta Beautyでカーリー製品を紹介するリン氏の動画

「Curly Girl Method」をベースに日本独自のメソッドを確立

「Curly Girl Method(カーリー・ガール・メソッド、以下CGM)」は、米国のヘアスタイリスト、ロレイン・マッシー(Lorraine Massey)氏が1999年に提唱したくせ毛活かしメソッドで、くせ毛に悩む人たちに新しい価値観をもたらし、世界各地で広まっている。そのメソッドとは、たとえばシャンプーやコンディショナーは、シリコンフリー、エタノールフリー、サルフェート(硫酸塩)フリーのアイテムを使うこと、髪を熱にさらさない、髪を頻繁に洗わないなど細かなルールが定められているが、日本では手に入らない製品も多く、湿度が高く汗もかきやすい日本では実践が難しい点もある。そこで、日本の環境でも無理なく実践できるようにアレンジを加えて誕生したのがリン氏の提唱する「クセ活」だ。

「強いくせ毛はもちろん、普通のケアではあまりカールがつかず広がってしまうようなくせ毛でも適切なケアとスタイリングをすれば、髪の毛が生き生きとして、まるでパーマをかけたような艶のあるカーリーヘアになる。くせ毛に悩む多くの女性に、本来のくせを活かすやり方があるというのを知ってほしい」と考えたリン氏は、コロナ下の2020 年に、SNSでの発信をスタートした。SNSでは、海外のくせ毛・カーリー向け製品のレビュー、自宅で簡単にできるお手入れやスタイリングのコツなどを紹介しており、2024年9月時点で、Instagram、YouTube、TikTokの合計フォロワーは4万4,000人を超える。

未経験からのカーリーヘア向けのプロダクト開発

SNSで発信をはじめた当初から考えていたのが、カーリーヘア向け商品の開発だ。「美容業界に身をおいているわけでもなく、美容に精通しているわけでもなかったが、海外ではインフルエンサープロデュースのカーリーヘア製品がいろいろ出ているのをみて、自分もトライしたいと思っていた。もし売れなかったとしても、やらないよりやって後悔しようと覚悟を決めた」(リン氏)

まず、小ロット製造に対応しているOEMを50社ほどピックアップして、一社ずつアタックしていった。そのうちの一社である株式会社サレア化研が、リン氏のSNSでの発信をみて興味をもち、一緒に市場開拓をしていくことのオファーがあった。ベンチマークしている海外製品を取り寄せ、処方を一緒に考えていったという。

日本人向けの商品としてこだわったのが、香りと手触りだ。「CGMでは髪の毛を毎日は洗わないとしているので、海外では強めの香りや日本人になじみのない香りが多い。そのため、Curly Meは、無香料かやさしいゆずの香りを選べるようにした。手触りについては、日本では、ガチガチに固まったりベトベトするスタイリング剤はあまり好まない傾向があるので、ベタつかずにツヤを出し、包み込む柔らかさが感じられて、かつ、高湿度の日本の気候に負けないふんわり感と束感をどう出すかにかなりこだわった」とリン氏。約2年間で試作品をつくってはチェックするサイクルを5回以上繰り返し、2022年7月に「Curly Me」が完成した。

ヘアクリームとジェルの2アイテムを使った基本的なスタイリングの流れは以下のとおりだ。まず、髪の毛をしっかり濡らしたあと、ヘアクリームをなじませて髪の毛を保湿する。乾燥が気になる人は、少量のオイルでコーティングする。その後、ジェルをなじませて髪の毛を手で揉み込むようにスクランチングしてカールを出し、最後にタオルドライ、自然乾燥すればスタイリングが完成する。ドライヤー使用の場合はディフューザーを推奨している。

Curly Meのラインナップ

販売前には、CAMPFIREでクラウドファンディングも実施した。当時、リン氏のフォロワーは2,000人程度だったが、のべ271人から120万円を超える支援が集まり、くせ毛を活かす商品への関心やニーズの高さに手応えを感じたという。そして発売から2カ月後には、初期生産ロットが完売した。

ECでの商品購入時に、「自分に自信を持つことができた」「髪型にあわせてメイクや服装も変わり、生まれ変わった」など、Curly Meで自分の人生がいかに変わったか、大きなコンプレックスを克服できたかについて熱いメッセージを寄せるユーザーも多い。自ら進んでくせ毛仲間にサンプルを配布したり、美容室で買えるように営業したりなど、商品を広める活動をしてくれるという。実際、Curly Meはこれまで広告費を一切かけず、リン氏のSNSでのオーガニック投稿のみで2年目の販売数は2万個を突破。現在は、ECのみならず、美容室30店舗でも販売している(2024年9月現在)。

ユーザーは若い世代だけでなく、くせ毛が気になり縮毛矯正やストレートパーマを繰り返してきた40代50代にも多い。髪の傷みやボリューム減でこれ以上、縮毛矯正を繰り返せないと考えはじめる世代にとっては、自分のくせを活かしてふんわり仕上げられることに「くせ毛の悩みがなくなった」と喜ぶ人もいるという。

Curly Meを使うことで髪のパサツキがおさえられ、パーマをかけたような自然でツヤのあるウェーブを引き出すことができる

「日本にはくせ毛を活かすという市場がまだ確立されていないので、私自身のくせ毛、天パをみて、こんなにも変わるということを信じてもらうことが大事だと考えている。SNSを通じて、よき理解者を増やす活動に力を入れているのはそのためだ。フォロワーには、一人ひとりがアンバサダーだと伝えており、クセ活がきっかけで情報発信をはじめたユーザーもいる」(リン氏)

2023年には、全国各地でワークショップを開催した。くせ毛フェスでは、全国から120人のくせ毛ユーザーが集まった

まずは日本で市場創出、将来的には海外展開も目指す

国内では、くせ毛に理解のある美容室がまだまだ少なく、今後は美容室向けのワークショップを多く開催していきたいとリン氏は話す。海外に発送してほしいとの問い合わせもあり、将来的には海外展開も視野に入れているが、まずは国内の市場づくりに注力していくとする。同時に新たな商品開発も進めており、2024年9月には、ジェル、クリームに続く、ヘアオイルも発売した。

「誰ひとりとして同じ髪の人はいない。人種も多様で、ミックスの人もいるなかで、髪の毛は自分のアイデンティティのひとつ。だからこそ、誰かの基準にあわせるのではなく、自分のくせをいかした唯一無二の魅力をもっと楽しんでほしい。自分の髪を好きになると、それが自己肯定感やポジティブな気持ちにつながり、ありのままで生きる勇気につながっていく。くせ毛を活かすという価値観が広まり、自社ブランドだけではなく、カーリー製品がドラッグストアの1カテゴリーとなり、どこでも手軽に購入できるような市場を作っていきたい」(リン氏)

Text: 小野梨奈(Lina Ono)
Top image & photo: 株式会社Curly Me