
メイクアップのパーソナライズに店頭で応えるアモーレパシフィック「TONEWORK」
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韓国アモーレパシフィックは、2023年1月に開催されたCES 2023において、一人ひとりにカスタマイズしたカラーコスメを店頭で製造しその場で手渡すソリューション「Authentic Color Master By TONEWORK」を披露して革新賞を受賞し、続いて同年5月には、同ソリューションを取り入れた新たなブランド「TONEWORK」を正式にローンチした。TONEWORKのコンセプトとソリューションの詳細、直近のユーザー評価について紹介する。
韓国最大手がローンチしたパーソナライズ・メイクアップコスメブランド
アモーレパシフィックは2023年5月16日に、「DISCOVER YOUR TONE」というコンセプトを掲げたカスタマイズ型メイクアップコスメブランドTONEWORKを正式にローンチした。AIを活用した独自ソリューションで顧客の肌の色を分析し、各自に適したカラーのファンデーションやリップ製品を製造・販売する仕組みを取り入れている。

肌の分析に用いられるソリューションは「Authentic Color Master By TONEWORK」と名付けられている。人種や年齢が異なる世界各地のユーザーから収集した皮膚トーンデータとAIアルゴリズムを掛け合わせ、分析を受けるユーザーの肌の色を高精度で測定。顔認識技術と色彩学にもとづいて最適なカラーを提案する。その後、ロボットアームがカスタマイズされたファンデーション、リップなど各アイテムを店頭で即座に製造する。分析結果に応じてカスタマイズ可能なカラーアイテムは、ブランドローンチ時点でおよそ600種類とされている。
Authentic Color Master By TONEWORK
「Authentic Color Master By TONEWORK」は、2023年1月に開催されたCESのロボティクス部門でイノベーション・アワードを受賞した実績を持つ。現在、同ソリューションのすべて、もしくは一部肌診断機能は、ソウル市龍山区にあるアモーレパシフィック本社内アモーレストア、アモーレ聖水店、LANEIGE明洞店、ETUDE新村店など、ソウル市内の複数の店舗で稼働中だ。
そのうち本社に併設されているアモーレストアでは、ロボットアームを含むソリューションすべてが提供されている。ユーザーが測定用のシェードカードを肌にあてると、設置されたカメラを通じてAIが肌および肌に合う色彩を6秒ほどで測定。国家資格を持つ調剤管理士とのリアル対面でのカウンセリングを経て、10分ほどでロボットアームが製品を完成させるという。店舗で肌分析を終えたのちは、顧客は自分に適した商品もしくは気に入った商品の製品番号が入ったレシートを控えておくことで、次回からは公式サイトや外部EC上でも番号を指定しての購入ができる。

出典:TONEWORK公式サイト
またTONEWORKの公式サイトには、「TONE LINKER」「TONE LINKER+」という機能が実装されている。ユーザーが普段使用しているファンデーション商品の情報を入力すると、最も近いカラーのファンデーション商品をレコメンドしてくれる機能だ。「TONE LINKER+」ではTONEWORKの商品を、一方、「TONE LINKER」では他ブランドの商品も含めて検索できるようになっている。今後は、専用アプリとシェードカードを使って、インターネットやモバイル上で分析から購入まで完結できる「TONEWORK BY ME」という機能も登場する予定だ。これらの機能は、店舗に訪れることができないユーザーの購買を促進するためのオンライン施策だ。

出典:TONEWORK公式サイト
また、TONEWORKは、韓国国内のカスタムメイド型コスメブランドとして初めてヴィーガン認証を取得したとする。あわせて、製品の包装には国際NGOの森林管理協議会(FSC)が認証した紙類と再生プラスチックが使用されている。
パーソナライズ市場を予測、3年越しのブランド構想と技術開発
TONEWORKのブランド構想が浮かび上がったのは、韓国で各自の肌分析の結果に基づきオーダーメイドする化粧品の販売に関する法律が整った2020年にさかのぼる。
同年6月、アモーレパシフィック内で初開催されたカスタムメイド型化粧品事業企画会議には、本社や研究所から10チーム30名ほどが参加したという。ブランドを統括するアモーレパシフィック・ネクストビューティ2チーム長のチェ・ヒョン(최현)氏は、当時の状況やTONEWORKの将来性について、現地メディアに次のように語っている。
「3年後には、個人向けにカスタマイズしたビューティサービス産業は、今より(さらに大きな)市場性を持つだろう。現在、化粧品産業は、不特定多数の顧客を対象に販売する大量生産方式から抜け出そうとしている。いずれ『化粧品に私を合わせる』のではなく、『化粧品を私に合わせる時代』が来るはずだ。こうしたパーソナライズした化粧品事業を展開するためには、生産、物流、財務会計などすべての過程で、既存の大量生産システムと完全に異なる新しい基準が必要となった。それらを議論するため、各部門担当者が参加する企画会議がおよそ3年にわたり毎月開催された」
各所の協議を経て、2021年4月にはTONEWORKのパイロットブランドであるBASE PICKERがローンチされた。オンラインで販売予約を募ったところ、応募開始と同時にアクセスが殺到。アモーレパシフィック関係者たちは、カスタムメイド型コスメの潜在需要の高さを改めて認識することになったという。
その後2年間は、顧客のニーズを反映しながらシステムの高度化が進められた。AIアルゴリズムが強化され、肌の色とテクスチャーの組み合わせを反映したメイク製品のカラーバリエーションの数も600種類に増えた。また、韓国の一般的な既存製品は20・21・22号など1号単位でカラーが区分けされており、消費者も品番で自分の好みの色を認識していることが多いが、TONEWORKではその間をとった21.5号という色番を作るなど、部分的により細かく分けた。加えて、クールトーン、ウォームトーン、ニュートラルトーンなど、同じ色番でもトーンを分けて明暗を細分化し150種類のファンデーションの色味(シェード)を用意したという。

出典:TONEWORK公式サイト
現在、TONEWORKの商品はリップが3万ウォン(約3,600円)、ファンデーションが4万ウォン(約4,800円)に設定されている。チェ氏が語るところによれば「カスタムメイド型化粧品を取り扱う競合ブランドはVIP層にフォーカスして価格設定も高めだが、TONEWORKでは手頃な値段でより広範な顧客にリーチしていく計画」だという。
チェ氏はまた、前述のオンラインでもカスタムメイド型コスメを購入できる仕組みである「TONEWORK BY ME」がリリースされれば、TONEWORKがアモーレパシフィック全体にとってより大きな意味を持つブランドになるだろうと見通しを語っている。
「多くの顧客がTONEWORK BY MEを使用すれば、さらに多くのデータが蓄積され精度が向上するだろう。パンデミックが収束してからは、TONEWORKの売り場には外国人顧客も増えており、より幅広い肌のデータも蓄積され始めている。(中略)それらのデータを活用すればグローバル市場に直接進出せずとも、多様な顧客に関する研究ができる。アモーレパシフィックのグローバル事業拡張にもTONEWORKのサービスが役立つはずだ」
ブランド価値向上に残された課題は撮影環境
リリースから約半年が経過したTONEWORKだが、顧客にはどのように受け入れられているのだろうか。まずポジティブな意見には次のようなものがある。
「ファンデーションの数が想像以上に多かった。同じ号数でもトーンが細分化されているので、自分に合うカラーを見つけることができそう」
「21号と23号の間を彷徨っていた“ファンデ遊牧民”だったが、TONEWORKは細かく区分けされているので必要な製品が見つかる」
「配送が思ったより早くとても良かった。ラッピングケースもファンデケースもホワイトですっきりしたデザインで気に入っている」
TONEWORKが強調している「各自に適したカラーやトーンが見つかるよう幅広い品揃えで提供する」という意図は確かに伝わっているようだ。また配送スピードに関しても、一定の評価を得ている。一方、ネガティブな意見には、韓国でもあまり前例のなかったカラーコスメのパーソナライズとして、次のようなものがあった。
「AIは私の肌のトーンを正しく見つけ出すことができなかった。照明によって肌のトーンが変わるので」
韓国の代表的なオーダーメイド型コスメブランドとして挙げられるBALANXやCOCODEMERは、いずれもスキンケアブランドだ。乾燥度やシミの多い少ないなどの各自の肌の特徴を解析し、有効成分とマッチングさせる自前の肌分析システムを保有している。
一方、メイクアップブランドであるTONEWORKのソリューションは“肌の色”を分析することに注力する仕組みだ。現在、店舗ではライティングを整備し、可能な限りユーザーの肌の色味を正確に分析できる統一した環境で撮影が行えるようにしているとするが、最初の分析結果の段階でズレてしまえば、適切なレコメンドができないことにつながる。TONEWORK BY MEなど、オンライン施策をリリースする際には、ユーザーの手元でどこまで肌トーンの再現性を高めることができるかが課題として残りそうだ。
過去にビューティテック分野で数々の成果を残してきたアモーレパシフィックは、オンライン×カスタムメイド×メイクアップという文脈でどのように技術的課題を克服していくのか。TONEWORKが打ち出す新たな施策や、課題に対するアプローチに引き続き注目していく必要がある。
Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: アモーレパシフィック公式サイト