見出し画像

デジタルファーストのIーneが挑むオフライン攻略、 BOTANISTヒットの舞台裏

◆ New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

ドラッグストアのビューティ領域に“ボタニカル”の旋風を巻き起こした「BOTANIST(ボタニスト)」。2007年創業の株式会社Iーne(アイエヌイー)が、どんな経営哲学のもとブランド開発を行っているかについては以前紹介した。今回は同社の大きな強みであるデジタルマーケティングをどのような体制で行っているのかについて、同社 取締役 販売本部本部長代理兼ブランドプロモーション部部長 伊藤翔哉氏に話を聞いた。

ユニークな組織体制が生み出す「何が優先か」の共通理解

Iーneがヒット商品を生み続けることができる要因のひとつに、ユニークな組織体制を採用している点がある。販売本部・マーケティング本部・ブランディング本部・経営管理本部の4つの本部で形成され、これらの本部を横断する形で、BOTANISTをはじめとするブランドごとにブランドチームが組成されている。このブランドチームが、商品企画からマーケティングの戦略策定まで、すべてを一貫して担っている。メンバーはブランドチーム内での決定事項を各本部に持ち帰り、実行へと移していく。デジタルマーケティングは、販売本部下にあるブランドプロモーション部において実行しており、それを統括するのが伊藤氏だ。

スライド1

Iーneの組織体制図
(編集部作成 ※2021年1月現在)
参照:Iーne

前回の記事では、Iーneが独自に開発したブランドマネジメントシステム「IPTOS」について、概要を紹介した。本稿では、「Idea(アイデア)→Plan(企画)→Test(検証)→Online/Offline(EC/一部小売)→Scale(スケール)」のプロセスで、実際に各ブランドチームがどのようにブランド開発を進めているのかをみていきたい。

図1

まず、海外居住経験者、特定の分野に精通する者など、世界中のあらゆる情報をキャッチアップすることに長けているメンバーを社内で選出したトレンドハンティングチームが社内に存在する。それに加えて、AI「KIYOKO」などの活用によるトレンドキャッチや未来予測、および全社員アイデア起案制度から多数のアイデアも生まれる。そして、これらがマーケティング本部及びブランディング本部にて絞り込まれ、“新ブランドのアイデア“として、部署横断でつくられたブランドチームに集結される。そこでテストマーケティングにのせるかどうかについて議論が行われ、GOサインが出たものが商品開発へと進み、3ヶ月〜半年間のテストマーケティングがスタートするといった流れだ。

このフェーズでは、「デジタル上でのコンバージョンレートがアド経由・オーガニック経由でそれぞれどのように推移するのか」「バナーのCTRはどれほどなのか」「購入者のレビューやリピート買いにつながるのかどうか」など、これまでの経験と実績にもとづいて設定された多数のKPIについて評価される。これらの厳しいKPIを達成して本格的な量産化が始まるのは、テストマーケティングにのせたうちの約半数だという。

「データの蓄積により需要予測ができるブランドやファンがついている既存ブランドの新商品に関してはIPTOSにのせないこともあるが、新ブランドや新カテゴリーの商品については、必ずIPTOSでテストを行なっている。量産化に進む新ブランドのローンチのペースは2ヶ月に1度だ」と伊藤氏は語る。

「テストマーケティングはすべてEC、つまりオンラインで行うため、歯磨き粉や柔軟剤といったEC化率の低いカテゴリーの商品は、どうしてもKPIを達成するのが難しく、予測と実績の間にデータのズレも生じやすい。しかし、逆に言えば、ビューティ・家電・健康食品のようなEC化率の高い商品は、予測の精度がかなり高まってきている」(伊藤氏)

このように、テストマーケティングの時点から数字にこだわったデータドリブンなブランド開発を行っている同社では、新商品のローンチ後も継続的に多面的な効果検証を重ねている。何をKPIとするのかは、各ブランドのフェーズに応じて見直される。ローンチしたばかりのブランドであれば、デジタルの指標を重視する傾向にあるものの、たとえば現在はオフラインでの売上がメインのBOTANISTのケースでは「ドラッグストアに訪れるユーザーにどうリーチすれば、購入してもらえるか」を重視して、オフラインのKPIが優先される。オンラインとオフラインのデータに相関関係を見出す難しさはあるものの、ノウハウが蓄積されてきた昨今では、幾分その関係性も見えやすくなっているという。

「3〜4年前までは、『デジタルの数字がよければオフラインでも同じような結果が出るだろう』という考え方をしていたが、当時は狙いが外れることも多かった。しかし、オフラインに強い大手メーカー出身のメンバーがジョインしたことで、大手のマーケティング手法とIーne式のデジタルマーケティング手法を組み合わせて数字を見ることができるようになり、徐々に結果が出るようになってきた」(伊藤氏)

図1

株式会社Iーne 取締役
販売本部本部長代理 兼
ブランドプロモーション部部長
伊藤翔哉氏

こうしたオンラインとオフラインの境にとらわれず数字を見ることは、客観的には当たり前に思えるものの、いざ実践するとなると、組織間の壁に阻まれて難航することは少なくない。同社がデータを精緻に分析しつつ、オンラインとオフラインをシームレスに行き来する消費者行動を包括的に捉え、売上に直結する施策に落とし込めている理由は、どこにあるのか。

それは前述したように、アイデアとデータをもとにトレンド予測を行う「マーケティング本部」・クリエイティブを統括しながらブランドを確立する「ブランディング本部」・オンライン/オフラインともにマーケティングのPDCAを回す「販売本部」が三位一体となって動く、ブランドを核としたI-neならではの組織体制にありそうだ。とくに、企業内におけるデジタルマーケティングの立ち位置が他の企業とは異なる背景について、伊藤氏は次のように述べた。

「弊社は特殊で、販売本部が『デジタルマーケティングの部署(ブランドプロモーション部)』と『ドラッグストア向けの営業を担っている部署(販売企画部)』の両方を擁している。販売本部長が営業畑の人間で、本部長代理である僕はデジタル畑という2トップ体制だ。もちろん、それぞれ異なるKPIを持っているが、『会社全体の数字を達成するための全体最適を図ることが最優先事項である』という共通認識がある」(伊藤氏)

加えて、Iーneは設立から、デジタルマーケティングを強みとしてきた。通常はオフラインで売上を伸ばしたのちにオンラインの部門を立ち上げる企業が大多数のなか、Iーneのアプローチは真逆だ。「『オンラインはビジネスに欠かせないもの』というデジタルファーストの考え方を、全社員が持っている。オフラインでビジネスをしている営業部門も、『自分たちの売上を最大化するには、オンラインで支援してもらうことが不可欠だ』と考えており、協働するカルチャーが根付いている」(伊藤氏)

クリエイティブにおけるインハウス制作へのこだわり

ブランドのファンづくりの重要性がいわれているなかで、Iーneは、この点においても独特のアプローチをはかっている。

たとえば“BOTANISTのファン”と一口に言っても、その度合いには濃淡がある。「BOTANISTのシャンプーにしか興味がない」のか、「BOTANISTというブランドが好きだから、同じスキンケアラインも使ってみたい」のか。Iーneが狙うのは後者だ。しかし、ダイレクトレスポンス広告の費用対効果だけを見ていても、後者の顧客は増えない。

そこでオウンドメディアでライフスタイルを発信したり、メディアとタイアップでドキュメンタリー動画を制作したりといった“ブランドの想い”を伝えるコンテンツを通じたエンゲージメントの強化を図っており、特筆すべきは「すべてのコンテンツを自社で制作している」という点である。トレイラー動画やHowTo動画は、社内で撮影・編集まで行うだけでなく、メディアとのタイアップ動画でさえ、ディレクションは自社で行う徹底ぶりだ。

この姿勢はSNS広告やリスティング広告においても同様だ。公式アカウントを運用しているLINEは一部代理店に運用を外注しているが、その他のFacebook、Twitter、TikTokなどの運用は、クリエイティブ制作も含めすべて社内で完結している。広告の運用を担っているのは、販売本部に属するアドプランニング課の7名。BOTANISTのような予算も業務量も多いブランドは専任制を採っているが、おおむね1人あたり2〜3ブランドを兼任している。

一方、SNSのオーガニック投稿(非広告)を担当しているのは、ブランディング本部だ。広告とオーガニックで担当者を明確に分けることにより、ブランドの世界観を損なわないようにしているという。したがって、同じSNSでも、広告とオーガニックでは基本的にクリエイティブの使い回しは行わない。毎週、ブランディング本部と販売本部のスタッフが、クリエイティブのPDCA、レギュレーションのアップデートを行うことで、ブランドの世界観と売上・利益の最大化の両立を図っているのだ。

こうしたクリエイティブ制作を一手に担っているのは、ブランディング本部に在籍する約50名のインハウスクリエイター集団である。全社員264名(2020年9月時点)の約5分の1がクリエイターということからも、いかに“ブランドの見せ方”を重視しているかが計り知れるだろう。

また、そのインハウスへのこだわりは、インフルエンサーの選定方法にも表れている。インフルエンサーマーケティングという言葉がない黎明期から、SNSの効果的な活用によってBOTANISTを成長させてきた。今でも変わらずインフルエンサーマーケティングには積極的に投資をし続けているが、「インフルエンサーの選定を代理店に委ねることは決してない」と伊藤氏は明言する。代理店を通すにしても、必ず自社で人の選定を済ませてから、「この人にお願いしたい」と指名で依頼するのだ。

これほどまでにインハウスにこだわるのは、ブランドを守ると同時に、社内に知見をためて、次の施策に活かすためである。「何事においても代理店より詳しくなければならないというのは、現場に徹底している。代理店に依存すると、お金の勝負になって本質からズレてしまうからだ」と伊藤氏は語り、その専門性をもとに他社のブランディング案件も一部請け負っていることを明かした。

デジタルファーストのIーneはオフラインへどう挑むのか

Iーneの販売チャネルは、オフラインのドラッグストアやコンビニ、オンラインでは自社の複数のブランドを取り扱う「&Habit」と「BOTANISTオフィシャルサイト」の2つの自社サイトに加え、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、LINEショッピングといったモールがある。自社サイトはサブスクリプションで購入するロイヤルカスタマーを増やす目的が強いが、モールはドラッグストアの後方支援としての役割を担っているという。

なぜモールの存在がドラッグストアの後方支援となるのか。それは、Iーneが独自で行ったアンケートによって、「ECで初回購入した新規顧客のうち、次回以降はドラッグストアで購入する層が一定数いる」ということがわかったためである。その割合をもとに逆算して、「モールで新規顧客を獲得した数が、オフラインの数字にどう影響を及ぼすか」を予測することで、モールの新規顧客の獲得目標を設定しているのだ。

先述の通り、各ブランドの戦略は、すべてブランドチーム内で決定される。「どの数字を上げることがゴールにつながるのか」はブランドごとに異なり、打つべき施策を変えなければならないためだ。いくらデジタルに強いIーneだからといって、デジタル一辺倒というわけではない。むしろ、オフラインの売上が全体の7割を占め、そのうち95%がドラッグストアにおける売上だというBOTANISTのようなブランドが出始めているからこそ、オンラインシフトならぬ“オフラインシフト”に迫られているのである。

「どれだけECの数字がよくても、いかにCPAがよくても、EC化率5%の市場だとしたら、その5%だけを獲ってもビジネスにはならない。デジタルを駆使して人々の心情や行動に影響を与えることで、ドラッグストアでのシェア獲得を狙っていくブランドも、最近では増えてきている」(伊藤氏)

デジタルにおけるプロモーションの弱みはリーチ力だ。情報が届いた人には深く刺さる優位性がある一方、メディアが細分化されているがゆえに、広く認知させる力はいまだマスには劣る。「会社をもっと成長させて、世界中にインパクトを与えていきたい」と考えるIーneでは、デジタルだけでなくマス広告をも制することが重要なのだ。そこで昨今では、ブランドによっては、テレビCMをはじめ、DMや大手通販の同梱施策、美容雑誌への出稿など、オフラインでのプロモーションも強化し始めているという。

同社 代表取締役社長 大西洋平氏は、今後はより一層、社会課題の解決に貢献するブランドづくりを目指していくとしており、ブランドの想いを届けるために、今後さらに強化していくのは動画活用であると伊藤氏は語る。

「BOTANISTにおいては、メッセージを込められる動画を通じて、真の『ボタニカル』の概念を浸透させるとともに、Iーneが手がけるサステナブルな商品づくりに対する消費者の理解を深めていきたい」

Text:野本纏花(Madoka Nomoto)
Top image & 画像提供: 株式会社Iーne

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
44
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp