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コーセーの多角的オープンイノベーションはポートフォリオを広げ海外市場拡大へ

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コーセーが、外部とのオープンイノベーションを一層進めている。パナソニックやカシオ計算機との協業、高校3年生が創業者の企業の採択、買収したタルトとの共同開発など、一見すると点のように見えるが、それは、モノを売るだけでなくサービスを含めたビジネス構築、ブランドポートフォリオ戦略、海外市場の開拓など、同社が掲げる「世界で存在感のある企業への変化」にむかう線上に連なるのものだ。

一連のオープンイノベーションにおいて、社内のハブの役割を担い推進しているのが、株式会社コーセー執行役員経営企画部長兼コーポレートコミュニケーション室長 原谷美典氏と、経営企画部経営企画室課長 持田卓也氏だ。

10年ほど前までは、社内でのビジネスコンテストや持ち込まれた協業案件もあったが、社内体制が整っておらず、立ち消えになっていたこともあったという。同社が美の体験も含めた新たな価値創造を意識し、オープンイノベーションを視野に入れ始めたのは、VISION2026の「Phase I:V字回復期」である2012年~2014年の時期だ。

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2019年3月期決算説明会資料より

前回、コーセーのアクセラレータープログラムの初年度の取組みを紹介したが、今回は、2019年12月にオープンしたコンセプトストアMaison KOSÉにおけるカシオ計算機やパナソニックとの協業、第2回目のアクセラレータープログラム採択企業、そして2014年3月に買収した米タルトとの協業について、何を学び、取り入れてきたのかの背景を紹介したい。

家電メーカーとの協業で得た知見

Maison KOSÉには、カシオ計算機との協業で生まれたネイルプリンターが5台並ぶ。また、パナソニックが開発中のスノー ビューティーミラーが実証試験のため設置され、肌質や肌トーンを分析をし、素肌に自然になじみ、シミなど気になる部分をカバーしてくれる極薄のカスタマイズシート(仮称)を作る体験ができる。

「カシオ計算機には、化粧品品質のネイル剤で複雑なデザインが自在にプリントできる素晴らしい技術がたくさん眠っている。それを、顧客が使いたくなるような仕様で提供したいと思ったが、着地点がなかなか見いだせなかった」(原谷氏)。

たとえば、カシオ計算機は、美容分野でのエンドユーザーとの接点がそれまでなかったこともあり、当初の試作機のデザインは無機質な、カシオ計算機がそれまで作成してきた延長線上のものであった。そのため、Maison KOSÉがどのような店舗になるのかを実際に見てもらうことで、発想の転換が起こり、木目調のおしゃれなデザインを取り入れたネイルプリンターができてきたという。

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Maison KOSÉにて(著者撮影)

一方、パナソニックとの提携では、パナソニックの経営陣が「機械を売って終わりの時代は終わった。使い続けてもらえることにビジネスチャンスがある」とメディアで発言しており、ハードだけでなくサービスを含めた検討が進んだ。

この提携でカギとなったのが、会社間・部門間を超えて強みをどう活かすかだった。パナソニックもコーセーも、ハードとソフト両方となると担当部署が多岐にわたるため、両社の持つ技術や考えを組み合わせ、つなぎ合わせることには相当苦労した。だが一方で、お互いに相手にはない発想があったからこそ、そこに化学反応が起こり、新たな価値が生まれたのだという。

一緒に協力して、どうエンドユーザーに価値を提供し、ビジネスモデルを構築していくか。協業しながら、課題を見つけて学び、解決していくプロセスを身につけるきっかけともなった。

若き起業家と描く日焼け止め市場での存在感

第2回となるアクセラレータープログラムが2019年6月から実施された。2018年では3領域で募集をかけたが、“感性にテクノロジーを。美に新体験を。”をテーマに、以下の6つの領域でアイディアを募集。

① リアル×デジタルによる新しい顧客体験の創出
② 先端技術や新素材を活用した新たな化粧品創造、研究プロセスの革新
③ 生産・物流・需給予測の自動化/高度化
④ グローバル市場で独自性を生み出す商品開発や美容提案力の強化
⑤ 新領域での美容サービス・ビジネス創出
⑥ 次世代組織や人材が活きる仕組みづくり

そして、12月のデモデイを経て、株式会社Sunshine Delight(2019年7月設立)が採択された。同社は高校3年生の伊藤瑛加氏が代表取締役社長を務め、太陽の下で安心して暮らせる環境を目指し、幼少期から日焼け止めの使用習慣を定着させる啓発活動を推進してきた。デモデイでは、小林一俊社長をはじめ、アクセラレータープログラムの外部サポーターであるWiL共同創業者CEOの伊佐山 元氏など、評価者全員が、伊藤氏のプレゼンテーションに心を揺さぶられたという。

「農作業をする母親が、どれだけ日焼け止めを塗っても、手袋をしても、照り返しなどで肌のシミが目立つようになってしまった経験から紫外線の怖さを知ったことが彼女の起業のきっかけ。子どものころから日焼け止めを塗る習慣を作りたい、学校に日焼け止めを塗っていくことが禁止されているところもあるのでそれを変えたい、という熱意で取り組んでいる姿に、満場一致で彼女と一緒にやっていきたいと決まった」(原谷氏)。

18歳までに人生の半分の紫外線を浴びてしまうともいわれており、子どものころに浴びた紫外線は大人になってからの肌に大きく影響する。その伊藤氏が発案したのが、保育園などに向けた子どもに安全で安心して使える日焼け止めの大型ボトルと、子どもたち自身に日焼け止めを使う習慣づけを促す絵本や歌などの教材だ。

「人生100年時代、このコンセプトは素晴らしく、子どものうちからの日焼け止め習慣化は不可欠だ。しかし、現状の日焼け止め市場では、コーセーの存在感が薄い。このSunshine Delightとのプロジェクトで、日焼け止めといえば、コーセー、人生で初めてふれる化粧品がコーセー、というポジションまで持っていきたい」と共創メンバーが記者発表会でも説明したとおり、商品ポートフォリオを埋める期待も含め、コーセーとして化粧品の未来を見据えた協業という。

図1

プロジェクト共創メンバー
左より 株式会社コーセー
セレクティブブランド事業部 
企画部 高田賢斗氏、 
株式会社Sunshine Delight 
代表取締役社長 伊藤瑛加氏、 
コーセー化粧品販売株式会社 
西日本百貨店支店 
大西修平氏(編集部撮影)
そのほかメンバーとして
株式会社コーセー
チェーンオペレーション推販部 
伊野充洋氏

「どんな日焼け止めだったら、子どもが使いやすいのか。大人向けは白浮きしない商品を作ることが大切だが、子どもが顔や体に思わず塗りたくなるような商品がいいのか。親が安心して子どものために買える日焼け止めはどんなものなのか。プールに入るときと、外遊びのときは違う商品がいいのかなど、今までのコーセーでは思いつかなかったような視点も出てきた。実際に伊藤社長や同社メンバーと一緒にやっていくことで、新しい価値を提供できるようになる」(原谷氏)。

今回のアクセラレータープログラムには86社からの応募があり、2次選考で6社に絞られた。ファイナリストに残ったのは、人の表情や身体活動を認識するヒューマンセンシングの企業や、工芸職人とともに伝統技術を活かした商品開発・販売支援を行う企業、HRテックの企業などで、昨年同様に、これらの企業とも関連の部門が直接やり取りを続けて協業を検討している。

タルトとの連携で新しいAwakeが誕生

コーセーは2014年3月に、米国の「ハイパフォーマンスナチュラルズ」をコンセプトに掲げるメイクアップブランド、タルトを買収した。タルトはInstagramで1,000万人のフォロワーを抱え、米国の20〜30代女性に圧倒的認知度と支持を得ている急成長中のブランドだ。コーセーが買収してから、売上げは5倍以上に伸び、2018年度には売上高400億円を突破している。

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画像提供:コーセー

コーセーが急成長中だったナチュラル系ブランドのタルトを傘下に収めた背景には、創業者であるモーリーン・ケリー(Maureen Kelly)氏が、コーセーのAwakeを愛用していたことから小林社長と意気投合し、買収に至ったという。Awakeのリブランドをコーセーが考えていることを知ったケリー氏から「ぜひとも一緒にやりたい」といわれ、コーセーは自社ブランドのプランニングを初めて、買収先であるタルトとともに進めることを決めた。

Awakeはブランドローンチした1995年からエコロジーコンシャスを掲げていたが、このリニューアルによって、グローバルなトレンドであるヴィーガンとクルエルティーフリーのコンセプトも取り入れた。たとえ寝不足であってもたっぷり睡眠をとったかのような熟睡肌の実現をテーマに、Purity(純度)、Protection(保護)、Potency(有効性)、Permeability(浸透性)をかかげ、天然由来原料の使用をうたうとともに、SNSを意識したプロモーションも展開し、海外市場でも注目されるブランドに生まれ変わった。

タルトとの人的交流も積極的に行っており、コーセーの社員をタルトに送り込むことで、急成長するタルトが抱える組織や管理体制の課題など、20年前にコーセーが通ってきた道を経験者としてサポートする。また、「コーセーの社員がタルトの社内の空気に触れ、ニューヨークの市場を見ることで、新しい風を持ち帰ってきてくれる」(原谷氏)ことも期待している。いまのところ、この買収はどちらにとっても得意分野を補完しあいメリットになっているようだ。

2019年はビューティ市場での大型のM&Aが相次いだ。2014年と早い段階でタルト買収を決定したコーセーも次の買収はあるのだろうか。

「今は市場が活性化しているので割高感が否めない。いい機会があれば考えてはいきたいが、基本的にいままでの出会いや縁を大切にし、一緒に育てることに注力したい。協業を中心に成長を考えている」(原谷氏)。

VISION2026の線上で軸はぶらさず、さまざまな企業と手を組み試行錯誤を繰り返しながら、成長を模索する。今回紹介した以外にも、長年手がけてきた美容室チャネルへの新しい展開としてミルボンとの協業や、皮膚用医薬品に強みのあるマルホとの協業など、さらなる相乗効果を期待し、化粧品のものづくりの幅をさらに広げつつある。

コーセーの真の強さは、ある一部門だけでなく全社のマインドがオープンイノベーションに向いており、変化と新しさを受け止めて自社のものにしていく過程にあるといえそうだ。

Text : 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: コーセー提供


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