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資生堂が激変の中国市場でニューリテール施策などイノベーション創出への動き

◆ English version: A look into Shiseido’s current strategy in the Chinese market
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2019年に入り、中国政府は電子商取引(越境EC)の規制を大幅に強化し、従来個人や零細業者が行っていた「代購」は事実上、消滅しつつある。「爆買い」対象だった商品を販売する資生堂も、中国市場へのアプローチを変えてきている。中国での化粧品市場シェアで3位の資生堂は、経済減速、消費者意識の変化、地元ブランドの台頭と、激変する環境でどのような施策をとっているのだろうか。

資生堂は2018年末に「中国事業創新投資室」を本社直轄組織として上海に設立すると発表した。中国のスタートアップ企業を中心とした他企業との戦略的協業とともに、中国国内外での中国人消費者の動向を捉え、既存事業のイノベーション開発を進める。化粧品領域および新規事業領域での事業開発を一層加速していくとしている。資生堂の中国を重視する姿勢が見て取れるが、同社の中国事業の今までとこれからを読み解いてみよう。

高価格帯ブランドが中国事業を牽引

まず中国市場について概観すると、中国経済が減速するなか、化粧品の販売額も伸び率が鈍化傾向にある。中国国家統計局によると、2018年の化粧品類商品小売額は、前年比9.6%増の2,619億元(約4.3兆円)だった。通年では堅調だったが、月別に見ていくと減速が明らかだ。6月まで毎月二桁の伸びだったのが7月から鈍化し、12月はわずか1.9%の伸び率だった。

資生堂が発表した2018年12月期の連結決算によれば、売上高が前年比8.9%増の約1.09兆円で、純利益は約2.7倍の614億円だった。そのうち中国の売上高は現地通貨ベースで前期比32.3%増の1,908億円で、営業利益は約2.1倍の245億円。グループ全体の総売上高の17.4%を占め、日本に次ぐ稼ぎ頭になっている。

中国では、「プレステージ」と位置づけられる高価格帯ブランドが51.9%増の836億円と好調で、「クレ・ド・ポー ボーテ(Clé de Peau Beauté)」「SHISEIDO」「イプサ(IPSA)」「NARS」の販売が伸びた。下位ブランドであるコスメティクスも17.1%増の349億円と好調で、日本製の「アネッサ(ANESSA)」「エリクシール(ELIXIR)」が伸びている。

後述するが、2012年の反日デモで大きく失速した時代をしのぎ、中国化粧品市場の成長の波にのりはじめたともいえよう。その流れは年が明けても変わらず、2019年1月の速報値によると、中国の売上高は前年同月比20%超の増加で、店頭売上が20%超の増加、プレステージ事業が40%超の増加だった。好調の要因は、昨今の訪日観光ブームにある。

資生堂のプレステージの製品群は、“爆買い”の対象になっていた。その評価がSNSに拡散されることで知名度が上がり、「日本製」へのニーズが高まり中国での販売が急激に伸びたのだ。もう一つ資生堂にとって追い風だったのは、関税の引き下げだ。スキンケアや理髪などの化粧品、特定の医療・健康製品の関税が2018年7月1日から8.4%から2.9%へと引き下げられ、輸出にはずみがついた。

中国では景気減速を受け「消費降級」という節約志向が広がっている。しかし、いまのところ価格に見合う価値があると受け止められている高価格帯アイテムの販売は堅調で、消費意欲は衰えていない。つまり、いま中国の消費は、低価格帯と高価格帯に二極化しているのだ。資生堂は2018年に新たなグローバル戦略となる「新3カ年計画」を策定したが、プレステージ事業の成長加速と3~4級都市の攻略、デジタル・ECのイノベーションを重点戦略に掲げており、高価格帯が中国事業の生命線になっているといえよう。

消費者変化に対応すべくボーダレスマーケティングを強化

このように、2018年は資生堂にとっていい年となったが、これまで順風満帆だったわけではない。資生堂の中国事業の歴史は古く、1981年に北京市からの要請を受け、北京飯店(当時の最高級ランクのホテル)や友誼商店(外国人用百貨店)など大型商店やホテル9店で化粧品や石鹸の輸入販売を開始した。1991年には合弁会社・資生堂麗源化粧品を設立し、百貨店での販売を開始。1994年には中国専用ブランド「オプレ(AUPRES・欧珀莱)」を立ち上げ、現在でも中国国内で製造販売するロングセラー商品となっている。

1980年代の北京・友誼商店にあった
資生堂のビルボード
(出典:資生堂中国の公式Weiboブログより)

1998年には合弁会社「上海卓多姿中信化粧品」を設立し、中低価格帯の化粧品製造販売を開始。スーパーやドラッグストアといったチャネルに、アジア・オセアニアで展開するセルフチャネル向けブランド「Za(ズィーエー)」と中国専用ブランド「ピュア&マイルド(泊美)」を投入した。

2004年には上海に資生堂100%出資の子会社「資生堂(中国)投資司」を設立すると、2006年10月に化粧品専門店の専用ブランドとして「ウララ(URARA・悠莱)」を発売。中国全土に展開する店舗数は、2010年末には5,000店を超えた。このように資生堂は、販売チャネルに合わせて商品開発を行ってきている。

業績が順調に推移していく中で訪れた試練は、2012年の日本政府による尖閣諸島国有化に端を発する反日デモだ。その影響は大きく、しばらく不振が続いたが2014年に社長に就任した魚谷雅彦氏が改革を断行。ブランドポジショニングの全面刷新、チャネル政策の見直し、現地開発体制の確立、デジタルマーケティングの強化、Eコマースの拡大、組織改革などを行い、2015年は微増ながらプラス成長に転じた。牽引役はやはりプレステージとパーソナルケアだった。

日本製に対する需要拡大を受け、2015年11月にはアリババグループ(阿里巴巴集団)の越境ECプラットフォーム「Tモール・グローバル(天猫国際)」に出店している。こうした消費者の変化を迅速に捉えられるよう、2016年からはボーダレスマーケティングの強化に着手している。日本でのインバウンド、トラベルリテール(免税店)、中国の店頭・ECにおける購買意欲の高い中国人顧客の消費行動をボーダーレスに捉えようとしている。

一方、EC事業の伸びも中国事業に貢献している。同社は2011年に自社のECサイトを開設しているが、2017年3月にはアリババグループのBtoC向けECプラットフォーム「Tモール(天猫)」に出店。2017年12月期決算によると、ECの取引実績は50%超の増加で、売上高の26%を占めた。2020年にはこれを40%まで引き上げる計画だ。

また、2019年3月1日より、日本商品に特化したインアゴーラの越境ECプラットフォーム、豌豆公主(ワンドウ)にて中国向けに「アクアレーベル」「インテグレート」「マキアージュ」「リバイタル」、ヘアケア「アデノゲン」、美容食品「ピュアホワイト」の合計6ブランドを販売するとインアゴーラ側からの発表があった。

中国企業との共同商品開発も視野に

このように好調ななかで、懸念があるとすれば下位ブランドのコスメティクス部門で、2018年の売上は期待値に届いていない点だ。「エリクシール(ELIXIR)」や「アネッサ(ANESSA)」といった日本製の売れ行きは好調だったが、中国市場向けの専用ブランドが足を引っ張った形だ。消費者に「日本製」へのこだわりがあるのに加え、消費降級の影響を受けやすい中価格帯であることも要因の一つだ。高価格帯における競合はP&Gやロレアルなどのグローバル企業に限定されるが、中価格帯以下は、あまた存在する中国メーカーや、昨今成長が著しい韓国メーカーの主戦場である。

中国・光大証券が2018年に発表した「化粧品業界深度レポート(化粧品行業深度報告)」によると、2017年の中国の化粧品業界のシェアはP&Gが10.1%の首位でロレアルが8.5%の2位。資生堂は3.1%で3位だった。セグメント別に見ると、大衆向けでは資生堂は2.8%の9位と後退するが、高価格帯については、5.3%の5位だった。

資生堂中国の公式ウェブサイト

大衆向け市場のシェアは、3位が「KANS(韓束)」などを展開する「CHICMAX(上海上美品)」、4位が「PECHON(百雀羚)」、5位がユニリーバ、6位が「CHANDO(自然堂)」などを展開する「JALA(伽藍)」、7位MARY KAY、8位が「HERBORIST(佰草集)」などを展開する「Jahwa(上海家化)」、10位がバイヤスドルフと、中国ブランドが4社名を連ね、いずれも資生堂のシェアを上回っている。近年、中国ブランド全体のシェアは徐々に拡大しており、中価格帯以下の競争はますます激しくなっている。

中国経済の先行き不透明感の対策として資生堂は主要ブランドへの集中したマーケティング投資、組織能力の強化、ブランド事業部制強化・アリババ専任チーム稼働を掲げている。その一環として、冒頭で紹介した「中国事業創新投資室」を開設したのだとみることもできる。中国での報道によると、魚谷社長は中国企業との提携について、漢方薬を製造するメーカーと共同で新製品を開発したり、IT会社との提携でさらに多様なマーケティングデータを獲得したいと述べている。

さらに同社は2018年11月、中国地域本社体制を強化すると発表している。トップ以外の幹部はすべて中国人スタッフを抜擢し、ローカライゼーションを加速させているようだ。ブランド発信力強化のため、CMO(マーケティング最高責任者)を新たに設置。Julie Chiang氏が初代CMOに就任した。

同氏はロレアル・アジアに10年以上在籍したのちにカフェ「茶米家」を創業。直近では台湾のパイナップル・ケーキ会社・SunnyHills CompanyのCEOを務めていた。同社は地域本社体制強化により、ECプラットフォーム企業との戦略的なアライアンスをさらに推進するとしているが、『日本流通産業新聞』(2018年8月24日付)の報道によると、資生堂はアリババ本社が所在する浙江省杭州市に共同専門チームを常駐させて、Tモール専用の商品開発を行う意向をすでに示している。

越境ECと店舗をつなぐO2O戦略

資生堂はこれまで、店頭での消費者とのコミュニケーションを重視してきた。中国でもいち早く店頭でのカウンセリングを取り入れ、2017年にはオプレの製品全面リニューアルに合わせ、各店舗に新美容機器を導入。季節ごとの肌を総合的に測定し、ユーザーの肌の状態を正確に理解したうえでカウンセリングを行うためだ。

同社は、こうした店頭サービスとECの両輪を強化することで業績を伸ばしてきたが、2018年は両者を融合した「新小売業態(ニューリテール)」の推進を掲げている。その一環として、「資生堂官方美粧星品館」というシステムを開発した。

これは店舗とECをつなぐO2Oプラットフォームで、消費者は店頭には並んでいない日本の商品を大型の専用端末を用いたシステムから注文することができる。中国での報道によると、同プラットフォームは会員のみが購入でき、店舗には販売額の15%がインセンティブとして支払われるという。2018年3月に投入され、2ヶ月で230以上の店頭に設置された。広西チワン族自治区のある店舗では、1日で700人が会員登録をしたという。

資生堂では、自社ECと直営カウンターでの購入は共通ポイントがつき一元化されているが、加盟店である専門店の会員管理は別のようだ。いずれにせよこの仕組みでは、ユーザーは店頭にない商品が買えるメリット、店舗側はインセンティブ収入、資生堂はユーザーデータを得られる三方よしの仕組みとしてこれからも注力されていくはずだ。

新たなプラットフォーム「資生堂官方美
粧星品館」で利用される専用端末につい
て報じた『化粧品報』の記事

中国政府による「代購」と呼ばれる転売業者への規制により、訪日中国人への販売は減少しているが、その分、自社ECや越境ECなど正規ルートへの期待は大きい。中国事業創新投資の後押しを受け、資生堂のO2O戦略は加速していくだろう。O2Oに限らず、資生堂は2019年も引き続き、あらゆるチャネルで「日本製」を前面に押し出していくようだが、グローバルブランドの競合、P&Gが展開するSK-IIやロレアル傘下のシュウウエムラも中国で人気があり、いずれも同じく日本製であるため、資生堂の各ブランドへの対抗策としてさらにマーケティングを強化してくる可能性もある。

中国経済の先行きが不透明であるなか、いずれは高価格帯市場もどこかで頭打ちになる時がくるだろう。そのときまでに、日本製、外資含めたプチプラコスメや、リーズナブルであるのに加えて信頼感も醸成してきた中国製化粧品に太刀打ちできるブランドを育てていけるのか。あるいは「選択と集中」を掲げる同社が、現在5位に甘んじている高価格帯市場のシェアをどう引き上げにかかるのか。消費者意識が激変しているなか、その変化にあわせた迅速な対応が必要であることは確かだ。

Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: Sorbis via shutterstock


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