見出し画像

ロレアルも手がける電子皮膚に3Dプリンター皮膚。美容と医療が劇的に変わる日

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

以前の記事で、「セカンドスキン」を肌にやさしく安全で、シワやたるみのない理想の肌をつくる第二の肌と定義して、人工皮膚の新素材を取り上げた。今回は、電子工学的なアプローチで、進化するe-skin(電子皮膚)を紹介する。さらには、3Dバイオプリンティング技術により本物に限りなく近い人工皮膚の作成にも成功したというニュースも入った。最新の研究成果は、近い将来、美容から医療までを劇的に変える要素に満ちている。そして、この分野でも化粧品会社としてリードしているのが、ロレアルだ。

生活のなかにスマートウォッチやフィットネストラッカーなどのウエアラブルデバイスはだいぶ浸透してきた。だが、すでにその先をいく研究と商品開発が進められている。肌と一体化する装着感のない薄さで、柔軟性、伸縮性があり、貼るだけで温度や湿度、圧力を感知したり、身体の動きを記録したりすることができるe-skin、すなわち電子皮膚と呼ばれるものだ。

肌と一体化するウエアラブルへ

e-skinの医療への応用をリードしてきた米ノースウエスタン大学のジョン・A・ロジャース教授が、2008年に自ら立ち上げたスタートアップmc10では、肌に直接貼るタイプのパッチ型センサー「BioStamp」をスポーツ科学や健康科学など学術研究の際に使用する研究者用キットとして販売している。BioStampに搭載されたセンサーには、ジャイロ・加速度計IC、電極が配置され、心電図、脳波、体温などの運動情報と表面筋電図が同時に計測でき、収集されたデータはクラウドサービス上に保管される。

出典:mc10

同社は、2016年には一般消費者向けに、日焼けの危険度を教えてくれるシール状の紫外線測定シール「My UV Patch」を化粧品メーカーのロレアルと共同開発。紫外線量が増えると肌に貼り付けたハート型シールの色が変わるので、シールを撮影して専用アプリにアップロードすると、浴びた紫外線量と紫外線対策のアドバイスが表示される。

出典:B&T

出典:L'Oreal UV Sense: Tiny UV sensor that fits on a nail

フィルムタイプではないが、ロレアルは2018年1月に米ラスベガスで開催された「CES 2018」で、さらに小型化した爪に貼れる円形の小さなチップで紫外線量を計測する「UV Sense」を発表している。


「感覚」をもち、自己修復する電子皮膚

2018年2月、米コロラド大学ボルダー校のジャンリャン・シャオ教授らの研究チームが『Science Advances』誌に発表したe-skinは、触感の圧力や温度、湿度、空気の流れなどを感知できるだけでなく、切れたり破れたりした場合はエタノール系の物質を塗布するだけで、化学反応により自己修復するという機能を持つ。

仮に使えない状態になっても、リサイクル溶液に浸けると構成要素に分解するため、再利用も可能。「経済的で環境にも優しいデバイス」なのだ。柔軟性に優れ、人間やロボットの手足などの曲面にもぴったり添い、つけ心地もストレスフリー。活用法としては、義肢に貼り付けるほか、たとえば、ロボットに赤ちゃんの世話をさせるとき、このe-skinをロボットの指に装着すれば、人間のような肌触りや体温を再現するとともに、センサーを通じて赤ちゃんの状態を感じとって、適切な力加減で扱えることなどが想定されている。

出典:Futurism

日本では、東京大学と大日本印刷株式会社の研究チームが、薄型で伸縮自在なスキンディスプレイの製造に成功。スキンセンサーで計測された心電波形の動画を皮膚上に貼り付けたスキンディスプレイに表示できるシステムを開発した。これにより、ウエアラブルデバイスを介さず、情報にアクセスすることが可能に。子どもや高齢者の情報アクセシビリティを向上し、在宅ヘルスケアなどへの応用が期待されている。

出典:科学技術振興機構(JST)

スキンディスプレイの厚みは約1mm、繰り返し45%伸縮させても電気的・機械的特性が損なわれない。上の写真はスキンディスプレイを皮膚に装着した状態で、スキンセンサーで計測した心電波形の動画を表示したときの様子だ。

人工皮膚を3Dプリンターで出力する時代に

ウエアラブルデバイスの進化版としての皮膚ではなく、皮膚そのものを“印刷”して複製する3Dバイオプリンティング技術にも注目が集まっている。

製品試験のために年間10万ものスキンサンプルを生産しているロレアルは、これまでは、医療施設から提供された組織片などをもとに、数週間かけて皮膚サンプルを培養していた。だが、2015年5月、バイオプリンティングのスタートアップOrganovoと提携し、ゲノム解析などを基盤とした3Dバイオプリントの技術を使い、時間がかかるうえに不安定だった皮膚培養プロセスの自動化と高速化を目指している。

Organovoの手法は、生物学と工学の技術を組み合わせ、人体のオリジナルの組織の形状と機能に似せた“生きたヒト組織”を同社のバイオプリンターを用いて作成するもので、バイオプリントされた組織は、細胞の密度やタイプなど、重要な要素が人間のオリジナルの組織と共通している。

出典:The Bioprinting Process

Organovoはヒト組織のバイオプリントのパイオニアであり、肝組織の3Dプリントする技術をもっている。

また、皮膚そのものを3Dプリンターで作成する技術もついに登場した。
マドリード・カルロス3世大学などを中心とするスペインの共同研究チームは、世界で初めて3Dバイオプリンターにより人間の皮膚を複製コピーする技術を開発したと発表

35分で1㎡という驚異的なスピードで、角質層を含む表皮やコラーゲンを生成する真皮など皮膚の構造と機能をまるごと複製した、本物の皮膚に限りなく近い人工皮膚が作成できる。かなめは生体成分をブレンドしたバイオインクと呼ばれるもので、重度の火傷を負った患者などに移植したり、化粧品や医薬品の研究実験のサンプル試験素材にも利用できる。手作業で生成するより安価で、安定した品質の皮膚の自動的な作成を可能にした意義は大きい。

この3Dプリンター皮膚の実用化に向けて、現在、第三者機関により安全性と有用性を検証している段階といい、医療や研究の現場で使われる日はそう遠くないだろう。あわせて、この3Dバイオプリンター技術は皮膚以外の生体組織への応用も進められているという。

出典:uc3m

2回に渡って、さまざまな視点で未来型の「皮膚」を取り上げてきたが、これらの技術がすべて融合された日常を想像すると……。

朝のメイク前、見た目ではわからない薄型フィルムを張ってシワを補正しながら、日中は紫外線量や肌の水分量を常にモニタリング。紫外線量が増えたり、水分量が減ったりしたら、手元のスキンディスプレイにアラートが表示され、日焼け止めを塗り直したり、ミストを顔に吹きかけたり……。もはや人間の身体がIoTそのもののような感覚で、スキンケアはもちろんのこと、よりパーソナライズドされたライフスタイルをデザインすることが可能になるだろう。

見た目の美しさだけでなく、人間の肌のスペックを超えた皮膚感覚をもった“生きた”肌生成のための研究者たちの飽くなき挑戦はまだまだ続く。そして、この分野でも、ロレアルの本気度が伝わってくる。テクノロジーからサイエンスまであらゆる技術をとりこんだ先に見ているものを、我々もしっかりと追いかけていきたい。

Text: 小野梨奈(Lina Ono)                                                                            
Top Image: Tanja Heffner via Unsplash

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
3
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp

こちらでもピックアップされています

テクノロジー
テクノロジー
  • 227本

BeautyTech.jpのテクノロジーに関する記事をまとめたマガジンです。