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韓国美容スタートアップの現在地、注目の新興ブランドとそれを取り巻くエコシステム

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韓国では今、テクノロジーの活用やデジタルドリブンな製品開発を全面に押し出したビューティスタートアップが続々と登場している。国内市場の背景や主要プレイヤーたちの全体像はどうなっているのか。ここ数年の動きと関係者たちの証言をまとめ、韓国市場×ビューティスタートアップの現在地を俯瞰して整理する。

新興ブランドは増加一方、サポート系のスタートアップも

韓国ではここ数年、新興ブランドの数がうなぎのぼりで増加を続けている。「その数はおよそ3万ブランド」(現地コスメ情報プラットフォーム関係者)を超えているともいう。新陳代謝も激しく、数年でグローバルブランドへと成長するといったサクセスストーリーがいくつもある一方で、国内市場はこれまでにないほどにレッドオーシャン化。ヒットがないまま消えていくブランドも数多く、生き残りをかけた競争が繰り広げられている。

世界的な傾向と歩みを同じくし、韓国においても、デジタルチャネルの活用を得意とするD2Cブランドが徐々に増え始めているものの、相対的にみれば全体的な販売チャネルに対するブランドの数は「飽和状態」(ブランド関係者)だ。有力なオフラインチャネルであるH&Bストア(オリーブヤングなど日本のドラックストア的な小売店)や百貨店、コスメ専門ショップへの参入を目指す新興ブランドにとっては、障壁は日毎に高まっている現状である。

図1

大手H&Bストアのひとつ
「オリーブヤング」

流通網に対するブランドの数の飽和状態をさらに深刻化させている理由の1つが、小売大手による新興ブランドの囲い込みだ。小売大手同士も激しい競争状態にあり、協業や共同開発、独占販売などにより有力な新興ブランドを陣営に引き込もうと躍起になっている。それゆえに、仮に店頭販売というスタートラインに立てたとしても、ブランド側の試練は続く。有力なオフラインチャネルへの納品の対価として、「価格を下げるよう圧力がかかりブランドが毀損してしまう」(ブランド関係者)ケースも少なくない。綿密な戦略にもとづき、かつパートナーの協力を得られて、本当の成功を勝ち取れる新興ブランドはほんのひと握りだ。

このように国内新興ブランド市場が“戦国時代”を迎えるなか、後を追うように続々と登場しているのが、製造や流通、販売といった側面でサポートするなど、美容関連のさまざまなサービスを提供するビューティスタートアップだ。つまり新興の化粧品ブランドは、韓国のビューティ企業カオスマップにおいて、あくまで一角に過ぎない。ここでは、韓国のビューティスタートアップの全体像を知るため、カテゴライズを行いつつ代表的な企業をピックアップして紹介する。

図1

世界的ブランドとなった
「Dr.Jart+」のショップ
(ソウル・江南)

バラエティに富んだ美容スタートアップ群

韓国国内大手のスタートアップアクセラレーターであるFutureplayは過去のレポートで、ビューティスタートアップ群を「(単一企業による)独立ブランド」「情報プラットフォーム」「越境EC」「ビューティデバイス」「サービス予約」「オンデマンドサービス」「その他」に分類した。ここ2~3年、同レポートはアップデートされていないが、昨年あたりから相次いで登場している「化粧品開発プラットフォーム」を、新しいカテゴリーとしてここに付け加えることができるだろう。

■独立ブランド

躍進する独立ブランド(新興ブランド含む)については、過去記事においていくつか取り上げている。昨年エスティ ローダーに買収された「Dr.Jart+」、東南アジアを中心に成功をおさめ米国でも評価が高い「COSRX」、ミレニアル世代から支持を集める「stimmung」、韓国セフォラと国内独占契約を結んだ「tamburins」をはじめ、「AMUSE」「WHAL MYUNG」、世界100ヶ国展開に迫る「KOCOSTAR」、ブランドイメージ戦略を徹底する「hince」 や「FEMMUE」がその一例だ。また、競争力という観点からは課題がまだまだ多いものの、「Melixir」などヴィーガンコスメブランドへの関心も高まっている。

■情報プラットフォーム

コスメ系クチコミサイトなどの情報プラットフォームサービスとしては「hwahae」や「UNPA」、「Glowpick」など知名度が高いサービス以外にも、「PowderRoom」などがある。

このうち、UNPAを運営するLYCLは「unpa cosmetics
という自社化粧品ブランドも保有している。UNPAから得られたデータやユーザーアンケートを活用して潜在需要がある商品を素早く製品化することに成功しており、「プラットフォーム+自社ブランド」という2つの領域で強みをあわせ持つスタートアップとなっている。このことが理由となり、LYCLはバイヤスドルフが韓国国内で展開しているアクセラレータープラグラム「NX」の第1期に選定され、唯一2年連続で投資を受ける企業となった。

また、美容インフルエンサーを起用して集客するタイプのコンテンツメディアサービスも、「情報プラットフォーム」にカテゴライズできるだろう。

■越境EC系サービス

越境EC系サービスとして最も有名なのは「MEMEBOX」だ。米ビジネス誌FastCompanyの「2019年最も革新的な企業」ランキングの美容部門で韓国企業として唯一トップ10入りを果たした。MEMEBOXの強みは購買データなどをベースに、パーソナライズされた情報、商品、コンサルティングサービスなどを提供する点だ。ジョンソン・エンド・ジョンソン系列のVCからの投資誘致に成功しており、LVMH傘下のセフォラとは「Kaja」というセフォラ限定販売ブランドを共同開発している。UNPAと同様に、自社プラットフォームから吸い上げたデータを製品開発につなげ、商品のPRに今度はプラットフォームを利用し、「プラットフォーム+製品ブランド」というバランスの良い両輪の関係性を築くことで躍進している。

越境EC系として順調に成長を遂げているサービスとしては「B2LINK」もある。創業は2014年で、2020年までに25カ国、350の小売業者との取引実績を積み上げてきた。2020年7月までにあげた総売上は約170億円だ。「umma」という海外バイヤーの買い付けを支援するKビューティアイテム専門の情報プラットフォームを保有するなど、デジタル戦略に注力している。代表を務めるイ・ソヒョン氏、副代表を務めるパク・ヒョンソク氏らは、韓国大手メディアから「Kビューティを売る男たち」という異名で呼ばれていることからも、その実力がうかがえる。

図1

B2LINKが運営する「umma」
出典: umma 公式サイト

■ビューティデバイス

ビューティデバイス系のスタートアップとしては、「lululab」が世界的にも知名度が高い。もともとサムスン電子からスピンアウトした企業で、肌分析AIと専用デバイスを開発している。2020年1月に取材した段階では、年内に日本、東南アジア、南米への進出も積極的に進めるとしていた。

一方、スマートアロマディフューザーを開発する「pium labs」も、ビューティデバイス系のスタートアップとして注目を集めている。機器はモバイルアプリと連動しており、好きな時に遠隔で香りを撒くことができる。なお、pium labsもサムスン電子のインキュベータプログラム出身だ。同社の共同創業者のひとりキム・ジェヨン氏は、「Wellda」というヘルスケア企業を最近起業した。こちらはブロックチェーン×健康データをテーマとする企業で、仮想通貨や関連スマートデバイスを利用できるプラットフォームが構築される予定だ。

ほかにもパーソナル肌診断デバイス「WAYSKIN」などを開発する「WayWearable」、 パーソナライズスキンケアAIソリューションおよびIoT機器を開発する「Reziena」なども同分野で注目のスタートアップとなっている。

図1

WayWearableの
パーソナルビューティーデバイス
「WAYSKIN」
出典: WayWearable 公式サイト

■サービス予約、オンデマンドサービス

「サービス予約」領域では、「Freetty」など、美容室やサロン、ビューティ関連アーティストなど施術者予約のスタートアップが目立つ。「オンデマンドサービス」領域としては出張メイクアップの「beautyworks」 などが人気を博している。

韓国の美容スタートアップに投資するグローバル大手

韓国ビューティスタートアップに投資する動きも盛んだ。投資をする側のプレイヤーとしては、アモーレパシフィックなど国内大手メーカー、エスティ ローダーやバイヤスドルフなど海外大手ブランド、ヒュンダイ百貨店やロッテグループなど物流・小売大手、そして、サムスンなど電子製品メーカーやNAVERなどIT企業が代表的である。

なかでも興味深いのは、IT企業が美容分野にも投資参入を始めている点だ。一例では、NAVERは過去に「D2SFD2」というアクセラレータプログラムを主催し、パーソナライズコスメのためのAI診断・処方・製造ソリューションを開発する「ART Lab」というビューティスタートアップに投資を決めている。NAVERのライバルであり、カカオトークの運営元であるKAKAOも、インドをターゲットにしたKビューティプラットフォーム「Limese」に投資を行った。

図1

出典: Limese 公式サイト

各IT企業が美容スタートアップを投資先に選ぶ理由はいろいろあるが、たとえば「ART Lab」に関してはAI技術のみならず、ビューティ領域のドメイン知識を多く保有していることが高く評価されている。自社が持つデジタル的な強みを活かして支援するIT企業という立ち位置から、韓国の主要コンテンツであるビューティ業界にアプローチしたいとの意欲が感じられる。

ある海外大手化粧品ブランドの関係者は、韓国でビューティスタートアップへの投資が進んでいる背景として「そもそも(ビューティスタートアップの)数が多いという理由のほかに、韓国の消費者は新しい商品を積極的に取り入れようという気質が強く、テストマーケティングをするのに適した場所だからだ」と語る。つまり、まずは韓国市場で新サービスの展開やトレンドを生み出せるブランドを育て、それをグローバルに持っていくという戦略が有効だと考える大手投資家が少なくないことが、投資の活況を呼んでいる。

直接スタートアップへの投資ではないが、熟慮の末に韓国に進出を果たしたセフォラは、韓国の有望な新興美容ブランドの発掘とグローバル展開をもくろんでいると思われる。

美容×ヘルスケア×テクノロジーのかけ算が可能な韓国スタートアップ

では今後、「どのようなビューティスタートアップが成功するか」と考えた場合、ビューティテック系企業の成長余地が大きく残されているといえよう。韓国は、人工知能などソフトウェアや、デバイスなどハードウェア開発・量産に関しても、豊富な人材や整ったエコシステムにおいて強みを持つ。

加えて、韓国は美容産業に関するエコシステムやドメイン知識もすでに大量に蓄積されている。世界的な美容トレンドが生まれやすい土壌があり、グローバルでの消費者の認知も高い。テック系企業がこれらの利点を吸収できれば、強力なアドバンテージとなる。

たとえば「lululab」は、AIだけでなくハードウェアも自社開発できる技術や環境を保有しているが、同社チェ・ヨンジュンCEOは、「もともとヘルスケア領域の研究をしていたが、技術があっても使ってもらえなければ意味がない。その点、ビューティ市場のユーザーの需要は明確だった」と独自技術を美容分野に転用することで起業した経緯を語っていた。業界全体として美容の知見を積み重ねており、消費者も成熟している韓国市場の特徴を活かして、一気に知名度を高めることに成功したケースの1つといえる。

また、AR/VR分野でも優れた企業が多く、「5Gなど最先端の通信技術に関しても世界で最も早くユースケースが蓄積されている」(中国大手通信機器メーカー関係者)。こうしたテックにも強い土壌から、いずれはLGやKTといった国内通信大手企業がビューティスタートアップの育成に乗り出すといったことも、現実味がある。

一方で、韓国では近い将来、新興化粧品ブランドがブランド力1つで勝負するのは非常に難しくなっていくはずだ。実際、現在進行形で注目を集めているのは+αのサービスを持つプレイヤーか、もしくはビューティ系サービスの提供からスタートし、新たに自社の化粧品ブランドを興している「MEMEBOX」や「UNPA」タイプのスタートアップ群だ。こうした勢力がどのような成長をみせるのか、あるいは“次”を担う別のムーブメントが起きるのか、韓国のエコシステムや状況の変化、またシナジーについては今後も注目していきたい。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: Maria Rom via Shutterstock

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