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MilleFéeをローンチ2年で13カ国に展開、ライフスタイルカンパニーの海外市場開拓の強み

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海外市場開拓を行う中国ブランドの日本進出をサポートしつつ、グローバル市場のトレンド変化をいち早くつかみ、満を持して自社のカラーコスメブランド「ミルフィー(MilleFée)」などをリリース。それらのグローバル展開をスピード感をもって積極的に進める日本企業が、ライフスタイルカンパニー株式会社だ。同社 取締役 ファウンダー 菊池尚氏にその戦略と方針について聞いた。


中国ブランドの輸入販売事業を経て自社ブランドを設立

2020年7月に設立されたライフスタイルカンパニーは、カラーコスメブランドのミルフィー(MilleFée)、スキンケアブランド「フラクショナルCC(Fractional CC)」などの自社ブランドを運営しており、2024年時点で米国、韓国、ベトナム、オーストラリア、UAE、サウジアラビア、リトアニア、ラトビアなど13カ国に商品を輸出している。2025年には、インドネシア、トルコ、英国、ブラジル、メキシコ、フィリピン、タイなどを含む11カ国の市場を新たに開拓し、合計24カ国で商品を展開していく計画だ。

ミルフィー「絵画アイシャドウパレット」とフラクショナルCC「ニードルセラム」シリーズ

海外市場に積極的に進出するライフスタイルカンパニーは、もともと日本のメーカーや百貨店に対して中国市場向けのマーケティングサービスを提供する広告代理店だった。現在もグループ企業では大手化粧品メーカー等をクライアントとしている。ライフスタイルカンパニー株式会社 取締役 ファウンダー 菊池尚氏は次のように説明する。

「ライフスタイルカンパニー設立の6年ほど前から中国市場向けの広告会社を経営していた。当初は日本のクライアントが多く、日本の化粧品やウエルネス関連製品を中国市場向けにプロモーションする事業が中心だった。ただ、2018年頃から中国ブランドが急速に成長し始めたのをみて、中国ブランドの商品を逆に日本に輸入し流通させることができたら面白いと思い、その新ビジネスのために立ちあげたのがライフスタイルカンパニーだ」(菊池氏)

ライフスタイルカンパニー株式会社 取締役 ファウンダー 菊池尚氏
プロフィール/1987年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。在学中に中国人民大学経済学院に交換留学。日本で大手システム会社にて法人営業に従事したのち、上海に渡り日中国EC運営会社の営業責任者、中国系広告会社の執行役員を経て、日本で広告会社を設立。大手百貨店やメーカー等30社以上に中国市場向け広告・ECの支援を実施。2020年7月、ライフスタイルカンパニーを設立し化粧品業界に参入。現在、自社ブランド5ブランド、代理ブランド5ブランドを展開中

ライフスタイルカンパニーは、これまでカラーローズ(COLORROSE)ジルリーン(jill leen.)など中国の人気ブランドの日本展開をサポートしてきた。2025年にはSNSを中心に話題となっているゴーゴーテイルズ(GOGOTALES)のイヤホン型リップなどもローンチ予定だ。

「中国美容ブランドの日本における代理店事業は2021年1月にロフトに商品展開したのがスタートだ。当時、3~4社ほど中国コスメの輸入卸業者がいたが、参入から1年半程度で、当社が取り扱っていたブランドの売上が競合全体のなかで1位になった」(菊池氏)

それまでの輸入販売事業は、海外から輸入した製品の表示ラベルだけを貼り変えて流通させることが一般的だった。ライフスタイルカンパニーでは、ブランド側とともにパッケージデザインや色番などを一から企画し、日本市場にローカライズしたマーケティングを行うことで、中国ブランドを取り扱う代理店として成果をあげてきた。

「この事業を手がけているうちに、輸入した商品の企画やマーケティングに時間と手間をかけるのであれば、自社ブランドを立ち上げて展開したほうがより消費者に合った商品が開発でき、ビジネスとしてもより安定感が出るという結論になった。そこで、2022年にミルフィーをローンチし、自社ブランドの運用を開始した」(菊池氏)

世界のインフルエンサー800人へ情報発信し話題づくり

海外コスメの日本進出サポートとして「海外のトレンドをもっと身近に届けたい」というビジョンを掲げるライフスタイルカンパニーは、グローバルのトレンドを取り入れた自社ブランドを設計し、日本だけではなく、北米、ASEAN、韓国など、競争優位性がある海外エリアを分析しながら優先順位をつけて国外へ販路を拡大する戦略をとる。

2022年8月に同社がローンチしたミルフィーは、フランス菓子「ミルフィーユ」からインスピレーションを得たブランドだ。「新しいわたしに出逢う魔法」というテーマを掲げ、トレンド、安全性、ワクワク感を重視した商品づくりを特徴としている。

ミルフィー製品
出典:ミルフィー公式オンラインショップ

ミルフィーの代表的な商品には、26万以上のSNSフォロワーを抱えるインフルエンサーの本田ユニ氏と共同開発した「絵画アイシャドウパレット」や、見た目の可愛さでSNS上で大きな話題となった「ミャオパウズアイシャドウ」、肌の自然な立体感を演出する「チート顔コントゥアパレット」などがある。パーソナルカラーに合わせた色選びの提案に加え、安全性やクルエルティフリーに配慮。日本国内ではロフトやハンズなどを中心に販路を拡大している。

「我々はもともとがマーケティング会社であるため、インフルエンサーとのコンタクトや、メディアマーケティングはすべて自社で行っている。広告費を抑えて話題化しやすい施策をスピーディに展開できるのが強みだ。たとえば、韓国ブランドはインフルエンサーとの関係づくりにおいても先駆けているが、当社ではその動きをフォローし、世界のインフルエンサー800人以上に新商品やギフトボックスを送り、情報発信してきた」(菊池氏)

あわせて菊池氏は、商品開発のスピードもライフスタイルカンパニーの特徴だと話す。日本のブランドは企画から商品ローンチまで2~3年をかけるケースが多いが、韓国や中国のブランドは、およそ6~8カ月で新商品のローンチにいたるのが一般的だ。製品開発のスピードに関しても海外の競合を強く意識するライフスタイルカンパニーは、中国国内に製造拠点を持つ韓国系OEM/ODM事業者と協業を進め、ミルフィーの場合、毎月平均2商品のペースで新商品を発売し続けているという。

「新しい剤形、容器、処方に関するトレンドも、海外サプライチェーンやOEM事業者との協業を通じて、積極的に取り入れている。日本のサプライチェーンでは開発スピードやコスト的に実現しにくいトレンド商品を、海外企業の協力でいち早く生み出し、国内・海外市場に投入していくことが当社の戦略のひとつでもある」(菊池氏)

ライフスタイルカンパニーは、新興ブランドの競争が激しい韓国市場にもミルフィー商品を展開している。「海外の展示会に出展した際、韓国の代理店と商談を持つ機会があり、免税店チャネルへの進出が決定した」と菊池氏は説明する。

「韓国ブランドの商品はデザインやコンセプトがそのときのトレンドで似通う傾向がある。アジア各国を中心に海外のさまざまなトレンド要素を取り込んだミルフィーは現地ブランドとの違いを明確にできており、韓国市場でも手応えを感じている。まだ免税店のみで流通規模は大きくないため、今後はオリーブヤングなど大手小売事業者に強い代理店と組んで商品を展開していきたい。最近は韓国を訪れるインバウンド客も増加している。客層は日本のほか、欧米、アジア各国など実に多様だ。世界各国向けのマーケティングという意味合いにおいても韓国進出には意義があると感じている」(菊池氏)

日本ブランドが海外進出にスピード感をもてない3つの理由

ライフスタイルカンパニーは、2026年内までに自社ブランドの輸出国を40カ国程度まで増やす目標を掲げる。なかでも最優先するのが米国市場だ。

「すでに米国法人を設立しTikTokショップの運営も開始した。米国ではCOSRXなど韓国系ブランドの成功事例が複数あるが、当社としても化粧品分野では世界最大の市場のひとつである米国を最優先したいと考えている。次に注力すべきは欧州だ。CPNP(Cosmetic Products Notification Portal)認証(市場で販売される化粧品の安全性を確保するために欧州連合が定めた制度)の規制が厳しく、進出を断念した日本企業も多いが、一度参入できれば逆に日本ブランドという特異性が活かせ、そのなかでの競合は少ないとみている。販路を開拓できるよう力を傾ける」(菊池氏)

また、ライフスタイルカンパニーは、韓国系、中国系ブランドが積極的に進出している東南アジア圏については独自の視点で分析を行っている。

「シンガポールとマレーシアには商品を展開中であり、ベトナムやインドネシアの代理店とも話を進めている。ただ、東南アジアは1人あたりのGDPや投資対効果が我々が考える基準としてはまだ低いため、優先順位としてはそれほど高くない。あわせて、2024年は中国国内の景気が低迷したため、中国系ブランドが一気にアジアに海外展開を始めた。なかでも、有力な市場となっているのが、華僑が多くネットワークが築きやすい東南アジアだ。現地では中国ブランドのTikTokショップが乱立し競争も過熱している。当社としてはその過当競争を避け、米国や欧州を優先していく計画だ」(菊池氏)

ミルフィーはローンチからわずか2年で海外市場に着々と進出している。その展開スピードは、他の日本ブランドと比較すると圧倒的に早い。日本ブランドの海外進出が韓国・中国ブランドと比較して遅れている理由について、菊池氏は3つの観点から示唆する。

まずひとつは、企業向けに商品を売り込む法人営業の違いにあるという。菊池氏は前職でシステム会社の法人営業を経験しており、日本企業の場合は、化粧品業界に限らず、法人営業が全般的に強くないと感じている。

「日本と韓国・中国のOEM企業を比べるとその違いが顕著だ。我々が取引している韓国や中国のOEMは、新しいバルクやトレンドの提案を毎月のように持ってくる。一方で日本企業の場合、こちらからお願いしても情報があまり出てこない取引先が多い印象がある。日本企業は営業を通じた積極的なニーズのヒアリングや社内調整を経たスピーディな提案が苦手だと感じる」(菊池氏)

言語とローカライズに対する観点も課題だと菊池氏は指摘する。「日本のメーカーやブランドでは多言語で営業する現場スタッフがいるケースもあるが、最終的な決裁は現地の言語ができない上司となる場合も珍しくないと聞く。当然、決裁者の海外市場に対する理解が浅いままなので、決裁からその後の進出スピードはおのずと遅れる。また、欧米の大手ブランドでは、各国のブランドマネージャーが、小売販路の選択やクリエイティブ、売場の作り込みまでマーケティング手法を細かく指示するが、日本企業の場合は現地の代理店に丸投げして任せてしまうことが多いのではないか。とくに中華圏ではそのようなエピソードをしばしば聞く。現地代理店の立場からすれば、明確な指示がないと動きようがない。結果、互いに不満が募って進出が上手くいかないというケースが多いのではないかと思う」(菊池氏)

国の後押しやスタートアップを取り巻くエコシステムも、韓国・中国ブランドと日本ブランドの進出スピードの違いに影響していると菊池氏は考える。たとえば、日本のJETROに相当する韓国のKOTRA(大韓貿易投資振興公社)は、自国の中小ブランドの海外展開を積極的に支援している。菊池氏はKOTRA主催イベントで韓国OEMや韓国メーカーとの商談をしたことで、その支援体制の違いを肌で感じたという。日本ではビューティ系スタートアップが商品を企画したとしても、海外展開を前提としたきめ細やかなサポートを行えるOEMはまだ数が少ない。ブランドの成長を促すエコシステムという意味合いにおいても、韓国が先んじているというのが菊池氏の率直な印象だ。

今後はスキンケアの自社ブランド、フラクショナルCCの海外展開にも注力

ライフスタイルカンパニーは今後、スキンケアブランドのフラクショナルCCについても海外展開も積極的に進めていくとする。

フラクショナルCCは、ニキビ跡や毛穴治療に用いられるレーザー治療「フラクショナルレーザー」から発想を得たダーマコスメブランドだ。主力製品である「ニードルセラムC」は、天然由来のマイクロニードルを配合し、5種類のビタミンCなど美容成分を肌の角質層まで届ける設計としている。

フラクショナルCC「ニードルセラムC」

皮膚科学にもとづいた処方や設計により高い効果が実感できることをうたう“ダーマコスメ”スキンケアは、グローバルでトレンドキーワードとして注目が集まっているが、ライフスタイルカンパニーの調査では、海外展開している「メイドインジャパン」のダーマコスメブランドは、いわゆるデパコス以外にはほとんどないという。同社は海外で容器の調達を行うことで、日本で製造しても2,000円台の価格で販売できる高性能なダーマコスメを生産し、国内外の需要に応えていきたいという。

「韓国や中国のブランドがグローバルでの存在感と売上規模を高めている現状が広く知られるなかで、日本企業の我々は、もっと危機感を抱くべきだと思う。我々は化粧品企業、ブランドとしては後発だが、海外の先進事例を積極的に吸収し自分たちのものにしていくことで、充分に市場を開拓できる余地があると考えている。海外進出を成功させた日本の新興ブランドの先駆けとなるべく、今後も事業に積極的に取り組んでいきたい」(菊池氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image & photo: ライフスタイルカンパニー株式会社