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パンデミック下、そしてクッキーレス時代に備えたe.l.f.の顧客ロイヤルティプログラム

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前編では、米e.l.f. Beautyの主に経営方針とデジタルマーケティングについて取り上げたが、同社は、コロナ禍で顧客ロイヤルティプログラムも強化し、売上に大きく貢献している。主導したCRMディレクター、ブリジット・バロン氏がNRF(全米小売業協会)2021 Retail’s Big Showで語ったのは大量のデータからの「新しいオーディエンス」発見だ。

ロイヤルティプログラムの会員がEC売上高の7割を構成

パンデミック中にe.l.f. Beautyが注力したもう1つの施策が顧客ロイヤルティプログラムの強化だ。100%ヴィーガンとクルエルティフリーを掲げるカラーコスメとスキンケア商品ブランドの「e.l.f. Cosmetics(エルフ・コスメティクス、以下e.l.f.)」では、「ビューティ・スクワッド(Beauty Squad)」と呼ぶロイヤルティプログラムの会員数が2020年末時点で230万人と1年間で40%増加した。e.l.f.ではECサイト売上高の70%が会員によるもので、会員の獲得と維持が業績に直結している。

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e.l.f.の顧客ロイヤルティプログラム
「ビューティ・スクワッド」
出典: e.l.f. Cosmetics公式サイト

ビューティ・スクワッドに入会するには、e.l.f. の公式サイトで名前と電子メールアドレスを入力してパスワードを設定する。オプションで電話番号を登録すれば、プロモーション情報をSMSで受けとることができる。

会員特典は、ECサイトでの購入額に応じてポイントが加算され、後日の商品購入時にポイント数に応じた割引を受けられることや、誕生日に無料ギフトが贈呈されるなどだ。さらに、メイクの好み(ナチュラル、グラマラス、トレンドなど)や、スキンタイプ(ドライ、ノーマル、オイリー、コンビネーション)、スキントーン(肌の色調)、肌の悩み(ニキビ、赤味、シワなど)などに関する11の簡単な質問に答えて「ビューティ・プロファイル(Beauty Profile)」を作成すれば、自分に合った商品の提案を受けられる。入会時とプロファイル作成時には、それぞれ25ポイントが付与される。

獲得ポイントについては、3段階のレベルが設けられており、レベルが上がるごとに「20ドル以上の購入で5ドル値引き」「ダブルポイントイベント(購入金額に対し通常の倍のポイントを付与)」「セール情報への早期アクセス」などの特典が用意されており、最高レベルになると「購入金額からの25%値引き(注:20ドル以上購入時の5ドル引きの代わりにこの特典となる)」「新発売の商品への早期アクセス」の両方が受けられる。

つまり、会員は商品提案などの形でパーソナライズされた購買体験を期待できるだけでなく、購入額が増えればそれだけ特典もアップグレードされ、優良顧客だけの「特別感」を味わうことができる。

e.l.f.はこれらの特典以外にも、期間限定の特典を試験的に提供している。たとえば過去に行った「サプライズポイントドロップ」では、商品購入時に値引きに使えるポイントを無料で付与。ポイント有効期間を48時間に限定し、期間内の商品購入を促した。会員の反応がよかった特典については不定期に継続することもあるようだ。

オンラインでパーソナライズされた購買体験を創出しクロスセルにつなげる

e.l.f. Beautyが展開する3ブランド、(主力のe.l.f. Cosmetics、2020年2月に傘下となったクリーンビューティ新興ブランドW3ll People、アリシア・キーズのウエルネスブランドKeys Soulcare)の顧客関係管理(CRM)とロイヤルティプログラム責任者のブリジット・バロン(Brigitte Barron)氏は、2021年1月にオンライン開催された全米小売業協会(NRF)主催の年次展示会と会議「NRF 2021 Retail’s Big Show」に登壇し、同社のロイヤルティプログラムについて語っている。

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e.l.f. BeautyのCRMと顧客数増加
(Customer Growth)担当ディレクター、
ブリジット・バロン氏
(NRF 2021 Retail’s Big Showウェビナーより)

バロン氏によると、e.l.f. の顧客の中心は18~24歳で、前編で紹介したようにTikTokでのマーケティングの成功が寄与しているという。e.l.f.のECサイトやモバイルアプリでの新規顧客の場合、ソーシャルメディアを閲覧中に、たまたまe.l.f.の商品を扱った動画を視聴した、あるいはターゲットやウルタ・ビューティなどの店舗で商品を見たなど、ブランドについてすでに何らかの知識を持っているというパターンが多い。

バロン氏が注力しているのが、ECサイトへの新規訪問者とe.l.f.との「最初のインタラクション(出会い)を素晴らしいものにすること」だ。それによって優良顧客を創出し、クロスセルにつなげることを目標とする。

e.l.f.は顧客関係管理(CRM)ソフトウェア大手、セールスフォース(Salesforce.com)のMA(マーケティングオートメーションツール)やGoogleアナリティクスをはじめとしたアクセス解析ツールを導入し、顧客ごとに適切なメッセージを適切なタイミングで自動的に配信できる仕組みを整えている。

具体的には、次に挙げるようなパーソナライズされた顧客体験の創出で、コンバージョン率の向上に役立てているという。

● ECサイトでの閲覧履歴や、他の顧客の購入履歴などにもとづき商品を提案する
● ある程度の時間をかけサイトで商品を閲覧しているユーザー、つまり購入意欲が高いと思われるユーザーにポップアップを表示し、ロイヤルティプログラム加入を呼びかけ、最初の注文時に送料無料サービスが得られることを伝える
● リップやチークなどカラーコスメを試せるバーチャルトライオンを提供

新規ユーザーの場合、これらのやり取りを通じて電子メールアドレスかSMSを送るための電話番号をブランド側が入手する。そのうえで、サイトを離れる前に商品購入に至らなかった訪問者には、その後に電子メール、SMS、アプリのプッシュ配信などによって「歓迎メッセージ」を配信する。次の訪問、そして初回の商品購入につなげるためだ。

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「歓迎メッセージ」の例。
商品閲覧履歴などをもとに新商品を
紹介し、初回購入時の特典として
送料無料を案内している
(NRF 2021 Retail’s Big Showウェビナーより)

訪問者が商品購入に至った場合、次のステップでは2つのアクションがある。1つ目は、購入した商品について使い方や知っておくと便利な情報を提供すること、そしてもう1つがロイヤルティプログラムへの入会を促すことだという。

e.l.f.がECサイト利用者のロイヤルティプログラム勧誘に力を入れるのは、前述のようにロイヤルティ会員の購入がEC売上高の70%を占めていること、そして会員の顧客生涯価値(LTV)が非会員よりも117%高いことによる、とバロン氏は説明する。

一方で、新規購入者の多くは初回購入時ではロイヤルティプログラムに加入しないこともわかっている。「これらの新規購入者を何らかの方法で会員にすることができれば、それを起点にパーソナライズした顧客体験をさまざまな方法で提供して、顧客維持につなげることができる」(バロン氏)

データ解析による「新たなオーディエンス」の発見と施策でスキンケア売上が倍に

ロイヤルティプログラムを強化するもう1つの狙いは、顧客データだ。バロン氏は、顧客データの収集と解析によって「新たなオーディエンス」の発見が可能になったと話す。たとえば、スキンケア商品の購入者は、それ以外の商品購入者よりもLTVが100%以上も高いことがわかった。スキンケア商品は同社商品のなかでもリピート購入が多く、スキンケア商品購入者は購入頻度もそれ以外の購入者よりも約65%高かった。

バロン氏によると、2020年はコロナ禍で以前よりスキンケア商品が伸びたが、データ解析によって、ECサイトで複数のスキンケア商品を閲覧した、または「スキンケアファインダークイズ(Skin Care Finder Quiz)」に回答したなど、スキンケア商品を購入する可能性が高いオーディエンスを特定することができたという。

スキンケアファインダークイズとは、年齢、好みのルック(ナチュラル、トレンディなど)、探している商品(クレンザー、モイスチャライザーなど)、肌タイプ(ノーマル、オイリー、ドライなど)、肌悩み(ニキビ、年齢肌、毛穴、赤味など)の5つの質問に答えてもらい、個人に最適のスキンケア商品を紹介するための仕組みで、2020年4月に提供を開始した。

「以前だったら見逃したかもしれない商品販売機会も、データ解析によって発見できた。一例では、最近は男性のサイト訪問者がわずかだが増えており、そのほとんどの人はメイクアップ商品を購入していた。これらの訪問者に、メイクアップ商品以外にも、スキンケアやそのほかの商品を販売する機会があることに気がついた」(バロン氏)

これらのオーディエンスへの商品提案の結果、スキンケア商品の販売を従来の2倍に増やすことができたという。

クッキーレス時代への備えとして自社の顧客データを蓄積

顧客ロイヤルティプログラムは、優良顧客の育成や、優良顧客に報いる手段としてはもちろん、クッキーレス時代がくる前に顧客データを収集し、顧客にブランドとの個人データ共有を促す手段としても、その価値が改めて見直されている。

e.l.f. はロイヤルティプログラムの改良を随時行っており、直近ではウルタ・ビューティなどの小売店で購入した商品のレシートをスキャンしてサイトにアップロードすることで、ポイントを受け取れる機能を追加した。会員はポイントが集めやすくなり、e.l.f.は顧客がどんな店舗を利用しているかといった情報が収集できる。オンラインだけでなく、オフラインでの行動データも十分に集まれば、たとえば、ECサイトに表示するコンテンツやメッセージを、会員の購入履歴や商品閲覧履歴にもとづいてさらにパーソナライズしたり、購買や行動の変化に応じて発信するメッセージをリアルタイムで切り替えたりといったことも、可能性としてみえてくる。

米国では新型コロナのワクチン接種の広がりとともに経済が再開し、カラーコスメ市場も回復が予想される。ロイヤルティプログラムを通じて収集した顧客データや洞察を今後のマーケティングや商品展開にどう生かすのか、実際に結果を出しているe.l.f.の事例は参考になることも多い。

Text: 鶏内智子(Tomoko Kaichi)
Top image : e.l.f. Cosmetics公式サイト

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