WINONAなど中国の機能性スキンケアの新たな販売チャネル“薬局”の存在感
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中国の美容業界では有望なオフラインチャネルとして、「薬局(薬房)」が改めて注目されている。ワトソンズなどいわゆるドラッグストアではなく薬剤師のいる薬局だ。中国の人気ブランド「WINONA(薇諾娜)」やロレアル傘下の「VICHY」などの事例を紹介しながら、その成り立ちや今後の可能性を探る。
薬局販売の先駆けはロレアル傘下の「VICHY」
中華圏では、薬局(薬房)に似た業態としてドラッグストア(護理店)があるが、その概念は日本とは異なる。たとえば中国のドラッグストア最大手「ワトソンズ(屈臣氏)」は、もともとは薬局がルーツでありながら、現在では医薬品をほとんど扱っていない。店内に薬剤師はおらず、食品や日用品の取り扱いも少なく、ほぼ化粧品専門店といってもいい業態だ。一方の薬局は、日本と同じように医薬品を主体とした小売店で薬剤師が常駐し調剤を行う。その薬局で、中国ブランドを中心に機能性スキンケアブランドが売上を伸ばしている。
中国のヘルスケア専門の調査会社Sinohealth(中康科技)のレポートによると、薬局チャネルにおける機能性スキンケア用品の2023年の市場規模は、前年比56%増の22億7,000万元(約482億円)と急成長している。
薬局で販売される化粧品ブランドのシェアをみてみると、42.7%のWINONA(薇諾娜)が圧倒的1位で、2023年の売上高は9億6,800万元(約205億5,000万円)だった。深セン証券取引所に上場するBOTANEE GROUP(雲南貝泰妮生物科技)が2010年にローンチした同ブランドは、ヘンカクボクや山茶など雲南省の高地に自生する天然植物成分を配合し、敏感肌の改善をうたい、中国でもっとも売れているスキンケアブランドのひとつだ。
2位は20.6%の「可復美」で、売上高は4億6,700万元(約99億円)だった。香港証券取引所に上場するGiant Biogene(巨子生物)が2011年にローンチした同ブランドは、同社公式サイトによると、中国国内で初めて遺伝子組み換えコラーゲンに関する特許を取得したという。敏感肌向けに、その技術を活用したフェイスマスクやエッセンスなどを販売している。
3位は4.3%の「Voolga(敷尔佳)」で、売上高が9,800万元(20億8,000万円)で上位2ブランドとはかなりの開きがある。同ブランドは、深セン証券取引所に上場する哈尔滨敷尔佳科技の前身である黒龍江省華信薬業が2015年にローンチ。フェイスマスクやクリーム、保湿スプレーなど幅広い製品を揃えている。
ほかにも多くの中国ブランドが薬局での販売に進出しているが、中国メディアによると、薬局で最初に販売されたスキンケアブランドは、ロレアルグループ傘下でダーマスキンケアを提案する仏「VICHY」だったという。当時の中国政府の規制方針のもと、現在では認められていない、いわゆる「薬用化粧品」との解釈で販売したとされている。
1931年にフランスで創業したVICHYは、1955年にロレアルグループが買収。1998年に中国に進出すると、薬局を販売チャネルに定めた。一時期は3,000店舗の薬局で販売し、売上高は15億元(約318億4,000万円)を超えたという。その成功を見た多くのブランドが薬局市場に参入した。
しかし、VICHYの勢いは長くは続かなかった。その頃は中国の消費者にはまだ薬局でスキンケア製品を購入する習慣が根付いておらず、しかもECプラットフォームの台頭で消費者の行動様式が変わりつつあったためだ。2008年にVICHYは薬局から撤退し、ECに注力するようになる。
その後も薬局での販売を続けるブランドはあったが、医療保険制度の変更や当局による監督や規制強化により、化粧品の薬局での販売は、不安定な時期を迎えることになった。以前は機能性スキンケア製品が保険適用となっていたのが、管理を厳格化することによって多くが適用外になるなど、ブランドにとっても進出しづらい状況だったようだ。
2010年には国家食品薬品監督管理局が「化粧品表示および宣伝に対する日常監督の強化に関する通知」を公布し、「薬用化粧品」や「医療用スキンケア製品」などと誇張して表示する違法行為の撲滅を重点項目のひとつに挙げた。
さらに2019年には「化粧品監督管理に関するよくある質問への回答」を発表し、「化粧品(妆字号)」として登録された商品が薬用化粧品や医療用スキンケア製品と称することの禁止を明言し、規制する姿勢を改めて示した。中国では医療用品や医薬部外品を意味する「械字号」として登録した商品だけが、効能をうたうことができる。普通の化粧品の登録である妆字号でも薬局での販売は可能だが、械字号とは違い効能はうたえない。このようにルールが厳格化されたことで、ブランドの淘汰も進んだ。
化粧品として最初に医薬部外品の扱いとなったWINOA
中国美容専門メディアによると、こうしたルールが制定された状況下で成功したのがWINONAだという。提携する病院での臨床試験を重ねてきたことで、械字号としての登録が可能になり2016年に薬局での販売を開始した。当初の薬局での売上は50万元(約1,100万円)程度の微々たるものだったが、医薬品レベルのより高機能なスキンケア製品に対する消費者ニーズの高まりを受けてWINONAは売上を伸ばし、2021年からシェア1位を維持している。2024年も好調で、上半期の売上高は前年同期比20%増だという。
運営するYunnan Botanee Bio-Technology Groupは、中国全土の7万4,000を超える薬局と提携し商品を供給している。WINONAの成功を受け、ほかのブランドも次々と参入。中国ブランドが市場の98%を占める。前掲の中国メディアによると、VICHYも2020年に薬局に再進出した。
薬局における非医薬品分野の拡大を政府も後押し
WINONAの成功の背景には、昨今、薬局が非医薬品の分野に力を入れていることもある。薬局は全国に約70万店舗あり100以上の大手チェーンがひしめきあう状況で、競争が日に日に厳しくなっている。中国の医薬・ヘルスケア情報プラットフォーム「MENET(米内)」によると、薬局の2024年上半期の小売規模は、前年同期比3.7%減の2,986億元(約6兆3,393億円)。上場企業5社が増収減益だったという。
前出の美容専門メディアの取材に対し、大手薬局チェーンの担当者は、医療保険が適用される医薬品のオンライン購入などの新たな政策の導入により、オンライン販売との競争が激化したと述べている。仕入れ額と販売価格の差額に依存した収益モデルは利幅が少なくなり持続が困難になったため、長期的には、機能性製品・食品などの非医薬品を展開し品揃えを拡大していく必要があるという。
すでに非医薬品を強化している企業もある。雲南鴻翔薬業が運営する「YXT Health(一心堂)」は、全国に1万店舗以上を展開しているが、前出の報道によると、5,000以上の店舗で化粧品やパーソナルケア製品を販売。2023年のヘルスプロダクト類の売上高は3億7,000万元(約78億5,000万円)で、そのうち60%が化粧品、23.5%がパーソナルケア製品だったという。
ユーザーにとっても、店舗数の多い薬局は、多くの場合、徒歩や自転車で行ける範囲に1軒はある状況だ。わざわざ商業施設に行かなくても手軽に購入でき、薬剤師から肌に関する専門的なアドバイスも受けられるという利便性もある。こうした状況を受け、政府も非医薬品分野の拡大を後押ししている。2024年8月に国務院が発表した「サービス消費の質の高い発展を促進するための意見」では、「小売薬局の健康促進、栄養・健康維持といった機能を強化する」ことが明記された。これにより、日々のヘルスケアを重視する方向性が示され、普段の健康管理や不調の予防としてのスキンケア製品やパーソナルケア製品、サプリメントが取り扱いやすくなったとされる。
中国では地域によって法律や制度の運用ルールが異なることがしばしばあるが、地域によっては械字号の登録を受けた商品を、医療保険を利用して購入することが認められている。政府の後押しを受け、スキンケア用品に対する保険適用が拡大していく可能性もありそうだ。保険が適用されるとオンラインよりも安く商品を購入できるため、オンラインで扱っていない商品を薬局で販売するブランドも少なくないという。
スキンケア製品やパーソナルケア製品を販売している薬局が増える一方で、日用品や食品を販売する店舗はまだ少ないが、人々の利便性を考えるとこれらも拡大していく可能性がある。そうなると中国の薬局は、日本のドラッグストアの業態に近づいていくのではないか。
報道によると、前出のGiant Biogeneの幹部は、薬局が同社のオフラインでの売上第1位のチャネルになっていると明かしている。薬局におけるスキンケアの販売は、消費者にとっては安心や信頼感があり、美容ブランドにとってまだ販売チャネルの“ブルーオーシャン”ともいえそうで、今後、械字号を取得する高機能性スキンケアが増えていきそうだ。
Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: WINONA公式サイト