米国でD2Cブランドのリアル店舗進出を支えるRaaS「ゴーストリテーラー」【後編:Leap急成長の理由】
見出し画像

米国でD2Cブランドのリアル店舗進出を支えるRaaS「ゴーストリテーラー」【後編:Leap急成長の理由】

BeautyTech.jp

◆ 9/1よりリニューアルしました。詳細はこちら
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

米国では、ゴーストリテーラーと呼ばれる、リアル店舗に必要な不動産やバックエンドシステム、人材などすべてをサービスとして提供するRaaS(リテール・アズ・ア・サービス)進化版といえる企業が出現しており、前編ではその全体像を紹介した。後編では、ゴーストリテーラーの代表格であり、成長著しい「Leap」について、現地の店舗オペレーション、ブランドと一体となって働くスタッフへの取材とあわせて紹介する。

Leapが目指す、ブランドがオフライン進出しやすい世界

Leapは、2018年に起業家のエイミッシュ・トリア(Amish Tolia)氏とジェレッド・ゴールデン(Jared Golden)氏によって設立された。同年末には、クライアント企業であるラグジュアリースニーカーブランド「Koio」の1号店をオープンさせ、現在はさまざまなジャンルのブランドの32店舗を運営している。同社のサービスを希望するブランドはD2Cから伝統的な卸売企業まで増え続けており、長いウエイティングリストとなっている。Leapが手掛ける店舗数は、2021年末までに50店、2022年末までには250店に達すると見込まれている。

Leapの大きな特徴は、ブランドに代わり、不動産契約やスタッフ確保など店舗運営にまつわるさまざまな業務を担ってくれることだ。同社のサービスを希望するブランドの申込から店舗オープンまでのプロセスは、通常以下のようになる。

1. LeapのWebサイトより企業情報を入力

2. Leapがブランドの成長性やリスクなどを査定し、条件が合致すれば契約

3. Leapが最適な不動産の提案、店舗デザインや開発、人材獲得とトレーニング、POSシステムの導入、そしてブランド独自のカスタマージャーニーなどを準備

4. 契約から平均で30~60日後には完全にブランド化された店舗のオープンが可能

5. 店舗オープン直後より、店舗でのトラフィックやコンバージョンなどの定量的データや、店舗スタッフが顧客との会話を通して得た情報をブランド側に共有

6. ブランド側は、Leapからの情報をもとに、商品やブランド全体の改善へとつなげる

ブランド独自のカスタマージャーニーを設計するために、Leapでは下記のような店舗運営に必要なあらゆる機能を用意しており、顧客が期待するオムニチャネルやOMO型のショッピング体験に応えるために、それらを組み合わせて導入することが可能だ。とくに2020年3月以降は、BOPIS (Buy Online, Pick up in-store オンライン購入商品の店舗受け渡し)やカーブサイドピックアップ(オンラインで購入した商品を待ち時間なくスムーズに店舗で受け取れる仕組み)を強化している。

Leapが提供するストアの特徴と機能
出典:Leap公式サイト

Leapは、特定の顧客層をもつ地域に複数の異なるブランドでクラスターを作り、店舗を展開する方式をとる。たとえばニューヨークのハイセンスなブティックやレストランなどが立ち並ぶウェストビレッジ(West Village)に位置するブリーカーストリート(Bleecker Street)では、アパレル・ファッションやジュエリーブランドの「NAADAM」「Something Navy」「Goodlife Clothing」「Ring Concierge」「Little Words Project」の5店舗を運営している。

このクラスター戦略が、Leapやそこで働くスタッフ、クライアントであるブランド、そして顧客にとっても利便性の高い状況を作り出しているのだ。今回は、このうちNAADAMとRing Conciergeの2店舗のスタッフに直接話を聞いた。

ブランドと一体となって働くLeapスタッフが感じる「働きやすさ」の背景

NAADAM

2021年11月下旬、カシミア製品を扱うアパレルブランドNAADAMの店舗ではショーウィンドウなどにクリスマスデコレーションを施す真っ最中だった。ブラックフライデーセールがすでに始まっており、40%OFFと表示するイーゼルも設置されていた。

こうしたVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)に関わる部分などもすべてLeapが用意しセッティングしているが、看板やボードの書体やイラスト、カラーデザインなど、隅々までブランド独自の世界観を反映した表現だ。入口のドア下部に、powered by LEAPというテキストが入っている以外は、顧客がブランドストーリーを体感できる「NAADAMらしさ」を体現した店舗演出となっている。

NAADAMは「世界一透明性が高くサステナブルなハイクオリティカシミア」をうたい、セーターなどの原料となるカシミアの入手にあたっては、モンゴルのゴビ砂漠のカシミア山羊の飼育業者と直接契約を結んでいる。こうしたブランドの想いやこだわりを伝えるために、店内には山羊飼いが使う道具や、カシミアの原毛、山羊のオブジェなどを展示している。

店舗スタッフはブランドではなく全員Leapに所属しており、Leapの独自プラットフォームを利用して各種データや顧客の反応などをクライアント企業であるNAADAMと共有している。スタッフと顧客の何気ない会話でも詳細に共有するといったトレーニングも受けているという。

POS端末はShopify。Leapが手掛ける店舗はすべて同一のITやシステムを導入

Leapに勤務して1年という店長は、直接NAADAMの店舗に出勤し、商品に触れ、顧客とコミュニケーションする日々を送っている。ブランドに愛着が湧き「ときどきLeapの社員であることを忘れてしまうほど」だという。また、店頭を訪れる顧客の多くは、すでにオンライン経由でブランドのファンであり「フォローしているブランドをリアルの場で体験したいとの思いから来てくれる。店舗ではNAADAMの意心地のよさや温かさを感じてもらいたい」と話す。

NAADAMのように、Leapが手掛ける店舗のほとんどは1,000平方フィート(約93平方メートル)前後で広大ではないが、Leap創業者のトリア氏が「モダンリテール」と呼び積極的に推進している「小型店舗、体験重視で、在庫リスクや不動産リスクを最小限にする」方向性は、D2Cブランドに限らず今後も広がっていくと予想される。

Ring Concierge

Ring Conciergeは、NAADAMと同じくブリーカーストリートに位置し、Leapが手掛けた初のハイジュエリーブランドだ。アクセシブル(手の出しやすい価格)ながらラグジュアリー感のあるブランドで、婚約指輪などもオンラインでオーダーメイドできるとあり、若い世代に人気が高い。

取材に訪れた当日は、事前登録者向けのブラックフライデーの開催日ですべての商品が20%Offで購入できることと、入場制限を行っていたため店の外には行列ができていた。同店の店長によると、入場制限をするのはLeapが提供するモダンリテールの重要な要素の1つである、密を防いで「安全なショッピング」を実現するためでもあるという。

効率的な運営のために、Ring Concierge(ブランド側)の
マネージャーが列に並んでいる顧客のリングサイズを計測
ブランドの世界観を体感できる店内空間
Ring Concierge ブリーカーストリート店店長

店長はLeapに2年勤務しており、Ring Conciergeは3つめのブランドだという。Leapによるオンライン研修や評価制度、そして店舗ローテーションには満足しており、Ring Conciergeで初めて店長に昇進したと話し、モチベーションの高さをうかがわせた。

短期間でブランドをローテーションし、新しい知識や業務を覚えることがそれほど負担にならない理由のひとつは、運営から日々の報告業務までさまざまなバックエンドシステムがすべて統一されており、他ブランドに移っても一から学ぶ必要が少なくて済むからだという。また、2年の勤務期間内で、クライアントであるブランドとスタッフの間のコミュニケーションの方法やプロセスがより効率化・可視化され、フィードバックを得やすい場になっている点も働きやすさにつながっていると話す。

NAADAMとRing Conciergeのそれぞれの店長はいずれも、Leapのビジネスモデルや従業員に対する制度に高い共感を持っている。「単独の小さなブランドが立地の良い場所に店舗を持つことは簡単ではないが、Leapがサポートすることでそれが実現し、オフラインで顧客の顔を見てコミュニケーションをとることは非常に意味がある」と感じており、ローテーション制度についても「不必要な負担を最小限にし、新しいブランドを担当することで常に新鮮な気持ちで働ける」という。

ゴーストリテーラーがブランドにもたらす価値とは

今後は従来のファストファッションのように大規模展開するブランドは減少し、さまざまに異なる顧客の価値やニーズに寄り添うD2Cブランドの台頭が続くとみられる。その一方で、資金や人材、ノウハウといったリソースが不足しがちな新興D2Cブランドにとって、ブランドをリアルに体験できる場を持つにはこれまで負担が大きかった。LeapのようなゴーストリテーラーはこのようなD2Cブランドの成長を加速させる存在だ。ブランド側が享受できるメリットを詳細にみると、大きく4つに集約される。

1つめは「店舗出店のリスク軽減」だ。単独ブランドではなくゴーストリテーラーの規模を利用した好立地の不動産へのアクセス、有利な賃貸交渉などを実現し、設備や人材獲得・育成への投資リスクを軽減できる。

2つめが、オムニチャネルでのカスタマージャーニーを実現する同一プラットフォームの導入と、特定の地域にクラスターとして「複数ブランドの店舗を出店することでの相乗効果」だ。

3つめは、2つめのメリットとも関係するが「定量・定性データを含むインサイトを獲得できる」点だ。ゴーストリテーラーが収集した定量・定性データを分析し、ブランドへ客観的洞察や提案をすることで、オフラインだけにとどまらず、オンラインも含めたトータルなブランド全体の改善が可能となる。

4つめが「KPIの向上」である。前編で紹介したThe Lion'esque Groupの例を挙げると、The RealRealのポップアップショップをサンフランシスコで3カ月間展開した際、ECサイトのトラフィックは、ポップアップ開始前と比較して前年比500%増、オンラインでのAOV(Average Order Value、平均注文金額)は同比6倍になったという。また、ラグジュアリーアクティブウェアブランドの事例では、2カ月間のポップアップでECサイトにおけるコンバージョンが開催以前に比べて85%増となった。

Leapが運営するブランドが複数存在する
NYのブリーカーストリート

日本でも日々新しいD2Cブランドが誕生しているが、D2Cブランドに限らず、海外市場への参入ではこういったRaaS企業を活用することで、ポップアップやリアル店舗を比較的初期の段階で展開することが可能になるだろう。あるいは日本でもゴーストリテーラー企業が出現する、もしくはLeapのような企業の日本市場参入などがあれば、オンラインを主戦場とするブランドにとって重要な選択肢のひとつになることは間違いない。

Text & Photos: 田原美穂(Miho Tabaru)
Top image: rblfmr via shutterstock

 

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
BeautyTech.jp
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディア。最新記事から過去1ヶ月分は無料でお読みいただけます。それ以降の記事は「バックナンバー読み放題プラン」をご利用ください。詳しくはこちらから→ https://goo.gl/7cDpmf