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米小売業界で活況のリテールメディアと、アマゾンがリードするRFID使用のレジなし店舗【NRFビッグショー2024】

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2024年1月にニューヨークで開催された「NRF 2024 Retail’s Big Show(以下、NRFビッグショー)」では、米小売業界の動向が浮かび上がる。ジェトロ・ニューヨーク事務所が主催したNRFビッグショー2024を解説するウェビナーで紹介された事例を中心に、米国で実装が進む注目のリテールテックについて2回に分けてレポートする後編では、リテールメディアと、店舗のオートメーション(無人店舗化)について取り上げる。


リテールメディアで独り勝ちのアマゾンを追随するウォルマートなど小売大手

前編では、NRFビッグショー2024で話題のトピックのひとつと紹介された「生成AI」についてとりあげたが、今回は、やはりホットなトピックである「リテールメディア」と「店舗の自動化」を取り上げる。

リテールメディアとは、小売企業が顧客データを基盤に、ECなどのプラットフォームや実店舗上で展開する広告の総称である。その内容は多岐にわたっており、小売企業自体の公式サイトやアプリ、Eメールでのニュースレター形式での広告はオンサイト(on-site)広告と呼ばれる。また、小売企業のサポートのもとで小売企業とは別の第三者のチャネルで広告を配信するものはオフサイト(off-site)広告、小売店の実店舗でのビデオスクリーンや試食デモなどはインストア(in-store)広告だ。

つまり、小売業自体がメディア化するこのリテールメディアは、米国では検索広告、SNS広告に次ぐデジタル広告の第三の波ともいわれている。調査会社eMarketerの2023年の推定値では、対前年19.7%増で452億ドル(約7兆円)の市場規模となっており、毎年20%以上成長し、2027年には1,061億ドル(約16兆4,000億円)に達すると予測されている。

米国のリテールメディア広告支出(2023-2027年)
出典:eMarketer

リテールメディア市場が急拡大しているのは、新たな収益源として小売企業が力を入れているだけでなく、テレビの視聴率が低下して既存の広告が機能しづらくなっているなかで、小売企業が保有する顧客データや顧客との直接のパイプを活かした広告への期待が高まっているからである。従来のマスメディア広告スタイルと比較すると、顧客データを有する小売企業による広告では、既存の顧客データを活用してより正確なターゲット層を選定できるというメリットがある。

米国のデジタルリテールメディアの広告売上総額のうち、75%以上をアマゾンが占めて独り勝ち状態となっている。アマゾンの成功に触発されて、多くの小売企業がリテールメディアへの参入やリテールメディアネットワークの立ち上げを行っているのが現状だ。

米国におけるデジタルリテールメディアの純広告収入シェアの推移(2019-2023年)
出典:eMarketer

従来のリテールメディアは、オンサイト広告が中心であったが、リテールメディアによる広告が本来の力を発揮するのは、小売企業のデータをほかのチャネルとつなぐオフサイト広告であることが理解されるようになり、最近ではオフサイト広告に力を入れる企業が増えている。

2023年初めに、写真共有SNSのPinterestが、データ集積プラットフォームを提供するライブランプ(LiveRamp)と共同で、個人が特定されないデータ環境スペースのクリーンルーム(clean room)を試験的に立ち上げた。米国の大手食料品スーパーのアルバートソンズ(Albertsons)のアルバートソンズメディアコレクティブはライブランプと提携し、クリーンルーム機能を使ってリテールメディアを提供する最初の小売企業の広告主となった。

クリーンルームでは、アルバートソンズとPinterest双方から提供されたそれぞれの顧客データの個人を識別できる情報を不可逆的に一種の暗号化を行うことで、高度なプライバシー管理が可能となり、どちらにも相手企業のデータは開示されない。

このクリーンルームでは、アルバートソンズとPinterestから提供されたそれぞれの顧客データをもとに、顧客のプライバシーを守りながらセグメント化した広告を打つことができるようになった。そして、Pinterest上での広告のパフォーマンス解析では、このクリーンルームにおいてもROAS(Return on Ad Spend=広告の費用対効果)のように広告の効果を直接はかる指標を得ることが可能だ。

そのほか、オフサイト広告では、小売企業とメディア企業の提携というスタイルも加速している。提携のパターンには「ストリーミングTV提携」「パブリッシャー提携」「プログラマティック提携」の3つがある。

出典:Media, Ads+Commerce
セッション中プレゼン資料を平山氏撮影

それぞれの提携について、オフサイト広告に力を入れているウォルマートを例にみてみよう。

2022年6月に発表されたウォルマートとTVストリーミングプラットフォームを運営するロク(Roku)とのストリーミングTV提携は、テレビ配信を次のEコマース・ショッピングの場とすることを狙ったものだ。これにより、ロクの視聴者が、ウォルマートが取り扱うおすすめ商品を自宅のテレビで流れるロクのストリーミング広告から直接購入することができる。

また、ウォルマートがTikTokと行ったパブリッシャー提携のパイロットプログラムは、TikTokにウォルマートのインフィード広告を流すものだ。エンゲージメント率はTikTokのベンチマークの2倍、ROASは3.5倍の増加を達成したことを受け、2024年1月、このパイロットプログラムはウォルマートの広告主すべてへと拡大された。

そして、ウォルマートによるプログラマティック提携は、広告配信プラットフォーム企業で、大手放送局やパブリッシャーのネットワークを持つザ・トレード・デスク(The Trade Desk)との間に結ばれた。この提携の最大のメリットは広告出稿の際の費用対効果効率の向上にあり、個人情報保護の観点からグーグルが2024年下半期中に全クッキーを無効とする計画を受け、顧客情報を守りながら、従来同様に広告主がオン/オフラインの双方で顧客とつながり、広告の成果を計測することを可能にするものだ。この提携により、広告主はクッキーを介してではなく、ウォルマートとザ・トレード・デスクが開発したUnified ID 2.0(UID2)を通じて顧客情報を得ることができる

こうしたウォルマートによる積極的なオフサイト広告は、2021年に他社とは一線を画するサービスを提供するためにウォルマート・コネクト(Walmart Connect)として再編されたメディア事業による取り組みの一環だ。ウォルマート・コネクトでは、同社の公式サイト上での他社の広告主の商品やブランドの宣伝に加えて、検索につなげるキーワードを織り込んだ商品動画掲載も可能である。そして、ウォルマートの電子情報で横断的にキャンペーンの結果を追跡し、独自の顧客データを用いたレポートツールにより、あらゆる規模のスポンサードサーチキャンペーンを最大化することができるとしている。

ウォルマート・コネクトでは、店内で流すTVやラジオ、ストリーミング、試食デモ、レジのスクリーンなどの拡大を進めるなど、インストア広告にも力を入れている。それは、来店前から始まる顧客ジャーニーはマスメディアが対応できるが、店舗もまた広告チャネルであり、顧客やマーケターにとって重要な場所であるとの考えによるものだ。

こうしたリテールメディアについては、NRF2024に登壇した企業からは、リテールメディアは消費者からの信頼の獲得がまず重要で、そのためにはROASを正確に測定するための業界基準が必要であるとの意見が出た。あわせて、高度に専門性の高い分野であり、実証テストを重ねつつ最適解を求めていくものでもあり、デジタルマーケティング会社やテクノロジーサプライヤーとの柔軟なパートナーシップが求められることや、リテールメディアの構築は顧客中心に取り組むべきとのアドバイスが寄せられたと、ジェトロ主催のNRFビッグショー2024を解説するウェビナーで講師を務めた平山幸江氏は語った。

スタジアムや空港の店舗で導入が進むアマゾンの無人店舗

米国小売業界ではサプライチェーンから店内、ラストマイル配送まですべての段階で自動化のテストおよび実用化が進んでいる。なかでも今回、着目したのが「店舗のオートメーション化」、つまりレジのない無人店舗技術の進化だ。

出典:各種報道資料より平山氏作成(2024年2月時点)

とくに興味深いのは、アマゾンが2023年に発表した、顧客がレジでの会計なしで商品を購入することを可能としたレジレス・システム「Just Walk Out (JWO)」の改良版である。これは、アマゾンとエイブリィ・デニソンが共同開発したRFID(Radio Frequency Identification=電子タグ)技術を使用したもので、2023年春にシアトル市内にある屋内競技場「クライメット・プレッジ・アリーナ」での試験導入を経て、同年9月にNFLシアトル・シーホークスの本拠地「ルーメン・フィールド」内のJWOシステム店舗に実装された。

RFID技術を使用したJWOのレジレス店舗は、多くのトラフィックに対応しつつ、とりわけ迅速なサービスが求められるスタジアムや空港を中心に導入が広がっている。また、バッグや財布を持たなくても食べ物や飲み物を買うことができ、スタジアムでのショッピングの利便性が高く、小売店の売上増加にも寄与しているとされる。さらに、小売店は、購買データの分析を商品ラインアップ、商品の陳列、プロモーションなどへと反映させたり、顧客単価を上げる取り組みにつなげたりすることを通じて、さらなる売上増加を狙うことも可能だ。

2020年頃から一般化し始めたRFID技術は、現在はより小型で高いパフォーマンスを得られる機器に改良され、在庫管理精度が高まり、米国ではオムニチャネル戦略などに欠かせないベース技術となりつつある。アマゾンのJWOシステムの店舗では全商品にRFIDタグをつけており、顧客はクレジットカード(あるいはデビットカード)をスキャンして入店し、欲しい商品を持って出口ゲートでカードをかざすか、アマゾンワン(手のひら認証決済)を利用して退店すると自動的に課金される。そして顧客はオンラインページにアクセスしてレシートを確認する仕組みだと平山氏は説明する。

RFID技術を使用したJWOの導入は、コンセプトから開業まで6週間と従来のJWO店舗より早く、既存店にも対応可能で、食品、飲料のみならず衣料品などにも使用できる。コストが下がるメリットのほか、システム設営のための営業休止が不要で、基本的にポータブルなので店内にテンポラリーショップを作ることもできる。RFIDのみでなくJWOシステムでレジレスにすることで盗難防止機能が高まる点も特徴だ。

Amazon Freshでは、顧客の利便性を目指してスマートショッピングカートを導入

JWO店舗の拡大を計画しているアマゾンだが、一方で2024年4月初旬に、アマゾンの生鮮食料品スーパーであるAmazon Freshの店舗ではJWO技術を今後使用しないことを公表した。旧来のJWO店舗ではAIチェックだけではなく、人間のスタッフがランダムにデータをチェックし、機械学習に必要であるシンセティックデータとリアルデータの統合を行うことでデータ予測力を高める作業をしており、コスト面での課題や技術力の限界を指摘する声も出ている。

アマゾンはこの決定について「(顧客は)Just Walk Outでレジに並ぶ手間をスキップする利点を享受している一方で、近くの商品やお得な情報を簡単に見つけ、買い物をしながら領収書を表示し、どれだけのお金を節約したかがわかることを望んでいるとのフィードバックがあった。顧客にさらなる利便性を提供するために、スマートショッピングカートであるAmazon Dash Cartを(Amazon Freshでは)展開する。これによりレジレスを実現しつつ、より便利になる」と声明を出した。

Amazon 独自のスマートカート技術Dash Cartでは、顧客はQRコードをスキャンして入店し、広告を流したりチェックアウトできるタッチパネルとセンサーがついたスマートカートで店内を移動し、商品をカートに入れる都度センサーでスキャンすることで、購入の合計を即座に見ることができる。退店の際にDash Cart専用レーンを通ることで、登録済みクレジットカードに代金が請求される。

Amazon Dash Cart
(クリックするとAmazon Dash Cartの紹介動画に遷移します)

消費者が膨大な情報に触れる現代は、顧客の嗜好や流行も短期間で変化する。こうした環境で、いかにピンポイントでターゲットとする顧客とつながることができるかが小売業界にとっては大きな関心事であり、小売業界の技術革新=リテールテック・イノベーションを促進させる原動力になっている。また、いかに顧客の利便性を向上させるかも鍵といえる。新技術の導入には資金力も求められることから、ウォルマートやアマゾンなど大企業の動きに対して、中小の小売企業がどのように対応していくのかも今後注目していきたい。

Text: 須能玲奈(Rena Suno)
Top image: NRF 2024 Retail’s Big Show 公式サイト


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