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AIで「何が売れるか」を日々分析、ニューロープとSENSYが挑むパーソナライズ化

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2018年のBeautyTech業界における、最大のテーマといえば「パーソナライズ(個人最適化)」。前回に続きBeautyTech Tokyo MeetUp Vol.1、2つめのセッションは、AI(人工知能)を活用することで、ファッションと美容分野のパーソナライズがどこまで進むかというテーマで話し合われた。すでに自社開発のAIを利用して、国内のファッションや美容業界を支援している企業の取り組みから、AI×ファッション・美容の可能性を探った。

AIで“究極のパーソナライズ”は実現する?

登壇したのは、以前に本サイトでも紹介した、AIによるソリューションをファッションECサイトやメーカーに提供する株式会社ニューロープの酒井聡CEOと、ユーザーひとりひとりの感性(センス)を学習し、その人ならではの嗜好や好みを理解するパーソナルAI「SENSY」の開発を手がけるSENSY株式会社取締役CBO皆川朋子氏、そして、今回のTokyo MeetUpの主催者で、日本のコスメをサブスクリションモデルで米国展開するCosme Hunt Inc. のCEOで、サンフランシスコ在住の高橋クロエ氏だ。

2011年11月創業のSENSYが開発したパーソナルAIの「SENSY」は、ユーザーの日々の行動やチャットなどのコミュニケーションを通じて、その人の感性や嗜好性を統合的に学習できる。ファッションや旅行、食など幅広いジャンルでユーザーの好みを学ぶことによって、ライフスタイル全般を支えるAIとなりうるのだ。このSENSYを活かしてクラウド上のプラットフォームでさまざまなサービスとして提供するのが、同社の事業概要だ。

写真:SENEYのサービスイメージ

たとえばファッションの領域を例にとると、ユーザーの購買履歴やお気に入り登録、アプリに入れた手持ちの服を評価することで、AIが対象者の好みを学習していく方式だ。AIはさまざまなスタイルの画像を解析し、「この人は、フェミニンな要素がこれくらい入っているのが好き」「カジュアル要素が多めのほうが好き」「柄物はあまり好まずシンプルなものが好き」といった特徴や、色の使い方といった一人ひとりの“好みの軸”を見つけだす。まるでユーザーの分身のように、個人の感性をトレースして覚えていくのである。皆川CBOによると、「過去の実証実験では、100枚くらい評価を繰り返すと、(AIが表示する画像の)6〜7割くらいが、5段階でいうところの“好き”や“とても好き”に入ってくる」という。

セッションで最初に取り上げられたのは、「AIは究極のパーソナライズを実現するか」という話題だった。

ニューロープの酒井CEOは、ファッションでは、「着合わせ」「似合わせ」「好き/嫌い」「TPO」など要素が複雑に絡み合うことから、自社のAIでは「着合わせ(コーディネート提案)」「似合わせ(類似アイテムの紹介)」に焦点をあて取り組んでいるとした。

写真:株式会社ニューロープの酒井聡CEO

「1つの指標があってそこに向かって最適化していくのはAIの得意とするところだが、指標が2つになると途端に難易度が上がる。今のところ当社は、着合わせを最適化するコーディネート提案までをAIが行い、その結果に対し、自分に似合うかどうかや、好きか嫌いかといった評価部分についてはユーザー本人にしてもらう」と酒井CEOは話す。前回の記事でも紹介したが、あるアイテムをすごく好きな人もいれば、あまり好きじゃない人もいる状態は、AIにとっては、「“好き”を見つけるのがゴールだと思ったら、好きと嫌いの間のグラデーションの部分もある」ことになり、混乱するのだという。

写真:SENSY株式会社取締役CBO皆川朋子氏

一方SENSYは、ニューロープと根本的な考え方は似ているとしつつも、ユーザーの「これが好き、こうなりたい、こういうものが欲しい」という好みを探究しており、異なるアプローチを採用していると皆川CBOは明かす。人の好みは10年、20年と長期的にみた場合、シーズンによって細かく変わることがあったとしても、「大きく変わらないコアな部分」も存在しているので、パーソナルAIにはその部分を学習させるのだ。同時に、「今日の気分だとこれを好むだろうとか、そのあたりの“ゆらぎ”は、現時点ではすぐに全員が使えるデータとしてはない。もう少しIoTの活用が広がり、表情や声のトーンから感情を認識するなど、そういうデータを収集できるようになったら、 “ゆらぎ”もどんどんAIが学習できるようになるだろう」と、パーソナライズ化の次の一手について語った。

写真:Cosme Hunt Inc.  高橋クロエCEO

サンフランシスコでコスメ事業を展開する高橋氏は、現時点では自社サービスにAIは活用していないものの、「米国では、インディアン系アメリカン、アジア系、ヒスパニックなど人種が多様化していることから、一人ひとりの課題がさらに複雑化している」と話し、AIの活用による課題解決を目指したいとする。

また、米国における美容分野でのAIの活用例として、スタンフォード出身のエンジニアが製作した「ミラAI」というサービスを挙げた。高橋氏によるとミラAIは、ユーザーがアプリ上にアップした顔画像から、目と目の間の距離や彫りの深さ、一重か二重かといった情報を解析し、その人の目に似ているインフルエンサーをピックアップし、そのインフルエンサーが利用している目元のためのコスメアイテムの情報提供をしてくれるのだという。高橋氏の場合は、彫りが浅くアジア人の目という結果からインフルエンサーが紹介されたといい、「人種別でも分析しているという発見があり、私のビジネスにも活かせるかもしれない」とする。

チャットボットでユーザー別の好みを把握

続いての話題は、「自社サービスをどのように他社に提供しているか」だった。

ニューロープの酒井CEOは、「ECサイト内にメディアを構築し、提携先のファッションメディアから記事を配信している」という。記事の中で紹介されているファッションスナップを解析し、ニューロープ開発の「類似アイテム紹介サービス」を使うと、そのECサイト内で扱っている類似アイテムを記事のすぐ下に掲載でき、購入を促せる。

さらに、同じ記事でも、一般的なファッションメディアと、EC内のメディアとではCVR(購入率)が全然違うとも指摘する。メディアは「読む」ことが目的であり、「買う」には少し距離がある。しかしECはそもそも「買うモチベーション」がある人に訴求しているので、購入に直結しやすいというわけだ。あわせて、ABテストを繰り返し、デザインから価格帯まで、個々のユーザーに適した商品を表示させている。

SENSYは、プラセンタ原液やサプリなどを販売する株式会社協和に提供しているチャットボット事例を紹介した。協和はECを含む通販で商品を販売しているため、対面販売とは違い、ユーザーとの接点を持ちにくい。そこでチャットボットを活用し、ユーザーと直接コミュニケーションをはかることで、ライフスタイルや肌悩みなどを理解していく。たとえば、同じ商品を使っているユーザーでも、Aさんは老化が気になるが、Bさんはむしろかさつきやシミを気にしているなど、肌悩みは必ずしも一致しない。チャットでのコミュニケーションにより、ユーザー一人ひとりが抱える問題をAIに学習させて、商品開発やダイレクトマーケティングなどに利用する狙いだ。

また皆川CBOは、「店頭でのやり取りは、時間と場所が限られるが、夜中や早朝など自分の好きな時間に買い物したい、情報収集したいといったニーズもある」と、チャットボットならではの「時間と場所の優位性」についても言及。ただ、現時点ではすべてのシチュエーションでの顧客対応ができるわけではないので、「いろいろなチャネルと組み合わせていくなかの一つ」として、チャットボットを活用するのがいいだろうとした。

タイミングなど伝え方の多様性でもAIは活かせる

写真:セッションのようす

SENSYでは、100、200といったアイテムの中から、各ユーザーが何を好みそうかをスコアリングしてマーケティングに活かすパーソナライズも行っている。たとえば、配信するコンテンツの内容や、どのタイミングで送るかといった場面で利用している。またユーザーをひとりひとり分析して、そこから全体を予測することで、どういう人に何が売れるかといった購入予測や、需要予測もしている。「同じ商品を買う方でも、どうやって伝えたら刺さるか。伝え方をどう多様化していくか」を考えていると皆川CBOは話す。

ニューロープの酒井CEOも、「ユーザーごとに好きな画像などは情報収集できるので、どれを見出しにしたら一番ページが開かれやすいかといった出し分けは割と簡単にできる」とする。また、「当社はファッションスナップから、ディスクリプション(説明文)を自動で生成することにも取り組んでおり、これができれば、そのユーザーが好きなスナップだけを集めて記事を作ることも可能」と続けた。

こうしたパーソナライズ化については、サンフランシスコでコスメ事業を行う高橋氏も同意し、米国では髪の色、目の色、肌の色が異なる人がいることから、「ユーザーに合わせて、見せるコンテンツを変えていくことを目指したい」と発言。また日系のコスメメーカーから、「どの地域で何が売れるかが知りたい」という要望が来ていることから、「地域別の売れ筋を追えるようにしたい」と話した。

技術サイドと、ビジネスサイドは役割分担した方がいい

続いてのディスカッションテーマは、「技術とビジネスのバランス」について。

日本でもAIを活用したスタートアップは盛んになってきているが、多くの企業が抱える課題として、「エンジニアの採用問題」がある。AIでビジネスをしていくのであれば、優秀なエンジニアを多数抱えることは必須となる。実際、ニューロープとSENSYの両社でも社内スタッフの7〜8割をエンジニアが占めるという。一方で、もちろん、ビジネスをしっかりと回せる人材の確保も必要だ。専門分野を持ちつつ、ビジネスも理解する。これからのスタートアップには「ジェネラリスト」としての側面が求められるのだろうか?

この問いに対し、ニューロープの酒井CEOは次のように自身の考えを示した。「エンジニアリングをやるならそっちに特化し、ビジネスサイドを回せるパートナーと組むのが望ましいだろう。 AIのエンジニアは英語の論文を読み込んで、実際に試すなど、手を動かす時間が必要。同じ人が外を回っていては、時間的にもったいない。だから時間を分散するためにも、ビジネスサイドはパートナーと組む、という構図がいいだろう」。

日々AIのエンジニアと接しながら、ビジネス面をみるSENSYの皆川CBOも同意見だ。「当社には、CRO(チーフ・リサーチ・オフィサー)という役職がある。最先端のAI技術を理解している人で、私はビジネスの視点、彼はアルゴリズムの視点という風に役割分担し、日々、いわゆる“どうやってアルゴリズムをビジネスに生かすか”、もしくは、“今できていないサービスをどうやって作っていくか”を議論している。ただ、リサーチャーもビジネスの視点を持たないとダメだし、逆にビジネス側も最低限のアルゴリズムの仕組みだったり、どこがネックになるかが分かっていないと、AIをビジネスとするうえで価値を出していけないし、新しいものを作っていけない」とする。

同時に、2人が強調するのは、「AIだったら何でもできるでしょ」と思われがちな誤解がある点である。「情報をインプットした状態で、人間が思いつけないことは(AIも)思いつけない。スタートは、人間の頭で考えているいろいろな情報をどうしたら高速に処理できるかというところだ。AIを使って“何をやりたいか”が最初にあり、何をインプットさせるか&アウトプットさせるかが決まる。そこはビジネス視点できちんと考えるべき」と皆川CBOは主張する。

酒井CEOも、「人とうまく組むといい」とAIの活かし方を説明。「AIの良いところは、“何が売れます”が早いうちに収束できること」とし、我々人間よりも「早く」「的確」な答えを出せるので、AIには「事業性を担保する」という役割を担ってもらうのがいいと思うと述べた。

何を最適化したいかをしっかり考える

確かにAIというと、何やら人間よりも遥かに優秀で、万能な“叡智“というイメージを持たれることがある。しかし、AIは人間よりも素早く的確な情報のアウトプットはできるかもしれないが、結局のところインプットを支えるのは人間であり、「AIに何を学習させ、何を解決していきたいか」といった明確なゴールがない限り、AIをビジネスに活かすことは難しい。

最後に会場から、「ユーザーをカテゴライズして、それにあったレコメンデーションをしていると、“偶然の出会い”が減るのではないか」という質問がなされた。AIから提案されるものが似通ったアイテムばかりになるのではないかという危惧だ。皆川CBOは次のように説明する。「我々のサービスもチューニングによっては、“売れているモノ”をお勧めしがちなところがある。“買ってくれること”をゴールにするならどうしてもそうなってしまうが、たとえば“新商品を買ってほしい”に最適化すれば、今までそのユーザーが絶対触れなかったようなモノとの出会いを創出する、というマッチングもできるだろう」
考え方やゴールの設定次第で、AIの使いどころはまだまだありそうだ。

女性の参加が目立ったBeautyTech Tokyo MeetUp Vol.1

今回のMeetUpには、美容関連のスタートアップやブランドをはじめとして、約80名の参加があった。美容という特性からか、テック系イベントとしては珍しく女性の参加比率も高く、全体として熱量の高さがうかがえた。

BeautyTech分野は日本のみならず、世界的に見てもまだまだ若く、課題は多い。それだけにビジネスチャンスが溢れているともいえる。今回のイベントでは参加者を巻き込んでの「フランクな議論」とまではいかなかったが、日本でのBeautyTechのさらなる盛り上がりの一助になれるよう、編集部としても記事の配信に留まらず、こういったMeetUpのサポートを続けていく予定である。今後に期待いただきたい。

Text&photos: 公文紫都(Shidu Kumon)


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