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FaBベルリン、美容やアパレル起業家たちが希求するサステナブルビジネス

◆ English version: FaB Berlin brings together beauty and apparel entrepreneurs working towards sustainability
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世界でもリベラルで先進的な都市、ベルリンで2回目となるFaBが開催された。商品だけでなく、サプライチェーンのすみずみにわたってサステナブル精神が根づく起業家たちが語るのは、美容やファッションというビジネスで、いかに世の中をよくしていくのかという命題だ。それは決して概念ではなく、彼ら彼女たちにとってのリアルな日常である。

2019年11月14日、美容とファッション業界において、新しい価値を創造する起業家と投資家のコミュニティ「FaBベルリン」のミートアップが開催された(1回目はこちら)。FaBは、元ランコムCEOの投資家オディール・ルジョル(Odile Roujol)氏が、2017年にサンフランシスコで発足させた「BeautyTechSF」が前身で、現在はニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、ロンドン、東京、上海を含む世界各地に支部を持ち、延べ3,000人が参加するまでに成長した。

ベルリンでは2回目となる今回のパネルディスカッションのテーマは、「クリーンビューティ&フェムテック」と「サステナブルファッションと資金調達」が掲げられた。登壇したブランドも、ヴィーガンやフェムテック分野のスタートアップや、環境への影響を第一に考えたプロダクツやサービスを提供する企業で占められる。気候変動などに対するエコロジカルなムーブメントがトレンドとなっているヨーロッパ・ベルリンならではのトピックが飛び交う会となった。

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こうした環境にまつわるテーマがベルリンで盛んに語られる文脈を理解するために、ベルリンに根づく環境意識についてまず、押さえておきたい。

リベラルなエコ意識が当たり前に浸透

スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんがはじめたFridays For Future(未来のための金曜日)運動や、ロンドンを中心とした市民運動Extinction Rebellionをはじめ、気候変動に関するアクションが世界中で急速に広がっている。

たとえば、2019年9月にニューヨークでの国連温暖化対策サミットを前に、世界各国で気候変動への対策を求めるデモが行われた。163カ国で400万人以上が参加したこのストライキに、ベルリンでは27万人、ドイツ全体では150万人が参加した。


ドイツ国民のエコ意識の高さを物語る出来事だったが、日常生活においても環境問題に対する人々の活動は垣間見られる。

食の分野でいえば、ヴィーガン人口がヨーロッパで最も高く、ベジタリアン人口も世界有数の都市ベルリンでは、オーガニック (BIO)ブームが拡大。JETROの調査では、2018年のドイツ国内の食品の売上げの4分の1がオーガニック商品で占められている。

しかし、真の意味で、ベルリンの人々の環境意識の高さを物語るのは、利益主義的な市場が提供するオーガニック神話を鵜呑みにしない、リベラルな環境重視型の行動にある。

オーガニックブームの裏側では実は多くの問題が起きている。安価なオーガニック食品を他国から輸入する際のフードマイレージ(食料の輸送にかかる環境負荷)によって引き起こされる、燃料や二酸化炭素排出量の問題、食品の輸送・販売の際に、鮮度を保つために使用する薬品や、プラスチック包装、食品廃棄の問題である。

環境への影響を懸念するベルリンのユーザーは、地産地消を推奨し、過度な包装や薬品を使わない小売店やスーパー、農家から直接購入できる街角のオーガニックマーケットを利用するなどで対抗している。こうした市民の選択の結果、ベルリンでは、地産地消、廃棄物ゼロを意識する小売店やレストランの数が増加している。

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ベルリンのオーガニックマーケット
撮影:日比野紗希

人々の意識が実際に社会を変えていく状況を見ていると、自分がどんなライフスタイルを好み、どんな社会のなかで生きたいのかを一人ひとりが問う自律的な市民社会の姿が浮き彫りになる。

利益主義的な市場の、ときに見せかけの環境配慮を批判的に捉える姿勢が、美容・ファッションの起業家コミュニティにも色濃く現れていたのは、ベルリンらしい一面だった。

注目があつまる“クリーンビューティ”

最初のパネル討論では、「クリーンビューティ&フェムテック」をテーマに議論が繰り広げられた。

パネリストには、サステナブルな生産・成分にこだわるネイルブランド「gitti」創業者のジェニィ・バウム(Jenni Baum)氏、自然科学と漢方専門家らが作る100%ヴィーガンの漢方&ハーブサプリメント「Ylumi」創業者のアメリー・クーヒェンベッカー(Amely Kuchenbäcker)氏、サステナブルな衛生用品の開発に取り組む「Kora Mikino」創業者のジュリア・リテレイザー(Julia Rittereiser)氏、ヴィーガンの香水ブランド「AER」のクリエイティブディレクター、テッド・ヤング-イング(Ted Young-Ing)氏、そして、オーガニックコスメや医療製品分野が専門のコンサルティング企業「Sander Strothmann」マネージングディレクター、ステファン・ヴォーゲル(Stefan Vogels)氏の5名が連なった。

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パネル1の登壇者

ドイツの調査会社スタティスタによると、オーガニックビューティとウェルネスの市場規模は成長路線にあり、2016年には110億ドル(約1兆2,000億円)規模だったクリーンビューティ(オーガニック/ナチュラルビューティ)市場は、2024年にはおよそ220億ドルにまで成長する見通しだ。

このクリーンビューティという呼び名は、オーガニックやナチュラル、サステナブルな製法・成分などを含む製品などに対して使われているのだが、実はいまだに明確な定義は存在しない。

今回の討論においても、「クリーンビューティの意味するところは、基本的には私たちの体に悪影響を及ぼすと証明されている有害性物質を一切用いないこと、そして製法や成分に関する透明性・情報開示などの姿勢だ。しかし、その定義が曖昧であるがゆえに、消費者が困惑することも多い」とパネリストたちは指摘する。

市場の拡大に伴い、ヴィーガンやオーガニック、ナチュラル、サステナブル、あるいは、〇〇フリーといった「環境や身体に優しそうな、消費者が好むトレンドキーワード」を宣伝文句としたプロダクツが溢れているが、実際の製法や成分などが不透明で、人体に有害な物質を使用する商品も含まれている現実が一方では存在する。

gittiのバウム氏は、「米国での調査では、40%以上の消費者が、自分が求めるクリーンビューティプロダクトの情報を正しく理解するために、5つの違うWebメディアを見て検討してから商品を購入する」との結果に基づき、成分表示や製法のプロセスはもとより、どのように環境や身体に優しい製品なのかをわかりやすく提示しているとする。

gittiのマニキュアは55%が水で構成され、無臭。色素などはヴィーガンの成分を使い、動物実験は行わない。半分以上が水からできているため、揮発性有機化合物の量は大幅に少ない。また、製品を購入するとその一部が発展途上国の人々に安全な飲料水を供給する活動に寄付されるシステムを設けている。

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gittiのジェニィ・バウム氏

「現在の技術ではまだ、100%天然成分を使用したネイルカラーは作れない。専門家チームのサポートと天然原料の継続的な開発により、よりナチュラルで環境や身体にダメージを与えない商品の開発に取り組んでいる」とバウム氏は語る。

美容業界に限らず、市場を優先した結果、環境への配慮が遅れている事実は否めないが、人々の生活はさまざまな選択肢と個々が信じる価値によって形成されているものだ。「消費者の選択の自由、価値観の多様性を尊重することは、深層的な美を育て、健康的なライフスタイルを提唱することにつながる」と、パネリストたちは口々に語り、単なる商品の価値だけではない、ブランド側のマインドセットのあり方にまで議論はおよんだ。

フェムテックにおけるサステナビリティとは?

最初のパネルディスカッションの終盤では、フェムテックにおけるサステナビリティとは?という問いが投げかけられた。

バウム氏と同様に、100%ナチュラル、ヴィーガン、サステナブルな成分や製法を用いた製品づくりは難しいとほかのパネリストたちも述べる。だからこそ、身体への安全性の担保と、成分と生産・物流のトレーサビリティが重要であるとの意見が相次いだ。

サステナブルな生理用品の開発に取り組むリテレイザー氏は「Kora Mikinoは、製品の安全性、素材と製法のトレーサビリティはもちろん、私たちのミッションや取り組みなど、100%透明性のある情報開示を心掛けている。気候変動の問題、月経を取り巻くタブーなどにおいて、生理用品分野での変革を進める」とする。

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Kora Mikino
ジュリア・リテレイザー氏
(マイクを持つ人物)

さまざまなイノベーションがもたらされ、勢いのあるフェムテックのなかでも生理用品の進歩には目をみはるものがある。タンポンやナプキン不要の生理用ショーツから、生分解性のタンポン、再利用可能な月経カップやディスクなど、環境に悪影響を及ぼさず、月経にまつわる悩みを解決する商品の開発が進んでいる。

女性は初潮から閉経までに約450回の生理があるとされ、身体的にも精神的にも、その負担は女性にとって避けることができない問題である。

一方で、生理用品廃棄物は環境汚染を引き起こしている。従来のタンポンやナプキンの90%がプラスティック製で、使い捨て生理用品から生じるゴミは年間120億個、埋め立て地で生分解するのにかかる時間は、500〜600年と環境に与える負荷が非常に大きい。女性の抱える問題を解決しつつ、環境に優しいイノベーションに注目が集まるゆえんである。

Kora Mikinoの月経用ショーツは、経血吸収率が高くナプキンは不必要、再利用可能な素材で作られており廃棄物ゼロ、ヴィーガン認定で主要素材はブナ材に由来する。 中央ヨーロッパの持続可能な森林保護団体認定のブナ材を利用することで、過度な森林伐採を回避。綿よりも、輸送ルートがはるかに短くてすみ、生産に必要な水の使用量も抑えられる。さらにこの素材は、絹のように柔らかく、通気性があり、水分を調節するため使い心地、機能性も兼ね備えている。

また、Kora Mikinoは、製品開発に関し消費者のフィードバックを優先することはもちろん、地域の繊維工場や伝統的な技術を持つパートナー、下着の専門家や繊維科学者と共同でよりサステナブルな商品開発を目指す。その開発過程の詳細をサステナビリティレポートとして公開するなど、情報開示の透明性も意識的に行なっている。

共感から広がるコミュニティの輪

2つ目のパネル討論では「サステナブルファッションと資金調達」と題して、エコロジカルな思想を持ったスタートアップがビジョンやストーリーを共有することの重要性が語られた。

登壇したのは、地球に優しい方法でダイヤモンドを採掘し、持続可能なジュエリーをデザインする「KIMAI」創業者のジェシカ・ウォルチ(Jessica Warch)氏、素材や生産工程から購入後まで一貫してサステナブルなファッションを提供する「Silfir」創業者のハンナ・クロミンガ(Hannah Kromminga)氏、AIや機械学習を活用した製品検索アルゴリズムを開発する「velou」創業者サーシャ・カーシュタット(Sascha Karstaedt)氏、そして、エコロジカルなスタートアップへの投資にも積極的な「btov Partners」のジェニファー・ファン(Jennifer Phan)氏の4名だ。

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パネル2の登壇者たち

ファッション業界は「世界で2番目に汚染を引き起こしている業種」といわれるほど、生産・物流工程において大量の産業水やエネルギーを使用し、二酸化炭素を排出し、海洋汚染の原因にもなっている。

サーキュラーエコノミーを推進する英国のエレン・マッカーサー財団の調査では、過去15年の世界の衣服生産量は2倍以上増加しているのに対し、一着の服が捨てられるまでに着られる回数は36%減少している。1年間で生産される衣服を作るために使用される繊維の87%(10兆円以上に匹敵する)約210億トンが、埋め立てまたは焼却処分されており、リサイクルされる衣服は1%にも満たない。

こうした事実を憂う機運が高まり、ファッションの世界にもサステナブルという言葉が浸透しはじめ、ステラ・マッカートニー、グッチ、バーバリーをはじめとするビッグメゾンからファストファッション業界まで、環境を意識した素材の利用、商品開発、廃棄処分の回避などに取り組んでいる。

その反面、消費者には、サステナブルなファッションを選択する意識があまり芽生えていない現状もある。そういった状況のなかでサステナブルなファッションスタートアップはどうやってスケールアップしていくのか。

Silfirのクロミンガ氏は、ローンチしたばかりの自身のブランドについて、「サステナブルな素材で服を作るだけのブランドが目立つなか、Silfirは購入後のビジネスモデルも含めて、包括的なサステナブルファッションの形を提唱している」と語る。

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Silfirのハンナ・クロミンガ氏(左)

Silfirは、持続可能な素材から作られたジャケットやシャツ、パンツなどワークウェアを中心とした商品を展開する。快適性、着用性、そして洋服のライフサイクル全体をカバーするケアサービスを顧客に提供する。

たとえば、購入後1年間の無料修理や、修理できないほどダメージがある場合や廃棄する際、商品を送付すると新しい洋服の購入に使えるギフト券が受け取れるリサイクルシステムを導入している。すべてのアイテムには生産工程に関わった業者を追跡可能なラベルが付き、消費者が情報を入手することも可能だ。

「Silfirの服はケアをすることで長く着られる。消費行動は悪いことではないし、表層的な美を追求することも必要だ。ただ、大量消費・大量生産の仕組みの結果、環境が破壊されているのも事実で、真に持続可能なライフスタイルを消費者が意識するためのインスピレーションや体験を、きちんと組み込んだビジネスモデルが求められている」(クロミンガ氏)。

前半のパネルに参加したgitti、Ylumi、Kora Mikinoなどのブランドも、サステナブルなスタートアップのスケールアップには、ブランドの持つビジョンや創業者の信念などのストーリーを消費者にシェアし、自由に意見が交換できるコミュニティを築くことが重要だと語っている。

gittiのバウム氏は、事業立ち上げの際に、身近な友人などの小規模なWhatsAppグループを通し、インスピレーションやアイディアの共有を行なったという。規模が拡大するとともに、 Instagramなどのソーシャルメディアにプラットフォームを移行し、多様な考えや意見をシェアし続けている。また、オフィスでのランチやディナーなど顧客を招いてのイベントを開き、消費者がブランドの持つビジョンを体感できる仕掛けを作っている。ダイレクトかつ規模の小さなアプローチだが、個人個人の共感から広がるコミュニティがサステナブルなライフスタイルへの関心や実践につながっている。

地球規模の問題に対し、起業家は何をすべきか

パネル討論に参加した全てのブランドが、商品だけでなく、物流に関わる包装などの細かなディティールまで再生可能、ナチュラル、ヴィーガン素材にこだわっているとしたのも、業界全体での意識の高まりを感じさせる。

質疑応答で、特定の包装に関してサステナブルな素材がなかなか見つからないという悩みが起業家からでた際には、「農業廃棄物からさまざまな種類の再利用可能な包装や容器を作っているBIO-LUTIONSというスタートアップに聞いてみてはどうか」といった具体的なアドバイスが来場者から飛び出す一幕もあった。

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事業として可能な限りのサステナブルを実現するために欠かせないのは、生産開発、物流など各工程に関わるパートナー(仲間)選びだとする意見も出た。市場論理と消費者の狭間で、ときとして見失いがちになるサステナブルな視点だが、ブランド哲学を共有できる協力者を探し、サービスを通し新たな価値を投資家や協業先、そして消費者に伝えていくことをベルリンのスタートアップは実践している。

こうした起業家の、サステナブルに対する信念と変化を生み出すアクションが、投資する側を教育することになると投資家のファン氏は語る。「もちろん金銭的な利益は大事である。しかし、昨今の時代の流れにおいて、従来の利益の形を求めるだけでは未来はない。環境要因でのインパクトを投資家は優先的に考えるべきだ」。

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btov Partners
ジェニファー・ファン氏(中央)

市民によるエコロジカルな社会運動がトレンドとなり、投資家や消費者の関心も強まる一方で、溢れかえる情報のなかで、何が正しいのか、何が自分にとって必要なのかがわからない状況も市場にはある。投資家、協業パートナー、消費者に対して、地球規模の問題に関する正しい知識に加えて、起業家や企業がリードして新しいライフスタイルとビジネスシステムの構築を提唱する重要性が改めて問われた一夜となった。

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Text: 日比野紗希(Saki Hibino)
Top image & 画像:Volker Pilz


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