リスボンに集結したビューティ&フェムテック、サステナビリティ領域で注目のスタートアップ10社【Web Summit 2024 ②】
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2024年11月にポルトガルで開催されたテックカンファレンス「Web Summit 2024」の現地レポート後編では、参加したビューティテック系とフェムテック系スタートアップを中心に、最新イノベーションを紹介する。
パーソナライズが深化するビューティテック
2024年11月10日〜13日、ポルトガル・リスボンで開催された「Web Summit 2024」は、多国籍のスタートアップが集結する大規模カンファレンスで3,000以上の企業が参加、153カ国から7万1,000人以上が来場した。セッションに登場したりブースを構え、さまざまなソリューションを紹介するスタートアップのなかから、ビューティテックとフェムテックの取り組みや、ビューティ業界に向けたサステナブルな提案をピックアップしてレポートする。
⚫︎ Umia Technology:精巧なジェルネイルアートを直接爪に再現するマシン
2018年創業、アーリー(アルファ)ステージのカナダのスタートアップUmia Technologyは、独自のAI技術による高性能なジェルネイルアートマシンを開発。1日のみの展示だったが、一般的なネイルプリンターではなく、世界初をうたうジェルネイルを施術する自動マシンである点が注目され、体験希望者の長い列ができていた。
Umiaが提供するソリューションは、ユーザーがアプリから希望のデザインを選び、ネイルを施したい指をマシンの指定位置に固定すると、1本の爪に90秒、両手なら20分以内に精巧なジェルネイルアートを施すというものだ。複数のカメラが連動し、大きさや形が異なるどのユーザーの爪にもはみ出したり塗り残すことなく、グラデーションなども自然で、複雑なパターンや凝った細部のデザインまで、ネイリストレベルの技術で仕上がり、速乾性もあるなど実用性を重視している。
ブース前では共同創業者のモディ・リウ(Modi Liu)氏に対し、各国での導入を検討したい人々から次々と声がかかっていた。リウ氏は、ネイルサロンではなく、美容室でヘアカラーの待ち時間や、空港で飛行機を待つ間など、空いた時間の有効活用や、イベント、エンタメ施設などでの限定デザインの提供といった、スポットでの特別感のある使い方を想定している。使用できるカラーやデザインの制限がなく、ネイルアーティストの作品をそのまま自動で爪に再現できるところが一番の特徴で、ネイルアートの考案者がコミッションを得られる仕組みでの展開を考えているという。
⚫︎ First and Last Project(FALP):マイクロバイオームと遺伝情報にもとづくカスタマイズ化粧品
アーリーステージスタートアップのスペインのFirst and Last Project(FALP)は、顧客の肌のマイクロバイオーム分析にもとづき各自にパーソナライズしたスキンケア製品を提供するスタートアップだ。Web上の問診に加えて、専用キットのスワブ(綿棒状のスティック)で肌をなぞり、肌のマイクロバイオームを採取して返送すると、リアルタイム定量PCR法(DNAの特定の領域を増幅させる技術PCRによる増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法)を使用して肌を分析する。あわせて、皮膚や栄養に関連する遺伝的要因について、DNA、RNA、タンパク質などの生体分子が特定の条件下でどの程度発現しているかを同時に調べることができるマイクロアレイをもとにした分析を行い、マイクロバイオーム検査結果と個人の遺伝情報を統合したうえで、個別にカスタマイズされた化粧品を提供するとしている。
ビジネス開発ディレクターのイガル・カリブ(Igal Kariv)氏によると、現在は、ドイツのラボと協力し16種類のカスタマイズ商品を製造しているという。今後、顔のマイクロバイオーム分析の分野で基準となる存在になることを目指していく。
⚫︎ Dermaself:AIと自社開発スキンケアを活用したニキビ治療ソリューション
イタリアのアーリーステージスタートアップDermaselfはAIを利用した低価格のニキビ治療ソリューションを提供する。「ニキビは、とくに若い世代の間で不安、うつ、自殺にまでつながりかねない精神的失調の原因にもなっているが、ニキビで悩む人の8割が経済的な理由から皮膚科医による治療を受けていない」として、その経済ギャップの解決をミッションに掲げている。
「私もニキビで悩んでいた」と、自らのビフォー/アフター写真を掲出する共同創業者兼CEOのエレナ・セタロ(Elena Setaro)氏によると、ニキビケアはニキビのタイプや症状の改善に沿って行うべきで、Dermaselfでは、2分程度の簡単な質問への回答と自撮りの顔写真のAI分析により、毎月、そのときどきの症状に合わせて、複数の提携ブランドの商品を使った個別スキンケアルーティンおよび自社製ナイトクリームを提供するサブスクリプションサービスを行っている。
薬ではなく、化粧品として成分処方するナイトクリームは現在、自社でユーザーごとにカスタマイズして製造しており、将来的には6種類のレシピを基本に、それぞれ3段階の成分濃度で提供する予定だ。通常3〜6カ月で効果が感じられるという。価格は月々20ユーロ90セント(約3,400円)で、皮膚科医のオンラインコンサルティングも提供している。今後は、企業・ブランド向けのAIプラットフォームの展開や、日焼け止めなどナイトクリーム以外の自社製品も開発予定だ。
女性特有の悩みのタブーを超えて台頭するフェムテック
今回のWeb Summitでは、女性創業者によるスタートアップの参加が過去最高の44%を占めたとされる。女性の起業家の台頭により、女性ならではの悩みや症状を解決するフェムテック関連のソリューションも増えている。
⚫︎ Daye:CBD配合生理痛・骨盤痛軽減タンポンと膣内マイクロバイオーム検査キット
企業の成長を大テーマにした基調講演「Navigating the challenges and impact of women's health innovation(ウーマンズヘルス関連イノベーションの課題と影響を考える)」に、創業者兼CEOのヴァレンティナ・ミラノヴァ(Valentina Milanova)氏が登場したDayeはフェムテックを代表する企業の1つだ。
英国で2017年に創業したDayeは、世界初をうたうCBD(カンナビジオール)配合の生理痛・骨盤痛軽減タンポンをローンチ。膣内には多くのカンナビノイド受容体が存在しているため、タンポンを経由してCBDを直接患部に届けることで、安全かつ効率的に症状を緩和できるとする。また、生理痛などの不調を感じても我慢したり、異常がないと判断されて、適切な治療法を見つけるまで8〜12年の期間がかかる場合もあることから、専門医によるオンライン診断を行う生理痛・骨盤痛クリニックも開業し、20分の診断時間で治療法の提案ができるようにしたそうだ。
さらに、膣内のマイクロバイオームの状態をみるためのタンポン型の検査キット(Diagnostic Tampons)を開発。20分間装着した検査用タンポンを返送すると、細菌、真菌、膣内マイクロバイオーム構成などを検査し、膣感染症、性感染症(STI)、HPV、子宮内膜がんのリスク、不妊症の要因を探るなど、膣状態の診断結果を5日から10日で知ることができる。また、看護師や産婦人科医とのビデオコンサルティングや、治療、ライフスタイルのアドバイスといったオプションも揃えている。自宅で痛みもなく手軽に検査ができるとユーザーからは好評だという。加えて、Dayeのタンポンはオーガニックコットン100%でアプリケーターもサトウキビを原料にするなどサステナブルな設計としている。この「診断タンポン」はタイムズ誌の「ベスト・イノベーション2024」にも選ばれた。
⚫︎ Coroflo:授乳量を正確に測定し可視化する母乳モニタリングデバイス
創業者兼CEOロザンヌ・ロングモア(Rosanne Longmore)氏が基調講演「Challenging the status quo in Femtech(フェムテックの現状への挑戦)」に登壇したCorofloも、女性が率いる革新的なフェムテック企業だ。
アイルランドで創業したCorofloは、授乳量を正確に測定できる世界唯一とする母乳モニタリングデバイス「Coro」を開発。シリコン製乳首シールドに内蔵された独自開発のマイクロフローセンサーが赤ちゃんが摂取した母乳量をリアルタイムで測定し、スマートフォンアプリにデータを送信する仕組みだ。さらに、クラウドベースの分析機能を使用することで、左右の母乳量バランスをはじめ、給餌量や授乳パターンの変化、同年代のほかの赤ちゃんとの比較も表示可能だという。母乳量を可視化することで、母乳育児を断念する主な要因のひとつである「十分な母乳が出ていないのでは」という母親の不安を取り除くことが期待されている。Corofloは2024年初旬にエクイティファンディングにより280万ユーロ(約4億5,700万円)を調達、年内に同デバイスを上市する見込みだ。
⚫︎ glooma:乳がんのセルフチェックソリューション
男性が起業したベータステージのgloomaは乳がんのセルフチェックソリューションを提供するポルトガルのスタートアップだ。連動するアプリの指示に従って、乳房のしこりなど異常を感知するセンサー付きのグローブでセルフチェックを行うと、アプリ上でレポートを見ることができる。また、定期的なマンモグラフィを受けることのリマインドなども行う。このソリューションは8人に1人の女性が乳がんと診断されている一方で、女性の76%が毎月のセルフチェックを行わず、35%が早期発見されないという状況の改善のために開発されたという。2024年内にグローブとアプリの更新を完了し、2026年6月までにFDA認証を得て米国市場でローンチする予定だ。
⚫︎ Pausetiv:更年期女性の悩みに特化したプラットフォーム
アーリーステージのイタリアのスタートアップ、Pausetivは、更年期女性を対象にパーソナライズしたメノポーズソリューションの提供と、更年期の女性の包括性に関して企業へのサポートを提供する統合プラットフォームを運営する。
共同創業者兼CEOのクラリス・ピント(Clarice Pinto)氏が「メノポーズはフェムテックのなかでも一番ホットなトピックス」と語る背景には、これまで女性の更年期に対する偏見や無理解のために多くの女性が苦しんできた現実がある。国際閉経学会(The International Menopause Society)によると、2025年までに閉経を迎える女性は10億人に達するが、この世代の女性全体の88%にのぼる更年期特有の症状に悩む女性のうち何らかの対策を講じているのは25%で、67%の更年期女性が仕事になんらかの支障を感じており、10%の女性が症状のために離職している。さらには、更年期女性のための職場対策を導入している企業は21%という。メノポーズに関する情報やサポートが少なく、女性ホルモンの欠乏した状態が長く続くことが、骨粗しょう症や動脈硬化、アルツハイマー病の原因となることも一般にあまり知られておらず、メノポーズに関してトレーニングを受けている医師も少ないと、ピント氏はPausetivを立ち上げた理由を話す。
Pausetivの利用者は、ユーザーがアプリを通じて科学的根拠のある正しい情報を分かりやすく得たり、サイトから問診及び定期検診結果をアップロードすることで、専門医のオンライン診断やホルモン剤の処方箋を受け取ったり、自分の症状をトラッキングし、栄養、運動、メンタルヘルス、睡眠、セクシャルヘルスなど多岐にわたるパーソナライズされた治療のアドバイスが受けられる。また、企業はトレーニングやコンサルティング、またその効果測定、従業員への福利厚生としてのアプリ提供などが可能になる。現状は運用の試験期間中で2025年の第2四半期にローンチ予定だ。
ビューティ企業注目のサステナブルなソリューション
会場では、美容企業をクライアントに想定し、緩衝材やパッケージの面でのサステナビリティを向上させるソリューションの提案も目を引いた。
⚫︎ Raiku:コイル状の100%木材由来の緩衝材
グロースステージにあるエストニアのスタートアップRaikuは、木材を0.2〜0.4mmの薄いコイル状にカットすることで、バブルラップに代わる、耐性があり、軽く、スマートな見ための、100%自然素材の生分解性緩衝材を製造している。共同創業者のカール・J・ペルトル(Karl J Pärtel)氏によると、市場に出ている緩衝材のなかでは最も低いレベルのカーボンフットプリント量だという。また、アルダー材やアスペン材といったバージンウッドを使用するが、コイルの形状で20倍のボリュームとなるため、必要な木材量は少ない。紙やカートンと比較して、使用する水を99%、エネルギーを98%、木材を90%削減した。この技術でアジアへの進出を検討しており、その際には竹を原料とすることも検討しているそうだ。
RaikuはLVMHアクセラレータープログラムに選ばれており、すでにスウェーデンの「イドゥンミネラル」やエストニアの「Image Skincare」、「LUMI」といったクリーンビューティブランドがクライアントである。また、陶器やジュエリーの配送にも利用されている。現在、生産量を拡大中で、2025年1月からは大手ブランドで採用されていく予定だ。ペルトル氏は「エストニアのコスメブランド『Tilk! natural skincare』が今年のブラックフライデーセールという最も忙しい時期に、前年の紙に代わってRaikuの緩衝材を使用したところ、初めて1つも破損がなかった」とその品質に自信をみせる。価格も紙の緩衝材と同程度で、しかもコイル1本は0.6g、1立方メートルあたり15キログラムと紙よりも軽い。
化学物質は一切使用せず土に帰る有機廃棄物であることが大きな強みだが、受け取ったユーザーは、敷き藁のようにガーデニングで利用したり、猫のおもちゃや火起こしの着火剤など思い思いに再利用しているという。
⚫︎ Mycrobez:有機廃棄物を菌糸体でアップサイクルした天然発泡体の包装材
有機廃棄物(生ゴミ)をキノコの菌糸でアップサイクリングした100%自然素材の土に還る発泡スチロール代用品を開発したのは、グロースステージにあるスイスのサステナブルパッケージスタートアップMycrobezだ。発泡スチロール同様、軽量で耐衝撃性に優れ、断熱性、保温性が高く、また、成形の柔軟性もある。さらに発火しにくいパッケージ素材として、建築、農業、インテリアデザインへの活用も可能だ。
菌糸体を使ったパッケージはすでに市場にいくつかあるが、創業者兼CEOのモサズ・ピルチャー(Mosas Pilscheur)氏によると、他社とは製造プロセスが異なるため、Mycrobezはよりサステナブルで安価だという。現状はパイロット版だが、2025年末にはスケールアップし、販売を拡大することを目指している。
⚫︎ Des Solutio:NADESを活用した自然由来の有効成分の抽出
アーリーステージスタートアップDes Solutioは、融液から同時に2種類の固相を晶出することを意味するNatural Deep Eutectic Systems(NADES:自然深共晶系)を利用した有効成分の抽出を行うポルトガルのスタートアップだ。このシステムの天然由来の成分をもとにした溶媒は、これまで一般的に使用されてきたエタノールに比べ低温で作業でき、毒性が少ないため安全で、環境負荷も少ないという特徴がある。
会場では、セージ、ローズマリー、ビーツなどからNADESで抽出したエッセンスが展示されていた。R&Dマネージャーのリタ・クラヴェイロ(Rita Craveiro)氏によると従来のものより安定性が高いという。Des Solutioは大手化粧品ブランドのナチュラルコスメ部門と協業し、よりクリーンでグリーンな商品開発に携わってきたが、今後は食品や医薬品分野も含めたより広い領域での展開を目指している。
Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image & photo: 著者撮影