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「低迷のトラベルリテールを救うカギ」【海外トレンド 2024年10月-11月】

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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、TFWA(世界免税協会)のカンファレンスから、不振が伝えられるトラベルリテールの現状と新しい顧客を獲得するために変わりつつある免税小売の現場についてレポートする。


旅客数は前年比30%増だがトラベルリテールは18%増と低調、危機感をつのらせる免税店

出典:ARI

★注目ポイント
パンデミック後、グローバルの旅行者の数は確実に増加しているが、免税店をはじめとするトラベルリテール分野での売上高はそれに追いついていない。なかでも、中国でのトラベルリテールへの依存度が高い大手ビューティ企業には同カテゴリーの不振は深刻な痛手になっている。免税ショッピングに求めるものや化粧品そのものへの消費者の好みが多様化する今、免税小売店も新しい顧客層に向けたアプローチを強化している。

Cognitive Market Researchのレポートによると、2024年のグローバルの化粧品旅行小売(トラベルリテール)市場は665億1,420万ドル(約10兆2,944億円)で、2031年までにCAGR10.6%で1,346億4,811万ドル(約20兆8,394億円)規模に成長すると予測されている。

しかし、2024年9月末に仏カンヌで開催されたTFWA(Tax Free World Association:世界免税協会)主催の「ワールド エキシビジョン & カンファレンス 2024」では、セッションに登壇したコンサルティング企業のA.T.カーニーが、2023年の旅行者数は前年比30%以上の伸びをみせたが、トラベルリテール市場全体の売上高は18%増にとどまっているとして、旅客数は増加したのに顧客の支出は減少している状況を指摘した。

この厳しい数字はビューティ業界のトラベルリテールにおいても同様だ。同市場で大きなシェアをもつエスティ ローダーは、2024年8月の決算報告会でアジア地域でのトラベルリテールの不振を認め、中国・海南省での売上高が40%以上減少したとしている。同じく資生堂も、インバウンドが増加した日本での堅調な成長と、ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)、および南北アメリカ地域は好調だったものの、中国を含むアジアの不調を受け、2024年上半期はトラベルリテール事業売上が23%減少した。

これらのマイナス要因は、主に中国の消費者購買パターンの変化の影響を受けたものと考えられている。中国におけるトラベルリテールの2024年上半期の売上高は前年同期比2ケタ減で、海南島を含む市街地の免税店の売上が振るわなかった。これは、越境ECやソーシャルセリングなどオンライン販売の競争激化で、トラベルリテールと現地価格が近づいてきて免税品のうまみが少なくなっていること、経済が低迷するなか、中国人旅行者が遠隔地への旅の回数を減らしていることなどが主な理由とみられる。

世界の旅客者数とトラベルリテールマーケット 2015-2023
出典:The Moodie Davitt Report

TFWAのカンファレンスでは、前述のA.T.カーニーが、現在、旅行のため空港に着いた人々が免税品ショッピングに費やす時間は空港滞在時間の25%に過ぎず、そのほかの時間はラウンジでくつろいだり食事をしながら、ソーシャルメディアなどのデジタルコンテンツにアクセスしていると説明。そして、トラベルリテール業界もこうしたトレンドにのっとり、購買履歴などのデータを活かしたパーソナルなアプローチをオンラインで行うことで、商品やブランドと出会うタッチポイントを積極的に創出することが求められると提言している。これはすなわち、現在の空港の利用者数の約40%を占め、2030年には70%近くに達するとされるデジタルネイティブなZ世代を、いかにしてトラベルリテールの店舗に呼び込み購買につなげるのかを考える重要性を意味する。

ショッピングに際して、そこにしかない特別な体験や品揃えに価値をおき、ブランドや商品に対し希少性や独自性を期待するZ世代の心をつかむために、免税店グループ各社はニッチブランドや新興のクリーンビューティを前面に押し出す棚づくりや、トラベルリテールにまだ参入していないブランドのポップアップスペースを設けるなどの施策を進めている。たとえば、LVMH傘下のDFSは、ブランドが表現するライフスタイルやスキンケア、ヘアケア、テクノロジーの最新トレンドを展示するコンセプトの免税店「ビューティーコレクティブ」を2024年1月、香港に開設した。これまでの免税店のイメージをくつがえす商品構成とキュレーションで新しい顧客層の獲得を目指す。

あわせて免税店グループ各社では、前年比25%超の伸びをみせ、ビューティ関連製品で最も好調なフレグランスを強化する動きもある。なかでも、顧客の呼び水として期待されているのは、昨今、人気が高まっている超高価格帯のプレステージフレグランスや、手に入る場所が限られているニッチなハイエンドフレグランスだ。

免税ショッピングにおけるビューティ商品カテゴリー別の購入ランキング
出典:BW Confidential

D2CやSNSで話題のニッチなブランドの参入を促し、Z世代にアピール

こうした消費者ニーズの変化に伴い、長らくグローバル大手の化粧品ブランドがメインプレーヤーを務めてきたトラベルリテール市場にも、新興ブランドやインディブランドの進出を促す潮流がある。業界に新風を吹き込む存在としてメディアからも注目を集めている企業・ブランドをピックアップして紹介する。

⚫︎Beautypro サステナブル設計の高機能成分シートマスク

サロンやスパ向けスキンケアブランドとして2015年に英国で創業したBeautyproは、シカやナイアシンアミド、レチノールなどの高機能成分を配合したシートマスク「On The Glow」セットが、2024年TFWAアワードで「Star Beauty Products of the year」に選ばれた。

ヴィーガンブランドであるBeautyproの製剤の成分はすべて植物由来で、たとえば、ビタミンCはブルーベリー、ヒアルロン酸は大豆、レチノールは海藻と昆布からそれぞれ抽出している。あわせて、シートマスクのパウチは生分解性素材とし、スペースが限られる航空機内のトローリーに収納しやすいスリムな箱に収められている。また、こっそり箱を開けて、なかから何かを取り出し再び密封することを避けるセキュリティの目的から、トラベルリテール商品はシュリンク包装されることがほとんどだが、Beautyproでは独自開発のセキュリティシールを使用することでシュリンクラップを不要にし、プラスチックの削減にも貢献している。

Beautyproの製品は現在、エミレーツ、ヴァージンを含む30以上の航空会社で販売されているほか、アルゼンチンなど南米諸国の国境免税店でも取り扱われている。

⚫︎Niche Beauty Lab サイエンス・ファーストで安全性と機能性に注力

@nichebeautylab

Discover 4 Theramid serums that will match to your skin type 💘 Which one is your favorite? 🤩🙌 #nichebeautylab #skincareroutine #skincare #theramid

♬ sonido original - Niche Beauty Lab

スペイン・バルセロナの本拠地に研究所を構えるNiche Beauty Labは、2016年に「化粧品業界のルールを変える」ことをミッションに創業。“サイエンス・ファースト”を掲げ、製品開発においては、常に研究を最優先して、安全性と有効性を自社の実験室で徹底的に検証した高機能性スキンケアを提供する。

同社のスタープロダクツである「THERAMID(セラミド)」コレクションは、臨床的にテストされた有効成分を高濃度で組み合わせた美容液で、科学に裏付けられた高いパフォーマンスをうたう。たとえば、「THRAMID CLINICAL VITAMIN A」はレチノール、レチナール、グランアクティブ・レチノイド(ビタミンA融合体)を配合した夜用アンチエイジングトリートメント。また、「THRAMID DERMA PEPTIDES」は、10のバイオミメティック(生体模倣)ペプチドを独自の組み合わせで22%配合し、コラーゲンとエラスチンの生成を促進しシワの改善を導くとする。

ドイツの免税店企業ハイネマン(Heinemannは、2023年9月、ドイツ・デュッセルドルフ空港に4つの新店舗をオープンするにあたり、ソーシャルメディアでのみ知られているような、より小規模でニッチなブランドを特選して期間限定で紹介する「テスト&ラーニング」スペースを設けた。その最初のショーケースブランドのひとつに選ばれたのがNiche Beauty Labだった。

⚫︎Sculpted by Aimee コミュニティとのつながりが軸のカラーコスメ

@sculptedbyaimee

We went to Grafton Street to show how quick and easy you can do your brows with our #30SecondBrowFix 💕✨ #SculptedByAimee #FilterFreeFaces

♬ original sound - Sculptedbyaimee

Sculpted by Aimeeは、アイルランド出身の著名メイクアップアーティストのエイミー・コノリー(Aimee Connolly)氏が23歳だった2016年に創業したカラーコスメブランドで、「誰もが素早く簡単に輝く」シンプルで効果的なメイクの実現をうたう。コノリー氏がSNSに自ら登場しコミュニティに語りかけるマーケティングで、同世代のミレニアムからの支持を集めビジネスを成長させた。

アイルランドで開設したトレーニングアカデミーではこれまでに3,000人以上のメイクアップアーティストを輩出しており、また、メイクに興味を持ち始めたアルファ世代に向け、肌に使用するのに適切な成分など化粧品の正しい知識を教えるブートキャンプも開催。2023年に英ロンドンに開設したUK旗艦店は、マスタークラスやワークショップ、トレーニングアカデミーのためのスペースを併設して顧客の「ソーシャルハブ」と位置づけている。

1947年にアイルランドのシャノン空港で世界初のデューティフリーショップを立ち上げた、トラベルリテールの先駆者であるARI(Aer Rianta International)は、Z世代へのアプローチとして自国ブランドでもあるSculpted by Aimeeの取り扱いを始めている。

⚫︎Perfums de Marly 古典を再解釈したハイエンドニッチフレグランス

2009年、ジュリアン・スプレチャー(Julien Sprecher)氏によって設立されたPerfums de Marly(パルファム ドゥ マルリー)は、フランスのハイエンドニッチフレグランスブランドだ。18世紀のフランスと国王ルイ15世の馬への情熱、離宮として使用された華麗なマルリー城をインスピレーションとし、ガラス細工のボトルに刻まれた紋章はルイ15世が城門に飾るために注文した巨大彫刻「マルリーの馬」へのオマージュである。アイコニックな製品としては、フローラルブーケの「DELINA」や男性向けの「LAITON」、ユニセックスで使用できる「PEGASUS」などがある。価格はいずれも260ユーロ(約4万2,000円)以上と高価格帯に属する。

パルファム ドゥ マルリーは、クラシックでありながら伝統と現代の大胆な融合を試みる姿勢で評価が高く、高級フレグランスセグメントにおける主要なニッチブランドとしての地位を確立、2023年6月にはグローバルプライベートエクイティのAdvent Internationalが同ブランドの過半数の株式を取得したことでも話題になった。ハイネマンがフレグランスセクションの強化に同ブランドを選んでいる。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Shutterstock AI Generator via Shutterstock