アモーレパシフィックとLG生活健康の競争激化にみる、韓国化粧品業界のM&A事情
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アモーレパシフィックとLG生活健康の競争激化にみる、韓国化粧品業界のM&A事情

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条件付きながらマスク着用義務が解除されることになった韓国では、実店舗に客足が戻ることやメイクをしての外出機会が増えることが期待され、化粧品業界においても需要回復に向け先行きが明るくなりつつある。パンデミックを経て業界内の勢力図が大きく変化を遂げ、再編が進むなか、今後の動向をうらなう意味でも活発化するM&Aに注目が集まる。アモーレパシフィックLG生活健康など業界大手の事例を中心に、韓国の化粧品業界のM&A事情をレポートする。

LG生活健康は、自社とのシナジーや未来を見据えたM&Aで成長軌道に

“日常の回復”の兆しが鮮明になるなか、化粧品業界のポストコロナフェーズの競争を分析する報道が目立ってきた。各社の競争力の指針として、DXやSDGsでの動きに加えて、M&Aの動向が韓国メディアでも注目されている。

韓国の化粧品業界勢力図の変化を示すものとして象徴的なのは、アモーレパシフィックとLG生活健康の美容企業ツートップの競争激化だ。アモーレパシフィックは数十年間にわたり韓国で美容企業トップの地位を堅持してきたが、2020年の売上でLG生活健康の化粧品部門にその座を奪われることになった。2021年にはアモーレパシフィックの売上が再びLG生活健康を上回ったものの、いつどちらが首位になってもおかしくない肉薄した状況となっている。

数年前までは、LG生活健康がアモーレパシフィックの牙城を脅かすというのは考えにくいことだった。2016年の段階でアモーレパシフィックの売上は6兆6,975億ウォン(約6,880億円)。対するLG生活健康は約3兆1,500億ウォン(約3,236億円)で、その差は2倍以上だった。この5〜6年の間に、LG生活健康は着実にシェアを伸ばしてきたことになるが、その躍進の要因の1つが積極的なM&A戦略である。

LG生活健康がM&Aを自社の成長戦略の柱として掲げたのは、チャ・ソギョン氏がCEO(現副会長)に就任した2005年1月からで、それほど最近のことではない。チャ氏は米ニューヨーク州立大学、コーネル大学経営大学院、インディアナ大学ロースクールなどを卒業。財務、会計、法学知識に明るく、米国金融界に人脈を持つ人物で、1999年から韓国P&G社長を2年間、また2001年からヘテ製菓食品の社長を務めた経歴を持つ。韓国の財閥企業によくみられる血縁関係からの後継者ではなく、いわゆるプロ経営者だ。

LG生活健康 CEO兼副会長 チャ・ソギョン氏
出典:LG生活健康公式サイト

そのチャ氏に白羽の矢を立てたのは、当時LGグループを率いていた故ク・ボンム会長だった。招聘を受けCEOに就任したチャ氏は、「M&Aを通じた耐震設計」を自社のビジョンとして提示する。

ここでいう「耐震設計」とは、危機的な状況に柔軟に対処できる組織の在り方を意味する。そしてビジョンの骨子は、積極的なM&Aを通じて、ビューティ、生活用品、リフレッシュメント(飲料など)の3部門で事業多角化を実現するというものだった。

この買収によって新たな事業分野に進出しグループ全体を拡大する戦略がLG生活健康を爆発的に成長させた。2005年以降、売上は16年連続増収を記録。2001年に1,964億ウォン(約202億円)だった時価総額は、2020年の段階で24兆6,924億ウォン(約2兆5,367億円)にまで成長した。成長の立役者となったチェ氏は、韓国ビジネス界では“M&Aの鬼才”とも呼ばれている。

LG生活健康が買収したTHE FACE SHOPの店舗
出典:LG生活健康プレスリリース

LG生活健康はチャ氏の就任以降、現在までに合計30の買収・統合を実施している。そのうち、化粧品関連企業・ブランドとしては、自然派コスメのザ フェイスショップ(THE FACE SHOP)、フェムケアのViolet Dream、スキンケア・エイジングケアの銀座ステファニー化粧品、健康食品やエイジングケアのエバーライフ、カナダ発のボディケア・フレグランスのFruits&Passion、韓国発ドクターズコスメ、シーエヌピー ラボラトリー(CNP Laboratory)を運営するCNP COSMETICS、OEM企業Zenithなどが含まれている。2018年に日本のエイボン・プロダクツ(現エフエムジー & ミッション)、2020年にはドイツの皮膚科学ベースのブランド、フィジオジェル(PHYSIOGEL)のアジア・北米事業権を買収したことも話題となった。また直近では、2022年4月20日に、米ブランドThe Crème Shopを買収している。

The Crème Shop
出典:The Crème Shop プレスリリース

チャ氏は自著のなかで「中身がないのに規模だけ拡大するM&Aは非常に危険だ。(中略)ビッグピクチャーを描いて、パズルを合わせるように必ず必要な分野の会社を選んで買収してきた」と、自身のM&A戦略について振り返っている。既存事業や重点地域の販路拡大をはじめ、生産設備や物流網の拡充や、顧客層の開拓などに有益かどうかを徹底的に見極めたのちに、国内・海外のブランド、製造企業、工場などを買収するのがLG生活健康のM&Aだ。

たとえば、前述のThe Crème Shopは、ウルタビューティなどオフラインチャネルを通じて成長を遂げてきた米国ブランドで、ハローキティ、ディズニーなどとコラボすることで北米のMZ世代(韓国でいうところのミレニアル世代とZ世代)を中心に人気を集めている。LG生活健康は、北米地域でのプレゼンス強化、MZ世代とのコミュニケーション力の拡大などに、The Crème Shopのブランド力や営業網を活用できるとの見立てから買収に踏み切ったとされる。ここ数年、北米での販路拡大や買収を強化してきたが、さらなるシナジー効果を組み立てていく算段だ。

新興大型ブランド&デジタル企業の買収に注力するアモーレパシフィック

一方のアモーレパシフィックは、2020年まではM&Aにそれほど積極的な企業ではなかった。2011年にフランスの香水ブランドのアニックグタール(現グタール・パリ)を300億ウォン(約31億円)で買収、次いで2020年に豪スキンケアブランド・Rationale Groupの少数株主持分を取得、2020年末に美容に特化した国内MCN企業・DMIL(ディミル)に、30億ウォン(約2億8,300万円)の投資を行ったのが比較的大規模な案件だ。業界トップの地位が揺るがなかっただけに、M&Aを積極的に展開する理由があまりなかったとも考えられる。

しかし、2021年に入ると次々と関連企業の買収を発表している。話題となったのは、同年9月に米国や東南アジアでK-Beautyとして知名度の高い韓国スキンケアブランドCOSRXを、過去最高投資額となる1,800億ウォン(約185億円)で買収した事例だ。企業名は非公開だが、グローバルトップクラスの化粧品企業と競り勝った末の“落札”だったという。

出典:COSRX公式サイト

アモーレパシフィックはそのほかにも、2021年内にプロバイオティクス企業 HEM Pharma、アパレルブランドYOUR NAME HERE、豪スキンケアブランドRationale Group、Eコマースソリューション企業THE COMMERCE、ライブコマースプラットフォームRXCなど、5つの企業との資本提携・買収を相次いで発表している。

アモーレパシフィックが、M&Aに注力し始めた背景としては、2020年に就任したキム・スンファン代表理事ら新たな経営陣の方針があるというのが韓国メディアの分析だ。キム氏はもともと、THAAD配置問題による中国政府の韓国製品締め出しや、コロナ禍などの逆風のなかで副社長に選任された人物で、国内外の法人およびグループ企業の経営体質改善を担ってきた。

アモーレパシフィック 代表理事・副社長 キム・スンファン氏
出典:ソウルファイナンス

その流れのなかで、新興ブランドの大型買収やEコマース関連企業への投資を行うことで、旧来の経営組織体制や戦略の刷新を図っているとみられる。公式なコメントはないものの、LG生活健康が積極的なM&A戦略で追随してきていることを強く意識して、自社の改革を断行していることは明らかだ。

アモーレパシフィックの売上高は、2019年4兆9,963億ウォン(約5,134億円)、2020年3兆9,042億ウォン(4,012億円)、2021年4兆9,237億ウォン(約5,059億円)とほぼ横ばいで推移。パンデミック時も、オフライン売り場を整理・縮小し、オンラインでの販売チャネルを強化することで売上を維持している。LG生活健康はブランドや生産拠点の買収を主に行っているが、アモーレパシフィックはデジタルに強い企業の買収に注力し、DXを推進していくものと予想されている。

現代百貨店グループや韓国コルマーのM&A

韓国化粧品関連業界では、小売大手の現代百貨店グループもM&Aに注力している。2020年には機能性化粧品企業CLEANGENと化粧品原料メーカーのSKバイオランドを買収。社名変更(前者はHANDSOME LIFE&、後者は現代バイオランド)まで完了した。現代百貨店グループは化粧品部門を本格的に強化することを宣言しており、グループ独自のプレミアムブランドも取り揃えていく方針だ。シワ改善などに効果がある高機能性化粧品の開発ノウハウを保有しているCLEANGENは、その文脈に沿った選択だ。買収により、対象企業の持つ開発・研究の知見と技術を吸収しつつ、自前の物流網や関連グループ企業とのシナジー効果を発揮していく狙いがある。

また、2022年4月にOEM大手の韓国コルマーは、化粧品容器およびパッケージ製造会社大手YONWOOを2,864億ウォン(約294億円)で買収すると発表した。YONWOOは、1994年に設立で、現在、国内化粧品容器市場シェア1位の企業だ。4R(Reduce、Replace、Reuse、Recycle = 減らす、置き換える、再利用、再資源化)可能な容器を開発する技術の研究も積極的に行ってきた。韓国コルマーは、同買収で化粧品事業のバリューチェーンを強化し、グローバル市場でさらなる成長の勢いをつけることを図っている。

出典:YONWOO 公式サイト

これまでは、ロレアル傘下入りした3CEや、エスティ ローダーのグループ入りを果たしたドクタージャルトなど、韓国発の新興ブランドが海外大手メーカーによって買収される事例のほうが注目されてきたが、ノーマスクによる国内化粧品需要の復活やMZ世代へのアプローチ、また紛争リスク回避のためのサプライチェーン再編などを見据えて、韓国大手各社のM&Aの動きがさらに活発化していくことが予想される。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: アモーレパシフィック公式サイト

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