
資生堂UK、NFTでファンコミュニティを深化させる「#AliveWithBeauty」を始動
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資生堂が英国でスタートしたAI生成NFTをベースにするロイヤリティプログラム「#AliveWithBeauty」は、創業150年を迎えた資生堂による、Web3時代を見据えたファンとのデジタルコミュニケーションの在り方を示し、顧客生涯価値(LTV)の向上を目指すものだ。同プログラムの中身と誕生した背景を探る。
資生堂UKが主導するNFT基軸のロイヤリティプログラム
資生堂は2023年2月、NFTベースのコミュニティプログラムキャンペーン「#AliveWithBeauty」を発表した。資生堂150周年を記念したプロジェクトで、資生堂UK(英国)が主導し、AI、ビューティ、テクノロジー、Web3の各分野の第一線で活躍する女性5名と、英国のWeb3エージェンシーCULTとの協働で150個のNFTを制作し、ドロップ(無料配布)した。このロイヤリティプログラムを立ち上げた背景や目的について、資生堂UKのコミュニケーション&デジタルエンゲージメント・ディレクター(Communications & Digital Engagement Director)のジェーン・ハーパー(Jane Happer)氏にメールインタビューを行った。

2021年以降、LVMH、ロレアル、エスティ ローダーなどの大手ビューティ企業が次々とNFTプロジェクトを発表しており、ファンコミュニティやメタバースイベント参加者向けの特典としてNFTアートを提供したり、環境問題、社会課題の解決の一助となるNFTを介したアプローチでブランドのコミットメントを示すなど、さまざまな施策がみられる。
資生堂グループは創業150周年を迎える2023年に合わせて、NFTを基軸としたロイヤリティプログラムを立ち上げ、Web3時代にファンコミュニティとの新しいエンゲージメントを築こうとする強い意思を示した。
同社のプレスリリースによると、資生堂150周年を記念して制作された150個のNFTは、AI技術で生成されたデジタル作品で、すべて同社のシンボルマーク「花椿」の形をベースとしているが、一つひとつデザインが異なる。デザインは、言語入力から画像やイメージを自動作成するAIツール「DALL-E 2」を使用。美とWeb3の未来について、テクノロジーによる女性のエンパワメントを図るシャーマディーン・レイド(Sharmadean Reid)氏、著名ビューティインフルエンサーKaushal氏、メタバースで活躍するクリエイターDr. Alex Box氏、メイクアップアーティストのメアリー・グリーンウェル(Mary Greenwell)氏、そして、コミュニティWomen of Web3の創業者で、元Metaで女性起業家支援プログラムを率いていたローレン・イングラム(Lauren Ingram)氏の5名の、デジタルビューティワールドにおける女性“パイオニア”にインスパイアを受けた「言葉(単語)」をデジタルアート作品へと変換し、最後にCULTによって ”人間的なタッチ” のあるデザインに仕上げられたという。

AIによって生成された150のNFTのうち5つは、同プロジェクトの創設メンバーでもある前述の5名に贈られ、残りの145がユーティリティトークン(Utility Token, 定義は後述)としてドロップされた。このトークンの保持者になると、資生堂のNFTコミュニティプログラムのメンバーとして、さまざまな特典が得られる。たとえば、2023年度は年間を通じて1,000ポンド(約17万円)相当のスキンケア製品がプレゼントされ、家族や友人にシェアできるよう製品サンプルも提供される。また、オンラインおよび対面式イベントに参加する権利、限定コンテンツへのアクセス、さらに、プログラムの発展にともない、特典が用意されるとする。
資生堂UKの公式サイト上で公開募集され、当選者には2023年3月3日にメールで通知された。NFTの受け渡しはアクセシビリティを促進するカーボンニュートラルなプラットフォームで、かつNFTやクリプトなどの知識がなくても容易にウォレットを作成できるExclusibleで行われた。
CULTがクリエイティブなコンセプトの開発、戦略、AI技術、NFTの作成、ミンティング(ブロックチェーンブロックを作成して取引可能な状態にすること)、発行・ローンチに至るまでの制作プロセス全体を監督。資生堂は、この新しい施策により、美容ブランドがユーティリティトークンを通じてコミュニティをどう実現するか、その在り方を再定義するとしている。
ユーティリティトークンとは、デジタルアートやゲームアイテムなどに代表される代替性のないトークンとは異なり、何らかの実用性を持ち特定のサービスへのアクセス権として機能するトークンで、ファンビジネスの領域におけるコミュニティなどで活用されることも多く、集団の内と外に大きな価値の差を生じさせることによって、閉じられたコミュニティ内のファン同士の熱量の相乗効果による、「熱狂」を伴う経済価値を生み出すことにつながるとされる。
資生堂EMEA(欧州・中東・アフリカ管轄)のプレステージディレクターであるロマン・カレガ(Romain Carrega)氏は、プレスリリースのなかで「1872年の創業以来、資生堂はパイオニア精神の代名詞として、世界中の男性女性に最高のスキンケアイノベーションを届けてきた。150周年を迎えるにあたりこのユニークな瞬間をコミュニティとともに祝う機会を設けたいと考えた。最新のAI技術を活用しながら、当社のレガシーを構築する過去と未来のベストを組み合わせたアート作品を届けたいというのが意図だ。ブロックチェーンとAIソリューションは、私たちのコミュニティとの対話を豊かにし拡大する新しい方法を開くものであり、私たちはより良い世界のために美の革新をもたらすというミッションに忠実に、その領域でのコミュニケーションとサービスを探求し続けていく」と述べている。
一般的に、ロイヤリティプログラムの目的は、顧客の維持、LTVの向上、そして、顧客への感謝を表現することにあり、また、エンゲージメントとブランドへの愛着を喚起するための手段でもある。「#AliveWithBeauty」を主導する資生堂UKのジェーン・ハーパー氏は、このプロジェクトの背景や目的を、資生堂は革新的で先進的な企業として知られているからこそであり、かつコミュニティづくりにおけるイノベーターとして認知してもらうためだと語る。
「今回、世界で初めてAI自動生成にもとづくNFTベースのコミュニティプログラム#AliveWithBeautyを立ち上げたのも、英国中の美容を愛する人々に、次のレベルのコミュニティ体験を提供し、ユーザーに資生堂の熱狂的な支持者(推奨者)になってもらうために必然のネクストステップと考えたからだ」(ハーパー氏)
また、このプロジェクトが日本ではなく、英国主導で推進される理由については、さまざまな観点から考慮した結果、同プログラムを最初に立ち上げるには英国がふさわしいと判断したとハーパー氏は明かす。「NFTについての詳細を発表してから、24時間以内にエントリーが最高レベルに達するという驚くべき結果がもたらされた。AIとの協働は業界のイノベーションとトレンドに敏感な5名の女性パイオニアによって導かれ、日本のスキンケアブランドの150周年を記念して150個のNFTトークンが作成された。もちろんこれは、NFTベースのコミュニティのリーチの拡大を目指す私たちにとって、ほんの始まりに過ぎない」と語り、今後も(NFTを発行し)プログラムが拡大していくことを示唆した。
各社がWeb3の世界でファンコミュニティと新しいエンゲージメントを作ろうと模索しているなか、資生堂はWeb3が同社のビジネスにどんな貢献をもたらすと考えているのか。ハーパー氏は「資生堂では、フォロワー、ファン、コミュニティとの関係を維持することが重要だと感じている。美容改革に努めてきた150周年をWeb3で祝うことは理にかなっている。NFTのコミュニティスペースは、美容のコネクティビティの新しいフロンティアであり、美容のパイオニアたちとともにこのスペースを探求することを楽しみにしている」と、顧客との長期的な関係維持とWeb3での新しいつながりの重要性を示し、ブロックチェーンとAI技術を利用したNFTロイヤリティプログラムで、同社が新しい次元を目指していることを印象づけた。
2025年までに大手ラグジュアリー企業の72%がNFT活用の予測も
ベイン・アンド・カンパニーの調査によると、フランスのラグジュアリーブランドの51%が、2025年までにNFTの導入をテスト中または計画しており、この数字は大手企業グループでは72%まで上昇するという。
美容業界における一例をあげると、ロレアル傘下のYSL Beautyは、2022年6月にコレクション可能な限定NFTをドロップし、NFTをキーとしたロイヤリティプログラム3.0を始動。VivaTech 2022で、NFTを所有するYSLのファンコミュニティのためのWeb3エコシステムが誕生したことをアナウンスし、「YSL Beauty’s Wallet」をダウンロードすると、1万個限定のNFT「Golden Block」が得られる特典を用意した。

出典:Cosmetics Business
2023年1月には、同ブランドのフレグランス「ブラックオピウム」を、英国、米国、フランス、オーストラリアのECサイトで購入した先着2,000名にNFT「Beauty Night Block」、または、14種類の超レアバージョンのNFTを要求できるリンクが専用メールで送信された。その結果、2,000個すべてのNFTが48時間以内にドロップされたという。さらに、同年3月には今までドロップされたNFTの保有者のみにクリプトアートオークションとしてNFTをリリースするなど、NFTを通じた新しい顧客体験を積極的にテストしている。

出典:YSL Beauty公式サイト
Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: 資生堂UK公式サイト