見出し画像

リアルとオンライン、その比重の最適解は?小売店舗の閉鎖が相次ぐ米国の議論

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

2018年8月にニューヨークで開催されたDigiday主催のRetail Forumでの興味深い議論は、ファッションチェーン大手Expressのオムニチャネル化、オンラインでパーソナライズドなニキビケア製品を提供するCurologyのポップアップストア戦略から読み取れることだった。つまるところ、顧客の快適なショッピング体験をどうつくるのか、だ。そこにはリアルとデジタルの垣根は存在しない。

アマゾンに代表されるECの活況、AIの進化をはじめとする先進テクノロジーの普及は、消費者の購買行動を大きく変えている。2017年、小売店舗の閉鎖数が過去最高だった米国では、2018年になっても老舗のリテールショップの閉鎖や従業員の削減などのニュースが相次ぎ、小売業界を取り巻く環境は厳しい。

9月には、123年の歴史を誇る百貨店、ヘンリ・ベンデルがニューヨーク五番街の旗艦店を含む11州全23店舗を2019年1月に閉店すると発表したほか、10月には米小売り大手のシアーズ・ホールディングスが連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請したと報道されている。ソーシャルメディアの利用が当たり前になり、オンライン・ショッピングへの期待値がますます高まる一方で、実店舗での売り上げの伸び悩みに直面する企業はかつてないほど多いのだ。

会場は、マンハッタンはミッドタウンにある
TIAAファイナンシャル・サービスビル

Retail Forum会場の受付の様子

DigidayによるRetail Forumでは、昔ながらの実店舗にこだわるアパレルチェーンから、オンラインを主軸とするデジタルネイティブのスタートアップまで、CEOやダイレクターなど経営陣が登壇し、それぞれが描く小売業の未来について活発な意見交換が行われた。そのなかから見えてきたのは、オンライン、オフラインにかかわらず、小売業の生き残りは「顧客が満足する購入体験の創出」ができるか否かにかかっているということだ。

オムニチャネル化で実店舗に付加価値

モールを中心に北米に約600店舗を展開するカジュアル・ファッション大手のビッグチェーンExpressは、ECと実店舗を連動させオムニチャネル化を進める戦略をとっている。

同社のオンラインでの売り上げは、2018年第2四半期時で前年比37%増の1億2,390万ドルを記録。この伸長を活かして実店舗の顧客体験を強化することで、小売全体の底上げを図る狙いとみられる。

登壇したデイヴィッド・コンバーグ(David Kornberg)CEOは、ここ数年でeコマース事情が劇的に変化し、オンライン・ショッピングが消費者にとって実に簡単で便利で、かつ楽しいものになってきた今、実店舗の未来を考えるにあたり、顧客がわざわざ足を運びたくなる施策が不可欠なことを強調。4月よりカスタマー・エクスペリエンス・オフィサーの役職を新たに設けるとともに、ニューヨーク・マディソン街にある店舗をテストラボと位置付け、テクノロジーを導入して改装したと語る。

ExpressのCEO、デイビット・コンバーグ氏(右)。
左はモデレーターでGlossyマネージング・エディター ヒラリー・ミルネス氏

「店を訪れた顧客がインタラクティブな体験ができる3Dウェブサイトのような」とコンバーグCEOが表現するこの店舗は、液晶スクリーンにタッチするだけの操作で、販売されているアイテムのコーディネート例を何種類もみることができるデジタル・スタイリング・スクリーンが目玉。あわせて、事前にオンライン上で選んだアイテムが、店舗に到着する頃には試着室に用意されているという新サービスも開始した。このほか、休憩用のラウンジやモバイル機器を充電できるチャージ・ステーションを設置するなど、気軽に訪れやすい環境で、オンラインとリアルをシームレスにつなぐ工夫をしている。

さらに、コンバーグCEOは「ソーシャルメディアで呟かれていることへの理解など、これからは顧客の声に耳を傾けることがさらに重要になってくる」として、オンラインメディアの重要性とともに、対面で接客し、商品や店舗について直接の意見や反応を知ることができるのは、何百もの店舗を持つ同社の強みであると主張。何十年後の未来もExpressは店舗販売を続けるのかという問いにも、「もちろん!店舗は我々の財産だ」と力強く答えた。

AIを駆使してカスタマイゼーション

一方、一人ひとりの肌に合わせてカスタムメイドしたニキビ処方スキンケアを提供するCurology は、オンライン上で肌の状態に関する質問に答える問診と、実際の肌を撮影したセルフィーをもとに、個人ごとの処方箋をつくり、専門の皮膚科医が調合するというパーソナライズ・サービスを行っている。これは、デパートやドラッグストアを訪れ、一般大衆向けに大量生産された(しかも限られた)製品のなかから“自分の肌にあっていそう”なものを選ぶ、従来のショッピング体験を一変させるものだ。

同社のシニア・バイス・プレジデント(SVP)のファビアン・シールバッチ(Fabian Seelbach)氏は、肌トラブルの原因は各自で異なり、世界に1つだけの「自分仕様」のスキンケア製品を届ける「カスタマイゼーション」の重要性を強調し、使用を開始して肌の状態に変化があらわれてきたら、その過程に応じて都度処方箋を更新し、常に顧客に最適のものを調合していると明かす。

CurologyのマーケティングSVP、ファビアン・シールバッチ氏(右)。
左はモデレーターの、Digidayマネージング・ディレクター/エディトリアル・プロダクツ シャリーン・パサック氏 

パーソナライズのスタート地点である問診では、必要に応じてかなりプライベートな個別質問をする場合もあるが、それが自分専用のスキンケアのために重要であることをユーザー側もまたよく理解している。なかには「私が長年悩んできたトラブル肌を説明するには、この問診票では足りないのではないか? これまでに使用してきた製品の詳細も伝えるべきでは?」と、より詳しい情報を自ら提供する人もいるという。

こうした手厚いカスタマイズと同時に、サインナップのプロセスを簡略化し、無料トライアルを設けたほか、月額料金を19.95ドルと試しやすい価格に抑えた。それを可能にしたのは、最初にAIでデータ分析をすることによる最適化のスピードアップだ。一方で、Curologyは生身の皮膚科医が最終的に診断して処方を完成させるという、マニュアルの部分を残している。ユーザーは担当医師にチャットでさまざまな相談をすることもできる。

シールバッチSVPが言うところの「顧客とともに、理想の美肌になるための旅にでる」同社の哲学を示すこうした姿勢が、高い顧客満足度につながっている。

現在、Curologyでは店頭での販売は行なっていない。個に対応した1つ1つ異なる製品づくりであるところが特徴で、一般化を求めていない点が一番の理由であろうが、シールバッチSVPは「人はなぜいまだにドラッグストアに出向き、薬を処方してもらうのか? それは誤って他人の薬を処方されないよう、IDを確認する意味合いが強い。そのようなプロセスが我々に必要かといえば、答えはNoだった」と説明する。

「Customization is Key」(カスタムゼーションはキーだ)というタイトルで講演したシールバッチ氏(右)。同社では無料トライアルを設けており、月額に必要な費用は19.95ドルと、気軽な価格設定にしている

ただし、ポップアップストアをマンハッタンで1ヶ月限定オープンしたことがあり、商品サンプルを実際に手にすることができた顧客からは好評で、その場でサインアップしたユーザーも少なからずいて手応えがあったようだ。マーケティングの観点に加えて、顧客とのリアルなタッチポイントを持つことで消費者の声を吸収するとの意味で、実店舗が持つ可能性は強く感じ取っているとシールバッチSVPは示唆している。

フォーラム中は、Town Hall(公開討論ミーティングの場)も設けられた

リテールはこれからも進化する

また、ウォルマートに次ぎ全米第2位の規模を誇るディスカウント百貨店チェーンTargetの元チーフストラテジー・イノベーションオフィサーだったケーシー・カール(Casey Carl)氏は、20年以上の小売業界での経験をもとに、「近年はパラダイムシフトが起こり、リテールに対する価値観が大きく変わった」と指摘する。そして、この新しい時代の波にのるためには、まず消費者を深く知ることが大切で、オンラインとリアルから多面的に得られた顧客データを集積して適切に分析し、マーケティングや経営戦略に反映するべきだと説く。

Target の元チーフストラテジー・イノベーションオフィサー、
ケーシー・カール氏

世界は、消費者が一般大衆と呼ばれるマスの存在だった時代から、個別のパーソナルな存在へと変化してきている。企業が顧客に選ばれるためには、顧客の意思や嗜好を分析的に把握したうえでの対応が欠かせないというわけだ。「消費者の声に耳を傾ける」というリテールの永遠の鉄則は変わらない。だが、その声を拾う方法と声に正しく応える方法は、テクノロジーとともに進化し、変化もするのだ。そしてもちろん、それぞれの企業が持つDNAによって、その解は無限大になる。

Text:編集部
Photo: Kasumi Abe

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
4

BeautyTech.jp

美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp

BeautyTech.jp記事

BeautyTech.jpのすべての日本語コンテンツはこちらからご覧いただけます
3つ のマガジンに含まれています